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Wed 2012.10/31

香魚子さんの短篇集『さよなら私達』『隣の彼方』『もう卵は殺さない』

| 香魚子さんの短篇集『さよなら私達』『隣の彼方』『もう卵は殺さない』を含むブックマーク

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 以前紹介した魔法使いの心友』の作画である、香魚子(あゆこ)さんの短篇集。

 刊行順は上に並べた順ですが、新しい方から逆に集めて読んでみました。


『もう卵は殺さない』

 美人天才に羨望しつつ引っ張られる話が、四本中半分の短篇集。

 連載作の『シトラス』や『魔法使いの心友』もそうなのですが、「同性への嫉妬や憧れ」を、(決して綺麗ではない、汚い感情も含めて)描くことが原点にある作家さんなんだなと伝わってくる内容です。


 表題作がメタ創作ものになっていて、これも面白かった。

 それにしても、ぱっと見で「うわー小顔」ってわかる美少女の描き方(描き分け)のできる絵は良いものです。


『隣の彼方』

 いきなり最初フルカラー短編の読後感がすごくいい。

 しかし一方、他の短編はけっこう毒のある内容だからか、翌日になっても後味が残っていたくらいでした。研いでない刃物で切りつけられたような痛さというか。


 創作の原石(モチーフ)があったとして、それは良く磨かないとエンタメになりきらないものだと思います。

 それは『卵はもう殺さない』の表題作でも自己言及的に描いていることなんですが、この時点の香魚子さんの短編は、「スッキリ気持ちよく終わるエンタメ」と「飲んだ後に後味が残るような原液」との中間にあるような感じです。


 樋口橘さんの初期短編連想したんですが、新人の頃の樋口橘さんも「うまく割り切れないようなオチ短編」を良く描いていたものでした。

 本人はハッピーエンドだと思っていた話でも、どこか納得いきにくいオチになっていて、読者の感想が賛否で割れるたびに「これからもっとみなさんに楽しんでもらえるものを作っていきたいです」みたいなコメント謙虚に繰り返していたのが印象的でした。

 その結果、ちゃんと『学園アリス』のヒットに繋がってるんですよね。


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樋口

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 思うに、新人少女漫画家には「どうしても何かを描いてしまうような衝動」が大事で、最初からエンタメとしてまとまった作品を発表するのも良し悪しなのかもしれません。

 どうしようもなく描いてしまうような「原液」を持つことこそが大事であって、そんな短編作りを重ねながら「エンタメへの昇華の仕方」を学んでいった方が良い、と。


 特に少女漫画家には、そういう段階を積ませていく編集部セオリー根付いている気がします。

 香魚子さんの短編集も、「これが今の連載に繋がったんだな」と感じいる要素が多いだけに、なおさら必然性を感じますね。


さよなら私達』

 デビュー作も含まれた、最初短篇集。

 やはり「私、やなやつかも」と自分で思うようなヒロインや、後味が必ずしも良くないような毒のある話が多いです。

 ちょっと勧めにくい作品ですが、好きな人はすごく好きになるかもしれないタイプですね。

 絵柄は少女誌の絵柄っぽくない(仮に挙げるとしたら『comicスピカ』に載ってそうな?)と言われつつ、一本目だけ『りぼん』的な丸ペン絵柄に合わせようとした痕跡も。

 基本的にデッサンの取り方が上手すぎて、少女誌の絵からは浮いてしまうんでしょうね。

 しかし感情の流れの描き方はやはり少女漫画で、独特なバランスの作家だなと改めて思います。


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香魚柚木 麻子

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Mon 2012.10/29

『ネウロ』で描かれる人間の進化、『暗殺教室』で描かれる生徒の成長

| 『ネウロ』で描かれる人間の進化、『暗殺教室』で描かれる生徒の成長を含むブックマーク

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)
松井 優征

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 これアリなんだ……と驚いた『暗殺教室』1巻のカバーデザインですが、松井優征の新作がとうとう単行本化されますね。

 前作『魔人探偵脳噛ネウロ』も、「カバーイラストが上下逆」という人を喰ったデザインをしていたものですが、『暗殺教室』は今後こういう路線で行くのでしょうか。


魔人探偵脳噛ネウロ 1 (ジャンプ・コミックス)魔人探偵脳噛ネウロ 1 (ジャンプ・コミックス)
松井 優征

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 以前、コマ割り表現を確認しようと思って『ネウロ』の単行本を読み直したことがあって、改めてその面白さにテンションがあがった覚えがあります。

