J0hn D0e の日誌

2009-06-28 現代アートの舞台裏 サラ・ソーントン Sarah Thornton 村上隆

[] 村上隆の『価値』が作られる場所 - 「現代アートの舞台裏 5カ国6都市をめぐる7日間」

欧米の『アート界』の舞台裏を垣間見ることができる、面白い一冊。

著者は、大学で美術史を学び、その後ギャラリー勤務を経て*1大学院社会学を学んで博士号を得たという社会学者、サラ・ソーントン博士。

日本ではさほどポピュラーな存在ではないように感じられる「ハイブロウ」な欧米の現代アートの世界。オノ・ヨーコ草間彌生杉本博司など、欧米のアート界にも有名な日本人アーティストは少なからずいるが、なかでも最もポピュラーなのは村上隆だろう。

本書でも、一章を割いて、村上隆のスタジオを訪問し、関係者にインタビューする様子を紹介しているが、その章だけにとどまらず、いうなればこの本のすべてが「村上隆の『価値』をつくりだす現場」を紹介している、という言い方もできる。

本書は、それぞれの章で、ひとつずつ「場」を紹介していく構成になっていて、全体は以下のように構成されている。

正確にいうと、イギリスの美術館、テートで受賞者が選ばれるターナー賞はイギリス在住のアーティストが対象だし、二章で紹介されている芸術大学の授業も直接的には村上隆とは関係ないので、この本の「全て」が村上隆に関係しているとはいえない。

だが六章のスタジオ訪問ではロサンゼルスの美術館「LA・MOCA」のスタッフが回顧展「(C)MURAKAMI」の準備も兼ねてギャラリスト、ブラム & ポーや著者と一緒にスタジオを訪問する様子が紹介されており、なかでも、そのスタッフの一人はUCLAで「日本のコンセプチュアルアートとプロセスアート」をテーマに博士号取得を目指して研究している最中にMOCAにスカウトされた日系人とのことで、村上隆が美術館とも深い関わりを持っていることがわかるし、大学などの教育機関でも議論や研究の対象になっていることもありうるだろう。

とかく日本では「オタク文化」との関わりで論じられがちな村上隆だが、「欧米のアート界」の様子を紹介する本書を読むと、(あたりまえのことだが) 日本とは全く異なる視点で村上隆が評価されていることがわかる。

これは物凄いお金持ちが集まる小さな『村』でのお話なのだ。

例えば、展覧会「(C)MURAKAMI」を開催し、その後財政難に陥ったロサンゼルスの美術館、LA・MOCAは億万長者の慈善家であるEli Broad氏らが救済、その額は、総計5,690万ドルになると最近報じられた。

こういったニュースで断片的に伝えられるお金持ちと美術館の密接な関係、それが本書を読むことでさらに見えてくる。

また、村上隆の作品が16億円で落札され話題になったオークション、(景気悪化の影響が心配されていたにもかかわらず) 今年、ミュージシャンとコラボした村上隆の2億円の作品が初日に、それも会場オープン20分で売れたというアートフェア、Art Baselなどはいうまでもなく、村上隆の『価値』を形作る現場そのものといえよう。

ちなみに、その16億円で落札された村上隆のMy Lonesome Cowboyだが、本書では、その買い手がウクライナの大富豪、ヴィクトル ピンチューク氏 (ヴィクター・ピンチュック / Victor Pinchuk) であることが明かされている。

で、これが落札されたのが2008年5月14日。興味深いのは、色々検索するとこんな映像がでてくるところだ。

D

これは2008年の5月11日に開かれた「GEISAI MUSEUM #2」で審査員をつとめた「ヴィクター・ピンチュックさん」のコメントだ。このあと村上隆と一緒にすぐにニューヨークにいったのだろう。村上隆の世界がいかに遠い世界なのかがよくわかる。(ちなみに本書に登場する作品「Oval Buddha」は2008年のArt Baselで、800万ドルで売れたらしい)

当然のことながら、本書の著者、ソーントン博士も、この世界の住人の一人だ。

D

このように、まさに才色兼備のソーントン博士。日常的に欧米の有力メディアアート記事を執筆するライターでもある。

本書ではヴェネチアビエンナーレを取材に訪れた筆者が「予算が乏しいキュレーターや批評家があふれる安ホテル」にチェックインしながら、「途方もない部屋代を支払う余裕がある友人のおかげ」で、世界有数の豪華ホテル、チプリアーニのプールで水泳を楽しむ様子が紹介されている。単なるライターではなく、もはや「インサイダー」である。

そんな本書をこんな風に評している記事もある。

She is indulged by the art world's great and good, but when it comes to really spilling the beans, she is ignored.

