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Thu 2014.12/11

「小説は漫画と違って文字だけで想像させるから偉い」に別の言い方はないのか

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 小説漫画などと比べたとき、「文字だけで想像させるので想像しなくてもよい漫画よりも優れている」「想像力を鍛えられるから優れている」と言われることがよくあります。

 年配の「漫画を読まない」人に多い意見でしょうか。


 すると「読者に想像させる力」というキーワードに対して、漫画家島本和彦先生がこんな反論も返します。「想像力」で優劣を競ってもあまり意味はないと言えるでしょう。



 文章には視覚情報がない。ゆえに視覚を補う想像力を要する、というのが直観的に思いつく「小説の優れた点」なのでしょう。でもそれは、実は逆なのではないかと。

 「あらゆる想像を文字だけで考えさせるので言葉能力が鍛えられるから優れている」とみなした方が、小説の魅力の実態をよく表せるんじゃないでしょうか。


 実際、漫画や、(ライトノベルも含めていいですが)ビジュアル付きのメディアに触れた後に比べて、「文字だけの小説」を読み耽った後は「文字ベース思考が頭の中でスムーズになる」状態を感じることがあります。

 もちろん読みながらビジュアル想像もするのですが、それよりも、純粋な「文字だけの思考に耽っている」時間の方が濃くて長いのでしょう。


 つまり小説漫画比較論は、「漫画には絵があるが小説にはない」という不足によって生まれる「ないものねだり」から考えはじめる時点で歪みが生じています。

 絵は存在しないが、「存在しない絵を想像させるから偉い」というのはビジュアル(=視覚情報)は文字よりも偉い」という、ないものねだりの理論武装です。


 「存在しないもの」を想像させるのが偉い、というならそれは漫画でも同じことで、漫画も「描いていないものを想像させた方が偉い」と言い切っていいのですが、それは別に「ビジュアル想像」じゃなくてもいいわけです。人間は、目に見えないものや形のないものも想像する生き物なのですから

(一応補足ですが、もちろん「小説の方が偉い派」の言う「想像」っていうのはビジュアルにかぎらず、観念的な思考言葉による想像のことを暗に含めて言ってるのだろうとは理解できます。)


 だから、「ビジュアル想像する素晴らしさ」よりも「ビジュアルなど想像せずに言葉だけで考えることの素晴らしさ」に意を向けるべきかもしれません。


 「ビジュアル想像させることが優れている」という理屈のままだと、ともすれば、「アニメ漫画映画的なイメージ喚起させるための書き方」に特化したタイプの娯楽アクション小説ライトノベル手法こそが、実は「小説は偉い派」が掲げる理屈に適っている、という話になってしまうのですから

(無論、どちらが小説として優れているかは別として、「映画のようにイメージさせるための手法」が「小説的」かというと、あまりそうは呼びにくいのではないかと個人的には思っています。)

Sun 2014.10/05

【KADOKAWA祭り便乗】『おこぼれ姫と円卓の騎士』のここが面白い

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 KADOKAWA電子書籍が値下げ祭なんですが、いい機会なので「最近ハマってるけど周囲に読んでる人がいないよ」っていう小説宣伝でもしておこうと思います。

 好みが近い人は読んでみてくださいね。


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おこぼれ姫と円卓の騎士』のここが面白い

少女小説ビーズログ文庫の人気シリーズ

魔法戦争もない王国舞台ファンタジー

ヒロインお姫様だけは体に初代の王から受け継いだ13本の剣を埋め込んでいてそこだけ中二設定でそそられる

・全ての剣の能力はなかなか明かされなくて焦らされる


おこぼれ姫と円卓の騎士』のここが面白い

・基本は内政ものだが、政治的バランスで暗殺謀殺の血みどろの内乱が起こりかねない緊張状態で立ち回る

・1巻の敵は初代の王と同時代呪いアイテム

王位を継ぐために12人の「円卓の騎士」をスカウトしなければならない、というのがシリーズを通した目的で、13本ある剣は自分騎士に授与するための剣を合わせて13本という設定


