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タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会

この会では、タイで育つ日本にルーツを持つ子どもたちの幸福を、子どもを取り巻く全ての大人たちが、それぞれの立場から「ことば」を切り口に考えていきます。
ことばの力とは、自分を理解し、人を理解し、社会との関係を拓いていける力のことです。その力を育てるために一人でも多くの方々と一緒に考え、活動していきたいと思います。

2016-04-03

2016年4月第1回ダブルの大学生会開催のご報告

日時:2016年4月2日14:00〜17:00
場所:American School of Bangkok 幼稚園部


昨日、第1回ダブルの大学生会を開催いたしました。
現在、タイの大学で日本語を専攻・副専攻する学生の中で、日本とタイの国際結婚の子どもたち、ダブルの大学生が増えています。その学生たちが知り合うきっかけを作ること、また彼らの今までの人生と、今を知ることを目的に、運営委員を中心に開催いたしました。初めは初対面の者同士、緊張した面持ちで始まりましたが、すぐに打ち解け、それぞれの人生を語りながら、互いに共感し、互いに驚き合い、あっという間に会を終えました。

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2016年1月ワークショップのご報告

2016年1月31日に行われた、ワークショップの報告をします。今回は、前回8月に行われたワークショップと同じテーマで行いましたが、前回よりもしっかり話をする時間を設けたこともあり、参加者同士活発に意見が交わせたのではないでしょうか。今回も前回同様、言語と人とのかかわりを振り返るマップを作成しました。

■ワークショップ・当日の活動の流れ
12:00〜12:25開始、参加者全員の自己紹介、研究会紹介
12:25〜13:05自分自身のマップ作成
13:05〜13:35休憩
13:35〜14:10子どもマップ作成
14:10〜14:30ポスター作製(子どもマップをグループで1枚選び、気がついたことを書き出し、カテゴリー化した)
14:40〜15:30ポスターセッション
・各グループポスター特徴紹介
・前半/後半に分かれ、他のグループのポスターを見に行く
15:30〜15:50ポスターセッション後の気づきを書き、グループで共有
15:50〜16:05全体で気づきの共有
16:05〜16:15複言語・複文化の可能性、トランスランゲージングについて
16:30終了


会場の様子
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■マップの書き方
前回と同様に、今回のワークショップでも、言語使用状況と人との関係性を視覚化しようと試みました。

◆言語と人を色で示します
日本語・日本語人
タイ語・タイ語人
英語・英語人
その他の言語・言語人
◆人とのかかわりは線の太さ・種類で表します。毎日会う家族でも、心の捉え方次第で実践でなく点線となることもあります。
◆マップには大きい円が3重にひいてあります。内側から毎日、時々、たまに会うという頻度を示し、一番外側は月に一回会うか合わないか程度、または国外にいる場合を表します。

では、ワークショップの流れに合わせて、以下に詳しく写真付きで、ご報告いたします。

■自分自身のマップの作成
今回実際に作成したマップを紹介します。
前回は言語でその人の生活を分けましたが、今回は言語世界で分けず自由に使用言語状況と人との関係性を書きこんでもらいました。

≪作成した自分自身マップの例≫f:id:jmherat:20160131151749j:image:w360:right
生活の中に3つの言語が使用されています。言語によって自分の世界を分けていることはなく、3つの言語が混在しています。また仕事仲間も友人も複数の言語・文化背景の方たちだということがわかります。またどの言語でも太い線で結ばれる関係が築けています。





f:id:jmherat:20160131151916j:image:w360:rightこの方は自分の世界は仕事とプライベートで分かれていると感じています。3つの言語が使われていますが、プライベートではタイ語が中心で、仕事では英語と日本語が主な使用言語です。また一人の人と複数の言語使用が見られます。これは周囲に誰がいるかによって意識的に選択している時もあるし、無意識に使い分けている時もあるそうです。



≪自分マップを作成している様子≫
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■子どもマップの作成
次に子どもマップを作成しました。保護者の方は、ご自身の子ども、教師は担当している子どものマップを作製しました。大人にはなかったオレンジ色は、ダブルの子どもを表します。これは、子ども自身と同じ背景の子ども同士の関係を見るためです。

f:id:jmherat:20160131173218j:image:w360:right親が書いた子どもマップ例
(1)11歳男子 父:日本 母:タイ
現在インター校
複数の言語、そして様々な背景の人と関わっています。兄弟とは3つの言語が使用されているのがわかります。英語が太い線なのは二人ともインター校に通っていることも理由でしょう。また日常的でなくても、同じダブルの子との関わりもあります。様々な人と太い線で結ばれているのが特徴的です。


f:id:jmherat:20160131173500j:image:w360:right(2)19歳男子 母:日本 父:タイ
インター校を経て、本人の強い希望で日本の高校に進み、現在日本の大学に在学。
父親はタイの方ですが子どもとは、英語で接していました。タイ語が増えたのは成長してからです。マップでは日本語が大きな割合を占め、濃い関係性も日本語を使う人との間に形成されています。しかしこれは日本の学校に行ってからです。タイでは日常的に日本語は使っていましたが学習言語ではありませんでした。本人が自分の夢のために日本の高校に行きたいと自分で勉強しました。成長の過程でその子どもの言語世界も変化します。

■ポスター作成
グループの中で一枚を選び、一人5つ、気がついたことをポストイットに書きだし、似ている項目をまとめてカテゴリー化しました。
2つのグループのマップを紹介します。

【グループ3の例】
子どもの背景T君:5歳男児、父:日本(参加者)母:タイ
現地幼稚園のほか同じ背景の子ども達の集まる会に参加
この子どもを選んだ理由様々な人(大人も子どもも)との関わりが豊富にあるが、そのほとんどがタイ語での関わり。父親は日本語を使う世界をもう少し増やしてやりたいので、どのようにしたらいいか、他グループの人の意見も聞いてみたい。
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※色の違うポストイットは他のグループの人からのコメント

