Hatena::ブログ(Diary)

japanphilblog

2015-05-05

山田和樹の西方見聞録 2015年5月1・2日 ユタ交響楽団【アメリカ・デビュー】

長く待たなければいけない入国審査。一昔前のロシアもかなり時間がかかったものだが、今ではアメリカのほうが断然待たせられる。

そんなストレスを少し感じながらも一歩外に出てみれば、そこには「自由」の空気が。

アメリカ横断ウルトラクイズ』で見ていたような景色が眼前に広がる。雲一つない真っ青な空に、雪を被った高い山、緑溢れる丘。スケールが違う。

オーケストラのマネージャーが空港まで迎えに来てくれた。ものすごく親切な人で、話しているうちに疲れも吹っ飛んだ。

しかし今回は強烈なジェット・ラグ、時差に悩まされることになった。

日本からベルリンに戻ってすぐ二日後にアメリカに飛んだものだから、7時間+8時間の時差がのしかかってきた。普段は時差には強いと自負しているのだが、今回ばかりは参った。夕方の睡魔に負けて寝てしまうと、起きるのは0時前後。それから一睡も出来ないまま午前のリハーサルに突入していくことになるのだ。結局本番一日目に無理矢理調整して乗り切った。

オーケストラはすこぶる機能的で、何よりホールの音響が素晴らしかった。自分のいつもの調子でやると、金管楽器打楽器が強くなり過ぎてしまうので、バランスに注意が必要だった。最初は弦楽器が薄いかなと思ったのだが、本番に向けてどんどん鳴ってきた。

自分の下手な英語にも熱心に耳を傾けてくれて、リハーサルは好調に進んだ。そして本番を迎える前に次回の話をもらえたのは本当に嬉しかった。

音楽監督であるティエリー・フィッシャーさん(元名古屋フィル常任指揮者)もリハーサルに来て下さった。初めてお目にかかったのだが、柔らかな素晴らしいお人柄に感銘を受けた。

地元密着のオーケストラという感じが強く、聴衆も熱狂的だった。前半のグラズノフが終わってスタンディング・オベーションになり、後半のサン=サーンスでは曲の終了と同時にお客さんが総立ちになったのにはビックリした。

印象的なアメリカデビューを迎えることが出来て、心底嬉しい。

2015-05-03

山田和樹の西方見聞録 2015年4月16・17日 RAI国立交響楽団【イタリア・デビュー】

日本で言うトリノは、イタリアでそのままTorino。だが英語になるとTurinになる。 今回はフランクフルトで乗り換えで、5分違いの便でTallin(タリン)行きがあったので一瞬間違えそうになった。 この他にも、各言語で地名の言い方が変わってくる例はいくらでもある。フィレンツェは英語にするとフロレンスだし、ジュネーヴドイツ語ではゲンフ、そしてイタリア語モナコと言えばミュンヘンのことを指すそうで、かなりややこしい。 トリノミラノに次いでイタリア2番目の工業都市だそうだ。 街はキレイに碁盤の目状になっていて、地図は京都に似ている。 イタリアオーケストラを指揮するのは初めてだったから、半分興味津々、半分不安をもって向かった。 確かにリハーサルで演奏を止めるとすぐに団員の「おしゃべり」が始まるのだが、思ったよりは騒々しくない。フランスオーケストラでも似たようなことはあるので、恐れていたほどではなく安心。 順調に進む。 イタリアと言えば、美味しい食事! リハーサルを午前中で終えて、ゆったりランチを食べようとオープンテラスのレストランに入る。スパゲティだけを注文したのだが、「サービスです」と言ってシャンパンと前菜が出てきて得した気分に。さらに食後にまた「サービスです」と言ってデザートの一口盛り合わせが。大満足、イタリア最高。 チャイコフスキーヴァイオリン協奏曲では、ニコライ・ズナイダーと初共演。彼は指揮活動にも力を入れていて、前にこのオーケストラに来た時には指揮者として来たらしい。オーケストラは彼が大好きなようで、始まる前から大歓迎の様子。演奏もエキサイティングで皆満足。 「シェヘラザード」も充実の演奏ができたと思う。 また再来年には共演できる予定。早くこの街をまた訪れたい。

山田和樹の西方見聞録 2015年3月14日 トゥールーズ・キャピトール国立交響楽団

トゥールーズオーケストラと共演するのはこれで4度目。

以前の3回は全てフランス音楽での共演だった。今回初めて、ドイツ音楽を取り上げることに。

大好きなR.シュトラウスの音楽を中心に、前半はブラームスピアノ協奏曲を。

このオーケストラオペラもよく演奏しているので、単に技術的に優れているだけでなく、柔軟に音楽を捉えられるのが素晴らしい。

プログラムのプロフィールの最後には「この若い日本人の指揮者は、トゥールーズオーケストラとラヴ・ストーリーを続けている」とオーケストラ側が加えた一文があって、何とも嬉しかった。

ピアノ協奏曲ソリストはアダム・ラルーム。トゥールーズ出身とのこと。まだ若いながら、大変な才能の持ち主であった。本番になると「化ける」タイプのソリストである。

新鮮はブラームスを聴かせてくれた。

今シーズンは2月の「火刑台上のジャンヌ・ダルク」と合わせて2回の登板になったのだが、モンテカルロ・フィルの音楽監督に就任するに当たって、今後は年1回ペースになってしまうのが残念ではあるのだが、来シーズンにはまたフランス音楽(!)で共演する予定である。

2014-11-12

山田和樹の西方見聞録 2014年10月29・31日 スイス・ロマンド管弦楽団

7月の日本ツアー後、新シーズンになって初めての顔合わせ。

フランス的ジョークで「もう随分前のことだなあ」と言う団員もいながら、拍手で歓迎してくれる。

日本ツアーで制作したTシャツを着てくれている人もいて嬉しい。

今回はコンチェルトをメインにしたプログラム

藤倉大/Rare Gravityスイス初演)

ルーセル/「バッカスアリアーヌ」第2組曲

ブラームスヴァイオリン協奏曲(独奏:バイバ・スクリーデ)

f:id:japanphilblog:20141029131133j:image:w360

藤倉大氏(年上なのだが「大ちゃん」と呼ばさせていただいている)も家族一緒に駆けつけてくれた。彼と会うとなるとこちらも気合いが入る。というのは、大ちゃんはもの凄く頭の回転が早く、ジェットコースターのような会話になるのが必至だからだ。今回も多岐に渡る話が出来て刺激的だった。

肝心の演奏は、日本での世界初演とはまた違った趣になって面白かった。やはり本拠地ヴィクトリア・ホールでの演奏は、目に見えない何かの作用が起こり、独特の雰囲気が漂うのだ。

