night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

3/22(土)ソールズベリ、ストーンヘンジ

 この日は、鉄道に乗って世界遺産ストーンヘンジを見に行くことにして、意気込んで出かけた。地下鉄サークル線とジュビリー線を乗り継いで、ウォータールー(Waterloo)駅にやって来た。土曜日の朝、地下鉄はほどよく空いている。ウォータールー駅は南西方向への鉄道のターミナル駅のようで、ここから列車に乗ってソールズベリ(Salisbury)という町まで行く。


 土曜日の朝、ウォータールー駅は閑散としていた。ロンドンのターミナル駅でも、こんなもんなんだなあ。

 ロンドン・ウォータールーからソールズベリまでの鉄路は、Wikipediaによると83kmの距離だそうで、長距離列車が1時間に2本走っており、所要時間は1時間半前後のようだ。乗車券はタッチパネル式の自動券売機で買うことができるが、普通運賃のほかに"Off-Peak"や"Super Off-Peak"などを選択するようになっていて、時間帯によって適用される運賃が違うらしい(あと、値段の高い「サザンプトン経由」というトラップ(?)もあるので注意^^;)。──オフピーク運賃の乗車券を買ったあげく、乗った列車がそれではない、とかいうことになると面倒だな、と思って、"Anytime Single"(いつでも片道(?))の乗車券を買った。38ポンド50ペンス(オフピーク運賃でも37ポンド10ペンス)もして、たいした距離ではないのに意外に高いなあ、と思ったのだけど…、後から知ったところでは、どうやら自分の乗った列車も"Off-Peak"でよかったらしく、さらに"Off-Peak Return"(オフピーク・往復)で買えば、44ポンド程度だったらしい。それでも日本に比べると高いとは思うけれど。むずかしいなあ。



 8時50分発のソールズベリ行き。ディーゼル列車である。電化されていないことにちょっと驚いた。



 近郊列車が出入りするウォータールー駅を発車。サウス・ウェスタン本線の複々線区間を快調に飛ばす。座席はちょっと狭いけど、そもそも車内がガラガラなので快適だ。──この列車は、とくに急行とか特急という種別がついているわけではないが、近郊列車の停まる小駅をどんどん通過していく。非電化で複々線の幹線鉄道って、日本ではほぼ無いと言ってよいもので、ちょっとすごいよね。複々線と言うか、5本か6本くらい線路が並んでいるところもあった。列車の運行密度もけっこう高そうで、頻繁に近郊列車と行き違う。



 英国の鉄道は、保守党政権時代に国鉄上下分離方式で民営化されたが、その後、保線の質が劇的に悪化して大事故なども起こして、労働党政権時代に、施設保有部門は公的企業に引き継がれ、その上で列車を運行する会社がそれぞれ営業している、というざっくりとした知識を持っている。今乗っている列車は、“Southwest Trains”というロゴが車体に描かれていて、これが列車を運行する会社の名前であるようだ(“鉄道会社”ではなく“列車会社”と呼ぶのが適当なのだろう)。ウォータールー駅からの南西方面の列車はこのサウスウェスト・トレインズ社のテリトリーらしい。駅で乗車券を買って乗るぶんには、どの会社の列車かを意識することはなさそうなのだけど、会社間の乗継ぎをする場合ってうまくいくのかしら、とか、トラブル時にはスムーズにいかないんだろうなあ(地域分離した日本の鉄道だってそうだもんね)、などと、他人の国のこととは言え、ちょっと心配になったりもする。どうなんだろうね。


 車窓には牧草地(?)が広がる。

 ロンドン・ウォータールーからの途中停車駅は、ウォキング(Woking)、ベイジングストーク(Basingstoke)、オヴァートン(Overton)、ウィットチャーチ(Whitchurch)、アンドーヴァー(Andover)、グレイトリー(Grateley)、の6駅。──アンドーヴァーですって。クリスティの『ABC殺人事件』に出てくる地名ですね。