【グループ4の例】
子どもの背景Hさん:22歳大学生(国立大日本語学科4年生)父:日本 母:タイ
9歳の時日本からタイへ。父は日本にとどまり、妹と母の3人暮らしだった。大学で日本語を専攻したいとバンコクに上京した。
この子どもを選んだ理由Hさんのがどのような、人とどのような関係を築き、どんな思いで生きてきたか、当事者の話を直接話聞きたい。9歳の時、高校生の時、そして現在と3つのマップでその時の状況や気持ちを語ってもらうことにした。

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※色の違うポストイットは他のグループの人からのコメント

■他のグループのマップを見に行く
このように、書きだしたものを貼りだし、ポスターセッションをしました。
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■ポスターセッションで気づいたこと(気づき2から抜粋)

  • 今まで環境が言語を育てると思っていた。他人まかせ環境まかせだったが、基盤は親の愛の言語なのだと気づいた。(Kさん・母親/日本語教師)
  • 人は、″楽しい″から学ぶんだ!!(言語習得を第一義にしない。特に幼児期)(Sさん・母親)
  • 子供に影響を与える環境は、家庭、学校以外の周り(住環境、地域社会)にもあり、これをしっかりコントロールするのも親の責任だと感じた。小さい子供にとって楽しい経験、おもしろい経験は言語を習得するモチベーションになり、上達も早いと思う。(Aさん・父親)
  • 子供から見える親の他との関係(対 友人、学校、先生)を良好にすることで子供が安心する(Sさん・母親)
  • いかに子供を楽しい状態にもっていくか?もっとできる部分に着眼する。(Uさん・父親)
  • 言語の強さと友人関係の豊かさに大きな関係があるように思える。辛い思いをしている時にそれを乗り越える力はどこから来るのか。人間関係の多様さではなく、信頼できる人との絆ではないか。言語の習得は年令や環境によって常に変化するもの。親や教師としてできることは何か。(Sさん・父親/学校教師)
  • 子どもだからと言って新しい言語環境に容易になじめるものではない。(Iさん・幼稚園教師)
  • 必ずしも日本語が必要なのか。タイ語、英語、何語でも自分を語れるなら残念がる必要はないのでは。日本への興味があれば、日本語を使えるようになりたいと自分で思ってくれるのでは。でも、今興味がなくても焦ることはないのかも。(Mさん・日本語教師)

■複言語・複文化の可能性そしてトランスランゲージングへ
「複言語・複文化」では、ネイティブ並の能力を目指すのではなく、どのようなレベルであれ資源なのだと考えます。「話せるけれど書けない」ではなく「話せる」と捉えることが大切です。また現実の世界では言語は実は混ざり合っています。この混ざっている状況を今日のWSでも感じました。言語は混じり合ってその人の「言語世界」を形成しています。また、この「言語世界」は成長の過程で変化します。このように捉えるのがトランスランゲージングです。この混ざっている状況をより豊かに育てたいものです。(JMHERAT)

■ワークショップの感想

  • 参加者の方々の色々なケースを見て、新しい気づきや考え方ができるようになりました。年令も職業もタイにいる理由も様々な方達と話し合う機会が持て、気付かされた点も多く、有意義な時間が持てました。(Sさん・父親/学校教師)
  • 言葉は数や上手にはなすことができるなど表面的なものが大切なのではなく、まわりの関わり、人間関係が自己を認め、育む上で大切なことだということを学びました。(Nさん・幼稚園教師)
  • 自分と向きあう機会ができてよかった。(Hさん・学生/当事者)
  • ただ誰かのお話をきくよりも非常に分かりやすく勉強になりました。たくさんのケーススタディーが得られ参考になりました。(Uさん・父親)
  • 他の方々の話を聞いたりすることが出来、よかったと思いました。いろんな職業の方にお会い出来、話せることにより参考になることも多かったです。(Fさん・幼稚園教師)
  • 様々なバックグランドを持った方と話すことにより、より1つのことを多角的に考えることが出来した。(Sさん・幼稚園教師)

運営委員

  • 自分自身が色々な方と出会い話をする。世間話ではなくて、自分や家族のことについてテーマをもって話すので、新しい気付きがあったり参加者全員を刺激しているのだと思います。親の立場で参加された方は、自分のその心の動きが子どもへ反映されるだろうし教育者の立場の方は、接するお子さんへ反映されるのではないかと思います。私自身も色々な職業や立場、在タイ年数や年齢も違う方々と交流することが出来るのでたくさんの刺激をもらうことが出来きました。自分が経験したこと無いお話を聞くことで知識が豊かになるような気がしています。参加自身の心が揺れ動く場所になるのかなと思います。(K・聴覚療法士)
  • ダブルのお子さんの保護者の方から、「子どもはこの先ずっと周囲から、日本語が話せるもの、日本についてよく知っているものと見られてしまう。それを本人がどう感じるか」という内容の、お子さんの今後を気遣う発言がありました。多くのダブルのお子さんが経験していくことではないかと思います。ワークショップ終わり近くにこのお話があり、今回はこのテーマでの意見交換まではできなかったのが残念でした。(N・日本語教師)
  • 今回のワークショップは小規模で行ったため、グループ内や全体で話し合う時間をたくさん持つことができました。そのため、参加者された方々が話し合いで出たことを自分のこととして一旦飲み込む時間が持て、より深く話し合いの内容を考えることができたのではないでしょうか。そして、それにより一方通行ではない学びができる場になったのではないかと感じました。また私自身親として、子どもが楽しいと思える環境でことばの力を育み成長していくために、親ができることは何かということについて改めて考える機会になりました。(F・日本語教師・保護者)
  • 子どもにとって「楽しい」ことが大切だという感想が他の参加者からもたくさん出てきました。
  • 「幼児教育で楽しいことは重要だということはいつも言われていて、十分わかっていたつもり。でもきょうはなぜ楽しいことが大切か、ことんと腑に落ちたそんな気がします。」(幼稚園教師)

