史上最低の英語の教科書ステファヌ・マラルメ『英単語』について 


詩人マラルメは詩では食べていけず
高校教師もやっていた。
担当は英語だ。
しかし
頭の中は詩作のことしかなく
この職をほとんど憎んでいると言ってもいいほど
まるでやる気のない英語教師だった
マラルメもフランス人なのだ)。
やる気がないだけに評判もそれほどよくなく
それを少しでも挽回しようと
思い立ったのがこの『英単語』である。
「パン代稼ぎ」とマラルメは後にこの本のことを
ヴェルレーヌに宛てて漏らしている。


とはいえ、
ソシュール前夜の言語学の雰囲気、
新しい学問、科学としての言語学(当時は比較言語学と言った)の
雰囲気を如実に伝えてくれる本でもあり、
序文以降の、英単語に対するマラルメ
今日では明らかに嘘八百としか言えない様な観察など、
むしろ詩人マラルメの想像的宇宙が透けて見えて
なかなか興味をそそるものではある。


そういうわけでこの本は珍書の類に入れてもいいかと思う。
マラルメ全集にも抄訳が入っているが
抄訳である上に
このへっぽこ二等兵にでも指摘できる誤訳がごろごろあって
へっぽこ二等兵ゆえに誤訳が少々あっても
ちょっとぐらいはしゃ〜ないでと
水に流すのであるが
全集所収の訳はちょっとひどすぎるのだ。
自分の研究室の学生に翻訳させたのを
確認せずにそのまま掲載したのか?
それとも訳者の体調が非常に優れないときのものなのか?
などといらぬ想像をさせるほどなのである。
そこでこの本を試みに日本語にしてみようと思う。
最初のうちは英語の歴史、
それはすなわち
ヨーロッパの言語の歴史を免れることは
できないわけで
それを几帳面に纏めてくれていて、
そんなに多くはいないであろうが興味のある人は
けっこうためになるのではないかとも思う。
とはいえ、そこはマラルメ
教科書だっせ!これは!といちいち突っ込みたくなる
文体の崩壊っぷり、
しかも小生の力量不足も相俟って
内容が意味不明になる恐れもある。
まぁそこは逆手にとって、
珍書好き、
ややこしいもん好き、
おれのことが好きな人に
楽しんでもらえれば幸いである。


ちなみに
マラルメの死後、1900年代に入ってから、
ヴァレリーの序文付きでこの『英単語』は再び出版されている。