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Thu 2013.09/26

科学のような魔法、ねじ曲がりのないキャラクター、そして食い道楽/青木潤太朗『ガリレオの魔法陣』

| 科学のような魔法、ねじ曲がりのないキャラクター、そして食い道楽/青木潤太朗『ガリレオの魔法陣』を含むブックマーク

 ネタバレ控え目の感想文です。


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 このブログの読者さんから小説を薦めていただくという珍しい体験をしまして。折角の機会ですからお勧め通りに買って読んでみました。


 その読者さんは『S-Fマガジン』の書評アンテナを張ってライトノベルを読んでおられる様子で。

 そういう、普通とは異なるアンテナから薦めてもらえると「これは何かあるな」と思ってしまいます。

(当ブログも「SFの感想」を目当てに読まれていたそうで! その点でも珍しいタイプの読者さんだなーと思うわけですが。)


 作者は『ウルトラジャンプ』で漫画原作などを行っている青木潤太朗さん。


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 元々アニメ向けに企画していたものを、集英社のなかを経由してスーパーダッシュ文庫から小説化することになったらしく、これが初のライトノベルだとのこと。

 ただ、あとがきライトノベルや「ライトノベルからこその表現手法」への愛を語っており、ライトノベルを書くことへのこだわりも強く感じさせる内容になっています。


 ただ、(読む最中はあまり意識しなかったのですが、後から考えると)漫画原作者らしいなと感じる要素も含まれています。

 『ガリレオ魔法陣』にはふたつのエピソードが入っており、そのエピソードも小刻みに区切りを付ける形式のため、例えるなら「漫画連載が単行本一冊にまとまっている」ような感覚がある。

 ライトノベルはだいたい「一冊かけて序破急ひとつドラマを終わらせる」というイメージがありますが、このように漫画連載的な構成だと、普段ラノベを読まない、漫画読者にも薦めやすいのでは……という感触がありますね。

(ただ1巻目としては、ラストのヒキが強く感じるのも漫画単行本っぽくて、まだナンバリングの付いていないタイトルなんですけど続刊してほしいところですね。)


世界観キャラクター

 『S-Fマガジン』で紹介されていたこから窺えるように……というか「魔法陣」に「ガリレオ」という単語がくっついていることからも解るように、科学時代における魔法科学のように発達した魔法作品舞台の基礎に据えています。


 「発達した科学魔法と見分けがつかない」漫画にしていた、藤子・F・不二雄チンプイ』の「科法」とはちょうど真逆ガジェットですね。

 「科法」の逆……科学のように発達した魔法を描いたライトノベルとしては、佐島勤魔法科高校の劣等生』があるでしょう。

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 ちなみに『魔法科高校の劣等生』は魔法だけでなく、科学現代以上に発達している」近未来シミュレーションしているため、普及性や効率という面では、「科学力」がまだ「魔法力」を上回っている世界です。

 魔法軍事利用や職人技に留まる、パソコン開発前のコンピュータ技術のような存在だと言えるでしょう。


 一方で『ガリレオ魔法陣』の魔法は、ほとんど科学のレベルを凌駕している設定で舞台世界パラレルワールド現代地球)をシミュレーションしています。

 それは限られた人間けが操るものではなく、家電インフラのレベルにまで普及し、機械電気製品から置き換わっている。


 魔法陣を紙や地面に書くのではなく、立体映像の透明なレイヤーに何枚も重ねることで効率を上げたとされる「現代魔法陣」の技術は、「CH(サークルホログラム)」技術と呼ばれ、生活に浸透しています。

 例えば、一般家庭にあるIHヒーターのプレート部分が魔法陣(CH)に置き換わったようなもの、という描写もあって、なかなか生活感の見えてくる世界観が描かれています。


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 また、魔法陣から浮き上がる立体映像は「実体」として物理的に存在させることもできるため、インテリアから建築物まで出現させられるという、かなりなんでもありな技術です。


 ただ一応、立体映像投影や、魔法陣編集(作図)する操作電子的な機器で行っているようで、こうなると電気的なエネルギー自体魔法陣で作り出したりはしないのかな? と社会全体への想像も膨らむ設定ですね。

 魔法陣によって動く人工知能存在するくらいですから電子的な装置ではないコンピュータプログラム存在させられそうですし。


 さて、その「知性のある立体映像」が実体化した人間、というのがこの作品のメインキャラクターになっています。

 ……と、前置きが長くなりましたが、キャラクター小説としての魅力の話はここからですね。


 その「実体映像人間」として登場するのが、表紙イラストにもなっているヒロインリンシャオ。

 設定上の外見年齢は15歳くらい……生まれてから実年齢は数百年という、いわゆる「ロリババアキャラ

 どうも著者もイラストレーターもこのロリババア属性思い入れがありすぎるらしく、もはや「理想的ロリババァの魅力をいかに表現するか」に注力しまくったライトノベル、と言ってしまっていいかもしれないくらい、理想的に「ロリババアしている」ヒロインとなっています。


 無論、キャラクターというのは関係性の中で物語られるものですから、このリンシャオも例に漏れず、全体の登場人物たちと調和することで存在を主張しています。

 つまり、年長者でかつ王侯的な振る舞いをするリンシャオは、主人公サイドのキャラクターにとって養育者であり師匠でもあるわけで、青少年を引っ張る師匠キャラとしても理想的キャラクターだな、というのがぼくの印象でした。


 個人的には、このリンシャオに目をかけられている主人公青年と、もう一人のヒロインである少女性格も含めて好みです。

 この二人の性格というのが、少女の側がヨーロッパ貴族出身だったりしますから自然貴族的な高潔さや気高さがあるんですけど、リンシャオの養育を受けた主人公もまた、庶民的生活をしながらも精神的には貴族めいた性根がある。