彼女はアート界の素晴らしい人々に楽しませてもらっているが、話が本当に内緒の秘密話になるところでは (spill the beans) 相手にされていないのだ


Review: Seven Days in the Art World by Sarah Thornton - Telegraph

だが、俺は、これはちょっと違うと思う。「金儲けのために作品を作ってる」とか、「自分の名声のために雑誌に批評を書いている」だの「金持ちであることを自慢するため高い美術品を買っている」などと言う人がいるはずない。

「思っていても言わないこと」というのがあるのかどうか。本書に「書かれていないこと」はなんなのか。そんなことを考えながら読むと、人間社会(の特殊な一面)を理解する助けになる、ような気がしてくる、そんな楽しい一冊であった。

*1:「I studied art history as an undergraduate and worked in a gallery before I went on to do my PhD」Dazed Digital | Seven Days in the Art World

2009-04-19 浅田政志 スペースAKAAKA・赤々舎・清澄白河

[] 浅田政志「浅田家 赤々・赤ちゃん」展 スペースAKAAKA・赤々舎・清澄白河

写真集などアート関連書籍を出版している出版社「赤々舎」。その展示スペース、「スペースAKAAKA」というのが清澄にオープンしたとのこと。早速行ってきた。

……といっても、俺は特に赤々舎さんのことを良く存じ上げているというわけではなく、これはネットサーフィンしている最中に偶然発見した情報。(会場で「何を見て展示を知ったのですか」と聞かれたが、何度考えても思い出せない)

それどころか、展示している作家さんのことも良く知らず、さらに言えば、今回展示してる作品を制作した浅田政志が木村伊兵衛賞を受賞した、というのも今検索して初めて知ったくらいだ。(写真関係はさほど熱心に情報収集しているわけでは無いので……)

会場の様子は、先ほど紹介したページに写真が載っているし、さらにこちら↓でも見ることができる。

ひとつ追加で紹介するとすれば、会場にはこんな張り紙があった。

f:id:j0hn:20090419192235j:image

展示されているのは、作家、浅田政志自身とご両親、それにお兄さん夫婦も加わって、浅田一家総出で人生の思い出に残るいろんな瞬間(など)を再現した写真。それに、立体作品、架空のニュース映像、ドローイング作品もある。さらに奥には一般の(つまりよその)家族のポートレイトなども。

興味深いのは、浅田家が「再現」した風景はどれも「偽物」「作り物」であるが、こういった作品の制作は、恐らく、みせかけの、うわべだけの付き合いをしてる「家族」にはできないことであって、これが「本物の家族」にしか作り出すことのできない「偽物の風景」であるように見えるところだ。

ちょっと話がずれるが、今月から放送大学でやってる「芸術の理論と歴史」という授業を(偶然みつけて)見ているのだが、ちょうど今日、「アリストテレスギリシア演劇」と題して、演劇における再現・模倣について、「悲劇」のありようなどについて講義をしていたのだが、そういった話と対比して考えると面白く感じられる。

「本物の家族」が「偽物の風景」を作り出す、という行為は、(梅佳代がおじいちゃんを撮影したりするのと同様) それ自体からは、平和でほのぼの、幸せそのもの、といった印象しか受けないが、一方で、その作品を見る側、つまり世間の多くの家族の中には、不幸で悲劇的な歪んだ家庭も多くあるに違いない。

そういった「見えない不穏な影」のようなものが、見る者にある種の不自然さ、居心地の悪さを(ほんの一瞬)感じさせるような気がしてくる。そんな影の存在を示唆する光のような奥深い作品であった。

……っていうのはちょっとひねくれた見方だろうか?