この作品は年明けにチェコ・フィルでも演奏が予定されていて、その時も大ちゃんが来てくれるという。

ルーセルブラームスは、2週間前にリヨン国立管弦楽団でも演奏したばかり。意図した訳ではないのにプログラムが重なる、という偶然がまた面白い。

今回リハーサルが始まるまで知らなかったのだが、ルーセルの「バッカスアリアーヌ」第2組曲は、1985年から12年にわたってオーケストラと相思相愛にあった音楽監督アルミン・ジョルダンの時代の定番レパートリーだったそうだ。それからはあまり上演されていないとのことだったが、あたかも日々慣れ親しんでいるようなサウンドが広がる。今回初めて演奏するメンバーも多いのに、確実にオーケストラに染み込んでいる伝統というのがあるのだな、と感心した。

特に第2組曲に関しては、注意していないと、ただうるさいだけの曲になってしまいがちなのだが、二日目の本番などでは、静かな部分の色合いや雰囲気も良く出ていたと思う。

ブラームスのソロはバイバ・スクリーデ。僕の希望で招聘が実現し、スイス・ロマンド管とは初共演になる。

彼女とは2年半前にワイマール歌劇場管とコルンゴルト協奏曲で共演して、すっかり魅せられてしまった。彼女には不思議な魅力があり、音だけでなく身体から音楽が放射されているようで、実にオーソドックスに演奏するのに、極めて高い集中力を維持することが出来る。

今回も実に「芯」の通った、伝統に根ざしたブラームスを聴かせてくれた。彼女のように演奏中に「会話」が出来るソリストとの共演は本当に楽しく嬉しい。

スイス・ロマンド管とは今シーズン、12月・1月・5月・7月に共演する予定だ。

山田和樹の西方見聞録 2014年10月17・18・20日 ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団

実に長い名前のオーケストラ。二つの街のオーケストラ合併して、現在の名称になった。団員もそれぞれの街に半分ずつ住んでいるので、今週はザールブリュッケンで練習、来週はカイザースラウテルンで練習といったローテーションになっているらしい。

日本にもたびたび来日していて、指揮者スクロヴァチェフスキさんとのコンビで有名だが、意外なことにスクロヴァチェフスキさんはこのオーケストラの音楽監督に就任したことはなく、長い間「首席客演指揮者」として大きな存在感を示している。これも素敵な関係だなと思った。

僕がこのオーケストラを指揮するのは2年半ぶり。前回も素晴らしいオーケストラだな、と思ったのだが、今回もまた素敵な時間を過ごすことが出来た。

藤倉大/Rare Gravityドイツ初演)

チャイコフスキーロココ主題による変奏曲(ヴィオラ版、独奏:マキシム・リザノフ)

リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェヘラザード」

スイス・ロマンド管の日本公演にて世界初演した藤倉氏の作品だが、ドイツのオケの手にかかるとまた違ったサウンドが現れた。特に現代音楽だとオーケストラ譜面の読み方で、サウンドが全く異なってくるから面白い。

ロココ主題による変奏曲」は、通常のチェロ独奏ではなく、ヴィオラ独奏で。

マキシム・リザノフが素晴らしいソロを聴かせてくれた。彼は指揮者としても活躍している多才なアーティストだ。

「シェヘラザード」はオーケストラの総力をあげて、圧巻の音絵巻になったと思う。特にコンサートマスターが奏でるシェヘラザード王妃のテーマが美しかった。

このオーケストラは、現実主義的なドイツの中にあって、テレパシーが通い合う稀有なオーケストラだと思う。割としかめっ面の人も多いのがドイツのオケの常なのだが、フランスとの国境が近いせいか、皆ニコニコしていて雰囲気も温かい。またすぐに共演したくなるオーケストラの一つだ。

山田和樹の西方見聞録 2014年10月9〜11日 リヨン国立管弦楽団

10月5日に「せんだいクラシック」にて仙台フィルとの共演を終えて、最終新幹線上野に着いた時にはすでに台風の大雨だった。

翌6日朝の飛行機は8時間遅れとなり、乗り換えのフランクフルトで一泊せざるを得ず、7日の午前中の初練習をすることが出来なくなってしまった。オーケストラの機転で、分奏に振替えてもらい、僕は午後からの参加に。初日は曲を通すだけで精一杯のリハーサルになってしまった。

このオーケストラ1969年に創設された比較的新しいオーケストラで、現在の音楽監督はレナード・スラットキン氏。同じくリヨンオペラオーケストラリヨン歌劇場管弦楽団大野和士さんが音楽監督をされている。

面白いのは、この一つの街の二つのオーケストラが”同時”に、今年7月に来日公演を行っていたことだ。これは珍しい。加えて、リヨンからそう遠くないジュネーヴの我がスイス・ロマンド管弦楽団もまったく同じ時期に日本公演をしていたのだ。

リヨンジュネーヴは距離は近いのだが、国境を挟むせいか、オーケストラの個性はまったく異なっているのが面白い。僕の感覚でいうと、音の密度がリヨンのオケのほうが濃いように思う。

10月9・11

ブルーノマントヴァーニ/タイム・ストレッチ

ブラームスヴァイオリン協奏曲(独奏:イザベル・ファウスト

ルーセル/「バッカスアリアーヌ」第1・2組曲

10月10日

サン=サーンス歌劇サムソンとデリラ」よりバッカナール

ドリーブ/「シルヴィア」組曲

ルーセル/「バッカスアリアーヌ」第2組曲

曲目が多いことと、リハーサルが短くなってしまったことで、オーケストラを疲れさせてしまったのではないかとも思ったが、本番では端正でありながら、実に熱のこもった演奏に結びついて嬉しかった。

願わくばホールがもっと良ければ、と思ってしまうのだが、だいたいフランスには良いホールが無い(笑)

日本からの目線で、クラシックの本場ではさぞ立派なホールがひしめき合って、という想像はここフランスでは打ち砕かれることになる。

しかし、そのような環境の中で、フランスオーケストラ特有の色彩感ある煌びやかなサウンドが培われてきたのもまた事実であり、オーケストラとホールの関係は常に面白い。

2013-11-22

山田和樹の西方見聞録 2013年11月20日 モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者就任発表

生まれて初めてヘリコプターに乗った。

ニース空港からモンテカルロまで車だと30〜40分かかるところをヘリコプターだとたったの7分。もっと怖いものかと想像していたが、思いのほか快適だった。

モナコ公国を訪れるのは今回で4度目。モンテカルロフィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者への就任発表のためだ。

2011年に音楽監督であったヤコフ・クライツベルク氏の逝去に伴い、その代役として同団を指揮したのが最初の出会いだった。オーケストラとクライツベルク氏との関係はすこぶる良いものだったそうで、オーケストラ全体を悲しみが覆っていた。音楽監督を失ったオーケストラというのは方向性を見失ってしまう危険があっただろう。その中でも僕との演奏会はとても上手くいったらしく、それ以来オーケストラと親密な関係がスタートすることになった。

