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2012-04-24

東日本大震災で露呈した「データに弱い」日本のメディア 報告vol.10


3月3日に東海大学で行った「ジャーナリスト・エデュケーション・フォーラム2012」の報告。第十弾は、データジャーナリズムの田中幹人さん早稲田大学ジャーナリズム・コース准教授)による「コンピュータ援用報道(C.A.R.)の理論と実践」のセッション。要録をJCEJ運営委員の赤倉優蔵がまとめました。

ネットでよく目にする「政府は情報を隠している」という論調ですが、実はそんなことはありません。
私は「サイエンスメディアセンター」で科学者とメディアを繋ぐ仕事をしていおり、震災直後、ジャーナリストと話をする機会がありました。そのとき、政府がホームページなどで公開しているデータの利用をお勧めしたのですが、メディアはどこも及び腰でした。文科省はきちんとデータは出していたにもかかわらず、日本のメディアはそれを活かせなかったのです。
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一方、文科省が発表していたデータをジャーナリスティックに活用していたのはグリーンピースでした。

彼らは文科省が発表するデータを分析し、「文科省のデータは正しい」と判断したうえで、さらにそのデータをもとに「こうすれば良いのではないか」と、政策の提言までしていたのです。
WIREDの記事 にも出ていますが、この間日本のメディアは、政府が発表する生データをそのまま右から左に報道するだけで、「政府は情報を隠している」との報道もありました。

日本のメディアも、グリーピースがやっていたことぐらいのことはできたはずです。しかしできなかった。日本のメディアはデータを使った報道に慣れていなかったため、危機的な状況で使う事ができなかったのではないでしょうか。コンピューターを報道に活かすには、普段からの準備がとても大切なのです。

また、日本のテレビを見ていると、折れ線グラフのメモリや円グラフの面積があきらかにおかしいグラフが出されることがあります。こんなことやった瞬間、印象操作をしているとみなされ、ニュースの信ぴょう性はガタ落ちになるのですが、なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

海外のテレビではこのようなことはまず起りません。それは社内あるいは、身近に統計の専門家がいるからです。ときどき「日本人は統計に弱い」と耳にしますが、統計に弱いのは日本人に限ったことではないのです。データに強いガーディアンやBBCの記者も同じです。データに弱い人が頼ることができる専門家をきちんと配置している、ただそれだけでこうしたことが起きないのです。

■コンピューター援用報道の歴史

コンピューター援用報道(C.A.R.)は、「コンピューターの力をかりて、生データから意味ある文脈を抽出し、報告し、ジャーナリズムの議題をつくりあげていくこと」あるいは「コンピューターを使ってデータを整理して報道すること」と言い換えることができます。

1952年の米国大統領選で米国のテレビ局CBSが統領選の結果予測にコンピューターを使ったことがC.A.R.のはじまりだと言われています。CBSは、世界初のコンピューター「ユニパック1」を使い、大統領選の結果を予測、コンピューターは1パーセントの誤差でアイゼンハワーが勝利するとの結果を出しました。しかしその結果は、CBSが同時に実施した出口調査の結果では対立候補の勝利だったこともあり、大統領選前には公開されませんでした。コンピューターに対して信頼を置けなかったのです。結果はコンピューターの勝利でした。そしてこの大統領選以降、米国三大ネットワークはコンピューターを使った結果予測をするようになりました。

ところで、C.A.R.で重要なのは可視化です。データを分析し、その結果得られたメッセージを過剰にすることなく、事実をありのままに報道することが重要になってきます。

1989年、Bill Dedmanというジャーナリストが、科学を使ってはじめてピューリッツアー賞を受賞しました。彼は足を使った取材で白人に比べて黒人が住宅融資を受けにくいことを感じ、調査を開始、11万件の融資データを地図にマッピング(可視化)したところ、実際に黒人の融資数が白人の融資数の5分の1であることをつきとめたのです。この報道で世の中の風潮が変わり、黒人に対する融資が増えました。しかしながらこのことがサブプライムローン問題という皮肉な結果にも繋がってしまいました。

以降、欧米のメディアでは、ウィキリークス事件などを経て、コンピューターを使った報道は主流となりました。最近では、「報道後にデータを公開し、読者に判断をゆだねる」ようになってきています。例えばイギリスのガーディアンやBBCなどでは、報道に使ったデータをAPIなどで公開し、「私たちが信用できない、あるいは私たち以上の分析ができるようであれば、私たちが使ったデータを元に調査・分析をしてください。新たな発見があれば謝礼を払います」と、読者を巻き込んだ報道を行っています。その結果、集合知とジャーナリズムのハイブリットが進んでいるのです。