 松井優征の前作と今作を繋ぐようなテーマとして、1巻の発売前にそのとき感じたことの話をしましょう。


正義善悪を語らない少年漫画

 例えば『HUNTERXHUNTER』を読んで感じられる、「遊び」の感覚によって善悪を吹き飛ばす価値観でも元気が出たものですが、ネウロを読んだあとの、犯罪者を「元気があってよろしい」と肯定するノリにも元気を与えられるものです。

 極端な話として、ジャンプ漫画正義などといったものが特に描かれない方が、素直に面白いと感じるほど。


 ただし、人情人間の心」は描かれていてほしい。


 探偵事務所舞台にしていた『ネウロ』から一転して、『暗殺教室』では落ちこぼれの生徒に暗殺を教える教室舞台となります(と、いうのもざっくばらんな説明ですが、とりあえずそんなものだと思ってください)。


 『ネウロ』は「強烈な犯罪動機が人間進化させるのだ」というモチベーション肯定を描いていましたけど、『暗殺教室』は無気力な生徒に殺害動機を与えてあげなきゃいけない」のが違いのように見えます。

 でもどちらのドラマも、人外の視点から、人間(生徒)に向かって、「もっと賢くなれ」と促している点は共通しているでしょう。


ネウロ』の完結後、今まで読み切りで「強いおっさん少女」という組み合わせを何度か試していた松井優征が、結局のところ「父性を備えた異形+人間」という『ネウロ』と同じモチーフ回帰しているのが、作家カルマを感じさせて興味深かったです

松井優征『暗殺教室』1話感想 - ピアノ・ファイア

 『暗殺教室』に明確な「宿敵」は存在せず、「生徒が教師を殺さないといけない」というルールけが葛藤の要素として存在します。

 もちろん、この教師(カバーイラストになってる怪人)を本当に殺してしまうと話が終わってしまうので、「殺せないくらい強い相手を殺す方法を学んでいく」という矛盾した物語になるのですが。

 しかし、その矛盾した教育によって、無気力な生徒たちも元気になって自立に導かれていく。


 一方、『ネウロ』には「悪意が謎を作り、人間の知恵を進化させるので悪意自体は悪いものではない」というコンセプトがあります。

 このコンセプトって、当時は、ただ額面通りに受け取っていたものです。

 人類歴史に照らしあわせて、「まぁそうだろうな」と単純に納得できるロジックですからね。


 しかし再読してみて、反社会的な悪意であるほど、悪事を隠して自分日常を守りたい」という必要が生まれ、必然的に「謎」を考案しなければならない仕組みがあると気付き……、もう一段階「なるほど」と得心したものです。


不適合さが工夫を生む

 悪意がダイレクトに謎を作るのではなくて、「犯罪しても捕まりたくない、殺人犯だけど一般人のフリをしたい」という、社会性への反動が謎を作るということです。

 「害意」よりも「保身の本能」が謎を作るのだと思えば……、「自分を守る気がなくて堂々とした犯人」が放つ悪意にネウロは興味を示さなくなる、という描写も理に適っています。


 現実でも、極悪人ほど優秀である、と言うでしょう。

 しかし「悪いことに抵抗がないから」能力が高いというより、「悪意が漏れ社会的に不利にならないように頭を働かせる」能力が高いことを指して言われているのかもしれません。


 『ジョジョの奇妙な冒険』の吉良吉影が、平穏を望むと同時に、異様に努力家であることでも説明できそうな話です。


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 吉良吉影犯罪衝動抑制できなかった人間でしたが、「悪事を隠す工夫」でなくても、悪事をしない工夫」だけでも努力による克服を必要とするはずでしょう。どちらも「悪意を隠さなければいけない」という意味では等価です。