2012年に定期演奏会に登壇した時も、今年の夏の音楽祭の時も、最初のリハーサルでは、まだチューニング途中だというのに万雷の拍手で迎えてくれたことが嬉しかった。

僕はフランス語が話せる訳ではない。それでも練習番号などは最低限フランス語で伝えるように努めているのであるが、どういう訳か、ここモナコでは僕のフランス語は通じにくい。パリでもジュネーヴでも問題なくいくのだが…ひょっとしたらいわゆる「訛り」の問題かも知れない。ここモナコは一方を地中海に、三方をフランスに取り囲まれているが、目と鼻の先にはイタリアが。その分イタリア料理は美味しいのだが、言葉でもそれなりに違いがあるのかも知れない。

ということで正直、言語でのコミュニケーションには少々難ありなのだが、それが音楽を作っていく上では全く問題にならないオーケストラでもある。僕の頭の中のイメージを嗅ぎ取り、雰囲気を掴みとっていき、全体が一つになった時にはこのオーケストラ特有の独特な一体感が生まれる。

オーケストラとの良好な関係もそうなのだが、今回特に嬉しかったのは、現在の芸術監督であるジャンルイジ・ジェルメッティ氏からの強い推薦があったことである。マエストロ・ジェルメッティが僕の演奏会に来てくれたのは一回だけなのだが、その一回の印象で僕を首席客演指揮者として招くことを決めてくれたらしい。

実は僕が高校生の時、初めて自分でチケットを買って聴きに行ったコンサートは、日本フィルの横浜定期演奏会なのだが、その時の指揮者がマエストロ・ジェルメッティだったのである。その時の感動的な演奏は今でも鮮明に覚えている。ブラームスの第一交響曲だったのだが、緊張感溢れる演奏に身震いしたものだった。その僕が今では日本フィルの正指揮者を務めていることなど、この面白い「縁」についてマエストロと話が盛り上がった。

就任発表の後、マエストロとご飯を一緒に。イタリアンの美味しい料理やワインをいただきながら、どんどんと演奏会の曲目が決まっていく。「ここでは好きな曲を自由に取り上げて欲しい。何をやりたい?」と言うマエストロに、僕は一つ一つ曲目を挙げていくのだが、気づけばそれでほとんど二年間のプログラムが出来上がっていた。

本当に気さくなマエストロで、「人間」そのものを大切になさる温かい人柄に、周りの人は思わず顔が綻んでしまう。

敬愛するマエストロ・ジェルメッティとコンビを組んで、モンテカルロ・フィルに関われることを本当に嬉しく思っている。

首席客演指揮者としての任期は2014年9月から2年間、年に2回の定期演奏会と、宮殿の中庭で行われる夏の音楽祭、特別演奏会、演奏旅行に参加していく予定である。

2013-11-13

山田和樹の西方見聞録 9月20・21日 トゥルク・フィルハーモニー管弦楽団

フィンランドー森と湖の国。ムーミンとサンタクロースの故郷としても知られている。作曲家ではシベリウスを輩出した国だ。

トゥルクは、そのフィンランドの第3の都市にあたる。首都ヘルシンキから西に電車で約2時間の場所にある。

実は僕がここを訪れるのは2回目。もう10年も前に、ヨーロッパを転々と一人旅行していた時期があって、ここトゥルクにも立ち寄った。主な目的はシベリウス博物館を訪ねることだったのだが、足を伸ばして「ムーミンワールド」にも行ってきた。「ムーミンワールド」はトゥルクからさらにバスで30分少し、ナーンタリという街の入江に浮かぶ島にある。あのアニメに出てくるムーミンの家があって、もちろんキャラクター達も勢揃いで、とても楽しいテーマパークなのだが、周りはもちろん家族連れだらけ、大の男一人だけというのが少々恥ずかしかった(笑)

いつものように練習初日の前日に現地入り。

今回は大阪フィルの定期演奏会を終えて、日本からの移動だったのだが、トゥルクに着いてその気温差に唖然。秋を通りこして「冬」という感じで、コートが必要だった。

トゥルク・フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会

武満徹/3つの映画音楽

ジョン・ウィリアムズ/The Five Sacred Trees(ファゴット独奏:ミッコ・ペッカ)

グラズノフ/交響曲第5番

トゥルク・フィルの音楽監督は、日本でもお馴染みのレイフ・セーゲルスタムさん。その容姿からサンタクロースを彷彿とさせるようなマエストロなのだが、ご本人は「ブラームスに似ている」と仰るそうである。セーゲルスタムさんは作曲家でもあり、交響曲はなんと250曲以上!

ちなみに、僕の前の週の客演指揮者は、ピエタリ・インキネンさん(日本フィル首席客演指揮者)だった。縁を感じる。

さて、グラズノフから練習開始。

その序奏からもう感動してしまうほどの豊穣な音楽が流れる。舞台上の響きも素晴らしく、身体全体が音で包まれるようだ。ここのオーケストラの音色を口で説明するのは難しい。すごく澄んでいてピュアな音なのだが、それでいて迫力があるという、、。特に弦楽器のサウンドは僕がこれまで耳にしたことのないものだった。最初からコミュニケーションもうまくいき、作品への共感も同じように持てた感触

だったので一安心。無事に初日のリハーサルを終える。

次の日からは、ジョン・ウィリアムズのファゴット協奏曲の練習も。ジョン・ウィリアムズといえば、「スター・ウォーズ」「ハリー・ポッター」などポピュラーな映画音楽の印象が強い。しかしながら、今回のファゴット協奏曲は、どちらかというと現代音楽寄りの難しい音楽。練習もさぞかし大変だろうと思ったのだが、オーケストラは難なく演奏してしまう。音楽監督のセーゲルスタムさんの影響だろうか、このオーケストラ現代音楽にも慣れているようで、機敏なアンサンブルを見せてくれた。

ソリストのミッコ・ペッカさんは現在、ヘルシンキ・フィルの首席奏者。ファゴットでこんなことも出来るんだと、その超絶技巧には息を呑んだ。学生時代、トゥルクで音楽の勉強をしていたそうで、先生はもちろんトゥルク・フィルのメンバー。

師弟の共演、さぞかし嬉しかったことと思う。

武満さんの曲も順調に練習が進む。曲自体は、アメリカン・ジャズ風だったり、ドイツ・ワルツ風だったりするのだが、オーケストラからしてみれば、日本人作曲家の作品を日本人指揮者と演奏するとあって、練習中から敬意が溢れていた。

そして演奏会。二晩行われる。

リハーサルからフルパワーかと思ったのだが、それ以上に素晴らしい音楽が流れる。

特に交響曲で、初日の3楽章の高揚感と、二日目の4楽章最後の一体感は忘れられない。

全てが一体となっている時、自分が透明になっているような印象を感じる。ひょっとしたら、指揮者というのは自分の存在をなくすために努力する、そんな側面があるのかも知れないと思った。