皆さま、お疲れさまでした!!
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2015-12-08

2015年11月勉強会のご報告

日 時:2015年11月7日
場 所:学習空間ノア(NOAH)会議室
参加者:9人
テーマ:【家庭内共通語について】
     ・第六回勉強会の感想の共有
     ・「トランスランゲージング」の紹介
     ・育児アルバムの実践から
紹介資料:「考えることばを育むことばの教育−メタ認知を活かした授業デザイン−」内田伸子
     「トランスランゲージング書評」
     (「母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究」第11号)


2015年11月7日の第七回勉強会は、8月のワークショップ後から継続して考えている「家庭内共通語」について、第六回勉強会とは違った視点から意見交換をしました。
勉強会の冒頭で、深澤先生から「トランスランゲージング」についてご紹介頂き、復言語という概念について再考しながら勉強会はスタートしました。
大半が国際結婚ということもあり、各国事情入り混じった議論となりました。
豊かな体験とことばの繋がりとは? そもそも豊かな体験とはどのような体験なのか? 
体験とことばの関係をふまえて家庭内で出来る事とは?親の思う「成功」とか「失敗」ってなんなのか? 子供の選択権とは?


感想1

今回『トランスランゲージング』という考え方を聞き、親としてダブルの子どもに対する理解がしやすくなった気がします。
「言語能力は混然一体となっており、全体として一つのもの」というのはイメージではぼんやり持っていましたが、やはりモノリンガル、バイリンガル、トリリンガルと言語数で分けて判断・評価しがちになっていました。
それぞれの言語能力を伸ばしてやることももちろんですが、その人間の内部にある外部から見えない思考や思想の資源を豊かにしていくことが必要だと感じました。
(男性・国際結婚保護者)

感想2

先日の勉強会の感想を送らせていただきます。
詰め込み型と遊び型の勉強法を比較したディスカッションにはとても納得するものがあり、全ての親、教育機関が詰め込み型について考え直すべきではないかと思いました。
また、自主性を育てることはとても大切な事だと考えさせられ、反省しました。
子育てを始める前にこのような事を知っていたら良かったと、勉強会に参加する度に思います。
これは余談ですが、作文コンクールの作品、とても良いですね。感動しました。
(女性・国際結婚保護者)

感想3

今回も、たいへん興味深いお話しがいろいろとお聞きできました。
インター校の教育方針や実際していること、ドイツの高等教育のことなど
いいなあと思ったり、また、「成功」や「失敗」って、どういうことだろうと自問している最中です。
(女性・日本語教師)

感想4

今回の勉強会も私にとっては有意義な時間でした。
自分自身の子育ては終わってしまいましたが、今の仕事(教師及び生徒のサポート、保護者の相談役)をしていく上でのヒントになることがいくつかありました。
国際結婚の家庭での様々な問題も、共有することでシチュエーションを改善していける可能性が出てくることもわかりました。そんな場が持てることは素晴らしいと思います。
子供の成長にとって父親の役割が大きいことは分かっていても、どうしたら良いのか分かっていないお父さんが多いのだろうなとも思いました。多くのお父さんが勉強会に参加され、自分にあった子供との接し方を見つけられればいいなと。
(女性・国際結婚保護者/教師)

感想5

今回の勉強会に参加して、「遊びの体験」がとても大切だということに気付かされました。
遊びを通して、子供の自発性が生まれたり、効率の良い方法に気付かせたり、子供が自分の好きな事を見つけたり、親の理想だけを子供に押しつけて教育するのは良くないのだということに気付かされました。
また、「トランスランゲージング」についても、○語はこれだけしか出来ないからとマイナスに捉えるのではなく、「○語プラス○語全てが子供の資源であり、豊かな人間をつくる」という考えを知り、一つの言語に対して執着しなくてもいいのだという考え方に変わりました。
今回いろんな人のお話を聞くことができ、大変参考になりました。
ありがとうございました。
(女性・国際結婚保護者)

感想6

国際結婚のご家庭の娘さんが深澤先生と「ごっこ遊び」をしている、というお話を伺ったとき、最初は「もう中学生なのにごっこ遊び?!」とびっくりしたのですが、先生の「スキップはできない」という話で納得しました。
「○年生だから○○を教えなければいけない」ではなく、子どもたちひとりひとりの状況をよく観察して関わっていきたい、と思います。
(男性・国際結婚保護者/教師)

感想7

【豊かな体験・楽しさを教える】そういった事が家庭内で行えるということを再認識しました。
「父親として何ができるか」を考える日々ですが、「(体験や楽しかった記憶を)娘さんの心に残してほしい」という参加者の方のお言葉には本当に感謝しております。
「何かを残す」ではなく「関係性を築く」、そこに戻れた気が致します。
今回は各国事情や教育現場の事情が飛び交い、どれもこれももっと知りたいと感じた勉強会でした。
(男性・国際結婚保護者/日本語教師)