 この主人公ヒロインの「性根の曲がってない感じ」、「心根のまっすぐな感じ」がこの小説の一種の読みどころにもなっていると思います。

 つまり大掴みに言えば、キャラクター性格がかなり「いい子」で「優等生」なんですよね。

 性格が澄み通っていて、ねじ曲がったところがない(というより、ねじ曲がりかけそうな目に遭ってもギリギリ屈折せずに育ってきたことがわかる描き方をしている)。


 少年漫画として、悪ガキや不良のキャラクターよりも「元いじめられっ子のいい子」や「優等生正義漢」を描くことが多いのが『少年サンデー』の漫画なんですけど、たぶん「サンデー好きな人が気に入るかも」、というのも読んだ印象として残った部分でした。

ギャグとしてオタクネタが所々入ってくるのも「サンデーっぽい」と言えばそうですね。今時のライトノベルとしては標準的かもしれませんが。)


 ちなみに、精神的に貴族というだけでなく、物質的にもなかなか貴族的な描写が多いのも読んでて楽しかったところです。

 旅行における描写ロハスというか、とにかくリンシャオが(生身の人間ではないのに)現地の美味いものを底なしに食べる。

 もう一人のヒロインの方も食にはうるさくて、しかもカロリー消費が高いらしく、これまたよく食べる。

 主人公庶民的ながら、自炊の味にはこだわっているタイプで、そういう「気持ちよく食べる」シーンの多さもキャラクターの気持ちよさに一役買っているのでしょう。


 ただ、キャラクターを描く作者というのは二重人格的な性質があるんだと思います。

 それがよく表れていると感じるのは、敵役として描かれる連続殺人鬼描写


 これが自分性癖を満たすために無闇な情熱を燃やす連続快楽殺人鬼という立ち位置ながら、やたらと言動が清々しい上、妙に善人ぶってるという……。つまり「根っこはねじ曲がっているのに間違った方向にまっすぐ」と言えるキャラ立ちで、これはこれで好きな人はいるはずです。

 『ジョジョの奇妙な冒険』の吉良吉影が、異様に几帳面計画的で、でも考えてることは小市民、というああいう悪役に親近感が湧く……、そんな好みに通じるかもしれませんね。


 まぁこ連続快楽殺人鬼さん、かなりの信憑性で作者の趣味が反映されていると言ってよさそうで、非常に活き活きと楽しそうに描かれています。

 先ほど、いかに主人公ヒロインの心根がまっすぐしているか……ということを強調しましたが、そんな宝石のように高潔な、傷なんか絶対付けたくないヒロインほど傷付けてみたい、と感じるのもまた人情(そうか?)というもの。

 実際、連続殺人鬼の魔の手によってなかなかリョナリョナしい目に遭わされてまして(グロ方面ではなく格闘ゲーム的なダメージですけど)、この作品にとっては、まぁここが一種の抜きどころなのだろうなあ……と沁みるような気持ちで読んだことも印象深い小説でした。


 いや、面白かったです。上述したように、気持ちのいいキャラクターたちがやっぱり好きですね。


 あと付け加えるなら……『S-Fマガジン』の書評では「魔法陣の設定を通して民族間文化差も描かれている」と言及されていまして。

 そのテーマが「食文化」の描写の多彩さとしても現れている、というのが食べ物好きとしては満足のいくところでした。カフェオレボウルの話とかがサラっと出てくるのが、いいですね。


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科学(ホログラム)が魔法(サークル)を技術(プログラム)にした

Circle Hologramサークルホログラム)--それは多層レイヤー構造で描かれたDTP魔法陣と立体映像技術進歩により生まれた最先端テクノロジー

光の模様によって空間エネルギーを絡めとり、あらゆる現象を引き起こす、この科学魔法陣は、世界に未知の可能性と新たな火種を生んだ。

遺産魔法陣(エンシェント・サークル)--遺跡や文献から発見される太古の魔法陣。いまだ現代魔法陣の百年先を行くといわれる、それらの争奪戦が始まったのだ。


過去魔法が、未来科学と、歪(いびつ)に連なった世界で、ペンタブ魔法陣を描く“ホログラマー”レイルレッドヘミングウェイが、彼の魔法陣を身にまとい戦う“サーキュリスト”の映像人間シャオの冒険が始まる!

スーパーダッシュ文庫
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Sun 2013.09/22

From Shadows (Rooster Teeth's Rwby Black Trailer)

| From Shadows (Rooster Teeth's Rwby Black Trailer) を含むブックマーク

 米国テキサスにあるプロダクションRooster Teeth」制作の3DCGアニメーション「RWBY」ですが、まぁもちろん説明するまでもなく御存知ですよね。


 映像もいいし、本編エピソードストーリーキャラクターもいいんですが、個人的には楽曲もかなり気に入っています。


D


 特に一番琴線に触れるのが「"Black" Trailer」のテーマソング「From Shadows」で、全体的に中二病っぽい世界観の中でも際立って歌詞の内容が中二っぽい。

 真剣に「殺しにきてる」歌詞だなあというのが翻訳してみると伝わってくるので、個人的に付けた歌詞対訳(他の翻訳者の訳も下敷きにしてます)を載せてみます。


From shadows

We'll descend upon the world

Take back what you stole

From shadows

We'll reclaim our destiny

Set our future free

And we'll rise

And we'll rise


Above the darkness and the shame

Above the torture and the pain

Above the ridicule and hate

Above the binding of our fate


Born with no life... into subjugation

Treated like a worthless animal

Stripped of all rights

Just a lesser being

Crushed by cruel ruthless human rule


When it started

All we wanted was a chance to live our lives

Now in darkness

Taking everything we want and we will rise

We'll rise

We'll rise

影の中から

世界へ襲いゆく

お前たちの奪ったものを取り戻す

影の中から

運命を本来の姿へと変えにゆく

私たちの未来解放する

そして上昇(蜂起)する

そして上昇する


暗闇や恥辱よりも

苦悶や痛みよりも

愚弄や憎しみよりも

宿命で縛られた境遇よりも


生きていないのも同然に生まれ……服従させられた

価値のない動物めいた扱い

すべての権利剥奪された

まさにちっぽけな存在

残酷無慈悲人間的なルールに圧殺されたもの


それが始まったとき

ただ私たちは人生を生きるチャンスを欲した

今は闇の中で

望むものすべてを以って上昇してゆくのだ

上昇する

上昇する

RWBY Soundtrack/From Shadows - RWBY Wiki

 この「望むものすべてを以って上昇してゆく」の部分に込められた殺意がたまりません。


 激しい迫害意識を持ったマイノリティを歌っているような曲ですが、アメリカにおけるリアル中二病というか、スクールカーストの下位にある(下位にあった)いじめられっ子にとっては、きっちり励ます歌として聴くことのできる曲なのかもしれません。