おこぼれ姫と円卓の騎士』のここが面白い

ヒロイン自分がすごい美人だと自覚できてるいい性格

・兄達が優秀すぎるので謙虚だが頭が良く、王の資質というか「臣下たらし」の資質が超スゴイ

少女小説なのに数巻は恋愛要素がほぼない(それで人気シリーズなのが不思議

逆ハーレムっぽいが、騎士の忠誠やシスコン兄弟愛情が強いだけで全然恋愛にはいかない(というか臣下がたらしこまれることはあっても、ヒロインの方からは惚れる相手がいない)


おこぼれ姫と円卓の騎士』のここが面白い

お姫様のいい女っぷりを表す話として「自分騎士を凄いとか格好いいとか一度も褒めずに、できることしか命令しないわと言って剣術大会に優勝しろとか命令騎士が褒められるより嬉しいと喜ぶ」という超いい女描写がある。全編このペースでいい女すぎる

・ちなみにその騎士の寝室に深夜に忍び込んで話し相手になったりするが超美人なのに全然その気にならないし、あなた以外の男の部屋にいくわけないじゃないという互いの信頼っぷり

・でもこいつは自分が守らんといかん王だと思って騎士精神しか持ちあわせてなかった六歳歳上の騎士が、なんかこいつ髪の毛すげえ綺麗だなとか、3巻あたりから魅力を意識しはじめるあたりもたまらない


 というわけで少女小説好きな人にはおすすめです。

 これWeb発の(アルファポリス発行の)少女向けファンタジーだったら単なる内政チートに分類されそうなんですが、お姫様の頭いいから普通にミステリ調に読ませるところもあるんですよね。

 政治的駆け引きや、ヒロインの「美人としての心構え」なんかもしっかり説得力あって読み応えは結構あります。その上で読みやすくて、かなりするする既刊を読破しつつある最中です。



 この画像漫画版

 小説1巻ぶんをコミックス1冊にまとめてるので、ストーリーは簡略化されてますがあんまり不満のないコミカライズでした。絵はきれいで理想的イメージで楽しめます。


おこぼれ姫と円卓の騎士(1) (KCx(ARIA))おこぼれ姫と円卓の騎士(1) (KCx(ARIA))
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taidataida 2015/10/11 11:38 少女小説は殆んど読んだ事は無いのですが、いずみのさんがお勧めされていたので挑戦して一巻を読みました。レティとデュークの関係が男と女のそれにならず、王と騎士として描かれていたのが意外でした。男女の恋愛よりも男同士の友情の方が目立つのは少女小説としてはやはり珍しい事なのでしょうか。
レティはごろつきに襲われた際にデュークの好感度を上げる為に打算的な行動を取りましたが、それをわざわざデュークに説明するあたりいい性格をしていますね。レティは駆け引きが得意で何でもかんでも馬鹿正直に話したりはしませんし、あの場で打算があると明かしたのはデュークが自分を嫌わない自信があるからなのかなと感じました。

Fri 2014.05/23

解説・朝松健による「学園バイオレンスの系譜」

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S-Fマガジン 2014年 06月号 [雑誌]S-Fマガジン 2014年 06月号 [雑誌]

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 先月発売された『S-Fマガジン』誌上で、吉田隆一さんと泉の対談記事が掲載されています。

 これはお読みいただいた読者さんには承知済みだと思われますが、「ジュヴナイルSF特集」という記事の中で、主に「80年代頃の朝日ソノラマにおけるジュヴナイルSF」にテーマを絞った談話になっていました。


