続きを読む赤道直下のキャンベラAXYZ国際宇宙港では、今日も星の海に旅立つ様々な宇宙船や亜軌道ジェット機が地上を離れようとしていた。目を転ずれば、数百メートル先には合計10本の巨大なカーボンナノチューブ構造体。互いに結合したあのチューブ群が導く軌道エレベータの先には、遥か3万5千800km彼方の楽園の泉に浮かぶ輝ける軌道首都ヴァラスキャルヴがある。
だが、冒険者たちは実にその20倍以上の距離を航海してきたのだ。「父さんの手紙には、自分の翼で自分の空に羽ばたけって書いてありました。だから僕も、いつか自分の道を決めようと思います。美大に行こうと思うんです」
「そうだな。俺にもいつか、お前の作品を見せてくれよ」
「はい。ネグロさんにも、いつか必ず見せに行きますから!」
父譲りの冒険心を瞳の奥に秘めた金髪の少年と、栄光の手の私立探偵が作った巨大なシールドすら軽々と振り回す筋骨隆々の銀髪の偉丈夫。それが、グリフィン少年と男との別れだった。
コロニーの地をも走った可変型大型バイクのエンジンを吹かし、男はAXYZを去っていった。周囲には災厄後の滅亡を免れたオーストラリアの広大な自然が広がり、緑が風にそよいでいる。
2体の不可視の悪魔を従えた眠らぬ騎士。その男の名はネグロ・デモニーオと言った。
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