かみちゅ 第8話

まつださんのブログ「たまとわ」より、転載させて頂きます。

http://d.hatena.ne.jp/zeroes/20050831

 戦艦大和を故郷の呉に戻そうとする話。うーん、軍艦マニアでも兵器フェチでもない人間にとっては、これが「良い話」だとは、呑気に受けれなかった。むしろ、おぞましいエピソードではないか。戦争という負の部分に頬かむりする点もさることながら、大和の霊があるなら、それに乗っていた兵隊たちはどうしているのだろう。それを描くと「太平洋の亡霊」になってしまうので避けたというのはわかるけれど。生き残りの元兵士も登場するのだが、彼が「もう一度大和が見たい」とは願っても、戦友たちについては触れないあたり、巧妙というか狡猾というか。

 
 第8話に対する批判として、非常に的を射たものだと思います。しかしその一方で、まつださんのおっしゃるように、「巧妙というか狡猾というか」な物語作りのテクニックが光っているのもまた事実でしょう。この点については、漫画家の飛龍乱先生が、ご自分のHP「ようこそ!マジカルポットへ」の「ときどき日記」の8月31日記事にて触れておられます。以下に転載させて頂きます。

http://hiryu.gozaru.jp/

 神様になった戦艦大和を引き上げよう、という話。
 大和、ってセレクトがズルいなあ。
これが武蔵だったら、長門だったら陸奥だったら、その他の有名でない艦船だったら、また全然違うドラマの作り方(恐らくは、もっと難しい)になったろうし、受け取る感慨も異なっていたろう。
 大和は、アニオタにも軍事オタにも、一般人にとってさえ、有名で特別な船だから。
その認識と思い入れを踏み台にして、ドラマを構築できる。

 軍事的な色合いは、ほとんど排除してある。
このアニメだけ見ていると、戦争は関係なく、大和は氷山にでも衝突して沈没したんじゃないかと思えてしまう程。
 確かに、この辺りは迂闊に描くと重く、ややこしくなってしまい、右・左どちらかの思想的背景を無用に疑われる恐れさえあるので(製作者、そういうのを楽しんでるフシも?)、深く触れないのが利口。
 船が大和である事に格別の意味はなく、のほほんアニメ版『レイズ・ザ・タイタニック』と捉えるべきだろう。

 戦死した大和乗員の英霊はどこに?
靖国へ…とか描くとまた大騒ぎだな。
だからここも、触れないのが上策。
 爺さんの思い入れは、あくまで大和本体にだけ、向けられる。
 浮上して久しぶりの海風を受け、子供のように喜ぶ大和にはホロリ。
その勇姿を目にして、胸をいっぱいにする爺さんも、染みる。

 こちらは、第8話の物語作りの上手さへの評価として、大変的確であるように思われます。
 生き残りの元兵士・源さんの思い出話でも、東南アジアや太平洋をまわったと言いつつも戦場の具体的な様子や日本が占領した地域の住民については全く触れず(源さんが「工作課」という技術部門に配属されているのがまた巧妙です)、しかも源さんは昭和19年11月の時点で大和を降りているため(怪我のため、ということになっているが、それが戦傷なのかどうかもはっきりしない)、その後の沖縄への無謀な出撃も、さらに悲惨極まりない沖縄戦も、すっかり抜け落ちてしまうことになります。まさに、飛龍乱先生のおっしゃるように「戦争は関係なく、大和は氷山にでも衝突して沈没したんじゃないかと思えてしまう程」であり、まつださんのおっしゃるように「巧妙というか狡猾というか」です。
 そして、そもそもなぜ戦争が起こったのか、その歴史的背景は?といったことも抜け落ちているのですが、この作品の巧妙なところは、作品で描かれていない部分については、「この物語世界は、現実の世界とは異なる歴史を歩んでいるのです」という弁解が通じてしまいそうなところであるようにも思います。何しろ、「1980年代が舞台です」と言いながら、第4話ではタコのごとき火星人が登場し、さらに地底人や海底人まで出てきているのですし、そもそも「現役女子中学生」が何の説明もなしに「神様」になってしまえる世界なのですから、これは現実とは微妙に違う歴史を持つ世界なのだ、と言われても不思議ではなさそうです(もしかするとこの物語世界は、沖縄の地上戦も数々の空襲、原爆投下もなく、さらに言えば、従軍慰安婦南京虐殺事件も、そしてまた靖国神社も存在しなかった世界なのかもしれません)。
 このように歴史的な背景の描写を巧妙に避けつつ、源さんの「戦争なんかに使われちまったけれど、ありゃあ良い船だった」(これは、「戦艦」対して言う言葉ではないでしょうが)という科白や、帰還した大和に旭日旗の代わりにはためく「ラムネあります」の旗など、 心情的な平和主義、とでも言えそうな描写が出てくるわけです。そのため、「ホロリ」とさせられるのは確かなのですが、同時に納得できないしこりが残ってしまう話だったと言わざるを得ないところです。