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公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

カール・エンゲル/ ロベルト・シューマン:ピアノ曲全集(XRCD13枚組)

初のシューマンピアノ曲全集として名高い巨匠カール・エンゲル演奏のヴァロワ盤が遂に初国内盤化でしかもXRCDで本日発売になります。制作は名録音家として知られるアストレ・レーベルでお馴染みの名プロデューサー、ミッシェル・ベルンシュタインです。好評のアストレ・ヴァロワの全集物XRCD化シリーズですが、今回は、はったりのない味わいが魅力の巨匠エンゲルによるシューマンピアノ曲全集です。国内盤らしく、西原稔氏の3万字に及ぶ詳細な曲目解説。カール・エンゲルを愛してやまないピアノ研究家、吉澤ヴィルヘルム氏によるエンゲルとシューマン晩年の闇に迫った入魂のシューマン論など、大変充実した内容の解説も魅力です。XRCD化に関しては、ビクター・マスタリングセンターでの丁寧なマスタリング、全ての工程が特別なカッティング・マシーン&ラインにより徹底管理されております。ベルンシュタインの素晴らしい録音芸術がほぼ完全な形でよみがえっております。

シューマンの生涯
シューマンが生まれたのは1810年6月8日、ザクセンのツヴィッカウという小都市で、父フリードリヒ・アウグストは書籍出版・販売業を営んでいた。その関係でシューマンは、幼い時期から数多くの文学書に囲まれる生活環境にあった。母親のヨハンナは音楽を愛好し、シューマンの音楽熱はこの母親から受け継いだと見られる。彼はすでに12歳のときに「詩篇第150番」を作曲するなど、音楽の才能を早くから発揮していた。1826年に父親が没する。シューマンライプツィヒ大学法学部に進学するが、音楽への情熱はますます募り、音楽に専念するようになる。
1830年代の創作はクララとの出会いと、愛の予感、愛の確信、そして結婚への困難な闘いと密接な関連を持っている。この10年間の創作はほとんどピアノ曲の創作に専念した。「アベッグ変奏曲」(作品1)に始まるこの10年間の創作は、ピアノ・ソナタ第3番を完成した1836年までの作品と、それ以降の1837年以降の作品に大別することが可能である。前半の時期を代表するのが「パピヨン」(作品2)と「謝肉祭」(作品9)で、舞踏会の情景を表したこの二つの作品は主題の引用などの点で密接な関連をもっている。後半の時期を代表するのが「フモレスケ」(作品20)で、「ノヴェレッテン」(作品21)とともにより抽象的な世界を描いている。
1840年に裁判所の判決を得て二人は結ばれる。この年は「歌曲の年」と呼ばれるように歌曲が集中的に作曲された。その代表作が「ミルテの花」「詩人の恋」「女の愛と生涯」などの歌曲集である。そして1841年は2曲の代表されるように管弦楽作品が集中的に作曲され、1842年には室内楽作品の傑作の数々が作曲された。しかし1844年に入ると、この年のロシア旅行も影響しているが、創作力は減衰するだけではなく、精神の深い疲労を覚えるようになる。そこで一家は住み慣れたライプツィヒからドレスデンに転居する。
1845年、ドレスデンに移り住んだシューマンは、ピアノ協奏曲イ短調の完成によってふたたび創作力を回復する。1845年から1850年までの5年間の大きな出来事は子供の誕生である。その成果が「少年のアルバム」(作品68)である。そのほか、1849年に集中的に室内楽作品や「4本のホルンのための協奏曲」(作品86)や、「小協奏曲」(作品92)が作曲された。
1850年、フェルディナンド・ヒラーの招聘を受けてジュッセルドルフの音楽監督に就任する。ライン川沿いのこの町に移り住んだシューマン交響曲第3番「ライン」(作品97)や「チェロ協奏曲」(作品129)といった傑作を生み出す。しかし、楽団員との軋轢によって精神の疲労が募っていく。1854年2月に発作的に投身自殺を企てるまでのこの期間の創作は多様である。3人の娘に献呈したソナタなどの子供のための一群の作品に加えて、ヴァイオリン・ソナタが作曲され、1853年にはヴァイオリンを独奏楽器とする「協奏曲ニ短調」や「幻想曲」(作品131)、ピアノを独奏楽器とする「序奏とアレグロ」(作品134)などの作品を残している。シューマンは投身自殺未遂のあと、ボン近郊のエンデニヒの施設でその生涯を閉じる。(西原稔氏)