勉強会は毎回自己紹介からはじまります。この自己紹介で、実は個人の事情、参加の理由が話されます。人数の少ない勉強会ならではですが、今回は子どもさん(16歳)に「私は何人?」「出身国ってないよね?」と言われたと話した方がありました。アジア数国を移動し、子どもさんは親の母国に住んだことはありません。学校言語も家での共通語も親の母国語とは異なる言語です。住む場所も使用言語も子どもが自分で選択できるわけではありません。さて大学はどうしよう、父親の母国なら授業料はただだけど言語の限界があるしと、この子どもさんの進学の話は、子どもの生きる場所と言語選択の話題になりました。
また何度かご夫婦で参加されたフイリピン出身のお母さんが今回お一人で出席しました。お一人ということで運営側はちょっと慌てました。資料は日本語しか用意ありません。勉強会自体が複言語的ではないと反省したものの、対応ができないまま当日になりました。でも、その方が涙ぐみながら「ここに参加できてすごく楽になった。」と自分が勉強会に参加する意味を語ってくれました。「子どもの勉強ができないのは自分が外国人だから」「子どもにいつもすまない」と思っていたそうです。勉強会の一つの大きな意義は親が自分の思いを口にし、そこからまた自分と子どもとの関係を捉え直すことだと改めて思いました。
またあるお父さんから、子どもの「今」を見ずに、成長の先に描いた成功から逆算して今何をしようと考えてしまうと話がありました。そこから、そもそも何をもって子どもの成功とか失敗というのかと話が展開しました。先ほどのお母さんも、夫と自分が描く子どもの将来像に大きなずれがあると話し、どうも父親たちは「成功感」に縛られているのではないかと話題になりました。でもきっと父親だけではないでしょう。
インター校の教師でもある保護者から、インター校では一つのテーマを巡って総合的に学習を進めているので、そもそも失敗という見方はないと話がありました。到達目標に子どもを当て嵌めるのではなく、子どもの興味・関心によって起こる自主選択の繰り返しの先に目標が育つということでしょう。日本の学校経験しかない参加者は皆驚きました。
ここで改めて参考資料の内田伸子さんの講演録を紹介しました。こどもの遊びの重要さが書いてあります。遊びは、自発的に起こり自由に探索し自分で考えて行動するものです。この中に学力の基盤があります。また、遊びを大切にするということは、子どもの主体性を大切にした関り方をするということです。その関わり方が重要なのだと内田さんはいいます。「遊び」なら親の国籍も、住む場所も、使用言語も関係なく思いっきり関われるはずですね。でも子どもと遊ぶには自分が遊びを本気で楽しまないと見透かされちゃいます。「本気で関われる」こと、それが今の「成功」なのではないでしょうか。
トランスランゲージングについては8月ワークショップの記事をお読みください。最後に舘岡先生のトランスランゲージングの話を掲載してあります。

次回勉強会は2月6日(土曜日)です。
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2015-11-03

2015年8月ワークショップのご報告

みつめよう子どもの姿、考えよう子どもの現実

 タイで育つ子どもたちを新たな豊かさへ繋げる 複言語・複文化の視点 第3弾


2015年3月8日に終了したワークショップの報告をします。当研究会では舘岡洋子氏をお招きし、2011年から複言語・複文化ワークショップを開催してきました。本年はその3回目。今回は言語と人との関わりを振り返るマップを作成しました。

■ワークショップ・当日の活動の流れ
12:00開始
12:00〜12:10複言語・複文化とは(舘岡洋子)
12:10〜13:15自分自身のマップ作成
13:15〜13:35休憩
13:35〜14:10子どもマップの作成
14:10〜14:40子どもマップを1枚選んで話し合う(気づき1)
14:40〜15:00全体で共有
15:00〜15:40気付いたことの共有(グループ⇒全体)(気づき2)
15:40〜15:50複言語・複文化の可能性(舘岡洋子)
16:00終了

■マップの書き方
今回のWSでは言語使用状況と人との関係性を視覚化しようと試みました。

 ◆言語と人を色で示します
 日本語・日本語人
 タイ語・タイ語人
 英語・英語人
 その他の言語・言語人
 ◆人との関わりは線の太さで表します
 マップの内側から毎日、時々、たまにと会う頻度を示し、一番外側は国外にいる場合などを示します。
 関係の濃さ強さは線の太さや線の種類で表してもらいました。例えば、毎日会う家族でも実線でなく点線で結ぶなどです。

■自分マップの作成
実際に作成したマップを紹介します。
まず自分自身のマップを作成しました。

《作成した大人マップの例》
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様々な文化背景の人と2言語以上の関わりがある。
タイの人と日本語を使う、あるいは英語圏の人とタイ語を使うなど、
互いの母国語ではない言語で関わっている場合もよく見られる。
また、同じ人とタイ語と日本語など複数の言語を使用している。

《自分マップを解説しているところ》
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■子どもマップの作成

次に子どもマップを作成しました。
保護者は自分の子ども、教師は担当している子どものマップを作成しました。
大人になかったオレンジ色は自分と同じ背景の子ども同士の関係を見るためです。子どもマップの例を紹介します。

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‘系幼稚園に通う5歳男児。日常の関わりに固有名詞がたくさん出ている。マップによっては「幼稚園の友達」「学校の友人」と集団との関わりしかない場合がある。また年齢が低い子どもほど最初の輪(日常)に固有名詞が現れるかどうか、子どもによって違いがでる。






f:id:jmherat:20151103150259j:image:right⇔梢討脇本人。日系幼稚園と夕方のタイの保育所に通う4歳男児。両親の使用言語と子どもの使用言語が同じわけではない。言語世界は混ざり合い、重なりあっているため言語境界は実際はないだろうと思われ、点線になっている。






f:id:jmherat:20151103150340j:image:rightインター校に通う11歳女子。言語によって世界は区切られていない。この子どものようにタイでインター校に通う子どもは3言語以上の言語環境にいる子どもも多い。メイドさんとの関りはタイならではの環境であろう。







■子どもマップを1枚選んで話し合う
気がついたことをカテゴリー化し名前をつけた。
子どもマップの中からみんなで考えたいものをグループで1枚選んで気づいたことをまず自分のメモとして書き(気づき1)次にポストイットに書いて貼りだし、カテゴリー化しました。
例を二つ紹介します。

