論点抱き合わせセットについて・再

北朝鮮が核実験を行ったと報じられた。北朝鮮に対する対処が大きな問題になるだろう。わたしは、『いじめと現代社会』(双風舎)で、論点抱き合わせセットという概念を提出した。北朝鮮に対処するときに、従来の右と左の論点抱き合わせセットに影響されて動くと、致命的な失敗をもたらしかねない。『いじめと現代社会』66ページと112ページに、論点抱き合わせセットの基本図を示した。このブログの過去の記事にも載せたので、ぜひ見ていただきたい。
http://d.hatena.ne.jp/izime/20080321


本書の第二章で述べたように、わが国では冷戦崩壊後数十年たったいまでも、特殊日本的な右派と左派の対立図式が続いている。右派と左派は様々なトピックを問題化し、それらを争点として対立する。トピックAに右派が賛成で左派が反対というふうに、右派と左派のあいだでいったん問題の縄張りが敷かれると、「知識人」たちはその所属の論理に従って、トピックAに賛成したり反対したりする。右派も左派も、自分がコミットすると称するコア価値(たとえば人権)によって個々のトピックに賛成したり反対したりしているのではない。そうではなくて、右派と左派の線引きのあとに所属の論理によって「どういう信念を持つか。どういう論理を採用するか」の内容が決まってくる。だから日ごろ人権が大嫌いなはずの右派が、北朝鮮政府を加害者とする被害者の人権擁護を担当し、「人権派」を自認する左派が無視し続ける、といった不思議なことも起こる。右派と左派は、公論の場(public arena)を、「われわれとやつら」の論点抱き合わせセットで独占してきた
(図1照)。


図1

この構造は、政策決定に致命的な打撃を与える。右派の論点抱き合わせセットと左派の論点抱き合わせセットが両方ともコンビネーションとしてまちがっている場合、まちがっているふたつのうちのどちらかを選ぶしか選択肢がなくなってしまう。たとえば、トピックA(かつての侵略を認め謝罪する)に賛成「かつ」トピックB(北朝鮮を危険な存在と見なして外交・防衛戦略を練る)にも賛成というコンビネーションの政策のみが日本の安全保障戦略の正解だとしよう。すると、右派がトピックAに反対でトピックBに賛成、左派がトピックAに賛成でトピックBに反対の場合、右派が政権をとっても左派が政権をとっても、人びとは厄災に見舞われることになる(図1参照)。正解を主張する者は、右派からも左派からも憎まれて、発信するチャンスや政治的に影響力を行使する地位を分配されずに「干されて」しまう。
『いじめと現代社会』111〜112ページ)







いじめと現代社会――「暴力と憎悪」から「自由ときずな」へ――

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