 RWBY楽曲iTunesAmazonでもダウンロードできるのですが、この曲は最近の中で、一番ヘビーローテして聴いています。

20日夜の『ガッチャマン クラウズ』Ustの保存先

| 20日夜の『ガッチャマン クラウズ』Ustの保存先を含むブックマーク

 今晩のアニメUstの保存先です。

 今回はゲストにろきさん(Twitter)を加えて、『ガッチャマン クラウズ』(第10話放送時点)の話をじっくりしていました。

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過去放送

9月19日夜のマンガUstの保存先

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泉信行と、岩下朋世さんとで配信しているマンガUstの保存先です。

 今回は、初ゲスト渡辺零(Twitter)さんをお招きして、『進撃の巨人』や『UQ HOLDER!!』の話をしていました。

 『進撃の巨人』は、総合格闘技ファンとしての視点の話や、『マブラヴオルタネイティヴ』とか『パシフィック・リム』と比較した話題などがありました。


 ただ、録画が不調で、途中から切れている部分が(合わせて一時間ほど)あります。申し訳ありません。


過去の配信

Fri 2013.09/20

【告知】20日(今日)21時から『ガッチャマン クラウズ』他今期アニメUst

【告知】20日(今日)21時から『ガッチャマン クラウズ』他今期アニメUstを含むブックマーク

 直前の告知なのですが、月一ペース配信のアニメUst、今夜21時頃から配信いたします。


 今回は、ゲストのろきさんを加えて『ガッチャマン クラウズ』の話の他、今期アニメや『RWBY』について話していると思います。


過去の放送

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Wed 2013.09/18

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/izumino/20130918

Sat 2013.09/07

「女たちの映画」としても観た『風立ちぬ』

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 ブロガー伊藤悠さん(漫画家伊藤悠さんとは別人)と先日配信した『風立ちぬ』感想Ustから、「女たちの映画」として語った部分の書き起こしです。

 全体では三時間ほど喋った内容のうち30分くらいを抜き出しています。


 『風立ちぬ』という映画は「男(男の子)の映画」として解釈されやすくて、「女たちの映画」という視点は見過ごされがちだと思うんですが、むしろそういう風にも半分観ていた、という話をしています。


伊藤悠さんとの『風立ちぬ』感想Ustream - ピアノ・ファイア

  • この録画の最初から30分ほどに該当

町山智浩さんの感想の書き起こしがまとめられていて、それが男の話……ホントに男と男の子映画として『風立ちぬ』を読んで、もの凄く明快に、いい映画だって風に語ってて。まぁぼくは、これに付け加えることは特にないなあ、くらい納得だったんですけど。町山さんもめっちゃ楽しそうに語ってましたね。それで、ここまで男の子の話をまとめられると、あとないのは女の視点の話だなあという風に思ってまして」

「そこですねー、それはね、ぼくまだうまくまとまってない……というか、よく解ってないんですが。なんか、納得する見方や解釈は、まだない」

「ぼくが劇場で観たとき、ちょうど隣に座ってたのが若い女の人だったんですけど、まぁラストシーンでグズグズ泣いてて、泣いて席を立ってはった感じで。まぁ、泣ける映画らしい。ただ、その後、お友達の女性の人が、すごい苛々すると。男の都合……ものすごく男の欲望で作られているように見えたんでしょうね。まぁ女は犠牲者である、という風に観れんこともないし。そういう割り切れない感じに対して、ぼくは、ちょうど同じタイミングでTwitterで言ってたのが、これは男性による感想について言ったことなんですけど、『風立ちぬ』への批判を聞くと、さだまさしの“関白宣言”を聞いて男尊女卑ソングだと怒り出す人を思い出すというのと、その言い訳ソングである“関白失脚”を聞かないと納得しない人みたいじゃないかなあと。さだまさしの“関白宣言”ってまぁ、男尊女卑に聞こえなくもないけど、もの凄く、女を愛してるっていうラブソングですよ。で実際、そこで歌われていることが全て実現するとはさだまさしも信じてないわけで、というのを“関白失脚”っていうヤボな曲でバラすという構図になっているわけですけど。でもまぁ、それを女の視点で捉え直したらどうなのかなあっていう。もうちょっと、そういう話を、相手を変えてしたいっていう気持ちはありますけどね」

「そうなんですよね、あれねー、なんかうまく……うまくまだね……」

「まぁちょっと、いかに女の物語なのかってことを整理しましょう」

「うんうん」


「ぼくはまだ、堀辰雄の『風立ちぬ』と『菜穂子』はKindle無料だったんでダウンロードだけして、実はまだ読んでないんですけど、一応、冷泉彰彦さんが読者として、サナトリウム文学としての『菜穂子』の立ち位置というのを解説していて。あれはこう、当時の時代としては、女の自主性を描いてるんだっていう。(堀辰雄の)『風立ちぬ』のヒロインの方は、もうちょっと、男に対して従の立場にいるんですけど、『菜穂子』の主人公女性の方は、どちらかというと自分の生き死にのタイミングを自分で決めるタイプの人間として描かれているみたいなんですよね。つまり、自我がある」

「なるほどね? ふんふん」


 ですが、小説風立ちぬ』の節子が、「婚約者である私」に愛されつつ若くしてこの世を去る「純愛と薄幸」のキャラクター単純化されているのと比較すると、小説菜穂子』の主人公は全く違う複雑性と深み、そして「女性としての強さ」を与えられているのです。


〔中略〕この「勝手に抜け出して中央本線新宿に帰ってくる」という菜穂子の行動で、堀辰雄新しい時代女性エネルギーであるとか、苦悩を背負う「個の輝き」の表現に成功しているように思うのです。