 『ネウロ』では「悪意を隠すために工夫する人間」と、「悪意に立ち向かうために工夫する人間」が好対照に描かれていました。

 だから、人間を描いた「人情もの(ヒューマンドラマ)」としても、犯罪を描いた「探偵もの」としても面白かったのだと思います。


 悪意も善意も、共に「生きにくさ」を生む点では共通しています。

 前面的には描かれないのですが、一種の「ハンディキャップもの」としてネウロを読むことも可能かもしれません。

 ハンディキャップは、努力を生みますから。

 しかし一般論ジンクスからすると……「善人がバカを見る」率が高いと言われるのは、善人は自分のハンデを自覚して努力をしにくいからかもしれませんね。


 悪人自分の異常性(欠陥)に気付きやすいから努力に走りやすい。

 善人は自分普通だと思ってるから努力しにくい。

 余談ですが、そういう風に分けると、なぜここ最近フィクションヒーローもの)は偏執的な努力のできる善人は異常だと思う」という前提で描こうとするのか……? という問題にも別の説明がつきそうですね。


 ぼくの個人的な嗜好として、「生きにくさ」が描かれている作品が好きだという気もします。

 そのコンセプトで分けるなら、『ネウロ』は人間の突出した性質による生きにくさ」を克服する話で、『暗殺教室』は人間能力の不足による生きにくさ」を克服する話として見れるでしょうか?


 繰り返しになりますが、どちらも人間進化や成長を促そうとする話であって、底辺に流れているのは「人間性」だと思います。

 異形を通して、「人情」を描く作家

 まだ始まったばかりでストーリーが見えない段階なのですが、とても松井優征らしいと感じる作品がこの『暗殺教室』です。


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古代の英雄の意外な一面/丹下和彦『食べるギリシア人―古典文学グルメ紀行』

| 古代の英雄の意外な一面/丹下和彦『食べるギリシア人―古典文学グルメ紀行』を含むブックマーク

食べるギリシア人――古典文学グルメ紀行 (岩波新書)食べるギリシア人――古典文学グルメ紀行 (岩波新書)
丹下 和彦

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 一昨日は図書館へ資料探しに出掛けていて、いずれ読むつもりだった『食べるギリシア人』を資料のついでに借りてきました。

 食文化史の話になるのかなー、と思いきや、ホメロスの描いたアキレウスオデュッセウスの人物分析から始まるので、アレクサンドロスオタクエウメネスオタクにも勧められる本だと思います(狭い勧め方)。


ヒストリエ(1) (アフタヌーンKC)ヒストリエ(1) (アフタヌーンKC)
岩明 均

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 勇士アキレウスストイックで食事にこだわるシーンがあまりなく、智将オデュッセウス人間臭くてメシを食うことばかりまず考えるタイプだという。

 肉体系の英雄は大食漢であり、クール頭脳派は食への執着が薄いであろう……という一般のイメージとは逆になってるのが趣深いですね。


 著者の丹下和彦さんは西洋古典学が専門で、ギリシア悲劇翻訳などを手掛けているようですから、考古学的な分析よりも文学的なアプローチから始まるのはさもありなん、と感じるところですね。

 まだ通読していないのですが、古代ギリシア文学に対する新たな切り口、という面で古典好きには楽しめそうな新書本です。

烏丸烏丸 2012/10/30 19:17 僕もそう思います「ネウロ」と同様に、人間の進化をテーマにした作品を描きたいのだと思います。

かかしかかし 2012/11/04 07:05 バカを見てもバカを見た、と思わないのが善人ではないか、と思ったりします。
俺は善いことしてるのに…ってのは一般的な「功利」の前提がある功利主義ですからね。

Sun 2012.10/28

絶世の美少女を描く説得力/森夕『魔法科高校の優等生』1巻

| 絶世の美少女を描く説得力/森夕『魔法科高校の優等生』1巻を含むブックマーク

 ゲーマーズ特典の掛け替えカバー(描き下ろし)と、とらのあな特典の4Pリーフレットの魅力に惹かれて二冊購入……しかけてたところで、友達共同購入してくれたので特典だけ二種類揃えることができました。


 27日が発売日だった、佐島勤原作森夕作画魔法科高校の優等生1巻です。


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森 夕 佐島 勤

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 でもコミックZINの店舗には出掛ける予定がないのでZINの特典は未入手だったりします。


f:id:izumino:20121028161215j:image


原作を再現するために必要だった、少女漫画的な視覚世界面白

 個人的に原作の大ファンで、しかも一番好きなキャラスピンオフだから買った、という理由もあるのですが、この作品は漫画の「絵」の表現でも刺激的に感じるところが多く、漫画研究仲間にも良く勧めるようにしています。


