「哀しき父」 葛西善蔵 ②

johnfante2009-08-08

ユーモア性


「哀しき父」の四節で、彼は熱のために下宿に閉じこもるが、この部分では「哀しき父」という小説のドキュメンタリー性がよく発揮されている。
おとなしい学生たち、安淫売が出入りしていた予備士官が梅毒で死ぬところ、隣室の病気がちな細君の咳の音など。


また私小説においては、作者が自己を客観的になるまで厳しく見つめることが常道だが、それが極限まで進められるとそこはかとないユーモアが漂いだす。
崖上の墓地から大きな藪蚊が襲ってくるせいで、下宿の主人が死に、自室の前の住人も病気になったのではないか、と想像するあたりである。
若き詩人が見る夢もユーモラスである。
貧乏生活にもかかわらず、子供が二、三人増えていて、子供がムクムクと肥え太って、威張った姿勢で部屋のなかを歩いているというのだ。

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