昭和漫画館青虫(9/17、只見)

9/17 (土) 曇時々雨
 7:58 小出発の只見線に乗車。電車は1日3本しかなく、目当ての漫画館に開館時刻に到着するにはこの電車しかない。9:15 に只見着。駅でレンタサイクルを借りて、3時間ほど町内をブラブラする。良い感じの田舎だ。もっとも田舎度は秩父でさんざん味わっている雰囲気と似ている。美好食堂でカツ丼の昼食。


只見駅ホーム


只見ダムへ向かう


只見ダム・発電所

 12 時過ぎ、念願の昭和漫画館青虫を訪れる。他に客はいない。館長からの「此処を何で知りましたか?」の質問に端を発して、僕が青虫を知るきっかけとなった渡辺電機(株)氏の話題で二人で盛り上がる。この漫画家についてリアルで人と会話したのは初めてで、それだけでも気分が高揚してくる。

 ここは昭和期の赤本、貸本、単行本、雑誌などの形態の漫画本を所狭しと収蔵しており、ほぼすべて開架式で閲覧できる。つい新宿区の現代マンガ図書館閉架式)と比べてしまう。もしこのような施設が東京にあったら毎日客が詰めかけ、中には不届き者もいるだろうからセキュリティを万全にせざるを得ない。あえてたどり着くことすら困難な地方に置くことで、まだ性善説に基づいたオープンな運営が可能なのだろう。

 もともと教会だった古い木造の建物をリフォームして 10 年前に開館。ノスタルジックな本にノスタルジックな内装がこの上なくマッチして、昭和 30 年代にタイムスリップした気分。壁の書棚をぎっしりと埋めた約2万冊の本は、すべて館長が自費でコレクションしたもの。僕との会話の中では「装丁の雰囲気に引かれていわば美術品として集めたのであって、漫画の歴史や内容には自分はあまり詳しくない」などと仰っていたが、いやご謙遜でしょう。
 入館料は1時間 500 円。只見はできません(ダジャレ)。開館時間目一杯、古い本を手当り次第に見た。本来の閉館時刻は 17 時だが、「もし居たければ帰りの電車の時間まで居てもいい」との館長のお言葉に甘え、18 時少し前まで居座らせてもらった。この日は結局、客は僕一人だった。ただ貴重な本の山と温和な館長に囲まれて、夢のような幻のような5時間半を過ごした。こんどいつ来れるだろう、また来ることはあるだろうか、とちょっと切ない思いを抱きつつ帰途につく。

 18:35 只見発 ー(只見線)→ 19:48 小出着。乗り換え待ちの間に駅前の食堂で夕食。20:31 小出発 ー(上越線)→ 20:40 浦佐 20:56 ー(上越新幹線)→ 22:02 大宮着。あとは普通に JR と西武線で帰宅。

  ◇ ◇ ◇

 何も考えず「古い漫画が自由に見られる!ヒャッハー!」とやって来たわけだが、滞在後に振り返ってみると、自分が興味を持って閲覧した漫画本は3種類に分類できる。

(1)自分が昔読んだ懐かしい漫画

 主に小学館学年誌と、朝日小学生新聞の最終面に連載された漫画。

  • 今村洋子『ぺちゃこちゃん』(若木書房、「小学一年生」連載):古典的名作。実写版『星の王子さま』(1974) にイメージを借りたティムくんが登場する一連の回が記憶に残っている。
  • 望月あきら『がんばれ!ドカベン先生』(昭和 44 年頃?「週刊マーガレット」連載):朝小に再録されたのを幼少時に読んで、かなり細部までストーリーを覚えていた。後にこれのスタイルを発展させたのが『ドカドカドッカン先生』(「小学五年生」)だな。

(2)知っている作家の、自分が知る以前の古い作品

  • 藤原栄子『セレーネの泉』(横山プロ「美少女」所収、昭和 40 年か 41 年):当時高校生。師匠の横山まさみちが「天才少女を紹介します」と書いている。昔、彼女の自伝漫画を読んだが、小学生時代に既に大人顔負けの画風を備えていたことに驚いた。その後『姫子』シリーズで学年誌を制覇する売れっ子になる。しかし今思うと画力の伸びは高校時代で止まっていた、というのは言い過ぎか?
  • 藤本典子『雨の子ノンちゃん』(「風車」昭和 39?年 6 月号):一条ゆかりの高校1年時の作品。こちらは絵はまだ未熟だ。しかしその後 43 年に「りぼん」でデビューするや、すごいスピードで巨匠への階段を昇って行ったのは周知の通り。高校時代以降の画力の伸びしろが藤原栄子と対照的だなと気付いた。
  • 永島慎二『サトコは町の子』(翠楊社、昭和 32 年「なかよし」連載):今見ても古さを感じない、丸っこくて可愛らしい絵柄。赤本や貸本を見た後では、その整った筆致に驚く。雑誌と貸本では絵の文化が違ったのだろうか。
  • 吉森みきを『月見草とベコ』(「りぼん」昭和 42 年 11 月号付録):農村の村八分を扱った重いテーマ。同じ作者のりぼん付録に『ほたるの墓』もある(これは前に別の場所で読んだ)。後年は野球漫画ばかりが目についたが、初期には少女誌で社会派作品に意欲的に取り組んでいたのだ。
  • 聖日出夫『飼い犬』(トップ社、昭和 43 年):ハードボイルド劇画。『試験あらし』の 6 〜 7 年前かな。まだ後年の絵柄の特徴は顕著には現れていない。
  • 龍二『ばくだんくん』(発行元・発行年不明):のちのビッグ錠。明朗柔道漫画。まだ後年の絵柄は片鱗も見えない。
  • 富永一朗『涙の明星』(きんらん社、昭和 32 年):赤塚不二夫同様、この人も当時は流行りの少女向けメロドラマを描いていたのか。

(3)知らない作家の古い作品で、絵柄や題材に惹かれたもの

 青虫の蔵書のほとんどが、僕にとって「知らない作家の古い作品」のカテゴリーに入る。当然といえば当然だが、昭和 20 〜 30 年代の赤本・貸本の著者には知らない名前がゴマンとある。絵柄も玉石混淆。知らないとなかなか棚から出して手に取ることも無い。そんな中、二川まこと『家なき少女』(泰光堂、発行年不明)だけは題材に親しみを覚えて通読した。ペリーヌ物語ね。あと、林栄子という作家を初めて知った。洗練された絵柄と飄々とした作風が面白いと思った(「風車」所収の一連の作品)。


『家なき少女』から、ペリーヌとロザリー。写真撮影は「記念程度ならいいけど、あまり沢山はご遠慮下さい」ということなので、館内ではこの1枚だけ。