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西島大介の描く震災後と、荒木飛呂彦の描く震災後

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西島大介『Young,Alive, in Love』1巻発売

 
 西島大介さんの新刊『Young,Alive, in Love』の100人帯企画に参加しました。
 70人までの推薦文が入ったオビの印刷には間に合わなかったのですが、特設サイトでは残りの30名とともに泉信行のコメントも採用されています。良かったら探してみてください。


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西島 大介

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“あの日”から僕らは何か変わったのだろうか――。早川真は“普通の”高校三年生。人生の決断に迫られていながらも「何も見えない」少年は、“何か”が見えている…そんなある日、黒づくめの不思議な少女と真が出会ってしまい…。
ポスト3.11に西島大介が贈るLOVE&POPな青春ストーリー!!

http://jumpx.jp/w/yal/


 実はこの作品のコンセプト。数ヶ月前、西島さんと東京でお会いできたとき、ご本人から直接聞いたことがありまして。
 それが『美術手帖』のジョジョ対談でジョジョリオンを語るときのヒントになっていた、という裏話があります。


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見えないものを描く漫画

 『Young,Alive, in Love』で描かれているのは、「視えない放射能を恐れる少年と、「視えない精神世界(スピリチュアル)」が視えてしまう少女のボーイ・ミーツ・ガール。


 視えない放射能の脅威を、ヒロインは「霊視」というカタチで視ることができるらしい。
 ただし、その「霊」が本当に「放射能の危険性」と直接関係してるのか? という関連性はまったく定かではない。単なる偶然の一致……かもしれないのだ。


 でも、かといってネットの噂や専門家の意見、企業の発表、パチモンのガイガーカウンターに頼っても「アテにならない」し、放射能を直接視たり触れたりなんかできない」のは、彼女のスピリチュアルと別に変わらないわけで……。


 漫画にかぎらず、映像作品全般にも言えることですが、漫画には「見えないものを描く」という機能があります。
 それはオバケのような「見えないなりの姿があるもの」だけが対象ではなくて、「姿のない抽象的な概念」もまた、漫画が描きだそうとするモチーフになりえます。


 『Young,Alive, in Love』は、「3.11以後の不安感」という、まさに「姿もカタチもないが存在するもの」をモチーフに据えて描きだそうします。
 しかしそれは、主人公のマコトとヒロインの真奈とでは「視え方」がまるで違う。でも「同じ存在を感じている」ということだけは信じていいかもしれない。
 この漫画は、そんな話です。

「不確定なもの」を描く漫画

 ここには、単純に「見えないものを描く」だけでは済まない問題があります。
 そもそも、可視化したものが正しいとは言えないし、可視化すること自体が間違っているのではないか? ということも言えるからです。


 ガイガーカウンターによる「可視化」にしたって、人間にとって認識しやすい数値に置き換えているだけであって。
 その実体が何なのか、というのはやはり人間にとって理解しがたいレベルでしか存在していないわけです。
 また、その存在が理解しがたいレベルだということは、個人個人の「認識の確かさ」に落差が生まれやすく、互いに共有することすら困難になっていきます。


 そういう西島さんのお話が、『美術手帖』の対談のまとめに繋がっています。伊藤剛さんによる締めくくりの部分ですね。

伊藤 『ジョジョリオン』は3・11以降を組み込んでいますよね。東日本大震災はあまりにも出来事として大きいし、原発事故を初めとして、我々が確率的な世界を生きていることを露わにしてしまった。放射線が将来どのような影響を与えるかも、地震がいつ起きるかも、確率的な事象です。それは表象が不可能かもしれない。〔中略〕物語は「それはできないのだ」という断念から始めないといけないですが、いずれかの時点で描かれ得ないものをどう想像させるかというフェーズが立ち上がってくる、このとき、その想像力は何によって担保されるのか。そこが今後の『ジョジョリオン』で見えてくるのかもしれませんね。