‘本人学校に通う男子(8歳)父:タイ 母:日本
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日系幼稚園に通い、夕方タイ保育園に通う女児(5歳)父:日 母:タイ
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■マップの共有
カテゴリー化したあと、参加者全員でポスターセッションし、共有しました。
ー遡笋垢觧臆端
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⊆遡笋謀えるグループ担当者
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■気づいたこと
子どものマップを書いてから、グループで1人の子どものマップを選びました。その時に自分が感じたことを「気づき1」としてメモ書きし、他のグループの子どもマップ共有の後、気づき2を書いてもらいました。その中からいくつか紹介します。
気づき1気づき2
娘の幼いながらに二つの世界をうちに抱えている事。「日本人である自分」と「タイ人である自分」を自然に使いこなしている。(Eさん・保護者)近い家庭環境にあっても、年齢による違い、学校選択による違いで子供の世界観に異なる影響を及ぼす。「何人である(べき)」 identityを押しつけない。本人が心地よく感じる環境。(Eさん・保護者)
住国の選択と学校の選択によって、言語バランスが大きく変わるので、注意が必要だと思った。周りの言語環境、家庭の関係、親の気持ち、子どもの気持ちなど、影響を与えるファクターがたくさんあると思った。(Mさん・保護者/日本語教師)バランスが大事。両親の方針が揺れていると子どもも混乱する。「あなたは何人?」という質問は子どもにとっては辛い。アイデンティティが束になっている。親の期待に応えようとする。過ごす時間ではなくて関係性→気持ちが安定、よい結果。友達の影響が大きい。(Mさん・保護者/日本語教師)
子どもをよく見ることの大切さ。言語学習・言語使用に対する考え方。子どもの言語環境(学校など)を選択するときに迷ったらどうすればよいのか。先生という立場の人ができることは?(Aさん・日本語教師)(自分が)タイと日本のダブルだからといって両言語ができてあたり前、できた方がいいというつよい思い込みがあるのかもしれない。(Aさん・日本語教師)
1人の言語活動が単純なものではなく、その人の置かれた環境によって多様であること。1人の人間が同じ人と話す場合でも言語を変えることがあり、それがその時の心理状況に大きく影響されていること。(Iさん・幼稚園教師)家庭により、言語環境が大きく違い、それには父・母の子どもの言語に対しての考えが大きく影響している。言語は言葉を覚えるのみではなく、感情や感覚とともに記憶に残る。(Iさん・幼稚園教師)


■まとめ 複言語・複文化の可能性(舘岡洋子)f:id:jmherat:20151103151501j:image:right
何%であれ、全てがリソース
会場から出た「家庭内共通言語は必要なのか」が話題になりました。「家族の共通言語の確立は絶対必要」と強く主張する人がいる一方「一つの言語でやれるのか?いろいろミックスしてコミュニケーションをとっている。それが現実なのではないか。」という意見がでました。舘岡先生からは、「〇〇語が100%できなくても何%であれリソース。そのすべてを混ぜてその人のリソースと考えるのが複言語の考え方なのではないか」と話があり、トランスランゲージングの話へと進みました。

トランスランゲージングについて

舘岡:ガルシアという学者が発表したものですが、言語を一つ一つみず、言語を国家と切り離して考えます。つまり日本(国家)なら日本語(言語)というように結びつけ、バイリンガルの場合も、英語と日本語ができるというように二つの言語が独立したものと考えられていますが、そうではなく、ことばはごちゃごちゃまざった一つのシステムであるという考えです。だから〇〇語と〇〇語と〇〇語が混ざっているのがその人の一つのシステムだと言っている。
そういう見方で見るとダブルリミテッドという見方はない。ダブルリミテッドはあるべき姿があってそれに達していない、だから両方できないということになりますが、ちょっとずつ全てが、全部その人のもの、その人のリソース(資源)だと言っている。リソースフルな人間になるということが人間として豊かなことで、考え方としては国家と結びついた○○言語という見方をやめようということです。
ガルシアは今この移動の時代であったら(私たちは)国家間を移動している。だから、移動している人達の言語活動を考えようということですが、今日の話を聞いても、本当にそうだなあと思いました。
そういう考え方をすると、ある言語からある言語へコードスイッチをする、そういう話ではないと思います。私は完璧なモノリンガル人間なのですけれども、日本語も色々ある。何々語もいろいろある。それが全部混ざったのがその人なのだという考え方だと思います。

※トランスランゲージング資料(MHB紀要11号に掲載)
http://mhb.jp/archives/507
川上郁夫(2015)「ことばの力」とは何かという課題『日本語学』10月号pp56-61

■参加者の感想

  • 自分の家族の言語環境を客観的に見直す良い機会となったと同時に、様々な家庭の事例を知ることができ、色々と考えることができた。(Mさん・保護者/学校教師)
  • 貴重な場でした。生の声をたくさん聞けました。今後、子供たちの言語環境、また親御さんの気持ちも知ることができました。(Uさん・日本語教師)
  • 関係性マップは新しい視点で物事をとらえられて、参考になりました。(Yさん・日本語教師)
  • 家族がそろった時の共通言語がないと心配されていたが、子供が通訳してあげたりしてコミュニケーションをはかり、自分の役割があって、自信につながれば良いと思った。(Nさん、保護者)
  • あっという間でした。4時間が短いと感じました。(Aさん・保護者 他)


■これからのこと
「家庭内共通言語は必要なのか」を継続テーマとして9月の勉強会で取り上げました。
「家庭内共有語」と「家庭内共通言語」は同じでしょうか?先にアップした勉強会報告をご覧下さい。今後もテーマとして継続して取り上げ、複言語・複文化の子どもがリソースフルであることはどういうことか考えていきます。

舘岡洋子氏に感想をいただきました。

私がこの複言語・複文化のワークショップに参加させていただくのは、今回が3回目です。毎回、思うのは、この場自体が貴重なリソースフルな場だということです。自分自身はモノリンガルの世界に住んでいますが、いつもの自分の生活からは想像もできないような世界に住んでいらっしゃる方々がこの場に集まっていて、刺激的なお話を聞かせていただきます。タイ語と日本語のバイリンガルのお子さんばかりでなく、両親の共通語がタイ語でも日本語でもない、たとえば、英語の場合も少なくありません。また、タイ人ではなくフィリピン人と日本人、インドネシア人と日本人などのカップルもいらっしゃるので、英語を含め4つの言語が関係しているご家庭もあります。まさに国際都市バンコクならではだと感じました。
そんな中で、「家庭内での共通言語は必要か」といったことも話題にのぼりました。家庭内でいくつかの言語を使いながら、家族共通の話題や経験がもてればいいのではないか、という意見がある一方、1つの共通言語を家族が持っていることが重要だという意見もあって、これには単純に答えを出せないなと感じました。きっとご家庭の背景や歴史によって、何がベストの選択なのかは変わってくるのでしょう。また、ひとたび選択したからといって、ずっと同じではなく、状況によって変化するものでしょう。そもそも、いろいろな事情から、自由に選択すること自体が難しい場合もあるでしょう。
だからこそ、このようなみなさんの豊かな経験をもちよる場が重要な意味をもっているのではないでしょうか。多様な経験がいっぱい詰まったこの場こそがそこに参加するみなさんたちの羅針盤であり、勇気の源でもあるのだと思います。
また、関係性の中でこそ、ことばが育まれるということも、今回、再確認いたしました。親であっても接触が少なく、アヤさんと多くの時間を過ごしていれば、こどもにとっての第1のことばがアヤさんの使うタイ語になることはいうまでもありません。どんな友達と、どこでどんな関係を取り結んでいるのか、それによって、多様なことばが生まれてくることが言語マップから見えてきてとても興味深いものでした。