一方、日本は遅れています。C.A.R.はそもそもオペレーションズ・リサーチ(Operations Reserch:OR)から発展してきたのですが、ORが軍事分野の学問だったこともあり、日本ではタブー視され、そのために遅れてしまったのではないか、と言われています。

■C.A.R.を実践するために必要なスキル

さて、どうすればC.A.R.を実践できるようになるのでしょうか。アーリーアダプターになれ!とまでは言いませんが、最低限パソコンは使える必要はあります。そしてエクセル。エクセルでかなりのことができます。問題意識ももちろん必要です。そして最後は統計的センス。

C.A.R.実践のポイントは次のようになります。

  • データが勝手に集まってくるようにする。RSSやTwitterメールを利用。
  • 検索演算子を使う事を習慣化すること。
  • どこにデータがあるかを知っておく。相当量のデータがオープンになっている。観光庁のサイトは宝の山。
  • 足も使え。その場に行くとあることが多い。
  • 仮説を立てても、それを棄却することが大切。
  • 視覚化が重要。エクセルやパワーポイントでも十分。
  • 発信時、自分で述べるのが大切

重要なのは、言い切ることなく、検証を読者に預けることです。多くの人に参加してもらうことが、結果として議題構築(アジェンダセッティング)につながります。これまで議題構築はジャーナリストがやっていましたが、これからは今社会で何が問題か、人々がどのようなことを考えているのか、独りよがりではない「ねばならない」をどう構築するか、こうしたことが自然にあがってくるような仕組をつくっていくことが重要になってきます。

ネットでは視野がせまくなり、ほっとくと気持ち良くなる情報だけを摂取するようになることがあります。ネットメディアでは、反応の取り上げ方が恣意的な場合が散見されます。一部の意見が全体の意見であるとは限らないのではないでしょうか。ジャーナリズムである以上、反対意見を簡単に切り捨てないよう気を付けなければなりません。

C.A.R.はとにかく実践することが大事です。早稲田大学のJ-Schoolで学んでいただく、という手もあります。

■C.A.R.の未来

これからは地方からでも特ダネを見つけられるようになるのではないでしょうか。美味しいネタはたれこみに多く、タレこみ先は大きな新聞に集中し、これをめぐる競争は熾烈です。しかし、公開されたデータから隠された事実をみつけるのはどこからでもできます。これが「科学は優秀な記者をさらに優秀にする」と言われるゆえんです。これからは、「事故直後、事故現場近くのツイートをジオタグで検索、いち早く事故の目撃者を特定する」みたいなことができるようになるでしょう。
(報告:赤倉優蔵)

【セッション関連情報】

【参加者報告】

2012-04-23

これからの情報発信を学びつくす一日「ジャーナリスト・エデュケーション・フォーラム2012」セッション報告まとめ

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)では、3月3日「ジャーナリスト・エデュケーション・フォーラム2012」を東海大学で行いました。
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午後からのセッション「データジャーナリズム」「コミュニケーションデザイン」「イノベーション」では、それぞれ4名の講師による講演やワークショップが行われ、約90人の参加者が議論やアイデアを出し合いました。

フォーラムの参加者の協力により、ほとんどのセッションで報告が行われています。ぜひご覧ください。
(登壇者の肩書きはフォーラム開催当時のものです)


■ データジャーナリズムのプログラム:「足で稼ぐ」だけがジャーナリストじゃない

データジャーナリズムでは、クラウドコンピューティングに通じた楽天技術研究所長の森正哉さんと、元ネットレイティングス社長でマーケティングリサーチの専門家である萩原雅之さん、科学技術とジャーナリズムについて研究している早稲田大学准教授の田中幹人さん、オープンソースに詳しい駿河台大学講師の八田真行さんの4人に登壇して頂きました。

「変化するウェブ、変化する我々自身」(講師:森正弥さん) 

「データ・ジャーナリズムの現在と未来:海外事例から学べること」(講師:八田真行さん)

「マーケティングリサーチの最新手法をジャーナリズムに活かす」(講師:萩原雅之さん)

「コンピュータ援用報道(C.A.R.)の理論と実践」(講師:田中幹人さん)


■ コミュニケーションデザインのプログラム:バズワードに流されない プロ・研究者と共に考えるつながりの本質

コミュニケーションデザインでは、カンヌ国際広告祭メディア部門日本初のグランプリなど受賞歴があるクリエイティブ戦略家・関橋英作さん、科学技術コミュニケーターの育成に取り組んでいる北海道大学特任准教授の石村源生さん、建築家であり、製造業や他のデザイナーと技術開発に取り組むプロダクトデザイナーの原田一朗さん、ソーシャルメディア活用の第一人者として知られるリーバイ・ストラウス ジャパンの熊村剛輔さんの4人に登壇していただきました。

