一般的に人々は、他者からアドバイスをもらい、それを活用することでより良い意思決定ができます。しかし、企業の経営者や管理者がナルシシスト（ナルシスト）である場合はどうでしょうか。ナルシシズム（自己愛）とは、自分自身の知性や魅力、能力が優れていると信じているがゆえに、優越感や自己陶酔、うぬぼれを抱きやすい度合いです。先行研究では、ナルシシズムが高い人物すなわちナルシシスト（ナルシスト）は、他者からのアドバイスを利用しようとしない（聞く耳をもたない）ということが指摘されてきました。もしこれが本当であれば、経営者や管理者がナルシシストの場合、他者からのアドバイスによって優れた意思決定を行う機会が妨げられる可能性がでてきます。
上記を受けて、Kausel et al (2015)は、ナルシシストが他者からのアドバイスを利用しないメカニズムを解明することを目的として４つの実験を行いました。１つ目の実験では、被験者に性格テストを実施してナルシシズム的な性格の度合いを図り、その後、特定のタスクを与え、そのタスクを遂行する際に他者の意見を参考にする度合いを測定しました。その結果、ナルシシズム的性格の度合いが高い被験者ほど、他者の意見は不正確で参考にならないと判断し、結果的にそれらの意見をタスクの遂行に反映しませんでした。２つ目の実験では、プライミングという手法を使って意図的に特定の被験者のナルシシズムの度合いを高め、１つ目の実験と同じようなタスクを行ってもらいました。その結果、１つ目の実験と同様に、実験的にナルシシズムの度合いが高まった被験者ほど、他者の意見は不正確で参考にならないと判断し、結果的にそれらの意見をタスクの遂行に反映しませんでした。しかも、その効果は１つ目の実験よりも強かったのです。
３つ目の実験では、なぜナルシシズムの高い人は他者の意見を不正確で参考にならないと思うのかを明らかにするために、測定項目を増やして２番目の実験と同じ内容の実験を行いました。その結果、実験的にナルシシズムが高まった人は、そうでない人よりも意見をくれた他者の能力が劣っていると知覚し、それが、彼らからの意見が不正確で参考にならず、結果的に意見を反映しない傾向にあることが分かりました。４つ目の実験では少し視点を変え、被験者が自分が下した意思決定プロセスを説明する必要が生じたときに、ナルシシズムと意見の反映との関係がどうなるかを調べる実験を行いました。その結果、ナルシシズム的性格の強い被験者は、自分の意思決定プロセスを説明する必要がある場合に、そうでない場合に比べて、他者の意見をタスク遂行に反映しない度合いが高まることが分かりました。
Kauselらによる4つの実験の結果をまとめると次のような見解が導かれます。まず、ナルシシズムが高いほど他者からのアドバイスを利用しないという傾向は明らかなようです。つまり、ナルシシストは他者の意見には耳を貸さないというわけです。なぜそうなのかというと、ナルシシストは、アドバイスをくれる他者の能力を低く見積もるからです。その結果、自分の下した判断の方が優れている。その半面、他者のアドバイスは不正確だし参考にならないと判断し、結果的に他者のアドバイスを無視しがちになるというわけです。しかも、ナルシシズムは、特定の人のみが持っている安定した性格特性のみではなく、状況によって高まったりするものです。よって、状況次第では誰もがナルシシストになって自己陶酔・傲慢な状態になり、他者からのアドバイスに耳を貸さなくなる可能性を秘めているということが言えます。
そして、ナルシシストが他者からのアドバイスに耳を貸さない傾向は、意思決定プロセスを他者に説明する必要が生じるときに顕著になります。一般的には、人は自分が下す意思決定を説明する必要があるときは、できるだけ他者の意見を取り入れようと振る舞います。なぜならば、他者のアドバイスを取り入れるほうが社会的に望ましいと考えられているし、他者のアドバイスを取り入れているほうが、不適切な意思決定をしてしまった場合の自己防衛になるからです。しかし、ナルシシストにとってみれば、このような状況こそ、誇大自己表示・自己顕示をする絶好のチャンスとなるのでしょう。つまり、自分の意思決定プロセスを説明する必要がある場合にはとりわけ、他者よりも自分が優れていることを示すためにも、他者の意見を取り入れないほうに傾くというわけです。
企業経営の立場からこれらの研究を見るならば、経営者や管理者のナルシシズムが顕在化することによって有益なアドバイスが無視され、良質な意思決定が阻害される可能性を弱めるような工夫をする必要性が示唆されるといえます。そしてあなたも他人に耳を貸さないナルシシストにならないよう、気をつけましょう。
文献
Kausel, E. E., Culbertson, S. S., Leiva, P. I., Slaughter, J. E., & Jackson, A. T. (2015). Too arrogant for their own good? Why and when narcissists dismiss advice. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 131, 33-50