 実は3時間くらい語り合っていた分量(吉田さんの話を泉が聞いていたところが大きいですが)に対し、当然ながら紙幅の都合上でカットされた部分もたくさんありました。


 その中でも、特に、菊地秀行や夢枕獏に代表されるような「伝奇ヴァイオレンスSF」「学園バイオレンス」について語った内容は、ほんのちょっと混ぜ込むのが精一杯でした。

 そこで、ささやかな補足も兼ねて、泉が持参していた資料の紹介でもしておきたいと思います。


 それが、菊地秀行『魔人学園』文庫(1992年版)に寄稿されていた朝松健の「解説」です。


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 本人の読書体験と記憶に基づいた証言になっており、ある一面からの目撃談として読むことができるでしょう。


殺戮/梶原一騎

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 まず朝松健は『魔人学園』を解説するにあたり、学園バイオレンスの転換点として梶原一騎『夕やけ番長』を振り返ります。


 (ジュヴナイル小説ではなく、少年漫画から、というのも示唆的ですが)秋田書店の『冒険王』で1967〜1971年に連載されていたこの作品は、従来の学園マンガ*1の暴力が「単なる殴り合い」でしかなかったのに対し、タブーを破って「殺し合い」にまでエスカレートさせてしまった初の作品だとしています(実際に殺したかは別として、「殺意のある殺し合い」が描かれたということでしょう)。

 これは、後の梶原劇画にも継承されて拡大しつづけていく要素(朝松健は「因子」と呼びます)でもありました。


陵辱/平井和正

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平井 和正

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 次にタブーを破ったとされるのが、SF作家の平井和正。

 1969年の『SFマガジン』に発表した短編「悪徳学園」において、女教師が不良に輪姦されるシーンを描いた。

 しかも、ストーリーの進行上に必要な出来事として、その陵辱シーンを描いた。


 ここから菊地秀行への影響も関わってくるのですが、朝松健が本人に確認したという証言によると、「悪徳学園」の載った『SFマガジン』を読んだ当時に「これがアリなら、なんでもアリだ」と思った……と答えたそうです。


 なお、この解説では触れられていませんが、平井和正と縁深い作家として永井豪を挙げてもいいと思います。

 特に講談社から発表された『ガクエン退屈男』(1970年)には、次に触れる雁屋哲の仕事を予見させる要素もあったはずです。


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永井 豪

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  • 『週刊ぼくらマガジン』(講談社)にて1970年連載

組織/雁屋哲

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池上遼一 雁屋哲

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 平井和正に続いて、学園バイオレンスに更なる因子を加えた人物は、再び少年漫画の場から出現します。

 その人とは、『男組』の原作者である雁屋哲とされます。1974〜1979年に『週刊少年サンデー』で連載していた学園マンガが『男組』です。


 日本中から少年犯罪者がかき集められ、全国規模で「番長連合」が組織されるだけでなく、抗争の舞台は学園に留まらない。

 「私設軍団を持ち、警察機構を思うがままに操る“影の総理”」という巨悪が背後に存在し、その争いには政治的な思想に支えられた「大義名分」と「組織論」が持ち込まれている。

 さきほど『ガクエン退屈男』の話を挟んだのも、学生運動を下敷きにしていた『ガクエン退屈男』には、その「大義名分と組織論」の萌芽があったかもしれないからですね。


 元々、『週刊少年マガジン』の梶原劇画への対抗馬(例えば『愛と誠』が1973年からの連載)となるべく強化されたような「サンデー」の劇画路線ですが、そこで雁屋哲の『男組』こそは、「学生同士の殺し合いに大義名分と組織論を導入したエポックメイキング」だったと朝松健は位置付けています。


ソード・アンド・ソーサリー/菊地秀行

 さて、1987〜1988年にかけて講談社の『月刊ORE(オーレ)』に連載された『魔人学園』は、上述の三要素を全て取り込んだ上で、更なる「ひねり」を加えたとされます。

 それこそが「剣と妖術(ソード・アンド・ソーサリー)」ファンタジー要素であり、殺し合いに参加する学生たちは、青銅製のブロードソードを振り回し、密教・修験道・キリスト教などの秘術をごった煮に操り、異世界からは「転校生」が召喚される。