参加者の相互支援ネットワーク構築のためのワークショップデザイン(講師:石村源生さん)

異見を楽しむコミュニケーション(講師:関橋英作さん)

コミュニケーションとものづくり(講師:原田一朗さん)

ソーシャル メディアの使い方なんて誰が決めた?(講師:熊村剛輔さん)



■ イノベーションのプログラム:伝えるための頭の体操〜新しい思考法を身につける

イノベーションでは、社会起業向け投資機関ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京ファウンダーの井上英之さん、僧侶で仏教コンテンツプロデューサーの松本圭介さん、日本MITエンタープライズフォーラム理事の本橋健さん、ジェイ・キャスト取締役社長の大森千明さんの4人に登壇していただきました。

社会イノベーションのはじまり「マイプロジェクト」(講師:井上英之さん)

仏教用語をマネージメント用語に置き換える(講師:松本圭介さん)

編集長生活15年〜新聞・雑誌・ネットと転身〜(講師:大森千明さん)

イノベーションの思考法〜新しいメディアを創り出す〜(講師:本橋健さん)

【関連エントリー】

2012-04-21

「建築物は対話をしながら作り上げるもの」 参加者報告vol.9

3月3日に東海大学で行った「ジャーナリスト・エデュケーション・フォーラム2012」の参加者報告。第九弾は、コミュニケーションデザイン原田一朗さん(建築家・プロダクトデザイナー)による「コミュニケーションとものづくり」のセッション。報告は善名朝子さんです。

建築家としての原田さんは、一つのデザインを完成させるまでに、数限りないスタディ(模型)を作る。それもデザインの段階ごとに作る。構造を把握するために、外観を判断するために、あるいは素人には察しのつかない何かを追求するために、最終的なスタディの数は100にも及ぶ。
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原田さんは建築物を「対話をしながら作り上げるもの」だと言う。
スタディは「対話のツール」と呼ぶ。原田さんのデザインがかたちづくられる上で、スタディとは、コミュニケーションの出発点であり、終着点でもある。

コミュニケーションを大切にする原田さんだから、つないできた人びとがいる。
”魚のための建築物”水槽を手がけたときのことだった。プロダクトとして人様に使ってもらって大丈夫かどうか、水槽の素材・アクリル樹脂をあつかう専門家に尋ねた。それが株式会社さくら樹脂との出会いであり、原田さんのものづくりにおけるコラボレーションのはじまりだった。

株式会社さくら樹脂は、各種プラスチック切削加工品の受託製造をおこなっている。
工場を訪ねると、様々な型を極小ロットから切り出せる機械が揃っていた。原田さんが質問や要望を繰り返すうち、技術工たちにも変化があった。BtoBで部品を受託し納品することを繰り返してきた彼らに、BtoCのプロダクト制作にアイデアレベルから関わり、悩み、考えるという工程が生まれた。
それまで、ものづくりのエスカレーションに組み込まれていては必要なかった工夫、気にしなかった外観を一緒に悩み抜いた。あるプロジェクトでは、原田さんの仲間の建築家とともに、技術工たちは深夜まで試行錯誤を繰り返していた。

今では原田さんは、何か一つ作るごとに、他業種の人とコラボレーションすることにしているという。そのようにしてきたことで、自身もデザイナーとして多角的なアプローチができるようになったと感じているのだそうだ。そしてコラボレートした相手方にも新たな発見をしてもらえること、それが、原田さんの喜びだという。コミュニケーションは、単なる意思疎通の手段ではない。原田さんが考えるものづくりの意義、楽しさ、好奇心に不可欠なもののように思える。
ものづくりから様々な人に出会い、つながること。家を建てるときも水槽を作るときも、原田さんはその過程に何よりの喜びを感じているのかもしれない。(報告:善名朝子)

【セッション関連情報】

【参加者報告】

2012-04-20

インターネットによる「現実」拡張を支える3つの要素 参加者報告vol.8

3月3日に東海大学で行った「ジャーナリスト・エデュケーション・フォーラム2012」の参加者報告。第八弾は、データジャーナリズムの森正弥さん(楽天株式会社 執行役員 兼 楽天技術研究所長)による「変化するウェブ、変化する我々自身」のセッション。報告は森嶋大樹さんです。

