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スクラン二年生最後のイベント「歩行祭」の予習に『夜のピクニック』を読んでみたよ

 恩田陸の小説は『六番目の小夜子』だけを読んでいて、他の作品は知らなかったのですが……。
 最近のスクランでは、その恩田陸の『夜のピクニック』がオマージュされているようだったので、原作を読んでみることにしました。


 最近の小説界には疎かったので、とんと知らなかったのが、いつの間にやら「本屋大賞」なんてのを受賞していたベストセラー小説だったという事実。ちと不明を恥じる所です。
 今となれば、恩田陸の代表作といえば『六番目の小夜子』ではなくて『夜のピクニック』になっている……のかな。

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夜のピクニック』解説(池上冬樹

 繰り返すけれど全篇、高校生たちがひたすら歩くだけである。事件らしい事件は何ひとつ起きないといっていい。何ひとつ起きないけれど、人物たちの内面では確実に何かが変わっていく。「みんなで、夜歩く。ただそれだけのことがどうしてこんなに特別なんだろう」(414頁)というフレーズが出てくるけれど、それは昼間なら絶対に話をしないような事柄を、人々は闇の中でついつい語ってしまうからであり、それによって相手の意外な顔を知り(一見クールな奴が〝熱く語る〟奴だったりする)、隠された思いを知り(人それぞれ言えない思いを持つ)、誰もが触れられなかった心に触れることになるからである。

 『六番目の小夜子』の頃から変わらず、「(読者は経験したことが無い筈なのに)ノスタルジーを感じさせる学校行事」というモチーフが冴え渡っていて、物語後半は何度も手が震えるような感動を味わったのですが…………、それはひとまず置いておいて、当の『School Rumble』との関係性を抜き出してみます。

移動距離

 伝統行事化していて、準備委員や地域住民のサポートも行き届いている夜ピクに比べて、突発企画であるスクランの移動距離は流石に短い(それでも一日歩くには長いけど)。

スタートとゴール

 夜ピクは「一周して戻る」のに対して、スクランには明確な「別の場所」にゴール地点がある。
 「一周する」のか「別の場所に行き着く」のかという違いは、「ぐるぐる回る」がキーワードになっているスクランのテーマ的にはとても重要。
 また、夜ピクは途中の海岸線で日没や日の出を眺めるのに対して、スクランの場合は「日の出を見る」こと自体がゴールになっている。


(ちなみに「海岸線で日の出を見る」は、播磨の理想のシチュエーションに出てくるモチーフでもある。)

ダブル主人公制

 主人公が二人居る、という共通点。
 ちなみに(夜ピクは純粋な恋愛物語ではないのでネタバレにはならないと思いますが)、夜ピクは主人公同士がくっつくというような話ではない。

秘密と和解

 夜ピクのメインテーマは、打ち明けられない秘密をクラスメイトに打ち明けるということと、気まずい関係のままディスコミュニケーションに陥っていた二人が和解してコミュニケーションできるようになること、の二つ。


 スクランでも、播磨が天満に正体を隠していたり、烏丸の考えていることがわからなかったり、天満、八雲、沢近その他諸々が言い出せないこと、聞き出せないことを残したままだったり、ディスコミュニケーションが極限まで高められた状態で歩行祭に突入している。


 小林尽がテーマ的な部分まで汲み取った上で『夜のピクニック』のオマージュを選択していたとするなら、それなりの意図はあるのかもしれない。

補足/作品自体の時系列

 スクランの連載開始は2002年。
 夜ピクの刊行が2004年、映画化が2006年。


 小林尽は『夏のあらし!』のヒロインに「小夜子」という名前を付けてるくらいだし、多分元々恩田陸ファンなんだろうと思います(『十二国記』のファンだったりするあたり、そこそこの小説読みっぽいですし)。


 だから夜ピクも原作から入ったと仮定すると……、小林尽夜ピクを読んだと思われるのは……ちょうどマグロ漁船から帰ってきて漫画描いてる頃(笑)。アニメ化が決まった頃でもありますね。
 この頃のスクランは、文化祭すら済ませてなくて先も長いし、ネタストックとして「歩行祭」を視野に入れるにしても遅くはない時期だろうと思います(つまり、最近になっていきなり思い付いた展開ではないんだろう、ということ)。
 ただ、個人的な予想としては、「歩行祭」がスクランのラストエピソードだとは考えていなくて、歩行祭編が済んだ後に、連載前から想定していたであろうエピローグに繋げる形になるのではないか、というビジョンを持って今は読んでいます。


 なんにしろスクラン歩行祭も、8時スタート翌朝5時ゴールだと思えば20時間近く歩き続けるわけで、相応のボリュームが期待できますね。

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  • なお、コミックスで「歩行祭」のイベントが登場するのは、おそらく次々巻の19巻以降から。単行本派の方はまだもう少し「スクランの一年間」を楽しめることになります