 要は、今でこそ当たり前となった「学園ファンタジーバトルもの」も、『魔人学園』が初めて我々の前に提示したのだ……というテイで朝松健は解説しているわけですが、個人の記憶によるものですから少し留保は必要でしょう。87年には何か先達があったのかもしれませんし。*2


 参考までに、「青銅の剣」といえば『ドラゴンクエスト』の第一作が1986年発売です。『コンプティーク』で「ロードス島戦記」のTRPGリプレイが始まったのも1986年。

 そしてファンタジーRPG(TRPG)のエッセンスを敏感に取り入れた漫画として画期的だった『BASTARD!!』の登場は、『魔人学園』と同じ87年でした。


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 この頃はまだ、日本人の描くヒロイック・ファンタジーがとても珍しい時期だった……、というのは確実であると言えるでしょう。


講談社的なもの、小学館的なもの

 さておき、以上までを吉田隆一さんに話してみたところ、「その系譜には朝松健自身の『私闘学園』も当然付け加えるべきでしょう」とすかさず言っておられました。


私闘学園 (ソノラマ文庫)私闘学園 (ソノラマ文庫)
朝松 健 島本 和彦

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 作者が「学園ムチャクチャ小説」と呼ぶ『私闘学園』は、学園バイオレンスに「80年代的なパロディ要素」を加えた作品として位置付けられるでしょうか。


 この小説の挿絵が、まさしく学園マンガのパロディである『炎の転校生』を『週刊少年サンデー』で描き、雁屋哲の原作で『風の戦士ダン』を手掛けたこともある島本和彦だった──というのもその点で象徴的かもしれません。


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雁屋哲 島本和彦

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  • 学園マンガではなく忍者マンガですが、雁屋哲のシリアスな原作に島本和彦的なパロディとギャグが付け加えられたとされる作品(参照:雁屋哲のブログ

 余談ですが、泉は『ユリイカ』の週刊少年サンデー特集で『男組』から『史上最強の弟子ケンイチ』に連なるカンフー漫画の系譜も振り返ったことがあります。


ユリイカ 2014年3月号 特集=週刊少年サンデーの時代  トキワ荘から『うる星やつら』『タッチ』『名探偵コナン』そして『マギ』『銀の匙』へ―マンガの青春は終わらないユリイカ 2014年3月号 特集=週刊少年サンデーの時代 トキワ荘から『うる星やつら』『タッチ』『名探偵コナン』そして『マギ』『銀の匙』へ―マンガの青春は終わらない
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 そこでは「サンデーらしさ」の特徴として「優等生っぽさ」と「オタクっぽさ」を挙げていましたが、80年代サンデーの特色といえばやはりパロディ的な要素です。


 松江名俊の『史上最強の弟子ケンイチ』も、政治的な大義名分や組織論までテーマが拡大する部分は確かに『男組』の直系と言えますが、同時に格闘技オタク的なパロディ趣向も強い作品でしょう。


史上最強の弟子ケンイチ (1) (少年サンデーコミックス)史上最強の弟子ケンイチ (1) (少年サンデーコミックス)
松江名 俊

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 改めて考えてみると、講談社の梶原一騎から菊地秀行に連なる「学園バイオレンス」の系譜と、小学館の雁屋哲から島本和彦・松江名俊に連なる「学園バイオレンス」の系譜をふたつに分けて捉えることもできるかもしれません。


 この枝分かれした系譜の影響を双方から受けつつ、現代の学園ものが生まれている、と仮定して考えてみても面白いでしょう。


 現に、『SFマガジン』の対談では、伝奇小説の伝統を持つ講談社のノベルズと、その伝統とは距離を取って発展してきたライトノベルの違いについても語っていましたから

 ピンと来る人にはピンと来ると思いますが、伝奇小説と区別した場合の「ライトノベル(の学園もの)」というのは、マガジンと区別した場合の「サンデー」に似通ったオタクっぽさがある、という見方もできるわけです。


