Fri 2007.03/02
皇国の守護者と、視線の力学
↓のブログで、自分が名指しで引用されていたのが嬉しかったのでクリップ。知ったのはたまごまごごはんさんとこから。
漫画である意味がある漫画(梅ラボ)
日本の漫画はだいたい右から左に読み進める。だから左向きの登場人物が左へ進んでいくと読み手も左に読み進んでいくからその人物に感情移入がしやすい、という漫画独自の表現特性がある。その逆に右向きの登場人物が右に進んでいくと読み手の進行方向と逆になるので心理的に圧されるような効果がある(これについては2006年一月号の「ユリイカ」の「漫画批評の最前線」特集内のp204「視線力学の基礎」でイズミノウユキさんが「魔法先生ネギま!」を例に詳しく書いている)。
ユリイカ 2006年1月号 特集 マンガ批評の最前線
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梅ラボさんの記事では、続けて『皇国の守護者』のコマ割りが解説されてます。
読み手の進む右から左というベクトルに対して帝国軍は真っ向からぶつかってくる。対して皇国軍は読み手に同期して左へ一直線、両軍がぶつかり合う。かと思えば新城直衛が正義と偽善の狭間で狂気を起こして破竹の勢いで帝国を撃つシーンなどは読み手の方向の逆に迫ってくる時もあり、読者を圧迫させる。方向が、両軍の戦局に呼応するかのように右往左往する。これら戦闘シーンは濃密に両軍共に戦略が練られた上で勃発するのが常なのだが、戦略シーンでは小さめのコマと多めの文章で物語が語られていく割合が多いので(しかも割りと長い)、その分見開き戦闘シーンにおける両軍の迫力、方向の衝突の迫力が堰を切ったかのようにすさまじいものになりうるのだ。単行本、特に一巻や四巻の表紙絵もこの方向性を志向しているのではないかというのはかんぐりすぎだろうか。
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ちなみに、漫画のキャラの方向性については板垣恵介が『大学漫画』Vol.2のインタビューでこういうことを言ってましたね。ご参考までに。
「僕の漫画は、格闘シーンが多いんですよ。たたいたり、蹴ったり、踏んだり。キャラクター同士が絡み合うわけだから、動きがわかりづらくなります。それをわかりやすくするためには、左右を入れ替えないということですよ。切り返しを使わない、ということ。左にいるなら左。右にいるなら右。読者の視線を混乱させるということは、読者に負担をかけるということですから。サービス業として負担をかけちゃいけないわけです」
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メジャー路線を志向している板垣恵介らしいスタイルと言えますが、この「わかりやすさ」と「読みやすさ」の重視は、「かと思えば」「読み手の方向の逆に迫ってくる時もあり、読者を圧迫させる。方向が、両軍の戦局に呼応するかのように右往左往する」という『皇国の守護者』と対照的ですね。
ちなみに福本伸行なども基本的に「左右を入れ替えない」わかりやすいコマ割りを徹底させている漫画家で、今ヤンマガで連載してる「カイジ」を読めばすぐ分かると思います*1。映画の「180度原則」*2にも通じる話ですが……。
それと、「表紙絵もこの方向性を志向しているのではないかというのはかんぐりすぎだろうか」とのことですが、勘ぐりではなく仰る通りだろうと思います。「表紙(トビラ)を開く方向」からすれば、絵の動きを「物語(ページ)の進む方向」と一致させた方が自然ですからね。少なくとも「表紙の左側は、その向こうにスペースが開かれている」感覚を意識している筈です。*3
ところで、日本の「漫画絵」を描く絵描きさんの多くは「左向きの顔」の方がなんでか描きやすかったりするのですが*4、その「絵を描くクセ」が「漫画の進行方向」と何故か一致する、というのも奇妙なもので、興味深いんですよね。*5
*1:敵側の心理が主観になって進むシーンでも、依然として敵が左側に描かれる、という徹底っぷりがかえって面白かったりします
*2:カットを変える時に、対面者同士を繋ぐラインの反対側にカメラを飛び越えさせない、つまりカメラの移動を180度未満に抑える原則のこと
*3:横スクロールするシューティングゲームの、「前には進めるけど後ろには進めない」感覚に近いというか
*5:左向きが描きやすい、というのは「絵の練習をする時に左向きが多い」からなんですが、なぜ左向きに偏るのか? 利き手や利き目の問題なのか、それとも「そもそもマネして描くプロの絵に左向きが多いから」なのか良く分かってません。どうなんでしょうね?
