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2014-05-16

「キタムラ」Yahoo!オシャレおじさまの虜になる ジャーナリストキャンプ2014・学生密着ルポ

「真面目すぎる」「つまらない」。着実に取材をこなしているように見えたYahoo!のオシャレおじさまのしょげている表情を、私は辛くて見ていられなかった…
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▼「オシャレおじさま、怖い」
「キタムラ!」。キャンプ前夜祭の会場で、JCEJ代表で、大学のゼミ担当教員でもある藤代さんに突然呼ばれ苅田さんを紹介された。最初の印象を一言で表すと「オシャレおじさま、怖い」だった。
苅田伸宏さんは元毎日新聞のエース記者。12年半勤め、転職してYahoo!JAPANで働いている。ほかの参加者はラフな服装が多いのに、黒のストライプスーツにぴかぴかの革靴という出で立ち。今まであまり接したことがないタイプの大人と、何の話をすればいいのだろう。
「ずっと一緒に行動するのか…」。高知からいますぐ逃げ出したくなり、翌日からの取材に不安が募るばかりだった。
デスク役の西田亮介さん(立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授)も一緒にいらっしゃったが、話題がなかなか見つけられない。エグザイルのような出で立ちに、私はただただ怯えていた。

▼完璧な取材準備、取材もスムーズ
今回のジャーナリストキャンプのテーマは「自由」。苅田さんはまず「現代社会において、逆に不自由なのはどういう人か」と考えたそうだ。自身もパパである苅田さんは「子育て世代は不自由さを感じているのでは?」と、地方における保育の現状を取材することにした。「待機児童など、保育の問題は首都圏の問題として語られがちだが、地方ではどのような課題があるのか浮き彫りにしたい」と話してくれた。
苅田さんのパソコンの中を見せてもらうと、高知の保育に関する様々なデータがずらりと揃っていた。早めに現地入りして保育所や大学も訪問したそうだ。さらには高知市役所で追加のデータを集め、アポイントメントの段取りまでしているようだった。参加者の誰にも劣らない入念な準備だ。

キャンプ初日午前、西田チームは高知駅近くのカフェに集まった。
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全員集合してから西田さんが一言。「出口から逆算して話を進めましょう。どういうロジックで取材していきますか?」さすが研究者の西田さん。論理的な話が始まりそうだ、と思い私は思わず構えてしまった。必死でメモを取る。

苅田さんは実際に子育てをしている人に取材し、集めていた様々なデータと照らし合わせていくことにした。西田さんからは、取材の構想に細かく突っ込みが入ったが、その度に手元の統計やデータを根拠に示してすらすらと答えていく。問題意識や仮説がしっかりしている、と西田さんからも評価され、初日からかなり順調に進んでいるように見えた。

午後、苅田さんはさっそく取材を始めた。取材の合間には、記録を取る私の素朴な疑問に丁寧に答えてくれたり、河川敷で散歩している犬の話で盛り上がったり、とにかく気さくな方だ。「記者って怖そう…」と思っていたのに、そんな自分が嘘のように、親近感を覚えていた。

▼「つまらない」。とバッサリ
迎えた初日夜の全体議論。苅田さんが一通り取材の構想を発表し終えた。ほかの参加者の企画案にはJCEJの運営委員から辛辣な意見が飛んでいたが、「苅田さんなら大丈夫だろう。午前中のチーム会議みたいに、データを示して説明するんだろうな」。そう思いながら私は議事録取りに集中した。
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「真面目すぎる」「つまらない」。藤代さんの口から出た言葉が一瞬、理解できなかった。

学生の私にとって批判の余地は全くないように見えた苅田さんの記事構想が、ボコボコにされている。「そんな言い方しなくてもいいじゃん・・・」。悲しかった。私は思わず、視線をパソコンの画面に落とした。
地方の保育の現状を明らかにして課題を浮き彫りにするという構成、そして保育を取り巻く状況のマイナス面を押し出すのは「あまりにも王道すぎる」というのだ。「むしろ“地方の保育サイコー!”のようなプラス面を出していってはどうか?」というアドバイスは、苅田さんの取材構想とは真逆の方向性だった。苅田さんは考え込んでいるようだった。私が取材しているわけではないのに、私までうろたえてしまった。

議論が終わった後、私は苅田さんに駆け寄った。
「やはり皆さんウェブっぽいですね(笑)僕はやっぱり新聞っぽいから、僕にはない発想です。ちょっと宿に帰って考えてみます」。議論での指摘に、少し戸惑っているようだった。
全体ディスカッションは20時から始まったのだが、気づいたらとっくに日付が変わっていた。

▼「見出しに工夫がない」。またバッサリ
翌日の取材。初日はあれだけ嫌だったのに、楽しみにしている私がいた。接骨院を経営する父親や、4人の子どもと共働きの妻を持つ男性、横浜からUターンした夫婦などに会いに行き、直接お話を伺った。高知県の文化や習慣、県民性なども教えてもらい、取材は盛り上がっているようだったが、今夜もまた全体ディスカッションが待ち構えている。苅田さんは昨日の指摘にどう答えるのか、私はドキドキしていた。
2日目の議論では、記事の見出し案を考え、ほかの参加者がクリックしたいかどうか手を挙げてもらう、という方法で進められた。苅田さんが考えた見出しは「働かなければならない現実 受け入れられない0歳児」「高い女性の就業率 ニーズとずれた『保育王国』の現実」。なにやら難しそうだ。

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「そもそも想定している読み手は、都会の人か地方の人かどちらなのか」「保育に関わりのない人にいかに自分事に考えてもらうのか、工夫がない」。またしても、見ているこっちの心が折れてしまいそうな言われようだった。「王道だ」「真面目だ」というレッテルをどうやってキャンプの中で覆していくのかという課題が、さらにはっきりと苅田さんに突きつけられているように思えた。

私はまた苅田さんに駆け寄った。
「見出しは好みだからね(笑)でも色んな意見が出てきてありがたい。ここからいかにオリジナリティを出していくかが悩みどころだね」。私はお疲れさまです、としか言えずに、苅田さんを見送った。この日も議論が終わると、時計の針は午前3時近くを指していた。

▼助手になった気分
キャンプもいよいよ最終日だ。これまでは共働きの方たちばかりだったが、シングルマザーとして子どもを育てている方に貴重なお話を聞けた。保育に関する制度にも精通している方で、それまでとは違ってかなり深い話をしているようだった。
苅田さんは、取材相手やその場の雰囲気によって自然に表情がくるくる変わる。昨日までは、子どもと一緒に戯れ、世間話に花を咲かせていたのに、今日の真剣さは別人のようだ。「全然表情が違う!」と私は密かに驚いていた。
最初は警戒心しかなかった私。でも、3日間も取材に密着し、夜の議論で頭を抱える苅田さんを近くで見ていると、私は勝手に苅田さんの助手のような気になっていた。私はいつの間にか「キャンプが終わるのが寂しい。帰りたくない」とまで思っていた。あんなに準備万端でキャンプに挑んだのに「つまらない」と一刀両断されて悔しさもあったのではと思うけれど、「取材における準備の大切さを実感した。僕はのんびり屋さんだから、なおさらね(笑)」と最後まで和やかだった。取材している時のかっこ良さとのギャップに、心が動いた。私はいつのまにか、苅田さん、いや、「働く記者」の虜になってしまったようだ。
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苅田伸宏さんのキャンプ記事はこちらから
「自治体消滅」時代が来る 子育て満足度1%の「元・保育王国」で見えた再生のヒント(ハフィントンポスト)