Hatena::ブログ(Diary)

うさぎとちょこれいと このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-12-27

[]「皆川さんが、こんなつまらないことは書きたくないと思うようなことを書けば、読者は楽に読めます「皆川さんが、こんなつまらないことは書きたくないと思うようなことを書けば、読者は楽に読めます」 - うさぎとちょこれいと を含むブックマーク

 皆川博子の超貴重なインタビューを読みたくて、『ホラーを書く!』を中古で購入。上記の台詞は、皆川先生担当から言われた言葉新幹線の車中で2時間で読んでしまえて、あとは読み捨てることができるような本を書け、と昔は言われてたそうな。先生は「それなら、書くのをやめる」と泣いたとか……(せんせい…涙)。売れるかどうかの兼ね合いがあるから、なかなか自由に好きなものを書かせてはもらえなかったようだった。「人情もの」「家庭小説」とか(←担当要望皆川ワールドと遠すぎる。

 皆川先生、もろやおいダメだけど、美少年系大好き。『トーマの心臓』や『ポーの一族』が大好きなんだそうです。ついでに『ベルセルク』もお好きらしい。だよな〜。そういう匂いプンプンするものインタビュー時点でも70歳の方がそういったものを愛読するのか〜というところに意外性があるだけで。インタビュアーは「最高級ブランドひとつとして、皆川作品をやおい読みの対象にしてるんじゃないか」と言ってました。角川ルビー文庫ユニクロなら、皆川作品はプラダといったところでしょうか。

 あと、自分小説ネタにした同人誌(もちろん、アレなやつ)とかもらうと「キャーキャー言って喜んじゃう」んだとか。せんせい、かわゆすぎる!

 せんせい、家事が苦手(てか、完全放棄)で、玄関の扉は開かない、台所の扉は開かないので、秘密の出入り口から出入りしてるって。あーもう、いちいちかわいいよ

2011-12-22

[]総統の子ら(下) 総統の子ら(下) - うさぎとちょこれいと を含むブックマーク

すべての悪は、ヒトラーナチス第三帝国が背負った。ヒトラーが黒くなればなるほど、それを倒した連合国は、英米もソ連の無垢の白さで輝くというわけだ。p372

 読了。さすがに下巻は、焼夷弾萌え腐女子脳も焼き払っていく展開だった。『死の泉』とは路線が違う、というのもよく分かった。いつもの皆川博子的な幻想文学というより、ガチガチ歴史小説なので、そのあたりに興味が持てない、というひとには受け付けないのかもしれない。脳内勝手に上映される絵柄も、最初は、萩尾望都だったのが、中巻の途中くらいか池田理代子になり、下巻になってからは、少女漫画化不能になった。

 戦火のなか、カールは隻眼になり、エルヴィンは片足を失い、ヘルマンソ連軍に捕えられ、捕虜収容所地獄の日々をおくる。これ読んでると、憎きパルチザンめ!という心境になります戦争末期、「あそこなら安全から」と、ドレスデンへと疎開していく人々が悲しい。

 以前、ドレスデン空襲を題材にした映画を見たことがあったが、それを映画化するのにも物議を醸す─というか、それなりに勇気のいることだったというのを読んだ覚えがある。「お前が被害者面するな」ということなのだろう。それが分かっているからこそ、ドイツ人は慎重にならざるをえない。

 「人道に対する罪」は、ドイツ日本断罪するために、戦後戦勝国によって「初めて」つくられた。法律ができるまえの過去に遡ってまで裁くのは違法であるしかし、どんなに過去に遡って裁いても、欧米諸国が、アジアアフリカの各地を力ずく植民地にしたことは裁かれない。勝者が敗者を裁く、敗者にとっては、ただひたすら虚しい裁判……。敗者が勝者になにをしたかは問われても、勝者が敗者になにをしたかは問われない。

 「アメリカ文化的な価値のある都市であった京都を尊重して空襲しなかった」というノーテンキなことを言う人がいるけれど(うちの母親とかですな)、そういう言説を聞くとかなりイラときしまます京都原爆投下候補地に挙がってたのですけどね。そして、当時ドイツ人の多くが、ここならば空襲を受けることはないだろうと信じていた、美しい非武装都市ドレスデンでさえ焼かれたのだ。鬼畜米英が日本都市なんて、尊重するかね。京都が無事であったのは、本当にただの僥倖でしかないと思う。

