三浦展「下流老人と幸福老人」 藤野英人「投資家が「お金」よりも大切にしていること」

投資家が「お金」よりも大切にしていること (星海社新書)

投資家が「お金」よりも大切にしていること (星海社新書)

 「下流老人と幸福老人」は偶然書店で見つけたものだが、三浦氏の本は以前いくつか読んで面白かった(特に上野千鶴子氏との対談)ので、買ってきた。その最後に藤野英人氏との対談があり、それが立ち読みで面白かったので、この藤野氏の本も買ってきたわけれである。
 三浦氏の本には、女性とは違って男性では「友人の多さは必ずしも幸福度を上げない」ということが書かれている(女性では上げるらしい)。わたくしのように上野氏がいうような「コミュニケーション・スキル」に至って乏しく、「ソーシャル・キャピタル」の構築などが大の苦手で、人の輪(和?)よりも一人を好む人間にはなかななに嬉しい結果である。それで男性の幸福度を上げるのは「好きな異性と一緒にいる」「ガールフレンドがいる」ことなのだそうである。渡部淳一の小説が売れるのもそのためなのだそうである。「とにかく男性は異性とつきあっていないと途端に幸福度が下がる」のだそうである。昨今の日本を見ていると、何だかやたらと倫理的に潔癖になっているような印象がある。もちろん「不倫」とは「人の道にもとること」なのであるが、誰かが幸福になることが許せなくて、みんなで一緒に不幸になるのなら許せるというのはいかがなものかという気がしないでもない。吉田健一がチャタレー裁判で証人にたって「猥褻とは他人の情事をあげつらうことを言う」といったというようなことをどこかで読んだ記憶がある。だから最近の日本は潔癖になっているのではなくて猥褻になってきているのかもしれない。
 藤野氏の本をみていて「失われた10年」というのは嘘だ、と書いてあるのをみてびっくりした。失われた10年とか20年とかいう1990年以降の日本の経済について、たとえば2002から2012年の十年間の株価を見るとTOPIXでは2%くらいの上昇だが、TOPIXCORE30という時価総額の高い30社のデータでは24%も下がっているのだという。このCORE30というのは日本を代表する大企業なのであるが(日本たばこ、セブン&アイ信越化学、花王東芝武田薬品アステラス製薬新日本製鐵小松製作所日立製作所パナソニックソニー・・・)、一方、東証二部の会社を見ると67%のプラスなのだそうである。要するに失われた10年とか20年とかいうのは、日本の大企業が駄目ということなのだそうで、たとえばこの本の執筆当時(2013年)の経団連会長であった米倉弘昌氏の会社である住友化学は米倉氏が社長になってから株価が半分になっているのだそうである。経団連副会長というのは18名もいるのだそうであるが、その所属する会社で株価があがっているは6社のみであとはぼろぼろだという。なぜ失われた10年とか20年とか言われるのか、自分の会社の業績が悪いのは自分が悪いのではない、日本全体が不調だったからなのだといって、経営者としての自分の責任を回避しようとしているからなのだそうである。目から鱗である。わたくしなどは単純に高度成長という離陸期が終わったということなのだと思っていた。やはり本というのは読んでみるものである。
 最近のマスコミの不倫報道の過熱と、失われた10年(20年)の話はどこかで通底しているような気がする。