 大聖堂の尖塔が見えてきて、ソールズベリ(Salisbury)駅に到着した。10時20分、ほぼ定刻だった。本屋側のホームに降り立って、改札を出る。

*

 ストーンヘンジは、ソールズベリの町から北に少し離れたところにある。こういうところではツアーバスに乗っちゃうのが手っ取り早い。ソールズベリ駅に着いたのは10時20分だったが、ツアーバスは1時間に1本、次の発車は11時00分だった。1本あとの列車に乗ってきてもよかったな、と思いながら駅前をぶらぶらしてみたが、駅は町の中心部からは離れたところにあるので、幹線道路と住宅街と駐車場しかないようなところだった。むむう、と思いながら駅前に戻ると、やまぶき色の二階建て観光バスが停まっていた。──運転士のおじさんに、リターンと、ストーンヘンジのアドミッション、トータルでいくら?と尋ねると、「トウェンティシックス・パウンズ。」との明快な答えが返ってきた。ポスターに書いてあったとおりの値段だ。26ポンド、換算すると約4,500円。…英国は正直言って物価が高いので、いちいち日本円に換算すると楽しめなくなるからやめようと思ってはいるのだけどね。



 二階建てバスの二階の最前列に座って、発車。他の乗客は全員西洋人で、スペイン語やイタリア語っぽい言葉が飛び交っていた。ぼくの隣に座ってきた女性もおそらくスペイン人のグループだった。案内のテープが流れるあたり、観光バスっぽい雰囲気。バスはいったんソールズベリの町の中心部を経由して、停留所で乗客を拾ってからストーンヘンジに向かう。狭い町並みで、一方通行でぐるぐる回るようなルートをたどり、二階建てバスが通るにはかなり窮屈そうだが、中世からこんな感じなのだろうなあ、と思うような街並みに市が立っていたりして、あとで歩いてみようと思う。


 鉄道線路をくぐる。最も左の車線が、あきらかに幅が狭い。二階建てバスの巨体で通りながら「マジか」と思った。(^^;





 ソールズベリの町を出外れると、こんな風景の中になる。


 40分くらいでストーンヘンジの駐車場に着いた。入場料(アドミッション)はバスツアーの代金に含まれているので、団体入場券(胸に貼りつけるシール)の束を持った職員が出てきて、バスを降りるときに乗客に一枚ずつ配ってくれる。


 真新しいヴィジターセンターに、売店やカフェなんかもあった。音声ガイド機はシャトルバスに乗る前にカウンターで借りておく。日本語もあります。


 ヴィジターセンターからストーンヘンジまで歩くとたぶん20分くらいかかる。歩いてもいいのだけど、ジープ列車のようなシャトルバスに乗る。

 この日は風が強くて、陽射しは強いのだけどとても寒かった。なにせ、平原の真ん中なので、風を遮るものがまったく無い。冬のオーヴァージャケットを着てきて本当によかった。


 ストーンヘンジ(Stonehenge)は、紀元前3000年頃から円形の堀と列石が築かれ始め、紀元前2200年頃には今に残る巨石が築かれていたらしい。紀元前二千年って…。当然、ローマ帝国の征服よりも前だし、サクソン人がこの島に来た時にはすでに遺跡であった、というのだから、歴史のスケールが大きすぎる話だ。平原の真ん中に突然巨大な石が並んでそびえ立っているのは、異様な光景である。


 太陽にカメラを向けるのは禁じ手ですが…


 ヒールストーン。夏至の日に太陽が昇る方向にあるそうだ。ここから古代の“参道”が続いているとのこと。



 周囲には羊が放牧されている。その向こうの、地面が盛り上がってるのは、いわゆる円墳だそうだ。


 茫漠とした平原。

*

 ヴィジターセンターの売店で買ったサンドイッチで軽い昼食にしてから、13時50分のツアーバスで戻る。復路は丘を上り下りする細い道をたどって、オールド・セイラム(Old Sarum)という集落を通る。中世の城塞集落の遺構が残っているそうで、ツアーバスはここで途中下車することもできるが、ソールズベリの町も見物したいので、ここはパスして、ソールズベリの中心部でツアーバスを降りた。広場に市が立っている。



