じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

ひぐらし

残暑がきびしい毎日ですが、立秋をすぎた頃から朝夕、少し涼しい風を感じることがあります。そんな夕暮れ、ヒグラシの「カナカナ・・・」という声が聞こえてきたりすると、夏も終わりに近づいたことに気づかされます。
ヒグラシは、鳴き声のとおり「カナカナ」と呼ばれることもありますね。日暮れ時に鳴くことから、「日を暮れさせるもの」としてこの名がついたそうです。蝉といえば夏ですが、ヒグラシは秋の季語だとか。万葉集古今集源氏物語にも出てくるといいますから、日本人は昔からこの声に季節の移ろいを感じてきたのでしょう。
あまりお箏など聞いたことがなかった学生時代、「ひぐらし」という曲を聞いたのがずっと印象に残っていました。箏の音で「ああ、ひぐらしが鳴いているなあ」と思ったことをよく覚えています。
今年はまだ本物のヒグラシは聞いていないのですが、そうだ!と久しぶりに「ひぐらし」の曲を聞いてみました。こちらのCDに入っています。

じゃぽ音っと作品情報:中能島欣一作品集 1 /  中能島欣一 他
曲の終わり近く、たしかに「カナカナ・・・」と聞こえてきます。ブックレットの解説には次のようにありました。

作曲者の言葉によると、「作曲当時、群馬県伊香保温泉に遊んだ時、夏の驟雨の激しさと、その降りやんだあとの夕焼とひぐらしの声のさわやかさ、そうした情景に心を打たれて作曲したものであるが、曲はいささか描写的で、かつ単純な構成、作詞も稚拙な自作で、作品として余り自信がない」とのことである。にもかかわらず、広く愛好されているもので、吉川英史氏は、程良い大衆性があることと、他の代表的中能島作品のように技巧が困難でないためであろうかと評されている。

このCDには中能島欣一の作品が6曲入っていますが、「三つの断章」「陽炎の踊り」など現代邦楽のさきがけともいえる斬新な響きとリズムによる器楽曲と、「赤壁賦」「新潮」といった歌物作品の、どちらも代表作が収められています。そして「三絃・箏・尺八の為の二章」は、三絃に長唄の杵屋栄三郎、箏に生田流の沢井忠夫が加わり、尺八は青木鈴慕、山本邦山という流派を超えたメンバーの演奏です。
昭和36年頃から昭和46年頃にかけて録音された、中能島作品の傑作揃いのCDですが、そのなかにあって「ひぐらし」は、秋を待ちながら楽しむのにオススメの一曲です。

(Y)