演奏会を終えて、ベテランのフルート奏者が、「演奏しながら、アケオ・ワタナベを思い出した」と言いに来てくれた。

フィンランドとゆかりの深い渡邊暁雄先生、聞けばトゥルク・フィルにも客演されていたらしい。師匠の師匠である渡邊暁雄先生と何か通じるものがあったのだろうか。指揮者の系譜において受け継がれる血、DNAのようなものを感じるエピソードで心底嬉しかった。

また、首席チェロ奏者も両手を広げて来てくれて、抱擁。

「素晴らしかった。またすぐ来てくれ。でもその時に僕はいないけど」と満面の笑みで言うのだ。(定年制度だろう、リタイアの時を迎えようとしているのだ)

僕は嬉しさと切なさがごっちゃになった気持ちだった。

お客様との出会いが一期一会なように、考えてみればオーケストラも、そのメンバーで一緒に演奏することは一生に一度しかないのではないだろうか。

一日一日を大事に、一回一回の本番をもっともっと頑張らなくてはと想いを新たにした。

〜トゥルク・グルメ情報〜

☆「やすこの台所」

その名の通り、「やすこ」さんがやっている日本食屋さん。トゥルクの日本食屋さんはここだけ!日本人コミュニティの中心になっている店でもある。

僕も毎日お世話になった。おふくろの味が、体にも心にも優しい。

☆ヘスバーガー

フィンランドのハンバーガーのチェーン店。ここトゥルク発祥で、1号店も現存しているとか。旅先に来てまでファストフードなんてと思い、しばらく食べなくて損をした。とにかく美味しい(感想には個人差があります)。ソースに秘密がありそうだ。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン  2012年 8月2・3日ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭 

今回は初共演のパリ室内管弦楽団と参加。モーツァルトの交響曲35番と38番のほか、僕の大好きな二人のピアニストと

一緒できることになった。ジャン=クロードゥ・ぺヌティエさんはフランスを代表するベテランピアニスト。

昨年もモーツァルトでご一緒して感激、自分のほうから再共演を申し出た。もう一人は、フランチェスコ・ピエモンテージさん。

若手ながら、自分で主催する音楽祭も持っている逸材だ。彼の感性は本当に素晴らしい。シューマンのピアノ協奏曲の冒頭からして、彼の世界に満たされていった。

ラ・ロック・ダンテロン音楽祭のメイン会場は野外なのだが、これがまた独特の素晴らしい雰囲気。お客さんの集中力が凄まじく客席は静寂なのだが、周りの木々に止まっている虫々の鳴き声がずっとしている。不思議とその鳴き声が騒音にはならず、逆に音楽と同化してるような感覚になるのだ。自然に囲まれたステージを中心に、人も動物も植物も、しばし音楽に耳を傾ける宵の一時。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン  2012年 7月2・4日スイス国際音楽アカデミー 

小澤征爾さんが主宰しているアカデミー。世界コンクール優勝者などの強者を集めて弦楽四重奏曲(カルテット)を勉強する、という大変ユニークなもの。本当にすごいレヴェルの若者が結集する。小澤さんが来られないため代役で。といってももう3年目。

自分自身の勉強になるからと、指揮をするしないに関わらず参加させてもらっている。

講師陣が素晴らしく、今井信子さん、原田禎夫さん、パメラ・フランクさんの3人。2週間の合宿生活を通して、カルテットを合奏曲を仕上げて行く。今年の合奏曲は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲「セリオーソ」を。以前に1回指揮をしたことがあったのだが、やはりベートーヴェンは難しいと思った。

ジュネーヴ・パリの両公演を通して、自分にとって本当に勉強になったアカデミーだった。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン  2012年 6月13・14日プラハ交響楽団

街並みが世界遺産に登録されている美しい都市・プラハ。モルダウ河に、旧市街に、路面電車に、どこかノスタルジーを感じさせる街でもある。

有名なホールは2つ。チェコ・フィルの本拠地のドヴォルジャーク・ホールと、プラハ交響楽団本拠地のスメタナ・ホール。

スメタナ・ホールは外見も内部も本当に美しい。

オーケストラは、プラハの風情そのままの、伸びやかな雰囲気だった。ジュライ・フィラスさんというチェコの作曲家のトロンボーン協奏曲をやったのだが、現代音楽よりのこの曲を、オーケストラは難なく演奏していたのが印象的だった。

チェコ・フィルもそうかも知れないが、才能や技巧をどんどん表に出していくというよりは、内面に充満させていくような面がある気がする。能ある鷹は爪を隠す、というか。

ドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」、リムスキー=コルサコフ「シェヘラザード」。充実の演奏会になったと思う。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン  2012年 5月9・10日バーミンガム市交響楽団 

現在のベルリン・フィルの音楽監督サイモン・ラトル氏が、一躍脚光を浴びる舞台になったバーミンガム。それまでよく知られていなかったオーケストラを鍛え上げて一流レベルにした、という栄光のストーリー。

現在の音楽監督は、これまた破竹の勢いのアンドリス・ネルソンスさん。

さすがに素晴らしいオーケストラだった。

イギリスのオーケストラのリハーサルは一日だけ、というのは有名な話だろうか。お国柄か、効率性を重視した結果なのか、音楽家の賃金がとても安いのでオーケストラ以外の仕事もできるようにという配慮なのか、おそらくいずれも正解だろう。

たった一日!と思われるかも知れないが、それで演奏に支障があるかどうかと言われれば、答えは No。

故岩城宏之先生のお言葉。「オーケストラは練習すればするほど下手になる。一番できない人に合わせる方向にいってしまうから。練習は短いほうがオーケストラは上手くなる」

ラヴェル「マ・メール・ロワ」、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番を

ジェームス・エーネスと、リムスキー=コルサコフ「シェヘラザード」。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン   2012年 4月19日〜21日ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送交響楽団

何とも長い名前のオーケストラである。近い2つの街のオーケストラ合併して、このような名前になった。

ザールブリュッケン放送響といえば、何度も来日していて、ミスターSの名で親しまれている巨匠・スクロヴァチェフスキさんとのコンビの印象が強い。

ところが、音楽監督の写真が並んでいるところに、そのスクロヴァチェフスキさんの姿がないのだ。

聞いてみると、彼は音楽監督に就任したことはなく、ずっと首席客演指揮者という立場だそうだ。それはそれでとても素敵な関係だな、と思った。

オーケストラは素晴らしいアンサンブルを持っていた。サウンドはそこまでドイツ味ではなく、ニュートラルな澄んだ音の印象。アメリカプログラムで、ガーシュイン「パリのアメリカ人」とピアノ協奏曲、アイヴズの交響曲第2番。

ピアニストは、ベンヤミン・ヌスさんという若者だったが、この名前を是非覚えていて欲しいと思う。素晴らしい才能で、すぐに世界を席巻すること間違いなし。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン 2012年 4月6日〜14日イル・ド・フランス国立管弦楽団パリ近郊ツアー 

ベートーヴェン第1交響曲とモーツァルト「レクイエム」を7公演!