 宮崎氏は、映画クライマックスでこの「菜穂子療養所抜け出し」というエピソードを堂々と取り込んでいます。その毅然とした姿は「菜穂子」であって「節子」ではないのです。これがヒロインの名前の背景にある理由だと思います。そして、この映画のファンになった方々には、原作として堀辰雄作品に触れる際に『風立ちぬ』だけでなく、『菜穂子』を読まれることを強くお薦めします。

映画『風立ちぬ』のヒロインが「菜穂子」である理由 | 冷泉彰彦 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

「『菜穂子』っていうタイトルヒロインの名前に充てたっていうことはきっとそこに意味があるだろうと。まぁつまり、映画を見るかぎり、二郎は嫁さんの横でタバコを吸うし、自分の仕事と女のどっちが大事だっていうと、両方大事だって言って(苦笑)、嫁さんを仕事の巻き添えにしたりする、もの凄く身勝手な男に見えるんだけども、まぁ、でも、菜穂子の方もあれはかなり魔性の女ですよね」

「そう、それはね、そう思うんですよ、そうそう」

「全然、男の言いなりにはなっていない。で、たぶん原作の『菜穂子』の方で描かれているであろう、自分の生き死にを自分で決めるっていう……まぁ、時代の限界があるから、そりゃウーマンリブにはなりようがないし、女が絵画をやっても評価してもらえない時代だったろうし、そこで発揮できるのは、せいぜい自分で生き死にのタイミングを決めて、男を一時的に自分のもとに縛り付けるくらいのことしかできなかったのかもしれませんけど。でも全然、女の話だと、思うんですよね」


「うん、あのー、あれさ、イチャイチャさ、キスするじゃないですか」

「えぇ」

「あれ結核ってさ、死病だからさ。めっちゃ感染するから、あのー、死んじゃうよ? って感じなんですけど。あれ、タバコタバコだけどさ、結核の人とキスもするしさ、なんかね、ちょいとエッチなこともしましょうかとかね。あれはなんか、二郎先生はタガが外れてるな、っていうとこで。そういうところはあるし、その読みもあると思うんですよね。えー? みたいな。結核感染したらかなり死んじゃいますし。実際嫁さんは死んじゃいますけど」

「当時の医学レベルがどうかわかんないんですよね。ちなみに時代によっては、タバコ結核に効くって信じられていた時代もあったそうですけど(笑)

「……(笑)

「さすがにそこまで旧時代的じゃないのかな、あの時代は(笑)

「それはともかく。ねぇ、二郎先生は死ぬようなことをガシガシやっていくんで」

「あれはだから、二郎先生がよっぽどタガが外れてるっていう、完全な主人公物語として解釈するのとは別に……。あそこはもう、菜穂子魔性ですよね。たぶん、ああいう風に完全に誘導してるんですよ。これも誰かが言ってるのを読んだんですけど……、貴方に会ったらすぐ帰るつもりだった、って駅で言うじゃないですか」

はいはいはい

「その後に、ずっと一緒にいよう、ここで暮らそう、って告白するじゃないですか。で、それを観た女の人のつぶやきで、あれは言わせてるね、っていう」

「うんうん」

「明らかに誘導させてる」

「そう、そう、あの流れって、ああ言われたらこうなるっていうね、詰将棋ですよね。三手詰めみたいな」

「ははは(笑)

「すぐ帰るつもりだった、って、えっ!? そ、そこにコマを置かれたら、ここにいてくれ……としか返せないよね」

菜穂子二郎先生コロコロ転がされてて(笑)


「だから結構、そう、そういう読み方はできる気がしますね。その……なんというか相身互いというか、どっちもどっちじゃないですけど。刹那主義のふたりが出会ったみたいな感じで」

「宮さんはどのキャラクターにも感情移入して入れ込みながら作るはずだから……。『ポニョ』作るときに、この娘は怖いねーって言いながら津波を起こさせてたみたいなもんで、菜穂子に関しても、この娘は怖いなあって思う部分を加えて描いてたんじゃないかなあ」

「あのさ、軽井沢のときのやり取りなんですけど……」

はい

「あの謎のドイツ人が、君の仕事はそのうちなくなるわー、みたいなことを言って、二郎先生仕事ギアチェンをするんですけど、そのとき恋愛的にもギアチェンをしてる気がするんですよ。あのドイツ人との話がなかったら、求婚まではしてないかもなーって気がするんですよね」

「あぁ、はあはあ。全っ然説明されないですけど、あそこの突然の、僕たち結婚します、は確かにそうですよね」

「うん、なんかね、じゃあ治るまで待ちましょうか、って言う気がするんですよ、ドイツ人の話がなければ。でも、いや君らなんかずっとこの暮らしが続くと思ってるかもしれないけど一瞬の夏の日のようなものだよ、とドイツ人に言われて。言われてみればそうである、こんないい暮らしができるのも、これからガチアメリカあたりに喧嘩を売ったら、こんな仕事、こんな暮らし、なにもかもなくなってしまうかもしれない」

「そうか、まだ戦争してないタイミングだから、父親にしてみればこの二人はそんなに愛し合ってんのかーって、二人の愛の強さで決めたんだなって思うんでしょうけど。多くの観客もそう受け取ると思うんですけど。確かにいとゆうさんの言い方だと、危機感婚約したことになりますね」

「だからそれまでさ、色んな可愛い女の子を見てるからね。飛行機半分、女の子半分で見てて、あの子も可愛い、この子も可愛いと思ってたわけですね二郎先生は」

菜穂子の横にいた女とか」

「そうそう最初はさ、恩に着てくれた人とはいえ、お絹ちゃんの方が気になってたわけですよね。でも、あそこでもう一回会ってね、告白されて。その時に、いやーずっと色々目移りしている時間もねえよ、と言われるわけですよ。あっ、そう言われればそうかもしれない、と」

