「アニバン」でネット配信をチェックするアニメ視聴スタイル〜運営者に直撃インタビュー
本日は、“公式”ネット配信アニメ検索サービス「アニバン」を個人で運営しておられる、GiGiさんにお話を伺ってきました。
(聞き手:泉信行)
───お名前と簡単な自己紹介からお願いします。
GiGi: GiGi(ぎぎ)という名前で長らくインターネットの海を漂っています。今はブログ「未来私考」で、コンテンツビジネスまわりの考察を主にやっています。
───よろしくお願いします。ちょうどレイアウトをリニューアルしたばかりという「アニバン」ですが、ぼくも前期のアニメを視聴するときにお世話になっていました。稼働はいつからで?
GiGi: 前回の夏の改変期前後の7月からですね。今回のリニューアルも秋アニメの改変に合せようと思ったのですが、交通事故で入院したりして予定が狂ってしまいました(笑)。
───アニバンのサイトマップと言いますか、ページの構成を教えてください。
GiGi: indexページと、管理者ページが一枚ずつという大雑把な作りです(笑)。ウェブデザイン自体がほぼ素人なので手探りですね。
改良の余地は大量にあると思うので、容赦なく突っ込んでいただければ。
───indexページの使い方を簡単に説明してください。
GiGi: indexには、まず一番需要があるであろう、最新話が配信中の作品を時系列順に一覧出来るようにしてあります。
あとは第1話のみ無料で提供している作品も多いのでその一覧と、検索フォームからキーワードで作品を検索出来るようになっています。
検索はけっこう重宝で、例えば「神」と検索すると『神様ドォルズ』と『神様のメモ帳』と『神のみぞ知るセカイ』と『超獣機神ダンクーガ』と『猫神やおよろず』がひっかかって、それぞれ第1話無料だったり、最新話無料だったりがわかるようになってます。あと予定としては、タイトルインデックスも追加するつもりです。
───そういえば、サイト名はどうして「アニバン」に?
GiGi: 憶えやすい4文字略語風に、というのがまずあって、他にもいくつか候補はあったのですが、検索して類似名のサイトがないことを確認した上で、「アニメ番組表」とか「アニメ見張り番」とかそういったイメージで良いかなと。
───管理者ページの話が出ましたが、新規アニメの登録はどうされてるんですか?
GiGi: 今のところ完全に手動です。新作のみならせいぜい一期ごとに30本程度なのでそれほど苦ではないです。
ただ、無料配信していない作品もタイトル検索の関係で登録していきたいのですが、これは何か自動で処理する手段がないとつらいですね。
───配信の情報提供を募集中だとのことですが、そういえばハッシュタグの一覧表示枠がなくなりましたね。
GiGi: あまり活用していただけなかったので面積占有するだけ邪魔かなと……。何か情報募集フォームはあったほうがいいですかね。
───ではそろそろ核心に迫りますが、サイト作成のそもそもの動機などをお聞かせください。
GiGi: 一番の動機は自分が便利に使いたいということですね(笑)。
とにかく今は無料配信アニメがとても多いのですが、情報があっちこっちで、見たいと思ったときに探すのに一手間かかってしまうのが億劫で。
たとえば今期だと佐藤順一監督の『たまゆら』がアニメワン独占配信なのですが、よほどアンテナの高い人でないとたぶん全く気付いてないんじゃないかと。
───類似サイトは今までなかったそうですね。
GiGi: Googleで見たいアニメを検索すると、違法動画配信の一覧サイトが真っ先に引っかかってしまうという。
───それで、初めてのサイト構築になったわけですね。
GiGi: ちょっと前に仕事を辞めまして、以前からPHPの勉強をしてみたいと思っていたのでちょうど良い習作かなと。
便利に使ってもらえれば一番ありがたいんですが、特別高度なことは何もやっていないので、おそらくプロがやればもっと便利なものがサクッと出来ちゃうと思うんですけどねー(笑)。
───TVアニメの番組チェックを補助するサービスとしては、「しょぼいカレンダー」さんがありますよね。