4月6日の初日が始まってしまうと、直しのリハーサルが取れないスケジュールだったので、僕はパート譜書き込み作戦を実行。毎日本番前に早く会場入りして、全部のパート譜にバランスなどの書き込みをしていく。この作戦が功を奏して、日ごとに演奏の内容は充実、最終日のパリの教会では、モーツァルトのお母さんが眠っている場所であることもあり、特別な感動を伴った演奏をすることが出来たと思う。合唱団はアマチュアだったので、仕事の都合で、毎日人数が増減していたりで難しい側面もあったのだが、よくやってくれたと思う。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン 2012年 3月7・8日マルメ交響楽団 

ロシアからそのままマルメへ。ハードなスケジュールが続くのは大変だが、素晴らしい音楽が出来ることは何よりも幸せなことだ。

マルメはスウェーデン第3の都市。もう少し華やかな街並みを想像していたのだが、割とドイツ風な様相だった。

しかし、川沿いの夜景はキレイだった!

サンクトペテルブルグに引き続き、ベートーヴェン第3交響曲「英雄」だったのだが、緻密なアンサンブルが行き届い

ていた。

ブラームスヴァイオリン協奏曲には諏訪内晶子さんを迎えて。日本人の指揮者ソリストが一緒になることは、そうそうない機会なのでとても嬉しかった。理性的で知的、それでいて情緒豊か、という素晴らしいブラームスを堪能させていただいた。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン 2012年 3月4日サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団 

サンクトペテルブルグ交響楽団と言うと、2つオーケストラがある。

ドミトリーエフさん率いる「アカデミー」と付けて呼ばれるオケと、以前はムラヴィンスキー、今はテミルカーノフさん指揮するこのフィルハーモニーオケだ。ロシアではこのように、ほとんど同じ名前なのに別団体ということが多々あり、外部のものからすると非常にややこしい。

何はともあれ超一流の集団だった。リハーサル初日からほとんど「完璧」なのである。これには驚いた。

ホールの響きももちろん素晴らしい。

ここにムラヴィンスキーをはじめ、数多くの巨匠が立ってきた、と思うと武者震いするような感覚。今どき珍しく、メンバー全員がロシア人であり、そのことがサウンドに与える影響は大きいだろう。

もう一つサウンドの秘密が。

パート譜を覗き込むと、まるで編曲されたようになっているのに驚いた。細かく音量の指示が追加されていたり、音自体の追加も!往年の指揮者の指示なのか、とにかくロシアだけで流通してる譜面は多いらしい。

プログラムは、ベートーヴェン第3交響曲「英雄」とR.シュトラウス「英雄の生涯」という超重量級のものだったが、ロシア人の体力からすれば何のその、朝飯前という風情だった。

ちなみにこの「英雄」プログラム2014年2月に日本で読売日本交響楽団とご一緒することになっている。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン 2012年 2月26・27日ワイマール歌劇場管弦楽団 

ドイツオーケストラの前に立つと、自分のドイツ語の未熟さを痛感するのが常なのだが、ここワイマールでは違った。

言葉の壁を感じない。何でこんなに皆にこやかなんだろう。ドイツオーケストラではないような、、そんな錯覚を感じさせる明るい雰囲気。気付けば、ここはオペラハウスのオーケストラなのだ。

日々、ドラマティックな音楽を演奏しているからこそ、雰囲気も華やぐのではないかと思った。

練習開始から本番終了まで始終お互いにニコニコしていただろう。曲目は決して簡単ではなかった。アメリカプログラムで、バーンスタインのキャンディード組曲(序曲ではない!)、コルンゴルトヴァイオリン協奏曲、コープランドの交響曲第3番。難曲揃いだったのに、オーケストラはよく健闘してくれて、本番も本当に楽しめた。

ヴァイオリンソリストは、バイバ・スクリーデ。

彼女にも本当に天賦の才能があると思う。音楽をしているときの眼は... 吸込まれてしまいそうで. . . 。

山田和樹の西方見聞録2011-12  2011年 12月2日フランクフルト放送交響楽団 


ドイツの中で高層ビルが立ち並ぶ、といったらここフランクフルトくらいだろう。巨大空港の機能と共にドイツビジネスの中心地である。

オーケストラは名門中の名門。かつてエリアフ・インバルさんが音楽監督で、マーラーやブルックナーを取り上げていた黄金期は今でも語りぐさである。今回の演奏会はその名も「デビュー」というシリーズで、僕のような若手指揮者や若手ソリストを迎えてくれる願ってもない企画であり、この「デビュー」演奏会から、グスターヴォ・デュダメルさん(僕と誕生日が一緒!)など多彩な才能が登場している。サン=サーンスの第3交響曲「オルガン付き」。何度も演奏してきた僕の大事なレパートリーであるが、フランクフルト放送響との共演はまた特別な感慨があるものだった。

最初はフランスものということで、音楽との間に距離がある感じだったが、リハーサルが進むにつれて馴染んでもらえたようだ。

併せて、チャイコフスキーピアノ協奏曲第1番を、新人ピアニスト・アルグマニャンさんと。日本では頻繁に演奏されるこの有名曲、何とフランクフルト放送響では30年ぶり!考えてみると、ドイツではチャイコフスキーの演奏頻度は日本よりずっと低いかも知れない。国が変わると、趣向も変わって面白い。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン 2011年 11月17・18日ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団 

フランスドイツの国境にある街。昔から交通と貿易の要所であり、ドイツ領になったりフランス領になったり歴史的に翻弄されてきた街でもある。両国の文化が混在していて、街を歩くだけで面白い。宮崎アニメ「ハウルの動く城」のモデルになったとされる家もあった。

チャイコフスキーヴァイオリン協奏曲と、ショスタコーヴィチの第5交響曲「革命」。「革命」は実は初挑戦。ショスタコーヴィチの代名詞とも言われる大作だけに、どことなく敬遠してきたのだが、今回はオーケストラの提案を受け入れて、挑戦することにした。リハーサルを3日間たっぷりもらうことができて、じっくりと試行錯誤、煮詰めることが出来たのが良かった。僕のフランス・マネージャーは実はロシア人なのだが、普段はとても厳しい目を持っている彼女に「非の打ち所の無いショスタコーヴィチだった」と言われた時は心底嬉しかった。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン  2011年 11月7・8日ローザンヌ室内管弦楽団 

ジュネーヴで演奏会をした翌日には、もうローザンヌでリハーサル開始という強行スケジュール。距離が近くて助かった。

レマン湖畔に行けば、まったく時が止まったかのようなローザンヌ。ジュネーヴとは雰囲気も人の気質も違ってくる。

まず、オーケストラが実に折り目正しいことに驚いた。鋭敏なアンサンブル力を備えたオーケストラだった。室内オーケストラというと、全世界的にノン・ヴィブラート寄りのピリオド奏法が主体になりがちであるが、ローザンヌ室内はそうではなく、昔ながらのヴィブラートたっぷりな演奏が僕にはまた心地よかった。

