ユリイカ「マンガ批評の新展開」特集号について、泉信行から〜その1〜
ユリイカ 2008年6月号 特集*マンガ批評の新展開 青土社 2008-05-26 売り上げランキング : 1538 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
二週間ほど前に発売されたこの号ですが、重い腰を上げてちょっとフォロー的な記事を書いてみようと思います。
とりあえず、特集内における自分(=泉信行)の仕事について触れてから、他の特集全体について、んで最後に「表現論/反映論」問題について言及しようと思います。
しかしそれにしても……。
目次を確認した時からまさかと思ったけど、『漫画をめくる冒険』がらみの鼎談と記事を特集のアタマに持ってくる編集部はアヴァンギャルドすぎる(笑)。
最初に企画を聞かされた時点では、伊藤剛さんのパリ行きがメインで、ウチがサブだと聞いていたのに……。
Lilmagの野中モモさんも
http://blog.lilmag.org/?eid=414890
そのユリイカでは泉信行さんと彼の『漫画をめくる冒険』が異例の大フィーチャーぶりで、あれは前代未聞の事態なのでは(特集扉に書影ドーン! ですよ、同人誌なのに……)。
ある特定の小さな専門分野に限れば、商業出版と自費出版のあいだの壁はすごく薄くなる。同人ゲームの商業アンソロが出る時代、批評もなんだかそんな感じ!?
……と仰ってますが、でも昔の文芸ってもともと同人誌だったものが多い世界ですから、かえって「文芸誌」ユリイカっぽいのでは、などと自分を納得させていたり。
鼎談記事についての補足(主に図版)
ぼくと夏目房之介さん、宮本大人さんの鼎談記事は、文字数的/スケジュール的にカツカツな作業だったらしく、鼎談中に「ここは図版で説明しないと読者はわかんないよね」と苦笑いしていた部分でも図の説明が無かったりします。
とりあえず今回は、その「できれば入れてほしかった図版」をここで載せますということで……。
p53
泉 僕としては活字上でマンガを扱うときに、このようにすればいいんじゃないかというフォーマットを提示したいという気持ちもあって、それが「めくりマーク」とかなんですけど、
このくだりで触れられている「めくりマーク」「白いライン」というのは、具体的には以下のような装飾を指しています。
こういうマークが無いと、たとえば「図8」の図版では上下の図が別個になってしまって、「あたしがみんなをつれていく!//本当に…」という文章が実は、「コマ的には連続している」という事実がボヤけてしまうでしょう、という問題を指摘しているわけです。
何を当たり前のことを、とお思いかもしれませんが、普通に『ユリイカ』などで漫画論を描いてもこういう問題はフォローしてもらえない部分ですし、また、ネット上の漫画論でも「これ」をちゃんとクリアしている記事はあまり見かけないのです。そこにちょっと気を遣っているのはメビウス・ラビリンスさんくらいで、だから『漫画をめくる冒険』の「めくりマーク」もメビウス・ラビリンスさんの影響を受けています。
それと、この鼎談では発言しませんでしたが「漫画や他の文献からの引用文は二重ヤマカギの括弧(《》)で統一する」というのもこだわって実践している部分です。
漫画をめくる冒険―読み方から見え方まで― 上巻・視点 泉 信行 ピアノ・ファイア・パブリッシング 2008-03-14 |
次に、これもまた図説が無いと意味がわからない会話になっているのがここ。
この時にぼくが描いていたコマ割りというのは、頭の中には乙ひよりさんのコマ割りがありました。
乙ひより『かわいいあなた』(一迅社)
かわいいあなた (IDコミックス 百合姫コミックス)
乙 ひより
一迅社 2007-07-18
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あと、スクランのこのコマ割りも一緒に手描きで説明してました。
小林尽『School Rumble』(講談社)8巻
School Rumble Vol.8 (8) (少年マガジンコミックス)
小林 尽
講談社 2005-03-17
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どっちも巧いコマ割りですね。
「左から右に読む(=左側のキャラの視点で右側のキャラを眺める)」という、変則的な形になってます。
p58
夏目 泉さんがWEB上(「リクィド・ファイア」)で掲載している、竹内さんの議論に対する文章《マンガ批評における、視点をめぐる諸問題1、2、3》は非常によくまとまっていて、僕は大学でのテキストにも使いたいと思ってるんです。
ここで言われているのは、↓この記事です。
鼎談の中では「泉信行は先行文献を気にせずに持論を展開している」みたいな扱いになっていますが、これはぼくのポリシーとして「一般の漫画読者はそんなアカデミズムを求めてないんだから、読者に向けた本の中でいちいち先行研究を批判するのは良くない」という考え方があり、それに則って『漫画をめくる冒険』を書いているということです。
たとえば、竹内オサムさんの「造語」である「同一化技法」というフレーズは一度も使いませんでした。普通に映画用語の「主観ショット」で説明できるので、余計な用語を挟む必要を感じなかったんですね。
このスタンスをぼくは「正しい」と信じてやっています。
でもそれはあくまで書物としての記述上の「気配り」であって、理論的な研究上では先行研究を踏まえていますよ、というプロセスを示すために公開しているのがこの《視点をめぐる諸問題》だったりするわけです。泉信行の研究を、学術的に批判的に捉えたいという人は、『漫画をめくる冒険』と合わせてWeb上の記事を参照してくださいという意図があります。*1
ここらへんは師茂樹さんに対するお返事でもあって、アカデミズムとの折り合いについては、またエントリを改めて書きたいと思います。モノ知らずの意見ですが、少しでも有意義な貢献ができれば何よりです。
と、いうわけで今回はここまで!
今は長谷邦夫さんの『マンガ編集者狂笑録』を読んでいます。
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