 また付け加えるならば、今となっては「講談社的なもの」と「小学館的なもの」の区別は、むしろ講談社的なもの」と「KADOKAWA的なもの」の違いに移動している……と、考えてみてもいいのかもしれません。

(これは伊藤剛さんが『ゲームラボ』の連載で、「80年代サンデー的なエッセンスは他の出版社に移動していった」と分析していたことにも準じています。*3


 そろそろ「学園バイオレンスの系譜」の話から少々風呂敷も広がりすぎてきましたが、「現代の『魔人学園』」と評してもまったく差支えのない『戦闘破壊学園ダンゲロス』が、KADOKAWAグループからではなく講談社BOXや『月刊ヤングマガジン』で発表されているというのも、なかなか象徴的なのかもしれません。


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戦闘破壊学園ダンゲロス(1) (ヤングマガジンコミックス)戦闘破壊学園ダンゲロス(1) (ヤングマガジンコミックス)
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*1:ここで想定されている従来の作品とは、ちばてつや『ハリスの旋風』などでしょう。

*2:ちなみに「学園超能力バトルもの」であれば『幻魔大戦』など歴史は深く、ここは「学園ファンタジーバトルもの」の歴史に限定すべきでしょう。

*3:『ゲームラボ』2008年4,5月号「マンガなんてただの過ちだ」参照

Thu 2013.09/26

科学のような魔法、ねじ曲がりのないキャラクター、そして食い道楽/青木潤太朗『ガリレオの魔法陣』

| 科学のような魔法、ねじ曲がりのないキャラクター、そして食い道楽/青木潤太朗『ガリレオの魔法陣』 - ピアノ・ファイア を含むブックマーク

 ネタバレ控え目の感想文です。


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 このブログの読者さんから小説を薦めていただくという珍しい体験をしまして。折角の機会ですからお勧め通りに買って読んでみました。


 その読者さんは『S-Fマガジン』の書評にアンテナを張ってライトノベルを読んでおられる様子で。

 そういう、普通とは異なるアンテナから薦めてもらえると「これは何かあるな」と思ってしまいます。

(当ブログも「SFの感想」を目当てに読まれていたそうで! その点でも珍しいタイプの読者さんだなーと思うわけですが。)


 作者は『ウルトラジャンプ』で漫画原作などを行っている青木潤太朗さん。


℃りけい。 1 (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)℃りけい。 1 (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
わだぺん。 青木 潤太朗

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 元々アニメ向けに企画していたものを、集英社のなかを経由してスーパーダッシュ文庫から小説化することになったらしく、これが初のライトノベルだとのこと。

 ただ、あとがきでライトノベルや「ライトノベルからこその表現手法」への愛を語っており、ライトノベルを書くことへのこだわりも強く感じさせる内容になっています。


 ただ、(読む最中はあまり意識しなかったのですが、後から考えると)漫画原作者らしいなと感じる要素も含まれています。

 『ガリレオの魔法陣』にはふたつのエピソードが入っており、そのエピソードも小刻みに区切りを付ける形式のため、例えるなら「漫画連載が単行本一冊にまとまっている」ような感覚がある。

 ライトノベルはだいたい「一冊かけて序破急でひとつのドラマを終わらせる」というイメージがありますが、このように漫画連載的な構成だと、普段ラノベを読まない、漫画読者にも薦めやすいのでは……という感触がありますね。

(ただ1巻目としては、ラストのヒキが強く感じるのも漫画単行本っぽくて、まだナンバリングの付いていないタイトルなんですけど続刊してほしいところですね。)


世界観とキャラクター

 『S-Fマガジン』で紹介されていたことから窺えるように……というか「魔法陣」に「ガリレオ」という単語がくっついていることからも解るように、科学の時代における魔法/科学のように発達した魔法を作品舞台の基礎に据えています。