5月17日(日)まで。

地図はこちら

地下鉄の駅から東京都現代美術館へ行くときに通る、深川江戸資料館のある通りからちょっと横に入ったところにある。

ちなみに全然関係ない話だが、深川江戸資料館は7月から長期休館するらしい。

深川江戸資料館は平成21年7月より施設改修工事のため休館いたします。

期間:平成21年7月1日(水)〜平成22年7月下旬<期間変更有り>

対象:小劇場、レクホール、綜合展示室

昔行ったときに俺が撮った写真。夕方の照明がきれい。

Fukagawa edo museum

2009-04-02 moz_historyvisits moz_places places.sqlite Firefox 3

[] Firefox 3のplaces.sqliteデータベースからリンク元の記録を探してみる

今日はFirefox 3の話。

先日、なにかを検索している途中で、偶然こんなアート関係のブログを発見した。

MICHELANGELO PISTOLETTO - TRANS BORDER TRANS LIMIT TRANS GRESSION | LOOK INTO MY OWL

こんな絵が載っている。

f:id:j0hn:20090402102120j:image

(by Michelangelo Pistoletto)

この絵自体には、それほど興味をひかれなかったんだけど (といっても、最近小耳に挟んだある学者の理論によると、美術作品の大きさにはなにか重要な意味があるらしく、ひょっとすると、この絵も、そういった理論と関係した絵で、パソコンの小さな画像で見ても意味が無い絵なのかもしれない、という気もするけど、それはともかくとして) この絵よりも、ページ右手のほうの「LINKS」のコーナーが気になった。

なんか面白そうなブログがあるかもしれないぞ、毎日、三つぐらいずつリンクを順にチェックしていこう、と思って、デスクトップにこのページへのショートカットを置いておいた。

で、この「LINKS」の三番目に載ってる「Arrested Motion」というブログを試しに開いてみてみると、これがなかなか面白くて、このブログは早速フィードリーダーに登録することにした。

……そんなある日、 デスクトップショートカットを間違えて削除してしまった。 「LINKS」のコーナーを一時的に見たかっただけなので、サイト名も全く覚えてないし、このページはどこにもブクマしてない。どうしよう!

整理すると、要するに「Arrested Motion」というブログを最初に見たときの「リンク元」が知りたい、ということ。

俺が使ってるFirefoxにはPlacesというデータベースが入っていて、ページ閲覧の記録が保存されている。ここから情報を取り出すことができないだろうか? ……と思って色々やってみたらできたので以下にメモっておくことにする。

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2008-12-06 雪竹太郎 人間美術館

[] 美術館らしくない美術館「人間美術館」その他

今日は、青山周辺を散歩。

ワタリウム美術館スパイラル→「三菱商事アート・ゲート・プログラム」→佐藤美術館という経路だったんだけど、まず先に紹介したいのがこれ

f:id:j0hn:20081206203036j:image

ムンク「叫び」

神宮外苑の「いちょう祭り」会場で発見。

雪竹太郎氏によるパフォーマンス「人間美術館」というやつらしい

検索してみると、結構有名な方みたい。ふだんは井の頭公園での目撃情報が多いみたい。

Because the Living Museum of Art displays paintings as they are seen and not as they are interpreted, it’s a great democratiser, enjoyed by these children as much as (perhaps more than) chin-stroking adults with worthless certificates in art history. So confine your chin-stroking to the gallery and keep it out of the park. This is the other, uncelebrated side of art: not the dusty repository of learning but the universally recognised visual language; not the domain of the genius but the province of the eternal huckster, Taro “Taro” Yukitake.

「人間美術館」では、絵を「解釈されるもの」ではなく、「見られるもの」として展示している。これは素晴らしい(展示の)民主化である。あごをなでながら見ている意味のない美術の知識を持った大人たちと同じように (ことによると、そういった大人たち以上に) 子供達に楽しまれている。だから、あごをなでるのはギャラリーだけにして、公園では(訳注: 難しそうな顔をして展示を見るのは)やめにしよう。これは、知られざるもうひとつの美術の側面だ。研究するためのほこりをかぶった倉庫ではなく、誰にでも理解できる視覚言語であり、天才の領域ではなく、永遠の「香具師」が演じる舞台なのだ

The Living Museum of Art | TABlog | Tokyo Art Beat

Tokyo Art BeatのTABlog英語版より。(俺の英語力の限界を超えた文章で、かなり意訳になってるので注意。正直あまり自信がない (誤訳の指摘歓迎))