 広場と、それに面して建つシティ・カウンシルの建物。1795年築と書いてあった。中に入ってみると、ホールでフリーマーケットのようなことをやっていたが、壁一面に歴代の英国王の肖像画がかかっていて、目を奪われてしまった。

 ぽつぽつと雨が降ってきた。大聖堂まで歩く。


 ソールズベリ大聖堂(Salisbury Cathedral)。緑の芝生の境内に、ゴシックな尖塔が屹立している。尖塔は1313年に建設されたものだという。



 回廊と中庭。中世そのままなのだろう。

 ここには『マグナ・カルタ』の写本が展示されている。1215年にジョン欠地王が認めさせられた、王権といえど法体系のもとにあるということを明確にした歴史的な文書である。当時は全国に布告するために大量の写本が作られたそうだが、英国内に現存するのは4枚しかないそうで、そのうちの1枚がこの大聖堂にあるということだ。細かい文字が独特の書体でびっしりと書き込まれており、当然読めない。羊皮紙の大きさはA3程度だろうか。市民革命を経てきた英国の誇りなんだろうね。日本には無い歴史である。──説明パネルの英文を苦労して読もうとしていたら、後ろから、「ちょっとどいてちょうだい」と車椅子のお年寄りを押した女性に声をかけられてしまったけれど(^^;

 聖堂の内部。ここは撮影禁止とは書かれていなかったので存分にカメラを構えた。





 ステンドグラスが美しい。


 中世の時計だそうだ。

 祭壇の手前に、みなさんの祈りをご自由にお書きください、というノートとペンが置かれていた。ちらりと見ると、こんなことが書かれていた。

Please pray for my father who had committed suicide. May he find peace.
 東洋の異教徒であるぼくにとってはキリスト教の聖堂は馴染みのない場所だけれど、これを見て、…洋の東西は違っても、人の苦しみというものはあるのだな、と、涙が出てしまった。ここがそのための空間なのだとしたら、それもむべなるかな、と思った。

*


 にわか雨で、暗い雲がかかってきてしまった。

 売店でお土産に、ユニオン・ジャックが描かれたチョコレートを買った。帰国して職場にちょっとしたものを配るのに最適だ。16個入り5ポンド25ペンスを二つ買ったが、これ、帰りにヒースロー空港で見たら倍の値段がついていた(^^



 ローマ数字で1682年という年号が書かれている建物。こんなものが何気なく道端にあるんだから、すごい国だよなあ…




 城門をくぐって雨上がりの町に戻り、スターバックスで休憩。






 エイヴォン川沿いを少し歩く。濃い緑と豊かな水の、いい町だ。大聖堂の尖塔は、町のどこからでも見える。

*




 ソールズベリ駅に戻る。カーディフ・セントラル行きのファースト・グレイト・ウェスタンの青い列車が停まっていた。──今日はよく歩いた。16時47分発のロンドン・ウォータールー行きの列車で、来た道を戻り、ロンドンに帰り着いた。こんどは"Super Off-Peak"の乗車券を買って、37ポンド10ペンス。先述のように、片道で買うと大して安くなくて、往復で買うのが正解だったのだよね…。(^^;



 ウォータールー駅到着は18時19分予定だったが、ロンドンに近づくにつれて列車が詰まっているらしく徐行するようになり、たしか10分くらい余計にかかったかな。この日はどこかの方面で列車が運休していたらしく、立ち止まって発車予定案内の電光掲示を見上げる群衆がいた。そういえば行きのときも、カーディフ行きの列車がCancelledとかサザンプトン方面の路線が運休とかなんとか、書いてあったなあ。──ともあれ、トラブルなくexcursionに行って来られてよかったよ。また地下鉄でホテルに戻った。


 この日の夜は、ホテルの近くのパブで、ローストビーフに舌鼓。うまい。誰だよ、英国料理はまずいとか言ったのは(2度目^^)。大満足。