チャイコフスキーの「ロココ主題による変奏曲」で迎えたチェリストのジャン・ギアン・ケラスさん。素晴らしい音楽家だった。横で指揮している僕は、リハーサルからずっと鳥肌が立っていた。人柄も温かく、気配りも細やかだ。すぐにまた共演したいソリストの一人である。

メインはシューベルトの交響曲第5番。僕は久しぶりに取り上げた曲。交響曲でありながら、そのスタイルはとても

室内楽的。モーツァルトにも負けない天才ぶりを再認識した。

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン 2011年 11月3日スイス・ロマンド管弦楽団 

2010年6月に代役で初共演して、2012年9月から「首席客演指揮者」に就任することが決まっていたのだが、就任前に何とか1回は演奏会をしておきたいという僕とオーケストラ双方の希望の中、実現したコンサート。前半はガーシュイン、後半はラヴェル、という大変オシャレなプログラム。ピアニストにはファジル・サイさんを迎えた。ファジル・サイさんの才能はなんといったらいいのだろう、奇才とでも言うのだろうか。作曲もすれば指揮もする、即興演奏もお手のもの、そして独特の世界観。「ラプソディー・イン・ブルー」を共演したのだが、さぞかし自由奔放なスタイルかと思ったら、ここではオーケストラはこう、と実に細かい注文が随所にあって、念入りなリハーサルとなった。最初から演奏の設計図がちゃんと出来ているタイプのソリストで、とてもエキサイティングな共演だった。

ラヴェルはこのオーケストラの十八番。最初の共演の時にも増して、何とも幸福な時間が訪れる。またもや、指揮台の上で自分の体重がなくなる体験をした!

山田和樹の西方見聞録2011-12シーズン  2011年 9月29日〜10月2日ラ・フォル・ジュルネ音楽祭inワルシャワ 

ラ・フォル・ジュルネ音楽祭の動きはいつも急展開だ。プロデューサーのルネ・マルタン氏のインスピレーションによって

運営されているといっても過言ではない。このワルシャワへの出演も急遽決まった。急遽決まった割には、出演回数が

4回と多く、オープニングとクロージングのコンサートという大役を任された。

オーケストラはシンフォニア・ヴァルソヴィア。若い人が多いこれからが楽しみなオーケストラだ。最初からコミュニ

ケーションは抜群にうまくいった。音楽祭のテーマが「タイタンたち」で、ブラームスやリストなどの重量級作曲家を

取り上げていたのだが、僕なりの重くない音楽のイメージにオーケストラはよく付けてくれたと思う。面白かったのは

リストのピアノ協奏曲第2番。期間中にプラメナ・マンゴーヴァさんとデジュー・ラーンキさんの二人のピアニストと共演した

のだが、全く対照的な音楽観で興味深く、オーケストラもその違いを十分に楽しんでいたようだった。

山田和樹の西方見聞録 2011-12シーズン 2011年 9月24・25日 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 

いわゆる旧東のオーケストラは概して愛想が良いとは言えない。少なくともラテン系のオーケストラのように、お互いが

ウィンクしていたら上手くいく、なんてことはない。

ドレスデンはヨーロッパ随一といってもいい美しい街。オペラハウスの荘厳な佇まいを目にするとまるでタイムスリップ

したよう。ここで数々の名作オペラが初演されてきた。旧東の雰囲気を感じるのか、そのタイムスリップ感からか、僕の

印象で言うと「気持ちが引き締まる街」であり、オーケストラにもそのような空気が絶えず流れていた。

信頼し合うのに時間が必要なのかも知れない。日ごとにコミュニケーションを深くしていくことが出来て、最後の演奏会

は素晴らしいものになった。

武満徹の「3つの映画音楽」、プーランクのピアノ協奏曲リムスキー=コルサコフの「シェヘラザード」。

2013-11-07

2013/08/31 山田和樹の西方見聞録<6月7・8日 カスティーリャ・イ・レオン交響楽団定期演奏会>

スペインにこんな素晴らしいオーケストラがあったなんて!

  • 半ば失礼と思いながらも、これが正直な感想。

オーケストラ本拠地は、バリャドリッド。スペインの首都であるマドリッドから北北西に電車で1時間。カスティーリャ・イ・レオン州の州都にあたる。

こんなことは珍しいのだが、6日間の滞在中、日本人はおろか、ついにアジア人に一人も遭遇することが無かった。街には日本食レストランもあって行ってみたのだが、「味噌ラーメン」は味噌汁にラーメンが入っているという代物でちょっといただけなかった。やはり日本人がここには居ないのだ。でも他の天ぷらや焼き鳥、お寿司は意外といけた。

街に着いてからというのも、どうも生活のテンポが僕には合わないような気がしていた。特に食事時間なのだが、僕が食べたいと思う時間帯にはレストランが空いていないのだ。昼食だと14時以降にならないと、夕食だと21時以降にならないとレストランが開店しない。調べてみると、スペインでは午前のおやつと夕方のおやつを含めて一日5食という食文化があるそうで、地理的な理由からも、実際の時刻から「2時間引いて考える」とちょうど良いそうなのだ。なるほど、2時間引いて考えれば、昼食は12時、夕食は19時と一般的になってくる。でもやっぱりお腹がすく時間に食べられない、というのはどうにも馴染めなかった。パエリアにお肉にワインに、料理自体はすごく楽しめるのだけれど。

本題のオーケストラ

初めてスペインのオーケストラを指揮するというので、実は相当な覚悟をしていった。

時間通りに始まるか、人数は揃っているか、英語は通じるか、私語が絶えないのではないか、言うことをきかないのではないか、などなど。

結論から言うと、それらの心配は全て杞憂に終わった。リハーサル中も、日本のオーケストラのように真面目で静かであり、僕の言うことに熱心に耳を傾けてくれる。それどころか、高い機能性を持つオーケストラで、アンサンブル力はなかなかのもの、音もどんどん変わって良くなる。世界的にAランクのオーケストラとして知られてもよいレヴェルなのに、あまり有名でないのが残念なところ。来年はじめにはマドリードでスペイン放送交響楽団を指揮する予定があるのだが、また違った個性があるのかどうか俄然楽しみになった。

話は少し遡って、スペインへ発つ数日前、ソリストであるルイス・フェルナンド・ペレスから電話がかかってきた。彼とは、金沢とワルシャワのラ・フォル・ジュルネ音楽祭で共演していて、音楽的に相思相愛の仲だ。「背中の痛みがひどく、とてもスクリャービンの協奏曲は演奏できない・・」と言うので、残念ながらキャンセルかとも思ったのだが、「でも貴重な共演機会を逃すのは惜しすぎる。身体への負担が少ない曲目に変更できれば・・」ということで、オーケストラの理解も得ることができて、ファリャの『スペインの庭の夜』を演奏することになった。