 「発達した科学は魔法と見分けがつかない」漫画にしていた、藤子・F・不二雄 『チンプイ』の「科法」とはちょうど真逆のガジェットですね。

 「科法」の逆……「科学のように発達した魔法を描いたライトノベルとしては、佐島勤『魔法科高校の劣等生』があるでしょう。

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 ちなみに『魔法科高校の劣等生』は魔法だけでなく、科学も現代以上に発達している」近未来をシミュレーションしているため、普及性や効率という面では、「科学力」がまだ「魔法力」を上回っている世界です。

 魔法は軍事利用や職人技に留まる、パソコン開発前のコンピュータ技術のような存在だと言えるでしょう。


 一方で『ガリレオの魔法陣』の魔法は、ほとんど科学のレベルを凌駕している設定で舞台世界(パラレルワールドな現代の地球)をシミュレーションしています。

 それは限られた人間だけが操るものではなく、家電やインフラのレベルにまで普及し、機械や電気製品から置き換わっている。


 魔法陣を紙や地面に書くのではなく、立体映像の透明なレイヤーに何枚も重ねることで効率を上げたとされる「現代魔法陣」の技術は、「CH(サークルホログラム)」技術と呼ばれ、生活に浸透しています。

 例えば、一般家庭にあるIHヒーターのプレート部分が魔法陣(CH)に置き換わったようなもの、という描写もあって、なかなか生活感の見えてくる世界観が描かれています。


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 また、魔法から浮き上がる立体映像は「実体」として物理的に存在させることもできるため、インテリアから建築物まで出現させられるという、かなりなんでもありな技術です。


 ただ一応、立体映像の投影や、魔法陣を編集(作図)する操作は電子的な機器で行っているようで、こうなると電気的なエネルギー自体も魔法陣で作り出したりはしないのかな? と社会全体への想像も膨らむ設定ですね。

 魔法陣によって動く人工知能が存在するくらいですから、電子的な装置ではないコンピュータやプログラムも存在させられそうですし。


 さて、その「知性のある立体映像」が実体化した人間、というのがこの作品のメインキャラクターになっています。

 ……と、前置きが長くなりましたが、キャラクター小説としての魅力の話はここからですね。


 その「実体映像人間」として登場するのが、表紙イラストにもなっているヒロイン、リンシャオ。

 設定上の外見年齢は15歳くらい……生まれてからの実年齢は数百年という、いわゆる「ロリババア」キャラ。

 どうも著者もイラストレーターもこのロリババア属性に思い入れがありすぎるらしく、もはや「理想的なロリババァの魅力をいかに表現するか」に注力しまくったライトノベル、と言ってしまっていいかもしれないくらい、理想的に「ロリババアしている」ヒロインとなっています。


 無論、キャラクターというのは関係性の中で物語られるものですから、このリンシャオも例に漏れず、全体の登場人物たちと調和することで存在を主張しています。

 つまり、年長者でかつ王侯的な振る舞いをするリンシャオは、主人公サイドのキャラクターにとって養育者であり師匠でもあるわけで、「青少年を引っ張る師匠キャラ」としても理想的なキャラクターだな、というのがぼくの印象でした。


 個人的には、このリンシャオに目をかけられている主人公の青年と、もう一人のヒロインである少女性格も含めて好みです。

 この二人の性格というのが、少女の側がヨーロッパの貴族出身だったりしますから、自然と貴族的な高潔さや気高さがあるんですけど、リンシャオの養育を受けた主人公もまた、庶民的な生活をしながらも精神的には貴族めいた性根がある。


 この主人公とヒロインの「性根の曲がってない感じ」、「心根のまっすぐな感じ」がこの小説の一種の読みどころにもなっていると思います。

 つまり大掴みに言えば、キャラクターの性格がかなり「いい子」で「優等生」なんですよね。

 性格が澄み通っていて、ねじ曲がったところがない(というより、ねじ曲がりかけそうな目に遭ってもギリギリ屈折せずに育ってきたことがわかる描き方をしている)。


 少年漫画として、悪ガキや不良のキャラクターよりも「元いじめられっ子のいい子」や「優等生の正義漢」を描くことが多いのが『少年サンデー』の漫画なんですけど、たぶん「サンデー好きな人が気に入るかも」、というのも読んだ印象として残った部分でした。