■ワークショップという活動
WSでは皆さんに知っていただくべき「答え」があるわけではありません。ですからすっきりした気持ちで帰る、というより疑問をたくさん抱えて帰る人の方が多いかもしれません。目指すのは共に作業し対話することで、考え、揺さぶられ、一人では気づかなかった何かに気づくこと。それが、研究会の人間も含めて関わった全ての人に起こることを願っています。これからも一緒に考えていけたらと思います。
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2015-10-13

2015年9月勉強会のご報告

日 時:2015年9月19日
場 所:学習空間ノア(NOAH)会議室
参加者:6人
テーマ:家庭内共通言語は必要か?


2015年9月19日に行われた第六回勉強会は、「家庭内の状況」に着目し「家庭内言語・共通語」について考えてみよう、というテーマのもとに行われました。

参加者が「家庭内言語は統一した方がいい!」「家庭内言語は何語がいいの?」等などの疑問やポリシーを持ち寄り勉強会はスタートしました。しかし、いくつかの事例を見ていく内に、家庭内言語の必要性や選択の議論の前に、「それらを通してどの様に子ども達と接していくか。」という方向に勉強会は進んでいきました。

以下、参加者の方々の感想です。

感想1

 「日本語」「タイ語」「英語」と何か一つに決めるのではなく、その家庭で日常的に使われている言語を、おそらく2〜3カ国語が混ざっている状態でしょうが、場面に応じて使うのが良いのではないでしょうか。一人ひとりが自信を持てる言語を使って語り、もし分からない人がいれば、家族で助け合う。それが多言語状態の家庭における家庭内共通語ではないかと思いました。
(女性・保護者/日本語教師)

感想2

 「家庭内共通語は必要か」というテーマについて、皆さんのお話を伺って大変参考になりました。家庭内共通語をひとつに絞る必要はなくて、親子がその場で一番自分の気持ちを表現しやすい言語を使い分けるのが自然だろう、というのが私のとりあえずの結論です。また、親がどちらもタイ語ネイブティブでないケースで子供の学習言語をタイ語に決めた場合、どのような基準で現地校を選べばいいのか、宿題をどのように親がサポートすればいいのか、色々な人の事例を聞いてみたいと思いました。
(男性・国際結婚保護者/教育関係)

感想3

 父親として、また海外で子育てをする日本人として、将来を見越して計画を立て、選択していくことには、細心の注意を払うべきだと考えています。ですが、勉強会で様々な事例に触れ、まず自分の選択が状況を無視した自分の願望であった事、また複言語・複文化環境にあることのメリットを活かせていないという事に気付かされました。今回は勝手な持論を皆さんに聞いて頂きましたが、その過程で自分の「育て急ぎ」に気付くことができました。先々の心配は否定されるものではないと思いますが、結果「子供の今を見ていない。子供の今を話していない。」、深澤先生には「親のスキップ」と命名されましたが、自分自身納得してしまう表現でした。勉強会では「親のスキップ防止」の為に、「子供アルバム(仮名)」作成を通して今の子供を見つめていくというアドバイスを頂きました。子供との関係性を築いていく為のアルバム作り、実践してみたいと思います。
 「言語選択」を前提として勉強会に参加しましたが、今の子供を見つめ関係性を築いていくことで、家庭内言語は自然と選択されるのではないかと、今は考えています。
(男性・国際結婚保護者/日本語教師)

感想4

 今回も気付かされることがたくさんあった勉強会でした。

 まず、当日行くまで家庭内言語は「統一した方がいい」と思っていました。しかし、Yさんのご家庭の話を聞いて考え方がまるっきり変わりました。それは、私の場合と同じ「日本人女性とタイ人男性」だったことも関係あるのだと思います。夫婦は簡単な日常会話以上に難しい話をしなければならない時があり、その時はどうしても同じレベルで会話ができる最低一つの言語が必要になる。子どもが大きくなると親に相談したいこともできるだろうから相談に乗れるくらいの言語能力も必要。そのため、家庭内の言語は皆が理解し合えるように統一した方がいいのだと思っていました。しかし、親と子どもが良好な関係を築いていれば、必ずしも言語を統一しなくても上手くいくこともあるのだということに気付くことができました。

 また、子どもが使う言語がタイ語や日本語や英語等いずれかに偏ってしまったとしても、認知力を養い、伸び伸びと言葉を使える環境を作ってあげることで、いつか子どもが自ら他言語に挑戦し、達成感を得、成功体験を重ねていき、自信をつけることで次第に言語を身につけていくという構造も知ることができました。親がすべきことは干渉ではなく、認知力を養うために言語への興味の種を撒いておくことだということを学びました。

 さらに、子どものことを思うあまりに、親が先々のことを急いでしまう傾向があることにも気付きました。自分では将来のことを見据えて計画を立てているだけのつもりでも、それが理想であり、目標となり、周りにも自分自身にもプレッシャーを与え、がんじがらめになってしまっているようです。自分がしっかりしなくては!と気張ってしまいますが、信頼できるパートナーに頼ることも実に大事なことなのだ、とハッとしました。頭では分かっているつもりでしたが、実際にはあまりできていないことに気付くことができました。この「親のスキップ防止」には写真を撮ること、子どものアルバムを作ることが効果的であることを学びましたので、今後に活かしていこうと思います。