 小説コミカライズとして、とても漫画的で楽しいビジュアライズをしているので、その表現だけでも面白いです。

 それは雑誌掲載時にも、「電撃大王の『魔法科高校』スピンオフは少女漫画風味」というエントリで指摘していました。


 ここでいう少女漫画的」というのは、夏目房之介さんの持論を借りた言い方になるんですが、女性的な視覚センスというのは「描きたいもの、見たいもの以外は描かずに白い背景のままにする」というものです。

(中略)

 森夕さんの漫画も、「見たいもの」だけが絵になっていて、要らないものは描き込まないバランスが漫画的に絶妙、という印象です。

 無駄情報が削られているおかげで、「作者が見せたいもの」だけに集中してずっと眺めていられる画面構成になっている。こういう「少女漫画っぽい」目線の作品は個人的にも好みですね。

(中略)

 『魔法科高校の優等生』の場合、具体的にはどんな目線かというと、まずヒロインの顔が一番しっかり描かれます。他のモブは、表情が簡略化されています。そして、少女漫画ならば「相手役」にあたるヒロインの兄(原作では主人公)ですら「平均的」な特徴のない顔で描かれるというあたり、作者の「目線」=ヒロインを中心にした描写が行き渡っているイメージです。


 視点的に「他者」として登場するキャラクター(老人や中年男性キャラクター)にかぎって彫りの深いディティールで描かれるというのも、少女漫画では起こりがちな視覚化現象ですね。

 スコット・マクラウド漫画論でも触れられていることですが、抽象化された概念的な顔」ほど「自分に近い親密さを覚えるキャラクター」に見えて、「ディティールの細かい写実的な顔」ほど「他者のような距離感を覚えるキャラクター」に見える、という法則がここでも当てはまっています。

電撃大王の『魔法科高校』スピンオフは少女漫画風味 - ピアノ・ファイア

 加えて、最近レビューした「憧れの魔女っ子と、平凡な人間の少女の描き分け/『魔法使いの心友』1巻」の話をここで繰り返してもいいでしょう。


 平凡な一般人視点から、ヒロインを「憧れの存在」として描く上でポイントとなるのが、登場人物内における美醜の描き分けでしょう。

(中略)

 作中では「あまり可愛げのない子(主人公友達)」<「普通可愛い子(主人公)」≒「オシャレ次第で綺麗になれる子(ゲストヒロイン)」<「クラスルックス上位のグループ」<「そのグループで一番の美人」<<<「黒髪ロングの魔女っ子という段階を踏んでうまく「美少女度」を描き分けており、そこは作画担当香魚子さんの画力を堪能できるところです。


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憧れの魔女っ子と、平凡な人間の少女の描き分け/『魔法使いの心友』1巻 - ピアノ・ファイア

 この「美少女度の描き分け」という要素……、実は『魔法科高校の劣等生』という原作小説文体からしても「必須」の表現なんです。


 原作自体は、いかにも理系男性の文章を思わせるロジカルな書き方が特徴とされています。

 それは設定語りにかぎらず、ヒロインの魅力を表現するときすら発揮されるもので、その文体の過剰さは「佐島節」とファンから呼ばれて愛されているほど。


 だから、文章を読むだけで「1000人中の1000人が美少女と認めるのがメインヒロインの司波深雪である」と理解できる書かれ方になるのです。

 そこで他のヒロインはといえば「10人中10人が認める美少女である」スケールダウンしていたり。


 サブヒロイン同士であっても「男が10人いれば10人、女が10人いれば9人が認める美少女なんて具体的な説明で「差」を付けられるキャラクターがいたり、他にも「男子人気の高い女子生徒」と「女子人気の高い女子生徒」がいたかと思えば、「どちらの人気でも勝ってしまうのが司波深雪」というオチが付いたりと、妙に理屈っぽく、具体的な表現にこだわり(?)が感じ取れます。


 こういう直截的な書き方を恐れずにやってしまう小説って珍しいと思いますし、だからこそ「そこ」をビジュアルでどう表現するのか、というのがメディアミックス醍醐味──面白さ──になると思うんですね。


 そして当然、理屈っぽい格付けの描写は原作ですでに行なわれているのだから、漫画版女性的なインスピレーション表現された方が面白みは増す、と言えるかもしれません。


 そこで『優等生』では、深雪さんとその他のヒロインがきちんと描き分けられているのが素晴らしい。

 例えば「瞳に入った斜線の数」だけを見ても、キャラクターごとに明確な作画コストの違いがあるんですね。また、初登場時はモブのようなラフさで描かれていたキャラが、再登場するとディティールが増えて印象を強調されたりもする。