この作品、僕はそれまで知らなかったのだが、いわゆるお国ものであるから、スペインでは頻繁に演奏される曲である。協奏曲ほど華々しくはないのだが、ピアノを中心に独特の情緒あふれる音楽が展開されていく。

僕のスペインデビューで、スペインの作曲家の曲を、スペインのオーケストラソリストで演奏できることになり、結果的にはとても良かった。

ファリャ/交響的印象『スペインの庭の夜』

グラズノフ/交響曲第5番

交響曲も熱演。

一日目の本番では、そのままレコーディングできるくらいの精緻な演奏が展開された。拍手喝采。でも何かひと味足りないような気もしていた。演奏としては完璧とも思えるくらいの出来なのだが、彼らの持ち味が今一つ出せていないような気がしたのだ。

二日目の本番、演奏が乗ってきたところで、僕はあえてアンサンブルを乱すような指揮をはじめた。そうすると、スペインの赤い血がたぎるかのように、オーケストラが大きくうねり始めた。いわゆる縦線は合っていないのだが「はっちゃける」というのか、彼らの本気がそこに現れた。

演奏しながら思っていたのは、やはり音楽的に良い演奏をすることだけが目的なのではなく、そのオーケストラの持ち味・個性を最大限に発揮させることも指揮者の重要な役割なのではないかと。どこのオーケストラからでも同じ演奏を引き出せる素晴らしい指揮者もいるのだが、僕はそのようなタイプではなく、それぞれのオーケストラの良さが発揮できるような音楽づくりを目指していきたいと改めて思った演奏会だった。

2013/06/03 山田和樹の西方見聞録<5月23・24日 ヨーテボリ交響楽団>

ヨーテボリはスウェーデン第2の都市で、北海側の港町だ。

小ぢんまりした作りの街だが、ショッピング街も充実していて賑やかな印象。

ヨーテボリ交響楽団と言えば、ネーメ・ヤルヴィがシェフ(首席指揮者)を務めていた時代が印象的だ。僕もこのコンビの多くのCDを持っている。

今は、グスターヴォ・デュダメルがシェフで、来シーズンからはケント・ナガノが就任する。

ニールセン/序曲「ヘリオス」

ベント・セアンセン/Exit Music

ラヴェル/バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲(ヨーテボリ交響楽団合唱団)

練習初日。

取っつきにくい印象はほんの最初だけ。すぐにスマイルが飛び交い、家庭的な温かいオーケストラだと実感する。

合唱がプログラムに入っている時の練習スケジュールは、少しハードになる。オーケストラの練習を終えた後に、合唱だけの練習。オーケストラはもちろん正真正銘のプロだが、合唱団はアマチュア。日中はそれぞれの仕事をしているので、集まれるのは夜に限られる。

「ダフニスとクロエ」には難しいアカペラ(無伴奏)の部分があり、ここの雰囲気をどう作るかで演奏の善し悪しが左右されてしまう。合唱団と共にじっくりと練習。

帰路、空を見上げると、そこには見たこともないような色の夕焼けが広がっていた。しばし呆然と立ち尽くした。

これは北欧ならではの風景なのだろう。旅をして様々な風景を見ることの大切さを改めて実感。普段は滅多に写真など撮らないのだが、あまりの美しさに写メで試みるも、やはり全然色が違って映ってしまうので残念。記憶に焼き付けることにする。

順調に2日目と3日目の練習を終えて、いざ本番。

ニールセンの序曲「ヘリオス」は、エーゲ海の日の出を表現した曲。日の出前の静謐な雰囲気から、鳥肌が立つ感覚があった。

実は、ニールセン自身も1920年代にはこのエーテボリ交響楽団のシェフだったそうで、時代を超えた結びつきというか、タイムスリップ感を感じながらの演奏。

ベント・セアンセンは初めて知り合った作曲家なのだが、独創的な美しい音楽を作る人だった。器楽だけでなく、人の声も用いた作品で、現代音楽による「癒し」の可能性を大いに感じた。

「ダフニスとクロエ」も熱演。合唱団も大健闘。

初日の本番を終え、スタッフらと食事に行く。

僕以外は、スウェーデン人・デンマーク人・ノルウェー人だったのだが、不思議なことに彼らはそれぞれの国の言葉で話しているのに、通じ合っているのだ。

僕が目を丸くして質問すると、「だいたい似ているから通じる。通じない時は英語を使う」ということだった。実に面白い光景だった。

二日目の本番を終えると、バック・ステージで寿司パーティーが行われた。

長年このオーケストラでハープを演奏してきた松尾さんの主導によるもの。

まさしく本物の寿司(ヨーロッパの寿司はどこか違うことが多い)で、疲れも吹っ飛ぶ。

オーケストラメンバーと合唱団員が、家族みたいに仲良かったのも印象的。プロとアマチュアの垣根が無いのだ。

素晴らしい出会いに幸せいっぱい。

また再来年に再会できる予定。

2013/06/03 山田和樹の西方見聞録<5月8・12日 スイス・ロマンド管弦楽団>

5月8・12日 スイス・ロマンド管弦楽団

フィルハーモニア管、ベルリン放送響と続いたこともあって、今回はジュネーヴに”戻ってきた”感覚、「だだいま〜」という想いが心底強かった。

率直に「また会えて嬉しい」と言う僕をメンバーは拍手で迎えてくれる。ホームグラウンドがあるということはとても幸せなことだと思う。

フォーレ/レクイエム

ラヴェル/バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲

「ダフニスとクロエ」全曲は僕にとって初挑戦。

フランス音楽に抜群の適性を示すスイス・ロマンド管と初演奏をしたくて選曲した。当然彼らのレパートリーと思っていたのが、意外なことにこの35年間のうちには3回しか演奏してないと古株の団員が教えてくれた。

パート譜にミスが多く手間取りもしたが、さすがにスイス・ロマンド、瞬時に曲想を理解して、豊穣なサウンドと、えも言われぬ雰囲気が立ちこめていく。彼らはラヴェルの音楽が大好きだし、もちろん演奏法にも精通しているから、僕があれやこ

れやと注文をつけなくてもちゃんと仕上がっていくのだ。

音楽大学生による合唱団はさすがに音程など完璧だし、発声もきちんとしていて心地よい。

「レクイエム」では、特に弱音の表現に拘ったのだが、合唱団もオーケストラも静謐な雰囲気を上手く出してくれたと思う。

5月12日の演奏会には、なんと音楽監督のネーメ・ヤルヴィ氏が聴きにいらして下さった。

翌13日には、マエストロの練習を終日見学させてもらったのだが、団員は「ボスが二人もいる!」と笑っていた。

マエストロのオーケストラ・ドライヴ法は強烈だ。彼の一振りでオーケストラが右に左に自在に動いていく。それでいてリハーサル中でもマエストロは二度と同じ音楽をされない。その瞬間瞬間の良い所を紡いでいって、大きな造形をされていく。

やはり音楽は生き物なのだ、と再認識。とても勉強になった一日だった。

マエストロは一見強面なのだが、話相手が笑うまで話続けるようなところがあって、ユーモアたっぷりの愛すべきお人柄。帰りも「これから孫に会うんだ。僕はトラムが好きで…」と普通に路面電車に乗っていかれた。その大きな背中を見送り

ながら、いつの日か少しでも彼の紡ぐ音楽に近づくことができたらと思った僕だった。

2013-09-04

山田和樹の西方見聞録 番外編

9月になり、いよいよ音楽シーズン突入ですが、いかがお過ごしでいらっしゃいますか?