 家庭内言語の統一は大切だと思っていた私が、最終的には、言語で意思疎通ができるに越したことはないが家族全員が神経質になってまで一つの言語に執着しなくてもいいのだという考えに変わりました。子どもの視点から親が抱える問題に気付くことができ、どのように考えて動くべきかを話し合い、人の意見を聞くことで、たくさんの気付きがある時間を過ごすことができました。ありがとうございました。
(女性・国際結婚/日本語教師)

感想5

 今回の関係性マップの作製とメンバー間での質疑応答を通して、やはり「関係性」が大きく影響する/してゆくだろうということを感じました。そして、大切なのは「先々を心配しすぎて、今から制限してしまう」ことではなく、豊かな人間関係を気づくサポートをどうしてゆくかということだと思いました。
(女性・日本語教師)

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2015-09-21

2015年6月勉強会のご報告

大変遅くなってしまい、申し訳ございません。
以下、6月に行われた第4回勉強会の報告です。

日時:2015年6月6日(土曜日)
午前9時30分〜12時
場所:学習空間NOAH 会議室
参加者:10人
内容:タイで育った当事者の話を聞く


第4回勉強会は勉強会参加者のWさん自身の経験を聞く会となりました。
まずはWさんのお話を報告します。
Wさんのプロフィール:
現在39才。日本人両親のもとバンコクで生まれバンコクで育ちました。幼稚園から日本人学校で学び、高校はインター校に進学。卒業後日本に行き4年間滞在の後、家の事情でタイに戻り現在タイで仕事をしていいらっしゃいます。ご自身、二人のお子さんを持つお父様でもあります。

Wさんの話

【高校まで】
戦後祖父がタイで事業を始めたWさんの家にはメイドさんも大勢いて、従業員も出入りしていたためタイ語も自然に行きかう環境でした。保育園はいろんな多国籍の子どもたちの通う多言語環境で英語もタイ語も普通に話していたそうです。日本人だから日本人学校という祖父の考えで幼稚園からは日本人学校に通い、中学までずっと日本語の学習環境でした。当時、中学卒後は日本の高校に行くか、タイのインター校に入るかどちらかの選択しかなく、Wさんはインター校進学を選択したものの不合格になってしまいます。「自分一人だけ落ちました。英語全然やってませんから、インタビューに全然答えられなかった。」
どうしようかと思い受けた他のインター校にも落ちて英語の塾のような学校に行って英語を勉強することにした。みんな受かって自分だけ…という思いの中
「とにかく話せるようにしなければ」と3か月頑張り5月にルアムルディを受験し合格。
「その時、インタビューに答えられるようになっている自分がいました。」
そうやって入った学校はしかし、最初の数か月は辛いものでした。
「とにかく嫌でした。何もわからない。何も言えない。勉強もわからない。友だちもいない。」
「本当に孤独だった」
それが変わったのは一つの出来事がきっかけでした。


エピソード1「英語の習得きっかけ」−仲良くなりたくてとにかくしゃべった

台湾人クラスメートとの喧嘩が殴り合いのけんかに発展。そのあと仲良くなって
「とにかくその子と話したい。もっと知りたい。でも共通語は英語しかない。だから間違ってもなんでもとにかく話すようになった。」すると「彼の言わんとすることも自分の意志も伝えられるようになって、そうなってから楽しくなって、卒業の時には英語の苦手意識はなくなっていました。」


【卒業後】

高校を卒業する時、英語圏ならどこでもやっていけると思ったが、「自分日本人だよな。でも日本で生活したことがない。」と日本へ渡った。
生活を始めた日本は自分にとっては外国。わからないことがいろいろあってもその大変さは面白さだった。好奇心いっぱいで何でも楽しかった。日本では憧れの芸能界に入ることをめざしアルバイトをしながらレッスンを受けた。しかし、そこは人を蹴落としてでもという人が多い世界。自分のような日本人だけど海外で育った人間を勝手なイメージで枠づけて排除するような雰囲気があった。
「なんでこういう日本人を受け入れないのか。」自分のイメージと違うといじめられる。
「子どもの時のいじめもそうですよね。」
結局そういう世界にいるのはやめようと思って就職することにした。職場でもやっぱりなじめない感じはあった。「空気読めないと言われてもどういう意味かわからない。」「外されるというほど強烈ではないが、またかと(繰り返し感じる違和感)はあった。」


エピソード2「いじめの克服」−いじめられ、そしていじめを乗り越えた
子どものときのいじめとはどういうものだったのでしょうか?

小学校4年生の時、男なのにフルート吹いてって・・・といじめられた。男がフルート吹くのは変…と勝手に持っているイメージからはずれているだけでイジメ。教科書破られたり弁当捨てられたり。(どうやって乗り超えたんですか?)
イジメの張本人がやっていた楽器やって同じ土俵に乗ってやれと思った。1年間猛練習をして、最後私のほうが上になったんですよね。それでイジメはなくなった。
高校入学してから数ヵ月の大変さはこの時の大変さに比べれば大したことはない気がする。


【タイへ戻る】

家の事情で4年いた日本を急遽引き上げることになった。2週間で全てを整理しタイへ戻った。

戻った?