 作者がどのようにその世界を「見て」いるのか、がしっかり伝わってくる作画と演出ができているということです。


 もちろんこれは「漫画」の表現ですから、一枚絵の美しさでどうこうする表現とはレベルの違う話なんです。

 肝心なのは表現の「コンセプト」であり、演出(見せ方)のセンスです。


 作者あとがきでも、森夕さん自身が「絶世の美少女を描くこと」をしっかり意識しながら作画されている様子が窺えました。

 その上、「もともと黒髪ロングの美少女が大好き」とも書かれていて、黒髪ロングフェチな方にも安心してオススメできる漫画ですね。

(……と、なんで黒髪ロングがポイントかというと、一種の「ヒロイン属性」としての黒髪は「すごい美少女」を表現する上で非常に相性が良く、だから「黒髪ロング好き」の人の中には「美人キャラ好き」が多い傾向があるからなのですが。)


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美しい黒髪の表現

繊細さの表現

 今まで見かけた範囲の感想から察するに、このコミカライズキモである「兄妹カップリング」の描写や、深雪を取り巻く女子同士の描写は、しっかり女性読者からのウケも良いみたいですね。


 作者の森夕さんが女性作家なのかどうかは全く確証がないのですけど、この表現資質があって……、もし男性だったら寧ろスゴイ、と驚くくらいです。


 ここで比較するのも気がひけるのですが、原作挿絵石田可奈さん画)や本編コミカライズ(きたうみつなさん画)では、少年漫画的なビジュアル……というかゲーム的なビジュアルで描かれる傾向があり、描き分けの繊細さには乏しい、と言えると思います。

 つまり、どのキャラだろうと同じような手間をかけて描いているわけです。

 そのため、男性キャラのデザインも、見分けをつけにくい作画になりがちでした。


 ただ、『電撃文庫MAGAZINE』で掲載された石田可奈さんの新規イラストでは、一転して繊細な描き分けの兆候が見られるんですよね。ぜひこの繊細さを今後も取り入れていけば、さらに良くなっていくのでは、と強く感じます。


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「主役」と「視点役」が分かれる理由

 そういえば、『優等生』はヒロインが描き分けられてるのがいい、とは言ってもそれは単純に「差別されているから良い」と言ってるわけではありません。


 ラフに描かれているように映るサブヒロインたちはちゃんと、漫画用語でいう「メガネ君ポジションとなって、感情移入しやすい可愛さで描かれてるのが良いんです。


 この単行本の紹介を書こうとするレビュアーは、うっかり「深雪視点で描かれる」という広報サイドのコピーに誘導されがちみたいです。どうしても「深雪視点コミカライズ」と紹介してしまう。

 ですが、漫画では「主人公」と「視点役(メガネ君)」が分離することは当たり前なんです。

 具体的に言えば、主役は司波深雪であり、視点役は光井ほのかというサブヒロイン

 そしてこれは、どれだけ「ほのか視点」が増えようと「ほのかが主人公となること」とイコールにはなりません。


 ちなみに文芸論では、「視点」というのは完全三人称、限定三人称一人称という感じに区別することができます。

 漫画はその表現手法必然上、「限定三人称」という、客観主観の中間的視点になりやすいジャンルです。


 「限定されている(Limited)」視点というのは、「つねに主人公のそばから離れない視点だが、主人公本人ではなく主人公を眺めている視点である」という意味があります。

 で、無論その主人公を眺める視点というのは、少年漫画ならば「金魚のフンのような子分キャラ」や親友キャラ、悪友キャラ視点とほぼ同一に重なりやすいわけです。


 どの漫画でも、常人離れしたキャラクターを描く際に「天才に対する凡人」の視点がよく採用されますね。いずれも通称メガネくん」と呼ばれる役割です。

 そして、主役にとっての価値観イメージ)と、視点役にとっての価値観を、さらに「作者の価値観」で合わせることで、登場人物たちのビジュアルには奥行きが生まれます。


 このように、漫画の中でいか美人美少女を描くか、というのは漫画の「視点論」と切り離せない問題なんです。


雑誌連載からの単行本化の付加価値

 森夕さんは、漫画をまだ描き慣れていないような初々しいところもあって、例えばトーンの貼り忘れや削り忘れが見付かるくらいだったのですが、きちんとコミックスで修正されている箇所も多く、上達している様子も窺えます。

