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報恩関係の物語

魔法先生ネギま!177時間目DEAD or ALIVE~いんちょかわいすぎだろっ! | 旧館:物語三昧~できればより深く物語を楽しむために

 ペトロニウスさんの記事に、ウチのスクラン考などを敷衍させたお話が(いつもお世話になってます)。
 物語の視点論や、キャラクターの関係性論にもなってくるんですが、おいしい所だけちょっと抜き出してみます。自分でも、飲み込んで考えておきたい問題なので。

視点を、共感(=キャラクターへの感情移入)と神の視点とで分けて読むと、実はネギまは、ネギ一人の主人公に収れんする形式の割には群像劇のようなその他のキャラクターとの関係性がかなり細かく設定されているんですよねー。


↓このいずみのさんの言及が興味深かった。
http://d.hatena.ne.jp/izumino/20070601

 ちなみにこのぼくの「言及」というのは、以下のようなもの。

Fri 2007.06/01

 ネギま、というか赤松作品は、

  1. AがBに対してしたことを
  2. BがCに対して行う

……というようなリフレインパターンが多いですよね。


 これは、(スクランのような反復構造というよりは)映画脚本や文学寄りの手法を用いているイメージです。

 続いてペトロニウスさんのネギま感想に戻ります。

実は、ネギまをよく読んでみると、こうした同じ態度・動作を、別の人が行うっていう・・・・・他者に行動(=ドラマツゥルギー)が連鎖すると言う形式が多いことに気づく。一番いい例は、なんといっても、父親の姿を追いかけるネギと父親ナギなんですが、これは明確にネギが真似をしているという設定があるので、あまり気づきませんが、、、それにしても多い。


(中略)


ようは、環さんといずみのさんの指摘を再度書き直せば、アスナの行動が、エヴァに影響を与えている・・・・アスナの勇気が、エヴァの「もう一歩踏み出す」ことへつながっているということを描くには、口で説明するよりも、行動や感情(=表情)をシンクロナイズ(=同化)させるシーンをワンショット入れたほうが、まさにサブリミナル効果ですもんね(笑)。神の視点からは、一発で、影響度合いが見えてしまう。


スクランの反復についてこの前記事を書いた&いずみのさんがすげーアーカイブ立ち上げているけれども、それと同じで、こういった反復や対比の技法は、映画などでよくある手法で、第三者視点で意味が読み取れてしまうというもの。

小林尽はなんでここまで深い読解力を読者に要求するんですか??

http://ameblo.jp/petronius/theme-10002674514.html

■「読者に気付かれないような仕掛け」を作品に入れることの価値は?

http://d.hatena.ne.jp/izumino/20070528/p1

■『School Rumble』における反復・対比・暗示のリスト

http://d.hatena.ne.jp/liquid-fire/

 ちょっと補足すると、この「映画的な手法」は、『トップをねらえ2!』などでもスゴイ勢いで多用されていますね。
 キャラとキャラをつなぐ影響関係が(前作の『トップをねらえ!』とのリンクまでを含めて)これでもかと重ねられているので、なかなか頭が追いつかないくらい。

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そして、こういった物語世界での関係性における報恩関係や因果律には、作者の世界観が非常に表れやすいと僕は思っている。


小林尽School Rumble』考 ピアノ・ファイアより
1:一目でわかる『School Rumble』の恋愛関係
http://www1.kcn.ne.jp/~iz-/man/school01.htm


2:『School Rumble』における少女漫画ラブコメの図
http://www1.kcn.ne.jp/~iz-/man/school02.htm


3:双方向を目指す想い
http://www1.kcn.ne.jp/~iz-/man/school03a.htm


ちなみに、↑これは、いずみのさんのスクールランブル研究の出発点なんだが、これを読むと、非常に興味深い。普通は報恩関係・・・恩にきることとそれに報いることは、二者間の閉じた関係性になりやすい。こういうの対幻想と呼びます(コピーライトby吉本隆明)。


ところが、ここで、報恩関係が、リターンで戻ってこないで、異なる相手へ循環してゆくという小林尽の世界観は、とってもシャイで、かつ興味深い。


・・・これって、経済人類学における経済関係の互酬の概念なんだよね(笑)。おおっなつかしーカール・ポランニーと栗本慎一郎だ。これ大学の授業で受けたなー。・・・やっている人はわかるけれども。もしくは文化人類学レヴィー・ストロースの『野生の思考』の基礎概念。


いや、、、、そこまで飛躍しても、仕方がないのだが・・・・ようはね、、、、、この社会に、「動機」とか「気持ち」・・・・ネギまでいうのならば、たとえば「小さな勇気」が、どのように連鎖して広がっていくか?っていう作者の世界観のストレートな反映なんですよ、これは。


二者間に報恩が閉じないということは、自分のしたことが、必ずしも自分には帰ってこないことを示しているのです。うーむこれは興味深い。


今日の分析はここまで。少し寝かせよう。

ちなみに報恩は・・・・たとえば、罪も連鎖するとも逆転して考えられるので、そのへんも描けるとさらに面白いのだがな・・・・。


ちなみに、二者間で閉じてしまいやすいのが、少女マンガ。↓これなんか究極ですね。

■『花の名前』 斉藤けん著  正統派少女マンガは、内面の理解を求める

http://ameblo.jp/petronius/entry-10011107277.html

 スクランのメインテーマとして人間の「報恩関係」というものがあって、それを複数のカップル(「烏丸と天満」を中央に、「花井と美琴」「播磨と八雲」「播磨と沢近」が周囲に並ぶ形を想定)を用いて対称的に照らし合わせているんだということは、以前のオフ会でペトロニウスさんに語ったことだったりします。
 そのビジョンについては、作品が完結した頃にまた考えを詰めてみたくて、だからスクランの完結が待ち遠しいのです。最終的にどういう形に落ち着くかで、また解釈が変わってくるテーマですしね。

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 ついでに言うと、先日ペトロニウスさんが「ここで提示されているスクランの読み方なんかは初歩に過ぎなくて、スクランという作品の議論にはまだ入っていない」みたいなことを仰ってましたが、この「報恩関係」の先に続く問題がそのひとつにあたると思います。
 これは逆に言うと、読者が「そのテーマ」に触れることさえできたなら、過程としての読み方はどうだっていいんですよね。直観的に感じられる人は、ロジック抜きでパッと感じられるでしょうし、読み方はなんだっていいんですね。
 ただここでは、ぼくやぼくの周囲で行われている「読み方」を提示しているだけで。
 物語の深い所に入っていけるなら、手段はなんだっていいのだと思います。ちょっと厳しい考え方をすれば、「自分の読み方は自分で考えろ」ということも言えます。


 あとそもそも、自分のサイトを使って「他者に読み方を説明する」という任を受ける立場でなかったら、ぼくももっと感性的な読み解き方をしていたと思います。データベースの方ではわざと冷徹な書き方をしてるんですけど。
 漫画は心で理解するのが一番だと思ってるんですけど、でもネットでそれを人に伝えようとするのは難しいですよね。