「そうですね。戻ってきた、そう、戻ってきたって感じ。」日本での出来事に挫折感はない。タイに帰るのも親が大変なら当然だと思った。

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参加者の感想====

■「拳で分かりあうって男の友情には本当にあるんですね…」(参加者)
エピソード1(高校−英語習得のきっかけ)から
インター校で台湾人の男子生徒と校舎裏で殴り合いの喧嘩をし、喧嘩の後「やっぱり」その生徒とすごく仲良くなったというエピソードが、不思議な感じでした。仲良くなった彼といるのが楽しくて、そこで英語がぐんぐん伸びたという話が印象的でした。(Nさん・学生)

Wさんは「本来の勉強ではありませんが・・」と語っているが、このエピソードは言語が本来どのよう習得されるかよく物語っています。

■「そこでふつうトランペットに挑めるものなのだろうか…」
エピソード2(小学校―いじめ体験)から

Wさんが小学校時代にいじめられたとき、「いじめっこよりトランペットが上手くなろう」と決意して、いじめっ子が担当していたトランペットパートに変更し、練習して本当に追い抜かした、というエピソードが特に心に残りました。(Sさん・父親/教師)

イジメを乗り越えるためにもいろいろな方法があるでしょうが、Wさんは相手と同じ土俵に立ってやろうと楽器を変えます。話を聞いていた時に「でもそこでふつうトランペットに挑めるものなのだろうか」と参加者から一斉に声が上がりました。

日本人学校時代のイジメ、インター校での英語学習、日本に渡ってからの違和感・・・と、壁にぶち当たるたびに強靭な精神力で乗り越えてきたんだな、と感じました。(Sさん・父親/教師)

「どうしたらKさんみたいな"強い子"になれるか」といった感じの(他の参加者から出た)質問に同じ思いでした。(Lさん・母親)

その一つの要因が家族との絆ではないかとLさんは考えます。

度重なる障害(いじめや英会話など)を乗り越えられたのは、いつでも寄り添える家族がいたからだと思います。(Lさん・母親)

突然タイに戻れと言われても帰るのは当然と思えたとWさんが話した時、「ああ居場所だったんですね」と声が上がりました。お父さんは事業が忙しくて「帰っても居ない、朝はもういない」「父とは関係・・・あったのかなあ」というWさんですが、たまたま家にいたお父さんにイジメのことを話しています。「子どものけんかだろ」と突き放されたものの「でも、それでも、耐えられなかったら言って来い。ケツ拭いてやる」と言われたことを鮮明に覚えています。子どもがいじめにあったりしたとき親はどうすればいいかという参加者の質問に「見守っていればいいんじゃないですか。」と答えていることからも、見守られていた感はあっただろうと思われます。
「問題を起こさなければ何をしてもいいという親御さんの方針ゆえに却って門限を守っていた事」が心に残ると
Lさんは感想を寄せましたが、Wさんは高校から好きにしていいと言われて、そういわれたら勝手なことはできなかった。」と想起しています。この見守られ感、そして戻ることが当然と思える場所の存在は、空間・文化・言語間を移動している子どもには大きな安定感、安心感をもたらすのでしょう。

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■「アイデンティティ、アイデンティティ言いすぎなんですよ、
何人でもよくて、わたしはわたし、でいいと思います」


この会で自分の経験を話そうと思ったのはなぜか?
Wさんは自分の経験が生きるなら、と自分から勉強会に参加してくれました。

どうして自分の経験を話そうと思ったのですか?
今日この議題にもあるけど、アイデンティティ、アイデンティティって、考えすぎるんじゃないか。それを伝えたい。どこにいて何人であろうが、どんな人であろうが自分は自分でしょ。

「わたしはわたし」というのが第4回勉強会のひとつのキーワードだったように思います。国籍が何であろうと、何語でしゃべっていても、自分は自分であり他の人とは別の存在でいいんだと気づくことが大切なのではと思いました。
「こどものアイデンティティをしっかり確立させてやりたい!」という親の思いももちろんありますが、その前に親自身も自分のアイデンティティとは何かわかっていない、あるいはアイデンティティなんてそんな簡単にはっきりと掴めるものではないのだと改めて思いました。(Nさん・学生)


「こどものアイデンティティをしっかり確立させてやりたい!」という時、それは〇○人といった民族アイデンティティである場合が多くあります。〇○人と明確に言えることが安定した「私」意識になるのでしょうか?
スチュアート・ホールは「誰がアイデンティティを必要とするのか」と問いかけました。社会的マジョリティは自分のアイデンティティなど考えずに済みます。民族アイデンティティは戦争時の移民たちに重くのしかかった身分証明でした。アイデンティティが「身分証明」であるなら、それを必要としているのは誰でしょう。オマエハ日本人ナノか? オマエハ男ナノカ女ナノカ?証明を迫られるのは社会的マイノリティの側です。
当研究会ではアイデンティティを「自分のあり方についての意識」と考え、活動をしています。
石川准は「『わたし』はアイデンティティの束である」(1992)と言います。色々な自分があって『わたし』なのだという意識。複言語・複文化の子どものアイデンティティとはまさにこのような束であるはずです。Wさんも一つの側面で枠づけられたくない自分意識をもっています。これが私たちが目指したいアイデンティティの姿です。

最後に勉強会の後で参加者が考えたことをお伝えして今回の報告を終わります。

wさんのブラスバンドでのイジメを自らのアイデアで克服していったことや、インター校でのケンカのことなど、今迷っている子たちにぜひ、伝えたいエピソードをご本人から聞けて、たいへん貴重な機会をいただきました。「わたしはわたし」という考え方、大賛成です。個人的にも自分に言い聞かせたいと思いました。(Mさん・日本語教師)

Wさんの貴重な体験の数々は、複言語・複文化の中で育ってきた息子や私の教え子たちの姿と重なり、たくさんのヒントを得られたように思われます。
Wさんは肝?根っこ?幹?のようにしっかりと一本心髄があって、それがいろいろな困難をも乗り越えてきた源であったのではと感じました。それが国籍や言語を超えたWさんのアイデンティティなのかもしれない。(STさん・母親・インター校教師)

言語能力そのものよりも、自分は自分と思って道を切り拓いていける子供に育てることの方が大事だと感じました。バイリンガル教育の場合、どうやってインプットを増やして言語能力を伸ばそうかという「技術」の問題として捉えてしまいがちですが、どんな状況でも自分を失わない子どもの心を育てることの方が大事なんですね。(Tさん・母親)
言葉を育てることは、単なるインプットの問題ではなく、まさに人間関係を構築する過程の一部であるのだと気づかせていただきました。(Tさん・母親)

まさに、ことばを育てることはことばだけの問題では決してないのです。貴重なお話、そして率直な感想ありがとうございました。
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