一緒に東京定期を聴こう 第8弾 ラン・シュイとドイツロマン派の巻 その3 ブラームス

●で、ブラームス交響曲第1番です。
9月にやったマーラー 交響曲第3番では、今回演奏するブラームス作品の第4楽章のメロディに似ている、という話をしたと思います。またこのブラームスのメロディは、昔からベートーヴェンの第九交響曲のメロディに似ている、と言われてますよね。じゃ、これを聴いてどう思うかな・・・?

♪ハンス・ロット 交響曲第1番

似てるって思います。とうとうと流れて、国歌みたいですね。

●最初弦で、そのあとにトゥッティで展開するのもそっくり。ハンス・ロットの交響曲第1番は、昔日本初演を日本フィルが沼尻さんの指揮でやりました。ハンス・ロットはマーラーと同世代の人で26歳で自殺しちゃうんですけれど。もっと生きていたら良い曲残してくれたと想うと残念。彼はもろにブラームスの影響を受けていることがわかりますよね、この曲を聴くと。
個人的にはブラームスという人には思い入れがあります。なぜならば、サントリーが昔「響」というウィスキーのコマーシャルをやっていた時に、カラヤンが指揮するブラームスの第1番シンフォニーの第4楽章のメロディを使っていて、それが私のクラシックをちゃんと聴こうと思ったきっかけの一つなんですよ。で、今回サントリーのHPを調べてみたら、「響」チーフブレンダーの方は長年ヴィオラをたしなんでいて、ウィスキーのブレンドにあたりブラームス交響曲第1番の第4楽章をイメージしていたんだそうです。あのCMがこの曲に基づいているということをわたしも今回初めて知りました。だからサントリーホールで聴くべき曲なんですよ!歴代カラヤンをはじめありとあらゆる有名な指揮者がサントリーホールブラームスの1番をやっているわけですし。

ブラームスはかなり慎重だったというか。自分自身がヨーロッパの伝統を引き継いでいるという自覚もあったんでしょう。ベートーヴェンの後継者ということもすごく意識していた。だから1番シンフォニー書くのに21年かかっているんです。1855年だから彼が22歳から書き始めて、書き上げたのは76年。43歳の時。
その前に彼が書いたオケ曲としては「セレナード第1番」や「同第2番」、ピアノ協奏曲第1番が挙げられます。このコンチェルトも本当は交響曲を予定していたのですが結局途中でピアノ協奏曲になってしまった。この曲を書き上げた時彼は22歳ですけれど、そんなに若い人が書いたとは思えない渋さです。

ただならぬ音がするんですよね。

●最初からティンパニ連打とか。第1番シンフォニーに繋がると言えば繋がる部分もありますよね。20代前半の作曲家が初めて書いたのに50分近くかかる超重量級のコンチェルトってのも凄い。

♪ ピアノ協奏曲第1番第3楽章

●他にシンフォニー前に書いている有名なオーケストラ曲と言うと、《ドイツ・レクイエム》があります。

時間をかけたんですね。

ベートーヴェンの亡霊に追われたわけですよ。さんざん逡巡して43歳になってやっとシンフォニーが書けた。

交響曲第1番って、どうしてあんなに出だしがとんでもなく悲劇的で、終楽章があんなに平和そうなんだろう・・・

●ははは。一つには、これc mollですけれど、ベートーヴェンの《運命》も c mollでしょ。運命の第4楽章も長調で終わります。ここもかなり意識したのかも。まずは踏襲した。それで第2番交響曲は平和におわりますし、第3番はまた不思議で静かに終わる。第4番は最後にパッサカリアというバロックの形式を持ち込んでちょっと独特な展開をします。色々と第2番以降は冒険したけど、ひとまず第1番は定石にのっとったのかも。だから始まりは

♪ ブラームス 交響曲第一番 第一楽章冒頭

この出だしもいろんなテンポがありますよね。

●最初からティンパニの刻みと、弦トゥッティのとうとうと流れる旋律というのも、かなりインパクト強いですよね。

この世の終わりみたい(笑)。
日本フィルのこの曲演奏は、延原武春さん以来ですか?

●そうですね。延原さんと第2楽章の初稿版の演奏、録音をしましたよね。あれもナカナカ面白いですよ。

ブラームス 交響曲第1番 第2楽章

第2楽章はヴァイオリンのソロが有名です。今回コンサートマスターは扇谷さんです。

●第3楽章は、第4楽章への序奏というか、インテルメッツォというか。

ブラームス 交響曲第1番 第3楽章

さらさらしてますよね。

クラリネットきれいですよね。この曲は3部形式。ブラームスのシンフォニーって、中間楽章がとても小味が効いていて、第2番の第3楽章聴いてみましょうか。

ブラームス 交響曲第2番 第3楽章

●田園風景、牧歌的な感じ。これがマーラーになるともうちょっと毒が効く感じに。第3番の第3楽章も有名。

ブラームス 交響曲第3番 第3楽章

●教会のコラールのようですよね。中間楽章に手を抜かない(?)ブラームス、素晴しいですよね。

弦を歌わすの好きだったのかな。

●本人はピアノを弾いたらしいんですけれど、弦の扱い非常にお上手(笑)。さていよいよ第4楽章です

ブラームス 交響曲第1番 第4楽章

●第3楽章は穏やかなメロディなんですけれど、第4楽章のあたまでまた不穏な空気に一端戻ります。巨人の歩みのようなピツィカート。このあとにトロンボーンのコラールが出てきます。

第4楽章第1主題の有名な弦のトゥッティは、どうしてああいうメロディに落ち着いたんでしょうね、何かドイツの人たちが持っているメロディがあるんでしょうか。

●民謡に基づく、とか色々言われてはいるけれど・・・私たちが聴いてもいいメロディですが、向こうの人たちにとってはDNAくすぐるものだったりするのかもしれませんね。

♪ トロンボーンのメロディからフルートのメロディに受け渡されます。

●そうだ、トロンボーン 第4楽章まで吹きません。シューマンブラームスもただならぬ響きがしますけれど。ブラームスはどこまでいってもギラギラはせずに、渋いと思います。

♪ 第4楽章終わる

今回はとにかく、ラン・シュイという日本ではあまり知られていないアジア人指揮者に注目して頂きたいですね。あとは初期ロマン派〜中期ロマン派というこのプログラムは、初めての指揮者聴くにはいい選曲だと思うんです。特にブラームス1番などは、皆さん色々と聴いたことがあるかもしれない。CDでも。それで今回とどう違うのか、分かりやすいですよね。

あえて他の指揮者と比べて下さい、ということですね。

●そう、あえて比べて下さい、で良いと思う

それでは、今週末は日本フィル東京定期へいらしてください。

日本フィル第637回東京定期
2012年1月20日(金)午後7時開演
1月21日(土)午後2時開演
サントリーホール
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