「ふんふん」

「で、菜穂子ちゃん自身、可愛い女の子だけど、やっぱさ、結核にかかってて、キスとかできないと思うんですよね本来。伝染るから。空気感染するような病気だから。接触したらモロに移ると思うんだけど。だから、あれはいいところのお嬢さんではあるけど、お嫁さん候補としては結構……かなり、なんていうの、なかなかその、お見合い写真には載らないような人だと思うんですよ。いやいやこの人結核なんでしょ、ちょっと無理でしょってふうにさ、なる。本来。だからあのお父さん引いてるじゃん」

(笑)引いてますよね」

「ねえ? え、ウチの娘を!? いや言ってくれるのは嬉しいけど、正味どうよ、と思ってるわけですよお父さんは。イヤイヤイヤ結核かかってるし治ってないんですよ。言ってくれるのは嬉しいけど正味ないでしょ、と思ってるわけですよ。君エリートだろ? 三菱に行ってる。で、出身も、地元地主の息子でしょ。次男とはいえさ」

「あー、お父さんには訳わからんわけですけど、二郎菜穂子の二人は同じものを見ているわけですね」

「なんかその、違うものを見てるけど、方向性が似てるんだと思うんですよ。片方は自分の病気なわけです。これで死んじゃうんじゃないか、っていうね。で、夫の方は、そういうその、国や工業力みたいなレベルでこの暮らしはなくなるんじゃないかと思ってる。あと10年だ、と思ってる。その刹那的限界を持ってる二人が出会って、じゃあ、なんか相身互いで、ここは行くかーと。そういう関係ってことなのかなあ?」

「そこは非常にロマンチックですよね。理屈として本人たちが説明できる事柄じゃないでしょうけど、行く先短いと思ってる菜穂子が、自分が死ぬまでに一緒にいる男に選んだのが、当時のまだ戦争に踏み込んでいない日本っていう国の中で、唯一こう、あのドイツ人を通じて危機感──実は先があんまりない、っていう緊張感を持った男を選んだっていうのはちょっとロマンチックですよね」

「なるほどね。なるほど」

「たぶん本人たちが言葉にして説明することじゃないと思うんですけど。でも多分そこで、一緒にいていい、付き合って、横にいていい、っていう風に感じたっていうのはありそうですよね」

「そういう関係なのかもね。どこまで互いになんかそういう話とかしてんのかよくわかんないんだけど」

「それもそうだな。そもそもあの二人がした会話を俺たち聞いてないからな(苦笑)」

「そうなんですよ、どういう話してんのかなっていうのはあって。でも少なくとも、女の子の方の、病気の手の内は結構わかってるわけじゃん。で、二郎先生の方はどういう話したのかな、っていうのはあるんですよね」

「(Ustのソーシャルストリームで)みやもさんが書いてくれてるのが、二郎が煙草吸うからちょっと離れるよ、と言ったら「ダメ」と言ったのが菜穂子ですからね

「そう、ああ、なるほどね、そこをそう読むわけか」

「ちゃんとこう、引き止めて誘導してるのは、コントロールしてるのはむしろ菜穂子の方だっていう」

「なるほどね。そうか、そう読むと状況を動かしてるのは菜穂子なわけか」

わがまま。結構、菜穂子わがままなわけですよ。あっ今、わがままを悪い意味で使ったわけじゃなくて、つまり、自我がある。ちゃんと自主性のあるキャラとして、尊重されて描かれてるのが菜穂子だと思うんですよね」

「なるほどそういう読みもアリかあ。ふんふん。あの、軽井沢でさ、謎のドイツ人がさ、あの後さ、応援するじゃないですか」

「あ、婚約を祝福しますよね」

「そう、あれは……」

「あー! それも二人の動機がドイツ人にはわかってるからか。お前ら会話もせずにわかり合ってイチャイチャしてるなって感じだなあ(笑)

「そうだし、自分の言ったことを信じたからですね、二郎が。ちょっとコナを振ったくらいのわけです、最初に話した時のドイツ人的には。言ってる意味わかるかねー? みたいな。ユンカース博士のファンだっていうあたりから、ちょっとコナを振るくらいだったのに、二郎がスパっと反応していきなりギアチェンをするわけですよ」

日本インテリもなかなか賢いのがいるなー、くらいの感じなんでしょうね」

「そうそう、過敏に反応しやがってと。なので、その後は全力で応援しにくる。いや素晴らしい結婚だとか言うわけですよ。イヤイヤイヤ(笑)、片方、結核で、ねえ? 大丈夫かー? っていう感じなんですけど、ドイツ人的には、いやもう(拍手)素晴らしい素晴らしい、と。で、お父さんドン引きみたいなさ」

「お父さんだけわかってないから(笑)。……あー、いやあ細かいですねえ。細っかい演出してますねえ。腹芸だなあ」

「自分の言ったことを信じてくれたから。あのドイツ人の演出は面白いですねえ」

「宮さん、いつも何の腹芸やってんだっていう感じの」

「やはり宮崎駿先生の演出力というのは、恐ろしい、緻密さがあると思いますね」

「日常的にそんな演出やってんじゃないかと思いますけどね(笑)

「うん。なんか、いよいよ老人の繰り言か? みたいなことを言う向きも、見たりすることもあるんですけど、『ポニョ』のときもそんなこと言われていたし、きっと『ラピュタ』のときも言われてたんだろうなと。まぁどうなのかなー? でも、んー基本なんか、緻密なことをやってると思って観てしまった方が。俺にはまだわからないが何か技を使ってるんじゃないか、みたいな方が面白いような気がしますね。でもそうか、なるほどなあ。菜穂子ちゃんがあの二人の関係の、結構イニシアティブを持っている。というかイニシアティブを取ろうとしているということなのかな」


「で、女たちの話をしたいんですけど」

「ふんふん」

「あのー、どっちかというと男の犠牲者として描かれているのが、妹の加代の方で。で、妹は社会的立場の方から、女性的実現をしようとしてる人なんですよね。医者になろうとするし。まぁ、女性医師というと、幕末シーボルトイネをぼくは連想しますけど。働く女性になろうとしているわけですよ、あの時代において。実際その夢を叶えてるんだけど。でも、流石にこう、男尊女卑的な社会の枠組みたいなものには逆らいきれないみたいなところがあって。まあ兄の決めたことには逆らえないし。せいぜい、私は怒っています、と言うことくらいしかできないっていう」

