Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

バブルとスタグフレーション

世界中の株価が大きく上昇している。震災ペナルティを受けていた日本の東証株価指数もついに1万円の大台を超えた。アメリカのNASDAQは既にリーマンショック前の高値を超えているし、ダウ平均株価もそこに近づきつつある。
この株価上昇を引き起こした理由は、世界の中央銀行による巨額の資金ばらまきである。リーマンショックからギリシャ問題に至るまでの過程で、金融機関救済のための格安資金が中央銀行から溢れている。その資金を得た金融機関は、金利のほとんど変わらない資金を利用して利益を稼ぎ損失を補填する。それを繰り返している。ただ、世界的な景気低迷によって消費はまだそれほど活況化していない。だから、資金は実体経済にはあまり流れずに金融取引の中でのみ膨らんでいる。

理想を言えば、金融界に流れ込んだ資金が実体経済に流出すれば景気は間違いなく良くなる。しかし、現状の景気低迷を受けた企業は資金をあまり借りたがらないし、資金を欲する企業は逆に返済の適正を考慮して金融界側が貸し出さない。その結果、溢れた資金は実体経済にはあまり流れない。
そして、溢れるほどに存在する資金は株式や現物資産などに流れ続けている。過剰流動性相場とも呼ばれるこの状況は、一般には景気回復の初期に見られる状況だとされる。それは、景気回復を目指す資金が政府などから出されることで大きく資金が動き始め、それが実体経済の活動を刺激するというものである。ただ、実体経済がこの過剰流動性相場のフォローをできない場合には、金融資金のみが勝手に暴れ回ると言うことになって却って社会に悪影響を与えることも考えられる。

それでも株価の上昇は、心理的には良い効果を発揮するだろう。特に、日本の銀行や生命保険会社などは多くの株式を保有しているため、株価の上昇はその資産を大きく向上させる。日本の個人も一部ではその恩恵に浴するであろうが、どちらかと言えば金融機関の健全性確保に寄与すると考えた方が良いかもしれない。
アメリカなどでは、個人の資産運用において株式の上昇は日本とは比べものにならないくらい役立つため、消費の増加という効果が期待できる。

ただ、日本でもアメリカでもそうであるが、現状での最も大きな問題は社会の二極化である。持つ者はこの株価上昇の恩恵を受け、持たざる者は恩恵に浴さない。この過剰流動性相場は、持つ者から持たざる者に資金が流れるようになるのかどうかに、その意味が大きく依存する。
仮にそれがなければ、この活況はあだ花のように咲き誇るまさにバブルでしかない。それは、実体経済の活況が暴走して発生するバブルとはまた異なる。経済の局所に発生するバブルである。このバブルは、経済の局所にのみ発生するがごく一部のものの値段を上げていくことになる。
現状は株式にそれが見え始めているが、その後は石油価格などの資源関係にも広がり始めるであろう。そして、実体経済がフォローしきれなければ行き着く先はスタグフレーションである。給与は上昇しないのに物価のみが上昇する。最悪の不況。

韓国などでは、既にその兆候は見えている。物価高は通貨ウォンが低く抑えられていることから発生しており、給与安は一部の大企業のみが国際競争における消耗戦をしていること(現状では勝利しているが)により引き起こされている。なんてことはない国民が苦しむ分、企業や国は成果を得ると言うことに尽きる。
中国も、徐々に似たような状況に陥り始めているし、ギリシャなどは物価上昇はそれほどでもないかもしれないが、給与が大きく引き下げられた。ギリシャの後をポルトガルアイルランドが追いかけており、その後ろにはスペインとイタリアが控えている。

お金をばらまけば、お金の価値が下がるのは間違いない。ただ、今の社会は物が不足している訳でもない。それ故に溢れたお金は容易に価値が上昇しそうなものに集まるまでには至っていない。しかし、その素地は十分に出来上がりつつある。
アメリカでは住宅価格の低下は下げ止まりつつあるけれども、政府のてこ入れにも関わらず反転の兆しは全く見えない。現状の不況のスタートがサブプライムローンにかかる不動産価格の低下にあるため、それが反転しなければ本格的な実体経済の回復はおそらくないであろう。ただ、不思議なことに大都市部の家賃などはジリジリと上昇をしていたりもする。リートなどの影響があるのやもしれないが、歪んだ構図であることは間違いない。実体経済の需要がないにも関わらず金融取引上のそれは上昇しているとすれば。
さて、これまで小さく縮こまりすぎた日本の場合はこうした過剰流動性により引き起こされる現象、すなわち多少のバブルもある程度のカンフル剤にはなるだろう。問題は、世界においてはもはやカンフル剤ではなくドーピングとして働くことであろう。これで、イラン-イスラエル間の紛争でも発生して貿易に影響が出れば、実体の物資不足からのインフレという形でこれまでの歪みが一気に噴出するかもしれない。

「気にしすぎはよくないが、気楽に構えるのはもっと怖い。」