インターネット技術では何が起きているのか。重要なトピックは

  • 目の前の現実だけみると「現実」がわからない
  • 「現実」はその場に居ない人すら参加している
  • 現象が拡張していく。これが今起こっている変化

の3つ。
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たとえば、本をiPhoneのカメラに写すことでその評価が見える、というアプリケーションがあったとします。本屋でそのアプリを使用すれば、iPhoneの画面に映る本の情報を得ることができます。

3つの本のどれを購入するかで迷っていれば、そのアプリを使用し3つの本を同時にカメラに映すだけで、夫々の書評つぶやきの数の分だけ人型のアバターが集まってくる様子を見れます。アバターには色が性別、年齢ごとにわりふられており、どの本に人気が集まっているのか、どんな人が読んでいるのかがはっきり分かる。その情報を元にして、自分にぴったりな本を探し出せるわけです。

自分の目で見ている現実ではなく、インターネットの情報を取り入れた「現実」を見ることで物を把握することができます。また、自らもその評価の付加をしていく事で、より上記現象が拡張していくわけです。

次に、上記のような現象は、実は大きく3つの要素の発展に支えられている事をご紹介頂きました。下記がその3つです。

  • Ambient
  • EcoSystem
  • Cloud

Ambientはユーザー側の「端末」を、EcoSystemは「ネット」を、Cloudは膨大な情報量を裏方で計算処理していく「サーバー群」を指します。

それぞれがどのような状況下を、実生活に落としこんで考えみると下記のようになります。

  • Ambient(「端末」)は、iPhoneを始めとしたデバイスの発達は人により多くの情報をネットに発信することを促しています。
  • EcoSystem(「ネット」)は、昨今ドコモの回線が一時使用不能になるほどに、情報量は日に日に増しています。
  • 最後に、Cloud(「サーバー」)は、増え続ける情報をさばくための技術も、AmazonEC2ような大規模なサーバー群を例とするように成長しています。

今我々がネットサービスを快適に使えるのは、この端末、ネット、サーバーという三つの要素の其々の発展に支えられているわけです。知らなければ縁遠い世界ではありますが、その流れは着実に進行しているのです。

講師の森さんからは語られませんでしたが、大事なことは、「これらの発展を我々はどう活かすべきなのか」という事ではないかと思いました。

先は本を例に出しましたが、音楽や広告、記事といった既にネットで親しまれているものはもちろん、実際に物質として現実世界に存在する、椅子やベッドといった物すらも巻き込んでこの流れに取り込まれていく未来が想像できたからです。

この変化を、年齢や国の富裕度といった問題を抜きにすれば、IT業界とは全く無縁だからといって見るのを止めた場合、現実と「現実」が合わさった未来から目を背ける事にも繋がる気がします。逆に、うまく受け入れられたのであれば、より人の生活を豊かにする可能性を秘めている気がします。

初めのうちは、情報過多になりすぎて嫌気がさす人も多く出るかもしれません。無くても生きていけるものですし、整理されていなければそれがただ山積みになっていくためです。しかし、ちょっとした変化が人にこれまで以上の恩恵をもたらしてきた事や、次の世代にとってもしかしたらこれが普通になっていくかもしれない事を鑑みても、色々な人がこの変化について知り、考え、意見をいいあうことが必要だと思われます。

皆で考えより良い進化となるようにしていければ、という未来を感じる講演でした。こちらで感想を言えなかったものもありますので、是非資料を見ていただいて、皆さんもあるかもしれない未来を感じて下さい。(報告:森嶋大樹)


【セッション関連情報】

【参加者報告】

2012-04-01

「ニュースほど有力なコンテンツはない」J-CASTニュース編集長が語る成功の条件 参加者報告vol.7

3月3日に東海大学で行った「ジャーナリスト・エデュケーション・フォーラム2012」の参加者報告。第七弾は、イノベーションの大森千明さん(株式会社ジェイ・キャスト取締役社長)による「編集長生活15年〜新聞・雑誌・ネットと転身〜」のセッション。報告は山田竜司さんです。

私は現在WEB媒体で働いている。J-CASTニュースは一読者として楽しんでいたのだが、編集長が「お堅い」イメージの新聞、雑誌の編集長を歴任された人だと知ってまず驚いた。ネットの炎上、のような記事が多い媒体の編集長はよりギークな印象が強かったからだ。
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■AERA編集長からJ-CASTニュースへ
大森氏はAERAの立ち上げに参画し、同誌編集長、週刊朝日の編集長を歴任した後、大学講師やビジネス本の執筆等、幅広く活躍していた。
大森氏とネットの世界を紐づけたきっかけは2000年前後ITバブルの時期、IT企業社長インタビュー本をいくつか作成したことだったという。取材の為にITやネットの世界を勉強し、本を仕上げる中で、漠然とした興味が大森氏をJ-CASTニュースの設立へと導いて行く。
雑誌、新聞での記者経験は、ネット上の新媒体でも生かせるのではないか、という考えはあったものの、具体的な展望はあまりなかった。しかし、創業者メンバーの誘いもあり、とりあえずネットメデイア立ち上げに参画することを決めた。
これは、IT企業社長らが共通して述べていた「成功する人の条件」と同じものだったという。「とにかくやってみて、やったことから楽しみを見つけ、続ける」というものだ。

