もういくつ寝ると何が変わるのか?

もういくつ寝るとお正月〜 お正月にはたこあげて〜 こまをまわして遊びましょ〜 早く来い来いお正月〜
もういくつ寝るとお正月〜 お正月にははねついて〜 おいばねついて遊びましょ〜 早く来い来いお正月〜

という歌がある。これはお正月という楽しい期間を待ちわびている歌だが、私たちが人生において何かを指折り数えて待つのは楽しいものだけとは限らない。むしろ私の人生を振り返ったときに指折り数えて待ったのは大体楽しくない思い出が多い。

もういくつ寝るとセンター試験〜 分からなくても適当にマークして 翌日新聞見て恐怖の答え合わせ〜 ずっと来なくていいよセンター試験
もういくつ寝ると二次試験〜 無駄でもいいからなんか書いて〜 落ちたら三浪生活よ〜 ずっと来なくていいよ二次試験〜

もういくつ寝ると卒論提出日〜 まだ1文字も書いてない〜 書くテーマすら決まらない〜 ずっと来なくていいよ卒論提出日〜
もういくつ寝ると卒論提出日〜 母さん生まれてごめんなさい〜 来年も学費がかかります〜 ずっと来なくていいよ卒論提出日〜

こういう経験をして気がつくと弟と同級生になっており、呼称も「兄上」からいつのまにか「お前」へと変化し、母親からは「穀つぶし」と言われる。友人からも「ダメ人間」のレッテルを貼られ、会社では「給料泥棒」と呼ばれる。書いていると悲しくなってくるが、全て自業自得である。

なぜ、こんな話をするかと言うと、もちろん今まさに、もういくつ寝て、その日が来るのを待ちわびているからである。しかも今回はこれまでの人生と打って変わって期待とともに待ちわびている。

何を待ちわびているかと言うと8月1日である。もう明後日だ。一応この日を境に私は劇的に変わる予定である。なぜならこの日を境に私は急に英語が聞き取れるようになるはずだからである。

3ヶ月経てば英語に耳が慣れてきて聞き取れるようになると聞いた。この話は友人からも聞いたし、ネットなどでも見かけた。複数の情報源から聞いているので間違いない話だろう。私が豪州に着いたのは5月1日だから、8月1日は4ヶ月目の初日にあたる。つまりこの情報をもとにして考えれば、私は8月1日から英語が聞き取れるようになるはずなのだ。

現在の私ははっきり言って全くダメなままである。例えば仕事関係で知り合う人が非常にゆっくり話してくれればなんとか半分くらいは分かるが、一緒に住んでいる二人が本気で話すとほとんど分からない。誇張ではなく9割くらい分からない。

これはもちろん発音の問題だけではなく、単語の問題もある。例えば同じような意味内容を伝える文章であっても、場面によって単語の選択が変わることは非常によくある。

■丁寧な会話例
「いつもお世話になっております。大変失礼でございますが、どちらの中学校の所属でございますか?」
「お世話になります。私は古江台中学校でございます。大変若輩者で恐縮ではありますが私がトップを務めさせていただいております。」
「了解いたしました。それでは少しお話させていただきたいのですが、今お時間よろしいでしょうか。」

■カジュアルな会話例
「おう。お前、何中やねん?」
「ああ?古中じゃ。番張ってる俺のこと知らんのか。」
「は?なんじゃ、こら。今やんのか?」

日本に来た外国人がカジュアルな会話例より丁寧な会話例の方が理解しやすいのと同様に、私にとっても一緒に住んでいるやつが話す英語の方が仕事の英語より何倍も難しい。(別に一緒に住んでるのがヤンキーという意味ではなく)

例えば彼らがよく口にする単語に「awesome」「humongous」「weird」「yuck」というのがある。今考えるとバカバカしいが私は大学受験の時は「数学的帰納法」とか「構造主義」という意味の英単語まで覚えていたが、上の単語はどれも知らなかった。私は彼らの口から「数学的帰納法」とか「構造主義」という単語を聞いたことはないので、どちらが本来学ぶべき単語だったかは明らかである。ちなみにそれぞれの意味はとしては"awesome"は「めっちゃイケてる」、"humongous"は「デカい」、"weird"は「変だ、おかしい、キショい、」、"yuck"は「オエッ。キモッ!」みたいな感じである。

ところで私はweirdという言葉が結構気に入った。同居のNZ人がこの言葉をよく使うのだが、私が爆笑したのは「キュウリの味はweirdだ」と彼女が言ったときだ。キュウリの味が他の野菜に比べて少し変なのは私も薄々感じていたが、明確に意識したことはなかった。「なんかこいつはちょっと他の野菜と雰囲気違うよな」程度の認識だったのだが、彼女が「なんかキュウリの味ってちょっと変じゃない?」というのを聞いて長年の胸のつっかえが取れたような気がした。うん、まずいわけじゃないけど確かに変だ。私は決してキュウリが嫌いではないが、同じクラスなら友達にならないと思う。レタス、トマトもサッカー部のにおいがして友達になれない。たぶん、仲良くなるのは大根とか茄子あたりだろう。友人を見回しても筑前煮に出てきそうなタイプのやつが多い。サラダ系はあんまりいない。そんな感じがする。

