2013/06/03 山田和樹の西方見聞録<5月8・12日 スイス・ロマンド管弦楽団>

5月8・12日 スイス・ロマンド管弦楽団

フィルハーモニア管、ベルリン放送響と続いたこともあって、今回はジュネーヴに”戻ってきた”感覚、「だだいま〜」という想いが心底強かった。
率直に「また会えて嬉しい」と言う僕をメンバーは拍手で迎えてくれる。ホームグラウンドがあるということはとても幸せなことだと思う。

フォーレ/レクイエム
ラヴェルバレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲

「ダフニスとクロエ」全曲は僕にとって初挑戦。
フランス音楽に抜群の適性を示すスイス・ロマンド管と初演奏をしたくて選曲した。当然彼らのレパートリーと思っていたのが、意外なことにこの35年間のうちには3回しか演奏してないと古株の団員が教えてくれた。
パート譜にミスが多く手間取りもしたが、さすがにスイス・ロマンド、瞬時に曲想を理解して、豊穣なサウンドと、えも言われぬ雰囲気が立ちこめていく。彼らはラヴェルの音楽が大好きだし、もちろん演奏法にも精通しているから、僕があれやこ
れやと注文をつけなくてもちゃんと仕上がっていくのだ。
音楽大学生による合唱団はさすがに音程など完璧だし、発声もきちんとしていて心地よい。
「レクイエム」では、特に弱音の表現に拘ったのだが、合唱団もオーケストラも静謐な雰囲気を上手く出してくれたと思う。
5月12日の演奏会には、なんと音楽監督ネーメ・ヤルヴィ氏が聴きにいらして下さった。
翌13日には、マエストロの練習を終日見学させてもらったのだが、団員は「ボスが二人もいる!」と笑っていた。
エストロのオーケストラ・ドライヴ法は強烈だ。彼の一振りでオーケストラが右に左に自在に動いていく。それでいてリハーサル中でもマエストロは二度と同じ音楽をされない。その瞬間瞬間の良い所を紡いでいって、大きな造形をされていく。
やはり音楽は生き物なのだ、と再認識。とても勉強になった一日だった。
エストロは一見強面なのだが、話相手が笑うまで話続けるようなところがあって、ユーモアたっぷりの愛すべきお人柄。帰りも「これから孫に会うんだ。僕はトラムが好きで…」と普通に路面電車に乗っていかれた。その大きな背中を見送り
ながら、いつの日か少しでも彼の紡ぐ音楽に近づくことができたらと思った僕だった。