J-CASTニュースは委託業務として作成した経済ニュースの英語配信を日本語に翻訳して配信するなど、徐々にWeb領域に記事を広げていった。編集体制は大森氏と新入社員、2人でスタート。スタートアップ企業のフットワークの軽さを生かし、無名のメデイアでありながら、いきなり主要銀行各社に質問書を送りつけるような「無謀なこと」もしたという。開設当初媒体の規模は67万PV(ページビュー)だったが、PVは次の月には100万PV、数か月後に500万PVとなった。ブレイクのきっかけはネットの中で起きていることをニュースとして扱ったことだった。

「今でこそ、ネット上での炎上や発言はネット以外の記事と同様に報道されているが、当時(2006年)はそのようなメデイアはほとんどなかった」

ビジネス分野での記事を増やしていくことも考えたが、競合媒体との兼ね合いもあり、「ネットのいま」を中心に書くことにした。その後、ニュースポータルに記事配信をすることで大きく読者を伸ばしていく。当時無名だったJ-CASTニュースがポータルサイトから記事を紹介(フィード)されることにより読者を大きく増やすことに成功した。
ポータルへの記事提供はJ-CASTニュース本体への読者が減るのではないかという懸念もあったという。「当時のポータルサイトに記事提供することにより、多くの読者を獲得できたのでは。新聞や雑誌と違う、WEB媒体ならではのできごとだった」。そして設立当初は無謀とも思われた、目標1億PV、1000万人の読者を達成することができたという。

■新聞記者時代は視点が蛸壺化していた
何故大森氏が編集長を担当した媒体は成功し続けることができたのだろうか。15年間の編集長の生活を振り返ると、「始めから、『これで間違いない』という方向性を決めてしまうのではなくて試行錯誤の上、方針を定めていくことを貫いてきたからだ」という。

これは、午前のセッションのNHK有吉伸人さんも新番組を成功させるコツの部分で仰っていた事だ。「事前に計画は立てるけれど、定量的なデータだけでは判断できない」という事を改めて認識した。十分な計画同様、重要なのは計画通り行かなかった際の「しなやかさ」なのかな、と考えた。
また、大森氏がよく人に聞かれるという新聞、雑誌、ネットの違いに関しては「プラットフォームに違いは有るが、実はニュース記事を作成する仕事の本質はそれほど変わらない。例えば明治時代の新聞は心中の報道をばかりだった。それはその当時の社会の興味がそこにあるからなのだが、現在のJ-CASTニュースもそこまで変わりはない。例えば最近取り上げた記事の(早慶女子で増える「一般職」 「女子を捨てない」働き方)も社会の流れを表している点では同じで、これは雑誌に掲載しても違和感の無い記事だ。1面の大きさで重大さを評価できるのが新聞との一番の違いだ。雑誌の場合はその雑誌によってその編集長のその時の方針で決まる。販売部数がはっきり出るので、一番商業主義的ある。新聞は報道として読者に一番影響がありそうな政治、経済、社会が中心だ。新聞記者時代は視点が蛸壺化してしまっていた。それは付き合う人が一緒だから。付きあっている人との話題以外は下賤なものとして扱われてしまっていた。雑誌は売上がはっきり出るのでそうはいかない。雑誌は重要なことは人に依って違うので自分が面白いことと思ってもらえることをしよう、という点でネットメディアに近い」と説明していた。

■ニュースほど有力なコンテンツはない
新聞を取らない人は増えている。しかし、「取材した記事が読まれる、というニーズは無くなり様がないのではないだろうか。ニュースは日々存在し、異なったものが掲載される飽きの来ないコンテンツ。ニュースを見たいという欲求は根源的なものなのではないか」と語る。
新聞が儲かるビジネスモデルだったこともあり、ニュースを一生懸命作ろうとする人はたくさんいた。そのビジネスモデルが機能しなくなると、記事を作る人がいなくなっていくかもしれない、という懸念は残る。「3つのプラットフォームを渡り歩いた結論は、ニュースほど日々変化がある有力なコンテンツは、なかなか無い。ニュースのニーズが常にあるということだったから」と締めくくった。
(報告:山田竜司)

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