 雑誌で読んでいた方もチェックしてみると、また見方が変わるんじゃないでしょうか。


(ただ、個人的な意見ですが、達也の前髪のディティールは律儀に修正しなくても良かったかも……。記号的なディティールをところどころ省いてしまえる自然さも絵の魅力だと感じていたので。)


 あと細かいポイントでいえば、女子制服の柄のバリエーションが、原作未公開のデザインを使っているのも良かったですね。

 雪の結晶柄と花柄と、明るい夜空柄の三種類までしか登場していなかったのが、コミックスの裏表紙を見ると、ラフスケッチにのみ存在していた「暗い夜空」の柄を独自に(?)アレンジしていることがわかります。


今後の展開について

 『優等生』の最初エピソードに関しては、原作者によるシナリオ提供で作られていたようです。



 でも1巻の原作者コメントによれば、森夕さんのオリジナルエピソードはそのあと増えているようですね。

 ちなみにとらのあなの特典リーフレットコメントによると、A組(深雪やほのかのクラス)だけでなくB組の生徒にもスポットが当たるみたいで、森夕さんの絵でエイミィやスバル十三束くんが描かれるとしたらそれも楽しみです。


 ただ、原作小説で「入学編」にあたるエピソードから順番に描くのって、本編のコミカライズがすでにやっていることだったりするわけで。


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 原作読者としては、もう少し先のイベント時間を進めてほしいところがありますね。


 学園モノのセオリーからしても、「入学してからの出会い」を順番に描かないといけない必然性ってありませんし、むしろ舞台が整ったところからの物語の方が「初めて読む人にも面白さが伝わりやすい」ところがあるんじゃないか、って考えることもできますからね。


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 というわけで長くなりましたが、『魔法科高校の優等生』、可愛い女の子(血の繋がった兄妹カップリングというマニアックさもアリ)を描いた漫画としては出色の作品です。おすすめですよ。


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Tue 2012.10/23

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Sun 2012.10/21

ミライア本荘店のコミック売り場ディスプレイが凄い

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 今朝、Twitterで見かけて驚き、Togetterでまとめてみました。ちょっとこれはびっくりしますね。是非見てみてください。

『PSYCHO-PASS』『新世界より』Ustの保存場所

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 一時間ずつ分割して保存されています。ちょうど前半がサイコパスの話、後半が新世界よりと今期アニメの話になってました。


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過去の放送

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Thu 2012.10/18

【告知】10月19日(金)夜に『PSYCHO-PASS サイコパス』Ust

| 【告知】10月19日(金)夜に『PSYCHO-PASS サイコパス』Ustを含むブックマーク

 すいません、今晩やる予定だったUstの配信ですが、一日順延となって明日夜に改めて行うことになりました。

 HWさんの希望で、『PSYCHO-PASS サイコパス』と『BTOOOM!』の話をしてるはず! です。


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Wed 2012.10/17

【告知】10月18日(木)夜に『PSYCHO-PASS サイコパス』Ust

| 【告知】10月18日(木)夜に『PSYCHO-PASS サイコパス』Ustを含むブックマーク

 今週の木曜夜に、HARD-WIREDさんとアニメUstの配信をします。

 時間はまた22時頃からでしょうか。

 当日はTwitterで放送準備のお知らせなどしますので、チェックしてやってください。

 HWさんの希望で、『PSYCHO-PASS サイコパス』と『BTOOOM!』の話をしてると思います。


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 話題に登るかはわかりませんが、個人的に今期スタートのアニメお気に入りなのはアイカツ!』と『さくら荘のペットな彼女』ですね。

 あとは『ジョジョの奇妙な冒険』と『中二病でも恋がしたい!』が気になる作品ってところでしょうか。


過去の放送

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Mon 2012.10/08

今月発売の『美術手帖』で、ジョジョ対談に参加しました

| 今月発売の『美術手帖』で、ジョジョ対談に参加しましたを含むブックマーク

 Amazon書影が出ていましたので、お仕事告知です。

 今月17日発売になる『美術手帖11月号が荒木飛呂彦の特集をしているのですが、その中で伊藤剛さんと一緒に、荒木飛呂彦マンガ表現について対談をしています。


美術手帖 2012年 11月号


 漫画論の先輩でもある伊藤さんと、久しぶりにじっくりと語り合う機会でもあったのですが、しかもテーマジョジョということで、かなり充実した論議をすることができました。面白かったです。