GiGi: テレビの情報とか膨大で、あれこそどうやってるんでしょうねー本当に。おそらく自動化してるんでしょうけれども。
───個人的には、アニバンとしょぼいカレンダーでアニメの視聴体制をキープする、というスタイルが広まればいいんだろうなとイメージしています。
GiGi: ネット配信は好きな時間に見れますし、慣れてしまえばこんなに便利なものもないんですけどね。今だとだいたい地上波放送中のアニメの七割くらいはカバーできるのかな。
でも私自身は、地デジ移行を機にまったくテレビを観ない生活になってしまったので、実のところネット配信していない番組は見れないという切実な問題もありまして。ニチアサとか(笑)。
───地デジ移行に乗り遅れた人は実際多いと思います。ではサービスのターゲットとしてまず自分自身がいて、似たような環境の人に向けられている、という感じなんでしょうか。
GiGi: ですね。熱心にアニメを追うほどでもないけど、暇なときにちょっと見るかくらいの人が利用してくれればなーと。
衛星放送とHDDレコーダー装備で全方位アニメばっちこいな人は、どうせテレビで観るんだからまあ良いんですよ。そうではなくて、アニメを見る習慣のない人の選択肢のひとつになったらなと。
───ああ、ヘビーユーザーなら「見ないアニメでもとりあえず録っておく」という、「全録画」が選択肢に入る時代なんですね。でもヘビーユーザーから中間層の人でも、エアチェックの取りこぼしを補完する目的で使えると思います。
GiGi: 深夜アニメだとふいに放送時間がずれたりする事故もありますしね(笑)。
あと木曜深夜とか、関東や関西は複数のチャンネルで被りまくりらしくて、あれはどんな嫌がらせなんでしょうね(笑)。その一方で、地方では都市部で放映される深夜アニメの八割方が放送されないという。
───アニバンの話からは少し離れますが、およそ成り立つとは思われてなかったニコニコチャンネル配信がこれだけ浸透できたのは、そうした放送局の格差や、時間帯のありえなさといった「コンテンツとしてのアニメ番組の不遇さ=弱さ」が追い風としてあったような気もします。選択肢として、「ネットで見るしかない」層を事実存在させていたという。
GiGi: Twitterというツールとも相性が良かったと言うか、みんな見ようと思えば見れるのがわかっているから安心して盛り上がれますね。
ニチアサタイムラインがやたら盛り上がるのも、ニチアサは全国津々浦々まで放送しているという安心感もあるように思います。
ものすごく熱心に見る人でないと楽しめない、という状況はつらいですからね。実際、数年前までの深夜アニメというのはそういった状況だったように思います。
───TwitterのTLがアニバンの代わりを果たしていたとも言えます。Twitterといえば、こういうアカウントもあるのですが。(→[twitter:@AnimeKanto]/[twitter:@AnimeKansai]
GiGi: TwitterBotは作りたいですねー。今の作業が一段落したら勉強しようかなと。
───では最後に、アニメをテレビで観る層と、ネットで見る層が二分化していっている現状について、何かお考えがあれば聞かせていただけますか。
GiGi: 二分化はしていないんじゃないんですかね。コンテンツは同じなわけですし。
テレビ視聴組が盛り上がっているのを見てネットで後追い視聴するとか、見逃した分だけネットで補完するとか、両方使い分けてる人が多いんじゃないかなあ。
───ネットの無料放送を観てからテレビの連ドラ録画をセットするとか、流動的になっているわけですね。
GiGi: とにかくTwitterとネット配信のおかげでアニメへの接触機会が増えて、今まであまり見ていなかった層が新たにアニメを見るようになったように感じますね。
『魔法少女まどか☆マギカ』や『TIGER&BUNNY』の盛り上がりを見ても、そういう層が大きな割合を占めているのは明らか。私自身、三年前と比べてアニメを見る量は三倍くらいに増えてますね(笑)。
───特に第一話無料が多ければ、新番組は「評判を聞いてから二話以降を見ればいいや」という安心が生まれやすいと思います。