ちょっとほめ過ぎのような気もするけど、俺が見ていたときも、前のほうで小さな子供が歓声をあげながら見ていた。

「美術館」っていうと、すすけた昔の絵をみるところ、そこで展示している美術品は、しかめっつらして研究する対象、気取って訳知り顔で難しく論じるもの、になりがち。

確かに、「絵」として表現された根源的なもの(人間的なもの)を一番シンプルに見せるフォームを提供しているパフォーマンスなのかもしれない。

神宮外苑いちょう祭りは14日まで。人間美術館の展示日程は不明。

参考:

[] ワタリウム美術館 「美しい青い風が -I Love Art」展

ワタリウム美術館では、所蔵作品の展示。作品と共に、美術館の人が作家とやり取りした様子などを文章で展示。その他制作風景の映像も。7日(日曜)まで。

「美しい青い風が -I Love Art」展

会場: ワタリウム美術館

スケジュール: 2008年09月05日 〜 2008年12月07日

月曜休館 (9/15、10/13、11/3、11/24、12/1は開館)

住所: 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-7-6

電話: 03-3402-3001 ファクス: 03-3405-7714

[] スパイラル 八谷和彦

スパイラルでは、八谷和彦の飛行機が。(写真撮影自由)

展示自体は無料。 9日まで

八谷和彦 H.U.G. vol.4 「メーク! ―夢を実現させるということ―」

会場: スパイラル

スケジュール: 2008年12月05日 〜 2008年12月09日

住所: 〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23

電話: 03-3498-1171

[] 佐藤美術館 - ボルジギン・トブチチゲ展・大河原典子展

ここは「美術館」といっても建物自体は普通の事務所ビル。美術系の学生に奨学金を出してる財団らしい。(松井冬子も奨学生だったみたい)

国立競技場の先のJRの線路を超えてすぐのところにある。

神宮外苑のあたりからだと、ちょっと歩けばすぐにつく。

  • ボルジギン・トブチチゲ
  • 大河原典子展

このページ のちょっと下のほうに展示情報が載ってる。入場無料。12月21日(日)まで

大河原さんはすごくうまい。トブチチゲさんの版画は非常に印象的。これは贅沢な展覧会でした。

[] 三菱商事アート・ゲート・プログラム

あ、あと、表参道のGYREというビルの2Fで、三菱商事の「アート・ゲート・プログラム」っていう、絵描きの学生さん応援プログラムで入選した絵の展示。

2008年12月3日(水) から12月11日(木)まで、「三菱商事アート・ゲート・プログラム」をGYRE2階EYE OF GYREにて開催いたします。現在、日本の若手アーティストは作品発表の機会に恵まれていない現状があります。そのため、本プログラムでは若手アーティストから作品を購入し、展示を行ないます。対象は、大学、大学院専門学校に通う学生や卒業後3年未満のプロのアーティストを志す方々の作品です。作品は、展示後オークションにかけられ、その売上金は……(以下略)

これは色々考えてしまった。

美術系の大学に行く人は、高校の頃から一生懸命勉強して、試験に通って、さらにこういった公募展に応募して審査されて通過する……と。

「審査する人」のお眼鏡にかなう絵を描く人は、確かに「優等生」で、すごい!! とは思うんだけど。

これ↓見ると、審査員は非公開らしいけど、

アート賞イベント企画 » 三菱商事「アート・ゲート・プログラム」創立

なんというか、サラリーマンなのかな? 就職試験で点数がよさそうな絵、というか。

個人的には、provocativeじゃない絵は、つまらない人の家の壁にかけるのにはいいでしょうけど、すぐ飽きるような気がしました。

2008-11-09 Chim↑Pom ピカッ 広島 原爆 カラス 東京都 BLACK OF DEATH

[] 最近のChim↑Pom (その1)

アートソルジャー」(笑い) Chim↑Pomがひきおこした広島での『事件』について。

今回の事件はあくまで「作品の素材」ということで、作ろうとしていたのがどういう作品なのかまったくわからないので、なんとも言いようがないが、見聞きした範囲で感じたことを書いてみる。

といっても俺のような素人が今回の事件をどう考えるか、なんて話に興味がある人もあまりいないような気がするが、どっかの素人みたいな人が「こんなものアートじゃない」と言ってるのを多く見かけたので、まぁ俺が何か言うのも、そういうのと似たようなもんだろうし、ということで、あまり気にせずちょっと一言。