Alf
2007/03/03 11:50
アニメも主役が左向きのほうが多いので、正確的には視聽者視点のキャラが左向きので、利き目も関係ありと思います。個人の観察では視聽者が右下/後にいる、だからアニメの中に「進む」というシーンはたいてい右の後方から左の前へ、そして左の後方から右の前方のシーンはもっと客観的な視点になりました。例えばマクロスで一条が大気圈から地上へ、未沙との再会は、出発の時は右の後方から左の前へ、これは一条視点;そして再会のシーンは一条が左の後方で、未沙は右の前方にいます、視聽者は一条視点で未沙を見てるではなく、客観的な視点で二人を見ていました。そして、左と右感覚は違います、左は理解する、右は感じる…のようなものがあったのようです、だから視聽者の「相手」は常に左にあります。マンガにおける左と右の関係はそうであったか分かりませんけど、韓国のマンガは左から右へだから、それは参考になると思います。
izumino
2007/03/03 12:56
こんな感じみたいですね。→http://www.tinami.com/from_korea/logs/eid6.html>韓国の漫画//利き目が逆の人っていうのは会ったことがないので、なかなか謎が……。話はズレますが、左目で見てるということは右脳経由で処理してるということですから、機能の差もあるのだろうかとか。ちなみに『ホムンクルス』の主人公は左目でホムンクルスが見えるという設定だったり
Arashi
2007/03/03 18:59
目は各々の左半分と右半分を左脳と右脳で分けてるので利き目と機能の差はあんまり無いんじゃないかしら。つまり左目の右半分と右目の右半分からの情報を右脳が処理(視野としては左側になるが)→http://www.physiology1.org/doc/chapter.php?Id=454<視覚の伝道路のモデル/ちなみに僕は左利き目の右手利き。
izumino
2007/03/03 20:10
>Arashiさん そこらへんはちゃんと調べてみたい所ですね。視覚関係の専門書は妙に高いんですけど
umelabo
2007/03/04 00:15
とりあげてもらってありがとうございます。かなりイズミノさんの「視線力学の基礎」に寄ったエントリを書かせてもらいました。やはり皇国の表紙は読み手の方向を意識したものと考えられますね。視線の先に余白をあけるというのはデッサンの構図の基本でもよくやられる事ですが、デッサンや絵の場合視線の先の余白が画面の静止した緊張感やバランスに一役かうのに対し、漫画の場合それが表紙絵であっても直接動的な読み手の時間軸に影響するのが興味深いです。エロ漫画家は右向きのキャラを描くのをめんどくさがって左向きのキャラばかり描く人が多いけど、それが逆に読みのスピード感を妙に加速させているという話をどこかで読んだのを思い出したのですが、このことを書かれたのはイズミノさんでしょうか?
k
2007/03/04 07:37
日本の紙幣の肖像画も左向き。外国の紙幣でも左向きが多いようです。魚料理でも、魚は左向き
izumino
2007/03/04 10:25
>umelaboさん はじめまして。こちらこそどうもありがとうございました。まぁ今回の『皇国の守護者』話は、凄く基礎的な原則の話……なのですが、こういう風にして個々の作品に当てはめて、具体例を出してみるっていうのも大事なことなんでしょうね。でないと、そういう「読み方」っていうのが広まっていかないわけですし、有意義だと思います。//あとえーと、エロ漫画の話、は多分別の人ですね
izumino
2007/03/04 10:34
>kさん http://sasapong.s41.xrea.com/diary/archives/001211.php ←心理学では「顔の左側は感情が出やすい」みたいな説がありますけど、それはどうなのかなぁ? 映画や写真の理論でも一応参考にされる要素のようですが
nakahara
2007/03/04 11:11
芝居には、上手(かみて)・下手(しもて)という観念があります。上手(右側)から出てくるのは、基本的に主人公か善玉など。下手(左側)から出てくるのは、それに対立する者。というわけで、右から出てくる人は、左向きなのです。ちなみに、左から出てくる者が悪役なのは、心臓がある上に利き腕側でない左から登場する者に対して、心理的ガードが働くからだ、という話がありますが。
izumino
2007/03/04 11:26
>nakaharaさん トミノ理論ですね。そこらへんの意見はhttp://d.hatena.ne.jp/izumino/comment?date=20050619§ion=p1#cガイシュツだったりします
tackman
2007/03/04 12:57
でもゲームだと主人公は右向きですよね。マリオ以来の伝統でしょうか・・・活字のない媒体では単に文化の問題かなという気もしますが。
izumino
2007/03/04 13:10
>tackmanさん それも以前言及しましたが、ゲームはコンピュータの表記法の関係で、横書きですから(だからちゃんと「活字のある媒体」です)。もしコンピュータが縦書き文化で発明されていたら別だったかもしれません。
natu3kan
2007/03/13 22:54
マリオの場合横書きというより、舞台の上手下手なんじゃないかなあ、とか思いました。マンガの場合は活字媒体だけれど、ゲームはどっちかって言うと舞台文法に則ってそうな気がします。ギャルゲーの書割といい。舞台の上手下手は西洋と東洋で共通してるので、横書き云々とか文字の概念と別に考えた方がいいような気がします。
izumino
2007/03/13 23:43
>natu3kanさん それを言うと、「西洋でも東洋でもゲームは横書きで共通している」というややこしい話になりますが……(笑)。それと舞台には詳しくないのですが、西洋の芝居と東洋の芝居って、カミシモの法則が全く同じものなんでしょうか?
izumino
2007/03/13 23:56
あとアドベンチャーゲームやノベルゲームの場合、個人のクリエーターのセンスの問題であって、別に原則化できる話ではないだろうというのもありますね。一度スタイルが出来上がったら、右へならえで統一されるかもしれませんが(ひょっとしたら既に統一されてるのかもしれませんが)、それは「ギャルゲー文法」でしかないですから、舞台文法やバラエティ番組文法とは分けて考えないと、話がごっちゃになっちゃいそうですね
- 4797 http://www.golgo31.net/
- 1552 http://www6.ocn.ne.jp/~katoyuu/
- 813 http://retro85.blog33.fc2.com/
- 582 http://www.ne.jp/asahi/asame/shinbun/
- 142 http://www.golgo31.net/index.html
- 107 http://d.hatena.ne.jp/
- 87 http://www.ne.jp/asahi/asame/shinbun/index.html
- 75 http://ilya0320.blog14.fc2.com/
- 71 http://www1.kcn.ne.jp/~iz-/
- 68 http://www1.kcn.ne.jp/~iz-/man/akamatsu/index.html





