『テルマエ・ロマエ』ヤマザキマリ(2008 - 2013、エンターブレイン)

 (ネタバレあります)

 ずっと読む機会がなかった最終6巻をようやく仏語版で読み、世間から3年遅れで作品の結末にたどり着いたところ。まあこれ以外にはあり得ないというような結末であるが、それでも心を動かされ、ブログで言及したい気持ちが湧き起こった。

 たぶん予想よりはるかに大きく話を広げて終わったからだな。単なる男女のラブストーリーのハッピーエンディングというだけでなく、風呂を愛する古代ローマと日本という2つの文化が結婚するという結末であり、しかもその融合により世界に平和がもたらされるという宣言。思えば作者がインタビュー等でいつも語って来た信念そのものだった。物語の最後を締めくくる入浴シーンに赤ん坊の産湯を持って来た構成もニクい。ちょっと『タンポポ』(伊丹十三)のエンディングを思い出させる。

 『それ町』英語版でも感じたが、最初に外国語で漫画を読むと、時間をかけるせいか話が染み込んで来る。ちなみに最後のルシウスの台詞は仏語版では "Il apportera le bien-être au monde entier.(彼は全世界に満足感をもたらすだろう)" となっていて、終幕の台詞として少々唐突な気がしたが、オリジナル台詞は「世界を癒す子になるだろう」だったと知ってそれなりに腑に落ちた。ほとんど同じ意味なのにね。癒しというものへの受け止め方が日本と欧米で微妙に違うせいだろうか。


 身も心もローマ帝国の市民になって民衆に溶け込んでいる さつき。僕は大ゴマのタイムスリップや再会のシーンよりも、こういうさりげないコマに心を惹かれる。すべてを捨てて異文化に飛び込んだ彼女の大きな覚悟が伝わった。異国に骨を埋める覚悟で嫁に行ったり働きに行ったりする人は共感するのではないか(僕はそこまでの覚悟はないけど)。


 ところで日本漫画の仏語版ではこういう巻末のアオリ文句まで忠実に訳されていることが多いのだけど、「コミックビーム 2013 年 10 月号からスピンオフ作品が連載開始! 刮目して待て!」などという情報が役に立つ仏人読者はほとんどいないと思うのだが(しかもその新連載は未だに延び延びになって事実上立ち消え状態らしいし)。