広島での飛行機雲

これはたとえ話で説明するとわかりやすいような気がするんだけど、例えば、映画「プライベート・ライアン」を見て、「ノルマンディー上陸作戦と、その後のヨーロッパ戦線での戦闘がいかに恐ろしいものだったか、知ることができた」と感じる人は、結構いるだろう、と思う。

けど、最後まで見て「そこで(実際に)戦死した人の気持ちがわかった」という人がいたら、うーん、ちょっと、それはどうかな、と俺は思う。

では、「俺はノルマンディー上陸作戦と、それ以後の戦いのことは、よくわかっている。映画『プライベート・ライアン』を見たからだ」という人がいたらどうだろうか。

(映画ではなく、実際の記録に基づいた本や映像をたくさん見た、という人なら「よくわかっている」と言ってもいいだろうか?)

原爆というのは、ちょっと、ひとりの人間が把握できるスケールを超えていると思うので、また少し違う話を例にして言うならば……

例えば、終戦直前「空母艦載機が道を歩いてる人を追いかけて銃撃した」なんて場面を時々テレビや映画で見かけるけど。

二十一世紀に、非常に安全な場所で、座り心地のいいソファーにゆったり腰掛けてお菓子を食べながら見る銃撃シーン」みたいな。(実際には、弾に当たれば血が出るどころか身体が木っ端微塵になってもおかしくない。そんな切迫感が全く無い環境でそれを見ているということ)

そんな「北北西に進路をとれ」みたいな感覚で見たものを「いかに恐ろしいことか(テレビで見たり、本を読んだりしたので)わかっている」と主張する感覚というか。

語弊があるかもしれないが、極端に言うと、そういう「体験」が「偽物」でしかありえない、ということがうまく表現されているのが、今回の飛行機雲だと思う。俺がこの「素材」にタイトルつけるなら「被爆六世の原爆体験」とか、そんな感じか。(五世とか四世でもいいけれど)

それは言葉でしかないし、文字でしかない、写真(つまり平面に映し出された、なにかに見える模様)でしかない、それ以上のものにはなりえない。

これは「不快なアート」だと思う。これは実行する前に地元の人達によく相談する必要があった。それは「おふざけでバカにしているから」ではなく『実際に体験したこと』は被爆者以外には伝わらない、伝えられない、だから本当の感覚は「わかりようがない」ということを表しているから。

……で、俺が、こんなふうに、この事件の話を見聞きして「どう感じたか」って話をしたところで、それは俺が勝手に感じてるだけで、実際の作り手のChim↑Pomの意図とは全くかかわりがない話なわけだ。(ここまでの「わかる・わからない」の話は「今回の事件」の話を見聞きしてどう感じたかって話にも適用できる)

作り手の意図と全く関わりが無いという意味では「ふざけている」「くだらない」とかいうのと全く一緒。それは見た人が感じたことだから、正しいも間違ってるもなく、「事実」なんだけど、作り手とは無関係。

だが、先日やっていた高円寺での個展(今回の「事件」で中止になってしまったやつ)、俺はこれ、中止になる前に見に行ってきたのだが、そこで「天気予報の『晴れ』のマークを拡大して背景に置き、その前で集合写真を撮る」というような作品が展示されていたような記憶がうっすらある。(その写真の横にテレビがあって、全国的に晴れている天気予報がエンドレスで映っていたと思う)

つまり、記号的なものと現実世界との関係に対する関心自体は、少なくとも(彼らの中の誰かのなかに)あるにはあったのではないかな、という気がしている。

カラスの作品

で、じゃあ、そんな作品を作る彼らのことを、俺が肯定的に考えているのかというと、実はそうでもなかったりして。

なぜ肯定的に考えられないのか、というと、理由はふたつあるんだけど、まずひとつは、彼らはとにかく「言葉が薄い」ということ。

しゃべる言葉に中身がない。驚くほど薄っぺらい。

例えば、カラスの群れを集めて都内を巡るという、彼らの作品「BLACK OF DEATH」

こういう作品も、あとから理屈をつけて、色々言うのは簡単だ。

カラスってのは、知ってる人も多いと思うが、東京では結構問題になっていて、大雑把に言うと、代々木公園とか新宿御苑をねぐらにしてるカラスが、朝、歌舞伎町渋谷あたりに出張ってきて、飲食店が出すゴミをあさって食べたりしている (していた) わけだ。

