Hatena::ブログ(Diary)

シネマの舞台裏(金子遊のブログ)

著書『混血列島論 ポスト民俗学の試み』刊

編集『ブラジル映画史講義』刊行

共編『映画で旅するイスラーム』刊

寄稿「アピチャッポンの森」『新潮』6月号

寄稿『折口信夫 死と再生、常世・他界』

「キネマ旬報」6月上旬号 連載レビュー

5/27『山の民』研究発表@映像学会

6/11『ガザの美容室』トーク付先行試写会

6/17 安藤礼二×金子遊『混血列島論』刊行イベント

2006-06-24 グリズリーマン

johnfante2006-06-24
グリズリー・マン サウンドトラック

グリズリー・マン サウンドトラック



アラスカで


 ティモシーは賛否両論の分かれる環境保護活動家であったが、クマの愛好家としては一流であったといっていい。

 彼が残した13回の夏をアラスカの国立公園で過ごしたドキュメンタリー映像は、ほとんど奇跡としかいいようのない、美しい場面をいくつも保存している。

 映画『Grizzly Man』のなかで、監督のヘルツォークは語る。

「映像作家としては素人でしかないティモシーが、偶然とらえた映像が、ときどきプロの映画人がどんなに望んでも作為的には得られない、奇跡のように素晴らしい瞬間があるのだ」と。

 こんな場面がある。

 ティモシーがキャンプをするテントに、キタキツネが出没する。

 彼はキタキツネを撫で、「なんてかわいんだ、愛しているよ」といいながら、思わず泣いてしまう。

 しかし、その後でいたずらなキタキツネが彼の帽子をくわえて持っていってしまう。彼は本気で怒るのだが、キタキツネは自分の巣穴に逃げこんでしまう。彼ならではの優しさにあふれる映像である。

 また、身長3メートルもあるグリズリー2匹が、河辺で延々と相撲をとるシーンは、この映画のなかでも最も秀逸で、緊張感にあふれる記録映像となっている。


 ある学者は、「トレッドウェルは熊になりたがっていた。彼は熊に対してスピリチュアルな、ほとんどエクスタシーにちかいものを感じていたようだ」と言っている。

 たしかに、記録映像のなかでも、熊と自然を愛するあまり、人間社会や文明に対して批判を延々としゃべりだす場面がいくつかある。

 また、多くのシーンがグリズリーを背景に、ティモシーが彼らの生活や生態について解説をするショットなのだが、突然オーストラリアなまりで話したり、アル中であったところを救ってくれたのがクマだったと自身の経験を力説するなど、俳優志望であったせいか非常に出たがりな面もあったようだ。

 なおかつ、演出にもこだわったようで、同じテイクを何度も何度も撮り直している様子も記録に残っている。


2003年に起きた悲劇


 2003年8月10日。アラスカ州の国立公園局は、ティモシー・トレッドウェル(46)と、ガールフレンドのAmie Huguenard(37)が殺されて、カフリア湾(アンカレッジのおよそ300マイルの南西)の近くで、グリズリーによって部分的に食べられた姿で見つかったと発表した。

 アラスカヒグマを研究する科学者は、かねてより彼らに対して、巨大なグリズリーとの接触には慎重であるべきだと警告していた。

 ティモシーは銃を持つことと、クマ研究家がふつうするように、キャンプ場の周囲を電流を流したフェンスで取り囲むことをしなかった。そして、以前は携帯していた自己防衛のためのクマスプレーさえ、近年は所持することやめていたという。


 ティモシーと、それに同行していた恋人のエイミーの身体の一部を最初に発見したのは、コロラドから彼らをフロート水上機のエアタクシーで迎えにきた操縦士であった。彼はティモシーのことをよく知っていた。

 しかし、操縦士はグリズリーが見張っていたのでキャンプには近づけなかった。

 そこでパイロットはエアタクシーに戻り、飛行機を低空飛行で操縦して、グリズリーをキャンプから追い払おうとした。

 そのとき、明らかに人間と思われる残骸の横に座っているグリズリーを目撃し、国定公園の当局に通報し、応援を要請したのである。


 グリズリーが座ったか、あるいは踏みつけたかのように、二人のテントは倒されていた。しかし、テントは引き裂かれていなかった。襲撃は2人がテントの外にいて、日光が照射している時間に起きたのだと推測された。

 グリズリーは2人の遺骸を、貯蔵用の食物として土のなかに埋めていたという。

結局、カトマイ公園の管理局員は、キャンプ場の近くで、二人を襲ったと思われる2匹のグリズリーを殺すことになった。

その場所には、クマに襲われたときにカメラのキャップを外し忘れた映像のない「声」だけが録音されたテープと、ティモシーの腕時計が残されていた。

 操縦士が映画のインタビューのなかで「たとえ自分を殺した熊だとしても、ティモシーは熊を撃ち殺させたくはなかったと思う」と、悲しそうに言っているのが印象的である。


残されたビデオテープ


 実は、ティモシーはその死の数時間前に、まさに自分を襲って殺すことになる相手の、年老いたグリズリーの映像を撮影しており、それがテープのなかに残っていた。

 そのグリズリーは、鮭を探すために川に潜り、かわいい足の裏の肉球を川面に見せたりしている。

 また、ティモシーは殺されたとき、ビデオカメラのスイッチを入れていたことも判明した。レンズのキャップをとる暇はなかったようだが、何分間かの音が録音されていた。


 それによれば、最初にグリズリーに襲われたのはティモシーの方だった。

 彼を助けようと、恋人のエイミーはフライパンでグリズリーを叩いたりして、無駄な努力をするのだが、ティモシーは熊に食われながらエイミーに「逃げろ!」と叫んでいる。

「彼女は日頃から熊を怖がっていたのに、最後まで逃げないで彼を見捨てなかったんだ。それから、彼女の叫び声が、やがてものすごい悲鳴に変わる」

 映画のなかでは、彼らを実際に検死した検死官が無表情に語るシーンがある。彼は実際にテープを聴いたことがあり、映画とは関係のない白い布で覆われた遺体の横で、そのことを語る映像は怖しい。

 テープはティモシーの元恋人が保管しており、それを聴かせてもらったヘルツォーク監督が、ヘッドホンをはずして静かに言う。

「これは破棄してしまったほうがいい。あなたにとってこれは無用の長物だ」と。

 であるから、実際に断末魔の音声が、映画のなかで流されることはない。


しかし、後日ネット上でにその音声が公開された。果たして本物なのだろうか…。

(相当、残酷なので要注意です)

http://www.liveleak.com/view?i=fc1_1216787783



※ティモシーをモデルにした映画が、レオナルド・ディカプリオ主演で映画化される。


「The Man Who Loved Grizzlies」(2006)

キャスト:レオナルド・ディカプリオ

脚本:ネッド・ゼマン、ダニエル・バーンツ

全米公開:2006年中を予定


 今年全米で公開される予定の、レオナルド・ディカプリオの主演の新作は、ティモシー・トレッドウェルの伝記本を原作とする映画「The Man Who Loved Grizzlies」である。

 この映画のプロデューサーを自ら努め、ティモシー・トレッドウェルを演じるのは、もちろんディカプリオ。

 レオは個人的にティモシーの生前からのファン且つ後援者で、彼の活動に深い共感を寄せて、資金を援助したりしていたというから、このキャスティングもうなずける。

 近々、日本でもティモシー旋風が吹き荒れる日が来るのではないだろうか。


《参考》

Grizzly People HP  http://www.grizzlypeople.com/home.php

Anchorage Daily News 記事(2003/10/8〜10/10) 

           http://www.adn.com/front/story/4110831p-4127072c.html