GiGi: テレビとの時間差を考えると、最大三週間くらい猶予期間ありますしね。『Steins;Gate』みたいに、ニコニコチャンネルとバンダイチャンネルでズレがあると更にありがたい(笑)。
───しかしこの流れ自体が、だいたい『探偵オペラ ミルキィホームズ』のブーム以降のもので、それ以前はほとんど想像されていなかったのではないでしょうか。ごく歴史の浅いスタイルだというのが、時代の変化の渦中を感じさせます。
GiGi: アニメはもっと、ストイックな趣味だったように思いますね。
───最初に違法・無断アップロードサイトの話もありましたが、実は初期のニコニコ動画に存在していたアングラな文化の延長でもあります。
GiGi: 違法アップロード……なんですが、それはやっぱり後ろ暗い世界であり、おおっぴらには盛り上がれないじゃないですか。それは公式に配信されて、おおっぴらに盛り上がって良いという方がやっぱり楽しいですよね。
『Fate/Zero』や『機動戦士ガンダムAGE』も海外でほぼ同時配信しているようですが、海外で海賊版を見ている人も「おおっぴらに盛り上がる楽しさ」に目覚めて欲しいですね。
───『Fate/Zero』はファンサブ対策も講じていて積極的です。
GiGi: ニコニコ動画ということで、賛否もあるんですが、公式の訳に被せる形でオレ訳をコメントで投稿する人もやっぱりいるみたいですね。
ところで、『Fate/Zero』の海外配信は何故か韓国版がやたらとコメント率が高いんですが、何か理由を知っている人がいたら教えてください(笑)。
───けっしてニコニコやTwitterのコメントがニュートラルな感想ではないと思うのですが、制作者へのフィードバックのかたちも変化しています。
GiGi: Twitterは率直な感想が出やすいですしね。率直すぎてそれを制作者に直接リプライするのはどうかというのもままありますが、制作者自身がエゴサーチして読む分には、2chに比べたらまだ生の声に近いものが聞けるでしょうね。
ニコニコのコメントはバイアスがかなり強いですが、最近は一部の作り手はそれを心得ている感もありますね。
───私家翻訳の賛否の話もですが、「真面目なコメント」は同調圧力の淘汰を受けやすい傾向もありますしね。
GiGi: 逆に『Fate/Zero』のコメントは解説厨大ハッスルで大変楽しいです(笑)。
ニコニコのコメントは一度方向が固まるとそれを維持しようとする力が働くのが良し悪しではあるんですが、結局は使い方次第でしょうね。
───さきほども触れたように、まだ歴史の浅いシステムであり、文化ですから、ある程度システムが浸透したところに満を持した大玉の『Fate/Zero』が来ているという状況でしょうか。
GiGi: ライブ感を利用するか、ライブ感を切り捨てるかは作り手のひとつの選択になるでしょうね。先ほども挙げた『たまゆら』なんかはニコニコでの配信を避けたのは正解かなと思います。
───バンダイチャンネルなども、黙々とアニメを見るという昔ながらのスタイルに向いていますしね。では、こうしたシチュエーションの渦中における「アニバン」のアピールをしていただいてシメ、ということでお願いしていいでしょうか。
GiGi: 今無料配信アニメの中心はニコニコ動画で、話題作はニコニコだけで概ねカバー出来るのですが、ニコニコ以外でも無料配信している作品というのは少なからずあって、そういった作品に触れる機会として利用してもらえれば幸いです。
あと、制作者さんにはもっとネット配信していることアピールして欲しいですね。公式サイトを見ても、申し訳程度にしか触れていないことも多くて困ります(笑)。
───もしアニバン自体が広く知られれば、公式もフレンドリーな告知に熱心になってくれそうな気もします。
GiGi: 是非そうなりたいところですね。よりよいインターフェイスを目指しますのでご指導お願いいたします。
(2011年10月10日収録)
もっとわかるアニメビジネス 増田 弘道 エヌティティ出版 2011-08-31 売り上げランキング : 19460 Amazonで詳しく見る by G-Tools |