「今年の夏、特に8月はゆっくり休んで英気を養うことができました。シーズン初めの演奏会は、9月7日にスイス・ロマンド管弦楽団とシューベルト音楽祭に出演してきます。その演奏会を終えて日本に帰国し、日本フィルとの演奏会に臨みます。」

その、コンチェルトシリーズ。。。。第二回目となりますが、企画の意図に関して、あらためてお聞かせいただけますでしょうか?


「第1回目はピアニストの小山実稚恵さんにお願いして、コンチェルトを3曲もやっていただきましたが、今回は3人で3曲をという趣向です。いずれにしてもコンチェルトに焦点を当てていく演奏会で、指揮者が企画するものとしては前例がなかったかと思います。

僕はとにかくコンチェルトが大好きで、さまざまな音楽家からそのエッセンスを吸収できる貴重な場だと考えています。ソリストの真横という最高の場所ですし(笑)素晴らしいソリストと一緒に演奏していると、身体が溶けてしまいそうな快感におそわれることがあります。これはコンチェルトならではの感動なんですね。

この感動をお客様にも体験していただきたいことと、日頃は演奏機会の少ないコンチェルトも取り上げていきたいこと、若手からベテランまで様々なタイプのソリストを紹介していきたい、という3点が大きな企画動機です。

でも、本当のことを言うと、自分の好きな曲を好きなソリストで演奏する、という自分が一番楽しんでしまおう、という想いが強いかも知れません(笑)」


今回のソリストと選択理由・曲の聴きどころ・・・・それぞれを簡単に伺えますでしょうか。


「山崎伸子さんとは、3年前に初めてご一緒したのですが、すぐにその音楽の魅力の虜になってしまいました。「音」が素晴らしいソリストはたくさんいるのですが、山崎さんはとにかく「音楽」が素晴らしいんです。正直なところ、弟子入りしたいと思いました。残念ながら自分はチェロ弾きではないので弟子入りは叶わないのですが、それでもその「音楽」を学びたいという気持ちは今でもずっと持ち続けています。昨年、大阪交響楽団ではサン=サーンス協奏曲でご一緒しましたが、終演後に「次はシューマンで」とお約束しました。ですが、この日本フィルのコンチェルト・シリーズに登場していただくにあたって、より大きく華やかなドヴォルジャークをお願いすることにいたしました。ドヴォルジャークのチェロ協奏曲は言わずと知れた名曲。全編を通して強い「ノスタルジー」に溢れていると思います。

藤原功次郎さんは日本フィルの誇る首席奏者。看板奏者と言っても良いと思います。昨年、見事に国際コンクールで優勝され、その報を聞いた時すぐにこのコンチェルト・シリーズへの出演をお願いしようという動きになりました。藤原さんは物事を吸収しようという意欲が凄い方だと思います。オーケストラの中で演奏されていてもいつも目が輝いていて、指揮している僕が目線を向ければすぐにバッチリと目が合うのです。ソリストとしては初共演になりますが、とても楽しみです。曲は、菅野祐悟さんの「flower」。藤原さんと日本フィルで2011年に初演されていますが、今回は改訂版での再演になります。作曲者の菅野祐悟さんは来年の大河ドラマのテーマ音楽を作曲されることになり、一段と注目が集まっています。今回は打ち合わせの段階から菅野さんにお会いできるとのことで、たいへん楽しみにしています。

菊池洋子さんは、以前から一度ご一緒できたらいいなと思いながら、なかなか共演機会に恵まれず、今回ようやく念願が叶うことになりました。菊池さんはモーツァルトをとても得意とされていますが、今回はアメリカの作曲家であるガーシュインとアンダーソンの曲をお願いしました。一見、モーツァルトとは遠い音楽のように思えるのですが、ガーシュインのジャズ的な面をはじめアンダーソンも音楽上の「遊び」がある、という意味ではモーツァルトと似ていると思うのです。なので、菊池さんならではのアメリカ音楽へのアプローチがあるのではないか、と思い、この2曲をお願いしました。ガーシュインと言えば圧倒的に「ラプソディー・イン・ブルー」が有名ですが、この「アイ・ガット・リズム変奏曲」もジャズの名曲をもとに展開される曲で、とても親しみやすい音楽です。ただ、演奏上の難易度は高いのですが(笑)

アンダーソンのピアノ協奏曲は、開けっ広げというんでしょうか、「ハ長調万歳!」「これぞアメリカ!」というような印象で、アメリカの国旗が浮かんでくる曲です。僕は名曲だと思うのですが、残念なことに演奏される機会がほとんどなく、東京では羽田健太郎さんが東京フィルと1996年に演奏されて以来、実に17年ぶりの演奏になるはずです。」


ヨーロッパでの活動・・・・スイス・ロマンド管との関係もますます充実し、また7月にはケルン放送響の定期演奏会も大成功と伺いました。今後の活動を少しお聞かせください。


スイス・ロマンド管とは首席客演指揮者に就任してから2シーズン目を迎えるところですが、大変良好な関係が続いています。自分で言うのも変ですが「蜜月」の間柄というんでしょうか。彼らとは来年7月に日本ツアーを予定しています。スイス・ロマンド管の来日は1999年以来、15年ぶりとなりますので、是非「今」のスイス・ロマンド管を見て聴いて知っていただけたらと思います。

この日本ツアーの他にもハイライトとしては、今年12月にウィーンでのデビューが予定されています。ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団との演奏会なのですが、なんと夢の舞台、楽友協会(ニュー・イヤー・コンサートの会場)で演奏できるんです!

2009年のブザンソンコンクール優勝以来、目まぐるしくいろいろなことがありましたが、まさかこんなに早くあの「楽友協会」の舞台に立てるとは思ってもみませんでした。感激と同時に身の引き締まる想いです。

客演する海外オーケストラとしては、モスクワ・シティフィル、ロイヤル・ストックホルム・フィル、マルメ響、トゥールーズ・キャピトール管、ストラスブール・フィル、モンテカルロ・フィル、スペイン放送響、バーミンガム市響、ローザンヌ室内管、マレーシア・フィル、ロイヤル・スコティッシュ国立管などが予定されています。海外での演奏経験をもとに、毎回進化した形で日本のお客様の前に立てればと思っています。

まずは是非、9月13日の演奏会にお越しいただけたら大変幸いです。」