脳と心 〜発達障害者の物語 序の4 分類がよく分からない〜

 今年(2014年)の5月28日に、日本精神神経学会が「DSM-5病名・用語ガイドライン」を発表し、新聞等でも報道があった。
 いわゆる発達障害とされるいくつかの精神疾患の名称を、アメリカの新しい診断基準である「DSM-5」に沿って、これまでのものから変更したというものであった。
 例えば「注意欠陥・多動性障害(ADHD=Attention Dificit Hyperactivity Disorder)」は「注意欠如・多動症」になった。これは「障害」という訳語について、いくつかの問題点があるためだとしている。「欠陥」も「欠如」に変わっているから、いずれにしても、言葉の持つ問題について考慮したものだろう。
 
 しかし、分類については、私にはどうも理解がしにくい。これまで、一般向けの本から得た知識では、大雑把に以下のような理解であった。

 まず、私の関心が高い部分では、大きな分類として3つある。
注意欠陥・多動性障害(ADHD
学習障害(LD=Learning Disorder)
広汎性発達障害(Pervasive Development Disorder=PDD)
 そして、広汎性発達障害に含まれるものとして
 自閉症(Autism)
 高機能自閉症(High Function Pervasive Development Disorder=HFPDD)
 自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder=ASD
 アスペルガー症候群(Asperger Syndrome=AS)
 がある。

 それが、今回の変更があり、私の理解は以下のようなものになった。

 注意欠如・多動症(名称は変更)と学習障害は、分類上はそのまま。
 広汎性発達障害という名称は消えて、自閉症スペクトラム障害に名称が変わり、そこに含まれるものとして、これまでのアスペルガー症候群などの下位の分類は、「異なる重症度や症状の特性を持った1つのスペクトラム障害」というものに一括されることとなった。

 やはりどうも分かりにくい。
 ところで、注意欠如・多動症とされる“症状”あるいは特徴の中には、アスペルガー症候群の“症状”あるいは特徴と重なる部分があるようだ。
 注意欠陥・多動性障害では、多動や衝動性、不注意な行動が見られるが、同時に対人関係や社会性の問題も持っていることが多い。対人関係や社会性の問題は(旧)アスペルガー症候群に強く見られるし、何か一つのものへの強いこだわりは、注意欠陥・多動性障害にも(旧)アスペルガー症候群にも見られることが多いようだ。
 人によってその“症状”あるいは特徴は、さまざまな重なり方があるので、そうした症状の間に連なり(スペクトラム)があることが推測できる。
 意地の悪い言い方をすれば、連なりがあるということは、そもそも分類ができないということでもあろうか。
 そして、この連なりというものは、“症状”が軽いか重いかにも言えることで、どこからが「重い」のか、どこまでが「正常」なのかという、難しい問題にも“連なり”がある。
 
 さらに思うのは、脳の働きの方向性が非常に複雑であると同時に、前回も触れたように、その方向性を「文化」や「社会」にとって“有益”かどうか、という眼で見る一般的な傾向があることだ。
 発達障害とされる“症状”あるいは特徴に対して、ある種の価値を付けようとする場合には、決して「注意欠如」になってはならない。そうでなければ、そこに差別や偏見を生むことになりかねないからである。
(続く)