で、東京都では「都民の皆さんからカラスによる被害や脅威を訴える声が数多く寄せられて」いるため、カラス対策のプロジェクトチームを作ってカラスを捕獲したりしているらしい。(参考)

まぁカラスの立場で言えば、「居心地のいい環境」を(人間が意図せず)作ってくれたから増えてしまったわけで、それを迷惑だといわれても、もともと人間のほうで勝手に作った環境にあわせて増えただけなので困ってしまう、と。

「頭悪そうな人間達が勝手にカラスを集めてその周りの人が迷惑がっている」という構図。

おふざけでカラス集めたりして、迷惑じゃないか! ……と怒ってる社会自体がカラスを集めていて、自分達で迷惑がっている……といったような感じ。

ここまで読んで「でも東京都とか関係ないでしょ。実際、卯城君はこんなふうに↓言ってるわけだし……」と思う人もいるかもしれない。

卯城 う〜ん…カラス集めようぜっていう発想は、別にアートでなくてもみんなやってるじゃないですか、おじさんとか(笑)。その発想が面白いかっていったら、別に面白くないから。それよりもやっている上での、どうしたらカラスが集まるとか、バイクの速度がカラスのスピードに合っているとか、カラスが……

Chim↑Pom:面白くなければ意味がない! 「日本のアートは10年おくれている」恵比寿ナディッフアパートで個展開催|カンボジアの地雷で高級バッグ等を爆破したり、ドブネズミを剥製にしたり、こっくりさんでタトゥーを入れたりするオモ... - 骰子の眼 - webDICE

これを読む限り、東京都がどうのこうの、人間社会がどうのこうの、なんてことは一切考えていないように見える。

ところが彼らは、少なくとも東京都カラス対策のことは知っているらしい。

Accompanying that performance/installation, Becoming friend, eating each other or falling down together (2008), there was a video documenting how the crow had been ‘rescued’ in a midnight raid on one of the traps installed in the metropolis by the famously anti-crow Tokyo Governor, Shintaro Ishihara. ‘We took your crows!’ the artists can be seen scrawling on a sign outside, adding the tag ‘C ↑ Shepherd’ and jokingly aligning themselves with Japan’s environmentalist tormentor, Paul Watson.

……これらの展示と共に、この作品「友情か友喰いか友倒れか」には、ビデオの記録映像があり、どのようにしてカラスが「救出」されたか、「反カラス」で有名な石原都知事が東京に仕掛けたカラストラップのひとつを、彼らが深夜に襲う様子が記録されている。

「お前のカラスは頂いたぞ!」彼らは立て札のひとつにそう落書きし、「C ↑ Shepherd」(シー・シェパード)と書き加え、冗談めかして彼ら自身を、(捕鯨問題で日本を悩ます) Paul Watson氏(の環境保護団体シーシェパード)になぞらえた。

(ちょっと意訳気味)

Page Not Found | Frieze

これは、夏に行われた彼らの展示の話で、カラスを集める作品とは別の話だが、とにかく東京都カラス対策については (トラップがどこに仕掛けられているかを知っている程度には) よく調べて知っていると考えていいだろう。

(ちなみに、上記の記事が掲載されているサイトは、アート雑誌「Frieze」やアートフェア「Frieze Art Fair」で有名なFriezeのサイト) (参考)

まぁ、いちいち作品について細かく解説するべきだ、とは言わないにしても、作品をつくるまでのいきさつだとか、ふだんから関心を持っていることなんかについて、もうちょっとマジメに語ればいいものを、この卯城君の話す内容というのは、だいたいどんなところでも一貫して、うすっぺらく、「別にアートなんかどうでもいい、面白いからやってるだけ」といった、内容の無い話に終始している。

意図して、わざとしらんぷりをしている可能性もあるが、俺は、この卯城君自身は、カラスのことは本当にどうでもよく、(カラスだけでなく、ほかのこともどうでもよく) 実際に作品の企画をしているのは、他の構成メンバーないしはまったく別の人なのではないかと疑っている。

まあ、とにかく俺が言いたいのは「ふざけるなら、もっとまじめにふざけろ!」ということで、語る言葉の薄さにはとにかくガッカリさせられる。

この人たちの発する言葉については(実例を挙げて)もっと言いたいことがあるし、これは彼らを「肯定的にとららえられないふたつの理由」のうちのひとつでしかないので、まだ色々書きたいのだが、長くなったので続きはまたそのうち。