私の寿司作り

先日日本でも「Sex and the City」が公開されたらしいが、見た人はいるだろうか。

私はオーストラリアでの公開間もないときに(もう2ヶ月以上前だが)、一人で見に行った。本当はインディ・ジョーンズを見たかったのだが、その日はインディがやってないと言われて、一番上映時間が近い「Sex and the City」を見ることにしたのだ。映画の内容から考えても当然客の大半は女性である。もしくはカップルである。アジアの島国で生まれたおっさんがオーストラリアに来て一人で「Sex and the City」を見ているというのは変態に限りなく近い気がするし、実際思いっきり浮いていたが仕方ない。ストーリーはシンプルなので英語についていけなくてもなんとなく分かる。もちろんこれまでのドラマを見ていなかったし、英語特有の細かいジョークなどはいまいち分からないところがあったのだが、思ったより楽しめたことは間違いない。

その映画の中に日本のものが二つ出てくる。「日清カップヌードル」と「寿司」である。特に寿司の登場の仕方は爆笑物なのだが、この二つがアメリカにいかに浸透しているかが分かって面白い。

オーストラリアでも特に寿司の人気は非常に高い。大きな街であれば"Sushi train"と呼ばれる回転寿司屋は何軒かある。私もなかなか勇気を出して行けていないのだが、ブリスベンにもヤバそうなSushi trainが5軒以上はある。こちらの人はサーモンとせいぜいマグロを除いたら生魚は食べないので、アボカドやツナマヨ、チキンカツなどの巻き寿司が多い。

私も「日本人です」と言うと「アイ ラブ スシ、フー!」と言われて、よく分からないまま「フー!」と言い返していることも多い。まあそれだけ有名だということだ。特にヘルシー志向の若い女性は頻繁に食べている。

そこで先日同居のNZ女性に「あんたも日本人なら寿司の一つくらい作ってよ」と言われたので、生まれて初めて寿司作りにチャレンジしてみた。

ところがやったことがないものだから、何から初めていいか分からない。このNZ人は行動派なので「とりあえず買い物行ってから考えましょ」と言う。しかし普通のスーパーに寿司作りに必要な食材や器具があるとは思えない。

そこでまずやってきたのは海外のアジア人最強の味方「チャイナタウン」である。これほど力強い味方はそうそういない。幸いにもチャイナタウンは私の家の近くにあり、そこにはアジア向け食材が売っているお店もある。餅やカップラーメンなど日本の食材もたくさん置いてある。

まずはそこで米と海苔、酢、しょうゆ、わさび、紅生姜を購入。紅生姜なんかいらんだろ、と思っていたが、NZ人に「これがないと寿司とは言えないわ、あんたそれでも日本人?」と言われ、つい購入。うーむ、彼女にとって紅生姜が美味しいというのは意外だ。

また器具類も必要だ。まきすがないとどうしようもない。さすが寿司作りにチャレンジする人は多いらしく、ちゃんとまきすも置いてある。

作り方がわからないので母親に電話して聞いてみたところ、これだけあればとりあえずなんとかなりそうだ。

続いて普通のスーパーのWoolworthsに行って具となる食材を購入。アボカド、サーモン、ツナ、キューピーのマヨネーズ、チキン、むきエビ、きゅうりを購入。これが購入したもの全部だ。

家に帰ってまずはお米の準備。使ったのはこのお米。

オーストラリア米だと思うが、見た目は結構美味しそうだ。お米をといでいると、そんな何回も必要なのかと言われるが、ここは日本人として「お米は洗わなければならないのだ」と強く主張して認めてもらう。

それを炊飯器に入れる。これは私が日本から持ってきた炊飯器なのだが、実は今回がはじめての使用である。

お米を水を入れ電源を入れてみた。・・・しかし全く動かない・・・。何回チャレンジしてみてもダメだ。どうやら電圧問題が再燃したようだ。今回は前回の反省を踏まえちゃんと電圧変換器具を使っているのだが、安物のためかうまく電気が伝わらず結局使えない。「日本の電化製品は使えないわね」とダメだしを受ける。うっ、使ってるパソコンはTOSHIBAのくせに・・・。

始まって間もないところでいきなり問題勃発。というわけで鍋登場。水とお米の分量はそのままである。鍋でお米を炊いたことはないが、適応に加減見ていけば大丈夫だろう。そこで彼女がもっと水入れた方がいいんじゃない、と指示をしてくる。彼女は「そこまで水を入れたらおかゆだろ」と言うくらいの分量を指示してくる。たぶんお米の水加減に敏感なのはアジア人の特性かもしれない。彼女は「どうせなのだから水なんかどばっと入れちゃいなさいよ。男でしょ」くらいの感覚である。うーむ、米を炊く水の分量に男を見出すとは文化の差を感じる。


BGMも日本風のものが良かろうと中島みゆき「時代」をかけると、「・・・暗いね。もっと踊れる曲ないの?」とダメだしが入った。日本人は踊りながら寿司を作らないことを力説したものの確かに少し暗いので、kaleidoscopioに変えるとテンション上がりだす。寿司には合わん気がするが背に腹は変えられない。


その間に具の準備。スウェーデン男も帰ってきて3人の作業だ。チキンを焼いたり、エビを解凍したり、ツナとマヨネーズと玉ねぎを混ぜ合わせたり、きゅうりやアボカドを切ったり。

そして数分立つとご飯が炊き上がったので、しばらく冷ましたあと、いよいよ海苔と一緒に巻いてみる。最初は「あんた日本人なんだから巻き方教えてよ」と言っていたのだが、私もやり方がわからない。何本か作っているうちに、彼女が段々慣れて上達してきたらしく「この海苔あんまり質が良くないわね」とか「(私に対して)あんたそうじゃないわよ、巻き方下手ね」とかダメだしが入る。

私がエビとチキンを一緒に入れて巻こうとすると二人が「いやいやいや、さすがにその組み合わせはないやろ。タンパク質タンパク質やん」と突っ込んでくる。・・・。日本人の肩書き台無しである。

そんなこんなでいよいよ完成。

ちょっとツナが多目なのは否めないが、初めてにしては綺麗に巻けていると思う。

食べてみると、これがうまい!実に美味しい!

彼らも「今まで食べた寿司で一番美味しい」と言っている。「何回食べたことあんねん!」と突っ込みを入れたくなったが、それはさておき確かに成功と言えるだろう。

思えばダメだしばかり受けてしまったが、とりあえず彼らのおかげで寿司作りには成功した。今回教訓として得たのは「チャイナタウンさえあれば海外生活は平気」「電圧問題は色々なところに立ちはだかる」「外人は日本人より寿司作りがうまい」の3点だ。皆さんも気をつけられたい。