 3時間くらいかけて話した内容が、8ページほどの紙面に詰め込まれています。


代表作『ジョジョの奇妙な冒険』連載開始から

25年目の今年、出身地である仙台に続き

東京原画展を開催中の漫画家荒木飛呂彦

これまでの仕事を振り返る、この節目の時期に

漫画西洋美術史BDバンド・デシネ)、

ファッションモダン・ホラーなど、

荒木の描く作品をさまざまな角度から分析

その独自の世界観と、魅力を明らかにしていく。

月刊『美術手帖』10月号 超絶技巧!! 最新のアート&アーティスト情報・展覧会情報・評論を掲載

 なお、我々以外の記事も、荒木飛呂彦について語る上での「ツボ」をついたテーマが揃えられているようで、特集号の全体としても面白そうですね。

 発売が楽しみです。


美術手帖 2012年 11月号美術手帖 2012年 11月号
美術手帖編集部

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追記

 対談記事と併せて読んでいただけると嬉しいのが、ぼく(当時はイズミノウユキ名義)の荒木論が載った『ユリイカ』の荒木飛呂彦特集号。

 まぁ、このキャリアがあったから今回対談に呼ばれたようなものですからね。


ユリイカ2007年11月臨時増刊号 総特集=荒木飛呂彦 鋼鉄の魂は走りつづけるユリイカ2007年11月臨時増刊号 総特集=荒木飛呂彦 鋼鉄の魂は走りつづける

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Sat 2012.10/06

漢字と呪術への好奇心を描くファンタジー/津田雅美『ヒノコ』1巻

| 漢字と呪術への好奇心を描くファンタジー/津田雅美『ヒノコ』1巻を含むブックマーク

 『ちょっと江戸まで』を完結させた津田雅美の新作です。


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 『ブスと姫君』『彼氏彼女の事情』『eensy-weensyモンスター』と、現代日本の学園ラブコメ定評のある作者ですが、


ブスと姫君 津田雅美作品集 (白泉社文庫)ブスと姫君 津田雅美作品集 (白泉社文庫)
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……元々は「魔法使いシリーズ」など、ファンタジーSFも好んで描いていた作家でした。


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 『ちょっと江戸まで』も時代劇というだけでなく、SFとしても良かったですからね。

 『ヒノコ』はそんな作者にとって、久々のファンタジーで、しかも短編ではなく連載ということで、今までの活動経歴からすると新しいチャレンジだと言えます。


作者の好奇心がそのまま描かれるタイプの少女漫画

 しかし、『ヒノコ』は架空の異世界ファンタジーではあるんですが、「漢字」という現実存在する文字を利用した、「古代日本風ファンタジー」です。

 リアル日本文化に近いという点では、江戸時代文化を描いた『ちょっと江戸』と接続するところがあるかもしれません。


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 『ヒノコ』の世界の「漢字」には、亀甲文字から楷書までの歴史があり、その由来や成り立ちを解説しながらドラマも進みます。

 強力な巫女であるヒロインが、漢字の字型を呪術のように使うことがそのドラマの発端にはなっているとは言えるでしょう。

 でも作者の動機としては、自分勉強した漢字意味や魅力を、読者にわかりやすく伝えたい……というのが創作のメインになっている感じがします。


 それは、時代小説が読みたいという趣味がこうじて江戸時代暮らしについて勉強したら面白かったので、自分が学んだことを漫画にしてみました、という『ちょっと江戸まで』の創作動機と似ています。


 その結果、『ちょっと江戸まで』は「歴史に興味を持ちそうな女子」や「歴史勉強が苦手な受験生」に読んでもらえたらよさそうな作品になっていました(もちろんウンチク描写だけが魅力ではないのですが。2011年少女漫画で特別に優れていた作品のひとつだと思います)。


 『ヒノコ』もそんな作者の好奇心が素直に出ていて、「ちょい江戸」に比べると、より趣味的になった気はするんですけど、これはこれで「少女漫画家らしい」漫画の描き方かもしれません。

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