 対談では抜けおちている部分なのですが、やはり『ジョジョリオン』は杜王町が舞台と言うことで、ジョジョ第4部と比べて読むことが多くなります。
 ここまでの話を踏まえて言えば、第4部が絵にして描いていたのは「住宅地の闇」でした。
 当時は、ちょうど連続殺人犯などが取り沙汰されていた時代です。
 美しく設計された新興住宅地に潜む闇を、スタンドなどの表現を通してフィクションに取り込むことができていたシリーズでした。


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 その第4部に対して、『ジョジョリオン』が「何を描いているのか」はどうにも伝わりずらい。
 舞台背景として、東日本大震災が織り込まれていることは確かなのですが、それが「スタンド使いの増加原因」以外に何か活かされている様子はまだありません。


 もっとも、「ストーリーが不可解である」こと自体が、不確定な世界を描いていると言ってもいいかもしれません。
 しかしその場合、ジョジョシリーズの持ち味である「スタンドによる可視化」という点はどうなるのだろう? ……というところまでが『美術手帖』の対談で議論していたことでした。

信用ならないテクノロジー

 しかし『ジョジョリオン』の最新エピソードで、「出現位置のわからないスタンド攻撃」と「ケータイの地図アプリを操るスタンド」に注目してから、この見方にも変化が起こりました。
 ケータイから得る情報、ケータイによるナビなどは、まさに「アテにならない」「人間を振り回す」道具の代表のように感じますからね。


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 思うに、ジョジョシリーズのスタンドには「時間操作系スタンド」と並んで「未来予知系スタンド」の系譜があって、その系譜では「どこまでその予知を信じ切れるのか?」という不確定さがドラマを生んでいました。
 それを時間系スタンドと組み合わせたのが「キング・クリムゾンのエプタフで見た真実に辿り着けない」ディアボロの敗北であったり、「マンダムによって繰り返される」リンゴォとの決闘だったりします。


 そして『スティール・ボール・ラン』では「ネットにひっかかったテニスボール」に象徴される、予測不能な未来が大きなテーマとなっていきます。
 そんな状況に対してジャイロは、リンゴォとの決闘で学んだ「光の道」を見出すことで勝ち残ろうとします。しかしその彼もまた、最終的な勝者とはならないわけです。


 「男の人生には地図が必要だ」というのも『SBR』を象徴する言葉でした。
 そこで『ジョジョリオン』では、「地図のスタンド」を発現させたヒロインが、まさしく「主人公の地図」となる……、というのがテーマの連続性を感じさせてロマンチックです。

ジョジョに反映されるテクノロジー

 ところで、荒木飛呂彦の漫画に社会反映的なテーマはそぐわない、と感じる人は多いかもしれません。


 しかし荒木飛呂彦は「最新のテクノロジー」を作品に取り込むことを好むタイプの作家であり、ジョセフがウォークマン好きだったり、花京院が重度のテレビゲームユーザーだったりするわけです。
 ケータイのアプリが物語のガジェットとして取り込まれるのも、その流れからするとむしろ自然なんですね。


 そもそも彼は、「日記のような感覚で各話のネームを考えている」と本人が言う通り、「完全にフィクションの世界に没頭して現実生活のノイズを入れない」タイプではなく、「創作活動以外の生活でリアルタイムに感じたことが作品に入ってくる」タイプの作家でしょう。


 5年前にも、荒木飛呂彦は「山を歩くとき、まっ先にいらないと思ったのは携帯電話。でもiPodだけは手放せない」と「デバイス」についてのこだわりを語っていたことがありました。

長時間歩いていると、足とかが痛くなってきて、いろんなものを捨てたくなってくるんです。そこで自分が何を必要としているかということがわかってくる。僕の場合は、携帯電話とかがまずいらなかったんです(笑)。でもiPodは最後まで捨てられなかった。

『ユリイカ2007年11月臨時増刊号 総特集*荒木飛呂彦』p19


 今回の「ケータイの地図アプリスタンド」には、そうした「ケータイに対する思い」が形になっている気もするのです。

西島大介荒木飛呂彦

 見えないものを漫画で描く漫画家。
 まったく絵柄の異なるふたりですが、彼らはいま比較しながら読むと、発見のある漫画家たちかもしれません。


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