(ギャグとしてオタクネタが所々入ってくるのも「サンデーっぽい」と言えばそうですね。今時のライトノベルとしては標準的かもしれませんが。)


 ちなみに、精神的に貴族というだけでなく、物質的にもなかなか貴族的な描写が多いのも読んでて楽しかったところです。

 旅行における描写がロハスというか、とにかくリンシャオが(生身の人間ではないのに)現地の美味いものを底なしに食べる。

 もう一人のヒロインの方も食にはうるさくて、しかもカロリー消費が高いらしく、これまたよく食べる。

 主人公も庶民的ながら、自炊の味にはこだわっているタイプで、そういう「気持ちよく食べる」シーンの多さもキャラクターの気持ちよさに一役買っているのでしょう。


 ただ、キャラクターを描く作者というのは二重人格的な性質があるんだと思います。

 それがよく表れていると感じるのは、敵役として描かれる連続殺人鬼の描写


 これが自分の性癖を満たすために無闇な情熱を燃やす連続快楽殺人鬼」という立ち位置ながら、やたらと言動が清々しい上、妙に善人ぶってるという……。つまり「根っこはねじ曲がっているのに間違った方向にまっすぐ」と言えるキャラ立ちで、これはこれで好きな人はいるはずです。

 『ジョジョの奇妙な冒険』の吉良吉影が、異様に几帳面で計画的で、でも考えてることは小市民、というああいう悪役に親近感が湧く……、そんな好みに通じるかもしれませんね。


 まぁこの連続快楽殺人鬼さん、かなりの信憑性で作者の趣味が反映されていると言ってよさそうで、非常に活き活きと楽しそうに描かれています。

 先ほど、いかに主人公とヒロインの心根がまっすぐしているか……ということを強調しましたが、そんな宝石のように高潔な、傷なんか絶対付けたくないヒロインほど傷付けてみたい、と感じるのもまた人情(そうか?)というもの。

 実際、連続殺人鬼の魔の手によってなかなかリョナリョナしい目に遭わされてまして(グロ方面ではなく格闘ゲーム的なダメージですけど)、この作品にとっては、まぁここが一種の抜きどころなのだろうなあ……と沁みるような気持ちで読んだことも印象深い小説でした。


 いや、面白かったです。上述したように、気持ちのいいキャラクターたちがやっぱり好きですね。


 あと付け加えるなら……『S-Fマガジン』の書評では「魔法陣の設定を通して民族間の文化差も描かれている」と言及されていまして。

 そのテーマが「食文化」の描写の多彩さとしても現れている、というのが食べ物好きとしては満足のいくところでした。カフェオレボウルの話とかがサラっと出てくるのが、いいですね。


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科学(ホログラム)が魔法(サークル)を技術(プログラム)にした

Circle Hologram(サークル・ホログラム)--それは多層レイヤー構造で描かれたDTP魔法陣と立体映像技術の進歩により生まれた最先端のテクノロジー。

光の模様によって空間エネルギーを絡めとり、あらゆる現象を引き起こす、この科学の魔法陣は、世界に未知の可能性と新たな火種を生んだ。

遺産魔法陣(エンシェント・サークル)--遺跡や文献から発見される太古の魔法陣。いまだ現代魔法陣の百年先を行くといわれる、それらの争奪戦が始まったのだ。


過去と魔法が、未来と科学と、歪(いびつ)に連なった世界で、ペンタブで魔法陣を描く“ホログラマー”レイル・レッド・ヘミングウェイが、彼の魔法陣を身にまとい戦う“サーキュリスト”の映像人間シャオの冒険が始まる!

スーパーダッシュ文庫


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