総統の子ら (下) (集英社文庫)

総統の子ら (下) (集英社文庫)

 小説の構成としては、第6章から終章にかけての締めくくりは、本当にお見事としかいいようがない。あぁ、ヘビーだった。歴史戦争人間も単純じゃない。読んだあとで、胃がもたれてくるような小説を久しぶりに読んだ。

2011-12-20

[]『総統の子ら』(中) 『総統の子ら』(中) - うさぎとちょこれいと を含むブックマーク

片方の手でポーランド人を飢えさせ、片方の指先から一滴の慈悲。その慈悲が私の魂を腐らせる。p188

 本書は、少年カール視点と、SS将校ヘルマン視点から語られている。中巻(第2章)は、いうなれば、ヘルマン苦悩するの巻。きわだった美貌と、強健な肉体を持つ彼は、ヘルマンとエルヴィンの崇拝の対象であったりするのだが、彼自身は継母に道ならぬ恋心を抱いていたりと、心の中には昏いものを背負っている。

 やがて、ヘルマン親衛隊から諜報部勤務となり、ドイツ占領した敵地ポーランド憂鬱な任務につくことになる。上記の引用は、ヘルマンが密かに援助する老婦人がヘルマンに対して放った言葉だ。

 のちにヘルマンは情けをかけていたはずの老婦人に、実は自分が利用されていたことを知ることになる。気まぐれで落とした一滴の慈悲は、ヘルマン自身をも懊悩に追い込む。一方で、ヘルマン収容所送りにならないよう取り計らってやっていたユダヤ人調律師は、それがゆえに、ヘルマンの力が及ばなくなったとき、余計に厳しい立場に立たされることになる。「ドイツ人に気に入られていた」過去が知られれば、ユダヤ人だけの世界では「もう生きてはいけない」からだ。もっとも、ヘルマン正義感(という言葉ほど皆川作品に似合わない言葉はないな)から一滴の慈悲を与えているわけではない。全体としてのユダヤ人ポーランド人も彼は好いてはいない。ポーランドの老婦人を援助したのは、零落した貴族である彼女に魅力を感じたからだし、ユダヤ人調律師を助けたのも、彼の音楽が気に入っていたからだ。

 ヘルマンユダヤ人についてこう語る。

幼い時から教えられて育った。前の大戦ドイツ敗北の原因となったのは悪辣なユダヤ人の背後から匕首だ。…(略)…ドイツ経済に打撃を与えたユダヤ資本家のやり口。そのための、ドイツ悲惨飢餓西欧ユダヤ人70万人のうち、50万人がドイツに集中し経済を牛耳っていた。ベルリンの大デパートはすべてユダヤ資本家ものだった。あのすさまじいインフレ時代大工場の経営者たちは紙屑のようなインフレ紙幣労働者賃金を払い、製品外国に売り莫大な利益外貨で得た。p191

 敵国ポーランドであっても事情は同じで、ユダヤ人経済の70%を握っていた。ゆえに、ポーランドでのユダヤ人排斥は苛烈を極めた。

 こういう状況(自分の国の経済が異民族に乗っ取られている)って、日本人には(今のところ)想像できない事態なのだけども、鬱積した不満がユダヤ人に向いた、統治者はそれを利用した。もちろん、ユダヤ人が持つ富も奪い取った。という方向へ向かうのも、非常に理解できる流れではあるよなー、と思う。

総統の子ら (中) (集英社文庫)

総統の子ら (中) (集英社文庫)

 映画黄色い星の子供たち』では、フランスに住む貧しいユダヤ人たちの多くがフランス人に匿われたり助けられたりしているけれど、フランスでのユダヤ人の位置ってどういったものだったのだろう、というのも気になるところだ。

