フォニックスを教える前に

フォニックスを教える前提として、アルファベットが大文字だけではなく小文字まで知っていなければ(認識できなければ)ならない……ということは、たいていの人が意識しているかと思います。

だけどそれでけではなく、いくつかの「文字・印刷物に関する概念」も知っておく必要があります。

Dr. MaggiesのPhonics Resource Guide*1によれば、フォニックス指導に入る前に子どもたちが知っておくべき概念とは次のとおりです。

  1. “読めること”の価値を認識していること
  2. 文字・印刷物は身の回りにたくさんあると理解していること
  3. 文字・印刷物のしくみを理解していること(たとえば、左から右、上から下に読むこと。句読点があることなど)
  4. アルファベットの基本――すなわち音声言語が文字に象徴されているという観念――を理解していること

子どもたちがこうした概念を把握していることを確かめてから、初めて本を使ったレッスンを開始できます。

とはいえ、1から3については、小学校に入っている子どもだったら日本語(国語)学習を通じてすでに理解していることでしょう。英語には縦書きがないことや、句読法(punctuation)の違いは教えなければなりませんが、そうしたことへの理解は比較的簡単に得られたことは、以前ここに書きました。(カンマは日本語の読点、ピリオドは日本語の句点にあたると説明するだけで、子どもはすぐに理解しました。)

だけど4については、少し違ってきます。英語は表音文字オンリーですが、日本語には表音文字である仮名と、表意文字である漢字という2つのシステムがあるからです。しかも、日本語の表音文字は子音と母音があらかじめセットになっていますが、英語の場合は子音と母音が別々のアルファベットで表現されます。つまり、その違いを理解させることが、日本人にフォニックスを教える際の基本中の基本だと考えられます。

さて、フォニックスのレッスンを開始するにあたって、わたしは子どもたちにこの基本中の基本を理解させようとしたわけですが、その一環として、わたしは子音の文字とシラブルを含んだ語幹とに分けたマグネッティック・カード*2を使ってみました。

まず、子音の「c」「f」「h」「m」「r」「sc」、そして「at」のマグネティック・カードを作りました。*3続いて上記のresource guideにあったアイディアを借りて、ホワイトボードに滑り台の絵を描きました。滑り台の下のほうに子音のカードを一つ(たとえば「c」を)置きます。上のほうに「at」のカードを置いて、徐々に滑らせていきながら、何度も「クッ………………エアット」と「c」と「at」の音を読みます。「at」のカードが「c」に近づいていけばいくほど、「クッ(c)」と「エアット(at)」のあいだの無音部分は短くなっていき、最後には両者がくっついて「キャット」になります。

子音を変えて同じことをくり返していくと、子どもたちはほどなくこのゲームの仕組み(子音と母音の組合せ)を理解しました。どの子音カードと「at」の組合せでも「読める」ようになったのです。ものの5分もかかりませんでした。驚きです。

続いて、cat fat hat mat rat scatといった学んだばかりの言葉がいっぱい出てくるライムのカードを渡し、ワードサーチングを行わせました。*4「catはいくつある?」という具合です。このライムには、theやnoやinなどのサイトワードも出てくるので、同様のワードサーチングでそれぞれの言葉を認識させ、読めるようになりました。*5

他にもいくつかのアクティビティを行って、すべての言葉になじませておき、その後、ようやく本を開いて、CDの音読を聞かせました。すると、最初のページから、子どもたちは迷うことなく一緒に文を読むことができたのです! 「読める!」という喜びのためでしょう、すぐに生徒たちは競うようにその本の「よみきかせ」をしたがりました。いくら簡単な文とはいえ、すごいことだと思います。

絵柄も魅力的で、情報が豊富。言葉だけではなく文化の違いを教えるのにも使えます。*6

そんなわけで、わたしはすっかりこのシリーズに魅せられてしまったのでした。

*1:残念ながらamazon.co.jpでは扱いがないようです。amazon.comのほう(http://www.amazon.com/DR-MAGGIES-PHONICS-RESOURCE-GUIDE/dp/B000F8V7TU)には英語ですが本の情報があります。

*2:何と呼んでいいのか分からないのですが、ホワイトボードに貼れるマグネットになった白いシートを切ったものに黒い太ペンで文字を書きました。

*3:こうした子音等を選んだのは、絵本とそれに付随しているチャンツに出てくるからです。

*4:ただしライムの音声は、すでに前の週にCDで聞かせていっぱい歌わせてありました。

*5:これも前に書きましたが、この時点で、同じ言葉にtheとaが付く場合があることを、子どもたちは“発見”したのです。

*6:ちなみに最初の絵本のタイトルは"I Spy"。日本人には「I spy」という表現はあまりなじみがないかと思いますが、これも子どもたちが「ミッケだ!」とすぐに気づきました。すでにI Spyの絵本を見せたり、貸し出したりしていたからです。

歌&チャンツで通じる英語!

上記を書いた後で、今日もこのフォニックス・シリーズを使ったレッスンをしました。今日は新しい子も参加したのですが、レッスンの最後に「よみきかせしてくれる人? Someone who wants to read?」とvolunteerを募ったら、英語経験も学年も違う子どもたちが先を争って読みたがり、結局、どの子も、発音もイントネーションもほぼ満点に近い音読ができました。

歌やチャンツの威力を感じずにいられません。

実は、今日は大人の(ママたちの)レッスンもありました。大人のクラスでも、わたしはよくマザーグースなどの歌を採り入れ、メロディーで歌うだけではなく、バックビートの手拍子に合わせてチャンツしたりします。今日はHumpty Dumptyを使いました。解説しながら、奥の深い歌だなぁ……とまたしても思いました。わたしは一般的に、英単語を覚えさせんがための学習用の歌(learning songs)*1よりも、こうしたオーセンティックな(時の試練を経た)歌のほうが好きです。

マザーグースって本当にバカにできません。覚えやすく、くり返しが楽しいリズムや言葉をもつマザーグースの歌は、さすがに長い歳月を生き残ってきただけの質と価値を備えているのです。大人でも、こうした歌をくり返し口ずさんでいくことで、話す英語が“英語のリズム”になっていくのが分かります。実際、わたしは大人のレッスンでも、まず歌い、チャンツし、その後に音読してもらうのですが、とつぜん音読するとぎくしゃくした「日本人英語」になってしまう人も、こうした手順を踏んだあとで読んでもらうと、かなり滑らかで英語らしい響きになるようです。言い換えれば、英語の通じやすさ(通じビリティ)が高まるんです。

さらに、音韻(ライミング)を踏んだ歌詞は、英語の音に対して鋭敏な耳を作るのに役立ちます。おまけに、文化的な違いや、英語の“常識”も学べます。いいことづくめなんですネ。あとは、数あるマザーグースの曲のなかから、何を選んで、どう教えるか……そこが難しいのだけど、面白いところだとも言えるかもしれません。

*1:特に日本人用に作られた“教材ソング”は、音楽的にも“いただけない”ものが少なくありません。