「まあ、言っても、弟だとしても二郎を止められるもんじゃないでしょう?」

「あ、そこは止められるかどうかの話じゃなくて要するに……、女の味方に立つかどうかっていう話ですね」

 妹の加代は、幼少期で描かれているように、「兄と自分の区別がつかないくらい、兄と同一化していて、いつも同じことをして、同じ遊びをしていたい」と考えることが自然というタイプの子だった。


 精神的に兄と同一化していた妹は、「自分にとって興味のない飛行機に兄が夢中になっていく」に従って、兄と自分は異なる人間なのだと自覚していったのだろう。

 しかし幼少期に兄と同一化していた体験から、加代はおそらく性差というものを不自然に感じながら育ったのかもしれない。


 成長して家族敬語を使わなくなった二郎に対して、敬語と対等語を混ぜて話しているのも、「敬語で対話していた幼い頃の兄に戻ってほしい」という苛立ちと、「やはり今の二郎に合わせて自分も同じ喋り方をしたい」という同一化願望の双方に揺れている様子も感じさせる(※このあたりは妄想)。


 貧しい時代だから女が労働すること自体は珍しくなかったろうが、堀越実家はそういう環境でもないだろうし、嫁入りもせず自立して働く女性になったのも、働く兄に張り合って、というか、男と女の違いを受け入れがたい考えをしているようにも映る。

 つまり加代には、戦中の時代において男女同権思想の萌芽が見える。一方、それとは対照的なのが黒川夫人の存在だ。


「あそこで加代ちゃんは、奥さんの立場に自分の身を重ねている。完全に、奥さんの味方になってるじゃないですか、あそこで。だから、そんなの酷い、あんまりだ、と言って泣くわけですよね。そういう意味で、加代ちゃんは奥さんが男の犠牲者だと思っている。すごくいい人なのに、って」

「さっきいずみのさんが言っていた、菜穂子が三手詰めで結婚式までの展開を持っていく、っていう見方からすると、菜穂子を山に戻さないで、離れで生活させている菜穂子さんが可哀想って言う妹さんには、その三手詰めが見えてないってことでしょう?」

「そうですね」

「お兄ちゃんのエゴで連れてきてるんだと思ってる」

「で、妹ともの凄く対照的なのが黒川夫人の方で。黒川夫人も凄く面白いキャラクターなんですよね。宮崎先生キャラクターの引き出しの中でいうと、もう……必殺カードみたいなキャラクターじゃないですか」

「そんな気はしますね、その……」

「ま、クシャナからエボシ御前に繋がっていく類型のキャラクターがそこに置かれてるんですよね」

「なるほど? あれはクシャナ=エボシ御前ラインだっていうこと?」

「ええ。で、特にエボシ御前がどういう人間だったかっていうと、まぁ女の立場で、男性社会内面化している存在なわけですよね」

「ふんふん」

「女ではあるけど、男社会を肯定しているキャラなわけですよ。肯定っていうと語弊があるかな

「我が物としているということだね」

「その男性社会の枠組の中で、女性自己実現てのはあるものだと思ってるんですよね。女はタタラを踏んで働けばいいし、自己実現の方向が、男性社会継承しつつ、そこに女の役割を作り出す方向で動いているわけですよ、あの類型のキャラクターっていうのは。だから……」

「なるほどね、なるほど! だから、そうか、黒川の奥さんはあの展開で、菜穂子ちゃんのロジックに乗っかってるんだ。そうか、なるほど」

「……乗っかってはいますけど、多少価値観は違いますよね。菜穂子は本当に、女のわがまま、男の都合なんて知ったことかっていうくらい魔性なんですけど。黒川夫人は、女のわがままを男性社会の中で実現する方法を知ってるんですよね。だから……」

「そうか、なるほどね。だからあれは三手詰めじゃなくて実は五手詰めで、最後の二手は黒川の奥さんが指してるんだ」

「ふふふふふ(笑)

「そうだな、きっと。ふんふんふん」

「男社会における女の幸せっていうのを、黒川夫人は語ってるんですよ。もの凄いキップがよくて、もう姐御って感じの人なんですけど、ちゃんと女は男を立てるものであるとか、そういうことを弁えてる。その中で、女の幸せは作り出せると思ってるんですね」

「あのさ、なんていいお嬢さんでしょう、って言って、早速着替えさせて、とか言って、大丈夫よあの人はいつもああなの、とか言うじゃないですか? で、この展開に持ち込んでしまえば、あとの二手は自分が演出できるっていうことですね、黒川の奥さんが。その読みで言うと。あそこに転がり込んで来るまでは菜穂子が三手詰めをして」

菜穂子のやりたいことを、完全には理解してないかもしれませんけど、お膳立てることはもう完全に計算できてるでしょうね」

「うんうん。そうか、そうだよね。あとは女の支度があります、とか言って席を立ってしまえば、後は、私がセッティングする線に旦那はもうついてくるしかあるまい、と」

「うん。だから昭和っていう時代の価値観において、女性的な自主性っていうものを発揮しようとした菜穂子ってのがまず中心にいて。で、その女性の味方に立つんだけども、何もしてあげられなくて泣いちゃう妹の加代と、全力で応援して良しとする黒川夫人がいるんですよ。この三つが映画の中に内在している」

「そうか……だから黒川家長ではあるけど、あの家のマネージメントの部分では、奥さんにああ動かれたら、実はそれに乗っかるしかないんだ」

「確かに最初は黒川さんも戸惑ってましたからね(苦笑)。ええっ!? みたいな」

「それをその、じゃあ女には女の支度があると言われちゃうと、待てとは言えないんだなあ」

「すぱん! って言われてしまうとね」

「だから後は、障子を開けて出てくるまで、お前待ってろ、って言われて、アッハイ、ってことになるわけだ。そうかー、黒川の奥さんは、自分の綺麗なところだけを見てほしかったのね、って最後にまとめますけど、あれはもう全然わかっちゃってるからあれを言うわけですね」