 さて、下巻はいよいよ泥沼な戦争描写か。明日はなんと休日ギリギリにならないと1ヵ月のシフトが分からない)だったので、明日までに読めればいいな。

2011-12-15

[]総統の子ら(上) 総統の子ら(上) - うさぎとちょこれいと を含むブックマーク

 ひきつづき皆川ワールドに浸る。上巻では、13歳の少年カールが、壮絶な試験を潜り抜け、入学したナチのエリート養成所「ナポラ」での日々が描かれる。そこは、「愚者と弱者は生きることを許されない」世界だ。まだ戦争の影は濃くはなく、少年どうしの友情や諍いなど、今のところまでは、ある種ギムナジウムものとして読める。もちろん、当時の世界情勢も綿密に描かれていて、読んでいると、心情的にドイツ人になるというか、ヴェルサイユ条約でこてんぱんに凹まされたドイツ人の怨嗟がとても理解できるような気になります……。

 図書館で借りたときに、挫折したのが嘘のように、グイグイ引きつけられる。今日も、仕事から帰ったら、『総統の子ら』を読むんだ、と楽しみにして仕事してた。図書館で借りた単行本が、筋トレかよ!と言いたくなるほど重かったんで挫折してしまったのでしょうな。文庫万歳。

総統の子ら (上) (集英社文庫)

総統の子ら (上) (集英社文庫)

 本書とは関係ないが、友人のお兄さんが亡くなった。突然の事故だったそうで、鞄には読みかけの本が3冊入っていたそうである。友人とそのお兄さんの仲が良くないのは、以前から聞き及んでいたが、それでも肉親を亡くす、というのは耐え難い悲しみだろうと思う(なにしろ、まだまだ亡くなるような年齢でもないし)。「DVDレコーダーに録っておいてあげたのも見ないまま逝っちゃって」と、友人は言っていた。

 私もある日突然死ぬことになって、今わの際に「あ、ゾラの『壊滅』読んでないままやった……」と後悔することのないように、特別美味しそうなものから先に読もう。そうしよう。

2011-12-14

[]開かせていただき光栄です 開かせていただき光栄です - うさぎとちょこれいと を含むブックマーク

 18世紀のロンドン。解剖医ダニエルとその弟子たちは、「もっと死体を!」とばかりに、日々死体を墓あばきから買い漁っては解剖している、気鋭の者たちの集まりだ。目下絶賛解剖中、というところをボウ・ストリート・ランナーズに調査に入られ、あわてて死体を暖炉に隠したところから話は転がりはじめる。秘密の仕掛けを施した暖炉から、解剖中の死体のみならず、四肢が切断された少年の死体に次いで、顔が潰された男の死体までもが発見されたのだ。

 やがて少年の方の死体は、詩人になるために、若くしてロンドンに赴いていたネイサン・カレンであることが分かる。本筋と並行してネイサンの物語も語られるのだが、貧しい身の上ながら、古詩を贋作できるほどの有り余る才能、不幸にして、無実の罪で監獄に入れられ、出たあとも、ある者の奸計に嵌り、と、この部分の物語も非常に面白い。18世紀のロンドンでの暮らしや空気が伝わってくるようでもあり、作中もっとも華のある?部分なのではないかと思う。

 腐女子受けすると評判の皆川先生だが(個人的に皆川先生好きな腐女子は信頼できる腐女子だと思っている)、今回も、おのおののキャラを脳内萩尾望都の絵柄に変換しまくり。他の人の評では、エドワード・ターナーを『ポーの一族』のエドガーに、ナイジェル・ハートをアランに脳内変換して読んだ、というのを見つけましたが、ピッタリですね!ただ、たいていの人はダニエル先生に感情移入して読んでしまうと思うので、言うとネタバレになるカモだけども、エドワードとナイジェルの行く末、言動には終始ハラハラしっぱなしであった。

 今年の、いろいろなミステリランキングでオール3位独占中、ということで、ファンとしては喜ばしい限りです。耽美な表紙、皆川先生にしてはラノベ寄りな感じなのが功を奏したのかな。いっぱい売れて絶版になってるやつも再販(『薔薇密室』の文庫化ちょう希望)してくれるといい。皆川先生というと年のことに触れるのは、毎度失礼かと思うけれど、このコラーゲンとヒアルロン酸たっぷりの文章で81歳?!と驚愕させられる。堪能しました。ごちそうさま。