話が野菜に逸れてしまったが、確かに日本語でも「ヤバい」とか「ウザい」とかを日常会話で使うのと同様に、こちらでも学校では習わない言葉が使われるのは当たり前である。「マジ、チョーウザいんですけど」は外人にはなかなか理解してもらえないだろう。私も同様に英語版の「マジ、チョーウザいんですけど」はなかなか理解できないのだ。受験勉強などがあるので日本人はボキャブラリーは比較的マシだと思っている人がいるかもしれないが、実は日常会話を理解するのにも大いに不足していると思う。

ただボキャブラリーは英語を聞き取る上での最大の原因ではないし、単語を覚えれば済むのだから対応はしやすい。

一番の問題は発音やアクセントなのだ。こちらはルールを覚えても耳が(というか体が)慣れていないと聞き取れないのだ。
先日NZ人が「今日はテレビでアメリカのトップモデルの番組あるよ。超楽しみ。」と言ったのだが、私は番組が始まるまで「アメリカのトマトの番組」だと思っていた。"Top model"が"Tomato"に聞こえたからだ。「うーむ、意外と渋いものを好むんだな・・・侮れん」と妙に感心していたのが非常に悲しい。いまだにそんな状態なのである。

この問題に対して「3ヶ月待てば分かるようになる」というのは私にとって心のよりどころになっていた。例えほとんど分からなくても「あと一ヶ月の我慢だ」とか「もう1週間経てば分かるようになる」と自分に言い聞かせてここまで来た。

それがいよいよ明後日なのだ。ここで胸が高まらない方がおかしい。

もちろん私もいくつか疑念がないわけではない。
1.なぜ3ヶ月なのか?
正直言ってこれはよく分からない。正確を期するなら月数ではなく日数で計るべきである。同じ3ヶ月といっても、2月から4月までだと89日しかないのに対して、私がいる5月から7月までなので92日あるからだ。この3日間の誤差をどう説明すればいいのだろうか。おそらく当初は90日だったのがどこかで3ヶ月に変換されたのだと思う。「一日で耳にする言葉数×90日」程度の英語を聞いていれば耳が慣れてくるということなのだろう。90日なら私はすでに英語が聞き取れるようになっていなくてはおかしいのだが、聞き取れていないということはどういうわけか90日ではなく3ヶ月が現代の英語聞き取りの基準になったのだろう。このあたりの微妙なズレは太陽黒点の動きなどが関係しているような気がするが、詳しいことは分からない。

2.例外はないのか?
これは大いに可能性が考えられる。先日別のエントリーにも書いたが、私は英語に向いていない可能性が高い。「病気」かもしれないという疑念も依然解消されていない。ひょっとしたら私は三ヶ月ルールが適用されないかもしれない。しかしこう見えても英語の勉強は比較的出来た方だ。他の日本人が3ヶ月で慣れたのなら、私も慣れる可能性を信じるしかない。

3.7月31日の24時を境に急に聞き取れるようになるのか?
「3ヶ月経てば耳が慣れる」という言葉を文字通り解釈すれば、「4ヶ月目の初日からは耳が慣れた状態になっている」つまり「英語が聞き取れるようになっている」と考えることが出来るだろう。
もちろん徐々に慣れるのであって、急に変化するわけではないとの反論もあるかもしれない。
しかし、それは「量質転化」という概念を知らない愚かな人間の言うことである。量質転化とはある一定量を積み重ねることで質的な変化を起こすという現象のことである。自転車に乗ることを例に取るとある一定の練習量を超えた段階から自転車に乗ってもこけないようになる。これは練習「量」が自転車に乗るという「質」に転化したからである。スポーツや勉強などで伸びが練習量や勉強量に単なる比例関係ではなく、ある一定量に到達したときに急に何かが出来るようになるという階段状の伸びを示すことがある。あれが量質転化である。
この考えに従えば、ここまで伸びが見られなくてもあまり問題はない。4ヶ月目の初日から急にステージが上がり、聞き取れるようになるはずである。

4.万が一変化がなかった場合、救済措置はあるのか?
これが最大の疑問である。あまり考えたくないが、万が一、4ヶ月目の初日になっても変化がなかった場合、どうすればいいのだろうか?私は残念ながらこの問いについては答えを持ち合わせていない。これを読んだ人の中で、何かしらの救済の方向性を教えてくれる人を期待している。
もし誰からも救済措置を教えてもらえなければ、やはりいよいよ「英語が聞き取れない病」と認定してもらうための社会活動を始めるしかないと考えている。


私はこちらに来る前にレーシックの手術を受けて、急に目が見えるようになった(両眼とも0.02→1.5)。もうさすがに慣れたがあのときは世界が変わったような気がした。眼の次は耳の番である。
もういくつ寝ると、と数えてここまで来たが、もう残りは27時間程度である。8月1日になって急に英語が聞き取れるようになる日を心待ちにしたい。