カール・エンゲル
1923年、スイスバーゼル近郊のビルスフェルデン生まれ。1942-1945年ベルン音楽院でパウル・バウムガルトナーに師事。戦後は1947-1948年まで、パリのエコール・ノルマルでコルトーに師事した。1946年から演奏活動を始め、1952年エリーザベト王妃国際コンクール第2位。このときの優勝者はアメリカ人ピアニスト、レオン・フライシャーだった。独奏者としてのほか、室内楽奏者として歌曲の伴奏でも活躍した。
ソリストとしては、モーツァルトベートーヴェンシューマンを主要なレパートリーとしていた。モーツァルトピアノソナタ全曲、ピアノ協奏曲全曲、そしてこのシューマンピアノ曲全集を録音に残しており、高い評価を得ている。歌曲の伴奏者としては、ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウや、ヘルマン・プライ、ペーター・シュライヤー、ブリギッテ・ファスベンダーらの名歌手とリサイタルを開いたほか、チェロのパブロ・カザルス、ヴァイオリンのユーディー・メニューインらとも共演。
1958年から1989年まで、30年にわたりドイツのハノーファ高等音楽大学の教授を務め、フランス、カナダ、ポルトガル、スイスでもマスタークラスを開いた。弟子にモーツァルトの名手として知られているポルトガル出身のマリア・ジョアン・ピリスがいる。2006年2月にスイスで没した。(吉澤ヴィルヘルム氏)

収録内容
ロベルト・シューマンピアノ曲全集(フランス Valois label)
Disc1(原盤番号:V4451)
・アベッグ変奏曲 op.1
・蝶々 op.2
・謝肉祭−4つの音符による面白い情景 op.9
・6つの間奏曲 op.4

Disc2(原盤番号:V4452)
・クララ・ヴィークの主題による即興曲 op.5
パガニーニの奇想曲による練習曲 op.3
パガニーニの奇想曲による6つの演奏会用練習曲 op.10

Disc3(原盤番号:V4453)
・交響的練習曲 op.13
・5つの変奏曲(遺稿)
トッカータ op.7
アレグロ op.8

Disc4(原盤番号:V4454)
・ピアノ・ソナタ第1番 op.11
管弦楽のない協奏曲 op.14(ピアノ・ソナタ第3番)
ソナタ第3番の初稿
管弦楽のない協奏曲のためのスケルツォ第1番(遺作)
・ピアノ・ソナタ第3番のためのスケルツォモルト・コモド)(遺作)

Disc5(原盤番号:V4455)
ダヴィッド同盟舞曲集 op.6
・幻想曲 op.17

Disc6(原盤番号:V4456)
・ピアノ・ソナタ第2番 op.22
・ピアノ・ソナタ第2番のための終楽章初稿
・幻想小曲集 op.12
・花の曲 op.19

Disc7(原盤番号:V4457)
クライスレリアーナ op.16
子供の情景 op.15
アラベスク ハ長調 op.18
・4つの小品 op.32

Disc8(原盤番号:V4458)
・8つのノヴェレッテ op.21
・4つの夜曲 op.23

Disc9(原盤番号:V4459)
・フモレスケ op.20
・ウィーンの謝肉祭の道化 op.26
・3つのロマンツェ op.28

Disc10(原盤番号:V4460)
・色とりどりの小品 op.99
・アルバムの綴り op.124

Disc11(原盤番号:V4461)
・子供のためのアルバム op.68

Disc12(原盤番号:V4462)
・森の情景 op.82
・4つの行進曲 op.76
・3つの幻想的小曲 op.111
・暁の歌 op.133

Disc13(原盤番号:V4463)
・少年のための3つのソナタ op.118
・4つのフーガ op.72
・7つのフゲッタ形式によるピアノ曲 op.162
・天使の主題による変奏曲変ホ長調 1854(遺稿)

 カール・エンゲル(ピアノ/スタインウェイ
 録音時期:
 1971年:op.15, 16, 76, 111, 126, 133
 1972年:op.1, 2, 4, 5, 6, 8, 9, 12, 13,16, 17, 18, 19, 21, 26, 28, 変奏曲(遺稿)
 1973年:op.11, 14, 22, 68, 118
 1975年:op.3, 7, 10, 20, 23, 32, 72, 82, 99, 124, 主題と変奏(遺稿)
 録音場所:ハノーファーベートーヴェンザール
 録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
 制作:ミッシェル・ベルンシュタイン


(Yuji)


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