「それこそ、スポンサーを騙くらかして自分の夢を叶える設計者の仕事にも近いですけど、こー男をうまいこと乗せながら自分のやりたいことをやるっていうすべを完全に身に付けている人ですよね」

「その読みはなんか面白いなあ。なるほど」

「だから、女たちの映画だと思うんですよ。この三人を描き分けてるっていうところに注目した話ってあまり見掛けないなー、と思ってて。女の人の意見を聞きたいなって思うんですけどね」


「ふんふん。なるほど、まぁ、どうかな、その、こちとら、男子ぃーなんで」

男子なんで(笑)

適当なこと言ってるかもしれないですけど。でも面白いですね。なるほど」

「と、いうのが……。なんかね、でもその描き方が好きなんですよね」

黒川の奥さんね、格好良いですからね」

「それがさっき言ってたのが、さだまさし関白宣言には歌われていないんだけども、こう、女の姿が見えてくるみたいなもんで」

「なるほどね、だからそこが(今の『風立ちぬ批評の)片手落ちじゃないかということですね」

想像すれば想像できるじゃないですか。関白宣言の、あれだけ愛されている奥さんってどんな人間なんだろうっていうのは。旦那にあそこまで愛させた女だよ? というのはね。と、思うんですよね」


「いやあ、菜穂子ちゃん、結構あれね、あれもあれで緻密な女の子ですからね」

(笑)賢いですよね」

「再会した王子様に、いやお絹ちゃんもうお嫁に行ってまして、みたいな状況説明を素早くするあたりのとかね」*1

(笑)

「そうそうそう、必要な情報だよねそこ、みたいな」

「こう、すかさず今付き合ってる人いないんですけどアピールをできるタイプ」

「そう、付き合ってる人いないんですアピールと、あの娘はもらわれて今幸せになっとりますっていう説明をするというですね。だからちゃんとわかってるわけですよね、お絹ちゃんの方を見てたっしょ、みたいなさ、あの地震の時も」

「さとい」

「でもね、ちゃんとこう、二郎先生も、最初から君のことが好きだった、みたいにこう、あそこでちゃんと言えるというですね。うんうん、みたいな」

「ははは(笑)

「瞬間的に人間的な力を発揮したみたいな。あれたぶんだから15分くらいしか保たないんだけど(笑)

「で、(菜穂子も)ようし、ここは触れないでおいてあげるか、っていうね」

「そうそう」

「言わしておいてやるかーみたいな」

「そうそう、っていうかまあ、よしよし、それ言わしたわー、っていうことでしょ」

(笑)こっちの勝ちっていう話ですか。あ、『ラピュタ』の親方のオカミさん? も黒川夫人に入ってるってみやもさんが言ってますね。誰がそのシャツ縫うんだい、って」

「あれは、大喧嘩のオチを持っていく系の演出になってますね。また野郎どもがくだらない喧嘩をしやがって、みたいな感じにまとめる人のはずですから」

「ああ、確かにキップがいいですね。あんまり広げると魔女宅の奥さんもそうだろうってなりますけど(笑)

「野郎の、そういうね、いにしえの時代にいたからといって、別に、じゃあ女子が肩幅を狭くして生きていたというわけでもあるまい、っていうことですかね」


「まぁそこらへんはホント、『ラピュタ』作ってて、ムスカにもちゃんと感情移入できるように描いちゃう、宮さんならではの、もーどのキャラにも感情移入しまくりだなあ、っていうのがよく出てると思うんですけどね。アンタどのキャラも好きだろうっていう」

「うんうん。ほんとねぇ、ムスカも愛されてますよ。めっちゃこう、どういう生まれでどういう育ちをしてきたかの設定が緻密にあるというか」

黒川夫人の話ができたのでぼくは結構満足かな」

(笑)そうですね、黒川の、あの奥さんがそういう読み方をするというのは、ぼくも、なるほどーと思いました」

みやもさんは最初、(二郎や他の話題よりも)妹の話ばっかりしてて。(ぼくも)妹もすごい好きですけど。妹さんは、さっき言ってた、その菜穂子を中心にした対比の部分ですかね。あのー、女性的な自立を目指そうとしてるんだけども、社会的な枠組にはまだ抗い切れてないし、その中で女の幸せっていうのもいまいち掴み切れてないキャラクターですね。まぁだからこそ、大事だと言えますけど。んだし、ちゃんとあそこで菜穂子のために泣く人っていうのは必要ですしね」

「ふんふん」

「みんながみんな、黒川夫人みたいに、菜穂子笑顔で送り出してもしゃーないな、それはそれで、と思うんで。それこそ、大事な(『風立ちぬ』のコンセプトである)矛盾の部分が、残らないですしね。黒川夫人の保守的な考え方を全肯定すればいいわけじゃなくて、そんなのあんまりだ、別の生き方があるはずだ、って否定する妹がいるわけだから。だからすごいバランスが取れてるんですよ『風立ちぬ』って」


「いやホントね、その、人物の配置がすごく緻密で、その……」

「あらゆる、エクスキューズに応えるだけの情報は出てるんだと思うんだけど、なぁ」

「浮いてるキャラはいないですよね」

「ぼく、観終わった後の感想も、いわゆるカタルシスがないし、結論もないから、スカッ! とはしないけども、観た後の気分はすごくよかったんですよね。いいバランスの映画だなあと。すごい、緩急のない感じで進むけど、そういうしんみりする映画も、たまに観るにはいいもんだー、って思いながら劇場を出ていったら、わりとみんな、感想で喧々囂々言い合ってて(笑)。イヤそんなに粗のある映画だったかなー? みたいなギャップがあったんですけど」

「本当に緻密ですね。そのー、なんか主人公が体を動かして何かを達成するっていう中間目標があまりないので、そこが弱点と言えば弱点なんでしょうけどね。これを乗り越えた、みたいな、そういうのが三幕構成的に、ここ、ここ、ここ、みたいな風にはなってない。とは思いますね」


 ここでは『風立ちぬ』や、宮崎駿監督創作肯定的に語っていましたが、以上をひっくるめた上で「それはどうか」という感じ方もあろうと思います。

 でもまぁ、こういう見方も無視できないんじゃないか、面白いんじゃないかということですね。


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関連

 「ヒロイン視点で見た宮崎アニメ」という話では、『カリオストロの城』について語ったエントリもありました。

 こちらは女性からの評判もよろしかったお話です。

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*1:この菜穂子の計算高さは岡田斗司夫氏も語っている。→ http://amzn.to/17ffljy

ヤンヤン 2015/10/13 12:49 菜穂子の計算高さは私も感じましたが、監督的にはそうした意図はあるんでしょうか。宮崎駿さんはラピュタやポニョを見ると純心さに惹かれるように思えるので計算高いのは避けそうな気もします。

izuminoizumino 2015/10/13 13:56 ヤンさん、はじめまして。宮崎監督の『あれから4年…クラリス回想』という本も読まれてはどうでしょうか。大人になった(つまり純粋ではいられなくなったと監督も認めている)クラリスについて語るくだりで、思慮深い女性も好みだというのはわかりますよ。それと、やはり大人の女性である『紅の豚』のジーナも監督が持つ「女性への理想」がすごく要求されたと出演者が語っていた覚えがあります

ヤンヤン 2015/11/13 00:03 ひとつお聞きしたいことがあります。数年前にオフ会でやられていたという十二時間程ぶっ続けで行ったラジオがあるとでこぽんさんが話されているのを聞いて興味を持ったのですが、それは今もどこかにデータが残っていて聴けるのでしょうか。

Fri 2013.09/06

ストーリー漫画の表現を解く/岩下朋世『少女マンガの表現機構―ひらかれたマンガ表現史と「手塚治虫」』

| ストーリー漫画の表現を解く/岩下朋世『少女マンガの表現機構―ひらかれたマンガ表現史と「手塚治虫」』を含むブックマーク

 二ヶ月前に出た本ですが、漫画研究者岩下朋世さんによる初の単著作を紹介します。

 そのタイトル少女マンガ表現機構―ひらかれたマンガ表現史と「手塚治虫」』。以下に詳しいレビューもあります。


 著者の博士論文を元に構成しているだけあって、学術書寄りのアカデミックな書かれ方をしています。

 そこで、初めて読む人は少し読み方に気を付けた方がいいかもしれません。


 序章・一章は漫画史(少女漫画史)と漫画言説史(主に手塚治虫少女漫画をめぐる言説史)を詳細に紐解くことに紙幅が割かれ、「漫画評論」に関心の薄い人にはちょっと退屈かもしれません。

 漫画研究をやろうとする人には、以上こそが必読なのですが、「漫画表現論」としては二章目以降に注目するといいでしょう。


 そこでは伊藤剛の「キャラ/キャラクター」論大塚英志の「アトムの命題」論継承しつつ、あるいは批判的に乗り越えつつ、キャラクター漫画の絵だからこそ漫画で描ける内面というものはあるのだ」という著者独自のロジックが展開されていきます。


 二章以降の表現論が射程範囲としているのは少女漫画に留まらず、日本国内でストーリー漫画と呼ばれてきた漫画スタイルを対象にしています。

 この「ストーリー漫画」というのは、つまるところ「現代の読者が漫画、と言われてまず思い浮かべる漫画そのもの」なのですが……。


 その表現システムを解こうとした本書は、『少女マンガの……』というよりもストーリー漫画表現機構と題するのが相応しいように思えます。

 元々、博論に付けられていた題が手塚治虫少女マンガ作品における表現機構だったそうですが、「手塚治虫少女マンガから少女マンガ」へと幅が広がったものの、本来的には「ストーリー漫画」まで一般化した考察であるということですね。


 反面、序章と一章の内容はまさに「ひらかれた少女マンガ史と手塚治虫史」と言える内容であり、本書はストーリー漫画表現機構「ひらかれた少女マンガ史」「ひらかれた手塚治虫史」の三軸で組み上げられた本だと言えるのではないでしょうか。


 やや値段がお高めの本ですので、お試しとしては『ユリイカ』の荒川弘特集号に掲載された『鋼の錬金術師』論を先に読んでみるのもよいでしょう。


ユリイカ2010年12月号 特集=荒川弘 『鋼の錬金術師』完結記念特集 (ユリイカ詩と批評)ユリイカ2010年12月号 特集=荒川弘 『鋼の錬金術師』完結記念特集 (ユリイカ詩と批評)
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 こちらも伊藤の「キャラ/キャラクター」論や大塚の「アトムの命題」論を踏まえた考察になっている点で、『少女マンガ表現機構』の縮図のような構成になっています。


 また、『少女マンガ表現機構』の文中でも触れられていますが、著者の関連文献として、ぼくのサークル同人誌に掲載された原稿があり、これはPDFWebフリー公開されています。併せて読むといいでしょう。


 ちなみに、『少女マンガ表現機構』や、その同人誌原稿でも引用されているぼくのWeb記事というのがこちらです。参考にどうぞ。


テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へテヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ
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 NTT出版から出た漫画論のシリーズとしては、サブタイトルの一致からも窺えるように、伊藤剛テヅカ・イズ・デッド─ひらかれたマンガ表現論へ』2005年)を正しく受け継ぐ一冊として意識されているようです。

 「漫画論」に入門しようとするなら、──「漫画史」論でも、漫画表現」論でも──必ず踏まえておくべき本、という意味では相応しい連なりに置かれている、と言えるのではないでしょうか。


少女マンガの表現機構―ひらかれたマンガ表現史と「手塚治虫」少女マンガの表現機構―ひらかれたマンガ表現史と「手塚治虫」
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Thu 2013.09/05

9月4日夜のマンガUstの保存先

| 9月4日夜のマンガUstの保存先を含むブックマーク

 泉信行と、岩下朋世さんとで配信しているマンガUstの保存先です。


 今回は『進撃の巨人』の他、漫画で描かれる男女差や、読者によるその受け止められ方の話を(金田淳子さんの話を呼び水に)していました。トーク時間はちょうど1時間くらいです。


 発端のツイートがこちら。




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