物権法/第1講 物権法概説・物権の客体

<1>財産法とは、経済関係の基本法である。つまり、財産の帰属とその移動に関する基本的な枠組みとルールを定めたものといえる。
■そして、その経済関係の基本モデルとなるものが、各人が物と金、労働力をもつという「所有」、それらを交換する「契約」である。
■所有権とは 法的に認められている、物を自由に使用・収益・処分する権利のことであり、この所有権から派生する権利として、次の3つが挙げられる。

      1. 妨害排除請求権 所有物の使用収益・処分を妨げる者に対し、その妨害の排除を求める権利(ex.出て行け!)
      2. 不当利得返還請求権 所有物から勝手に利益を得た者に対し(、使おうと思えばいつでも使える権利を侵害されたとして)、その利益の返還を求める権利
      3. 損害賠償請求権 所有物を侵害した者に対し、それによって生じた損害の賠償を求める権利


<2>所有権は、物を全面的に支配する完全な物権であり、その支配には、物を自由に使用・収益できる「利用価値の支配」、物を自由に処分して金銭に交換できる「交換価値の支配」の2つがある。
■このうちの一方のみを切り離して他人に譲渡したものを制限物権といい、物の利用価値のみを支配する物権を「用益物権(ex.地上権*1、永小作権*2、地役権*3、入会権*4)」という。また、物の交換価値のみを支配する物権を「担保物権(ex.留置権先取特権、質権、抵当権)」という。
■なお、こうした物の価値(利用価値及び交換価値)を(全部または一部)把握する権利を価値支配権ともいい、物を現実に所持しているという事実状態を権利として保障した権利しての占有権と対応している。<3>物権法定主義とは、民法175条*5に定められ、次の2つの意味がある。

      1. 類型強制…民法その他の法律で定められていない物権を私人が創設することはできない
      2. 内容強制…民法その他の法律で定められた物権にそれらの規定と違った内容を与えることはできない

■こうした物権法定主義が採られる根拠は、歴史的には、地方によって異なる慣習、封建的拘束が排除されないと、外部から窺い知れないために近代的所有権の確立がなされないからという理由がある。
■また、実質的な理由としては、誰に対しても主張できる権利が物権であるからこそ、限定しておかなければならないという「取引の安全」からの理由、そして、そもそも何があるかわからないといけないし、それも定型化されていないと理解し難いという「公示制度の確立」からの理由がある。
■しかし、この物権法定主義も、慣行上の物権については修正を余儀なくされる。
■すなわち、民法典制定前から存在する慣行上の物権は、民法施行法35条*6が規定されているにもかからわず、判例には物権的権利として認められている例がある。これは、「目的論的制限説」と称され、民法175条の目的からみて(立法者からみても、法定していても)問題のないものは、「封建的拘束をもたらすものではなく」、「(一定の公示方法が確立していること、または、その事実が周知されていることにより、)取引安全を害するおそれがない」として、慣習法上の物権として認めてもよいとされているのである。
民法典制定後に形成された慣習法上の物権は、例えば、根抵当権や仮登記担保権などが挙げられるが、これらは後に立法化されたものでもあるし、経済上の要請がある限りは、民法175条が予定していなかったものとして、認めやすいと考えられている。<4>物権法の基本構造の前提として、権利に関する基本的問題の枠組みを確認する必要がある。まずは、「『誰』が権利をもち、それを行使するか」という<権利主体>について。そして、「権利があれば『何が』できるか」という<権利内容>について。さらに、「権利がどのような原因によりどのように発生・変更・消滅するか」という<権利変動>について。このうち、権利内容には、「権利があれば『何を』どうすることができるか」といった<権利客体>についてと、「権利があれば何を『どうすることが』できるか」といった<権利の効力>についてがある。<5>物権の客体とは「物」であるのだが、これは民法85条*7に規定されるように有体物*8だけであるとされ、さらに、物体の客体として認められるのは、人が排他的に支配することができる物だけであり、また、1個の独立した物だけであるとされる。それ以外にも、物が特定されていない限りは、使用・収益・処分ができないこととなり、それ故に物権が認められないとされる。
■「物」の基本的区分には、「不動産(民法86条1項*9」と「動産(不動産以外のすべてのもの)」がある。
■この不動産のうち土地の定着物とは、土地に固定されていて、取引観念上そこに継続的に固定されたかたちで利用されるものをいい、建物や銅像、線路が例に挙げられる。このうち、建物は、屋根と周壁が一応できている状態であれば、常に土地とは独立した不動産として認められる。また、立木は原則として、土地に付属したものであるが、立木法による登記もしくは明認されていれば例外的に独立の物として扱われる。
■なお、無記名債権*10も動産とみなされる(民法86条3項*11)のであるが、これは円滑な流通を保護するためであって、譲渡の際には債権譲渡の対抗要件民法467条1項*12及び2項*13)は不用で、証券の引渡しのみで足りる。
■この他「物」の基本的区分には、「主物」と「従物」という区分がある。
■この従物とは、物の所有者がその物の常用に供するために、それに付属させた自己の所有物をいい(民法87条1項*14)、社会的効用説*15の考え方から、従物は主物の処分に従う(民法87条2項*16とされる。ただし、異なる合意をすることも可能である。

*1:工作物や竹木を所有する目的で他人の土地を使用する権利

*2:農作物を耕作するという特別の目的のために他人の土地を使用する権利

*3:自分の土地の便益のために他人の土地を使用する権利

*4:一定の村落の住民が山林原野などを共同で利用する慣習上の権利

*5:物権ハ本法其他ノ法律ニ定ムルモノノ外之ヲ創設スルコトヲ得ス

*6:慣習上物権ト認メタル権利ニシテ民法 施行前ニ発生シタルモノト雖モ其施行ノ後ハ民法 其他ノ法律ニ定ムルモノニ非サレハ物権タル効力ヲ有セス

*7:本法ニ於テ物トハ有体物ヲ謂フ

*8:空間の一部を占める物理的存在(気体・液体・固体

*9:土地及ヒ其定著物ハ之ヲ不動産トス

*10:債権者が特定されておらず、それについて発行される証券を所持するものが債権者となるもの(ex.商品券・乗車券

*11:無記名債権ハ之ヲ動産ト看做ス

*12:指名債権ノ譲渡ハ譲渡人カ之ヲ債務者ニ通知シ又ハ債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ之ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス

*13:前項ノ通知又ハ承諾ハ確定日附アル証書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ以テ債務者以外ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス

*14:物ノ所有者カ其物ノ常用ニ供スル為メ自己ノ所有ニ属スル他ノ物ヲ以テ之ニ附属セシメタルトキハ其附属セシメタル物ヲ従物トス

*15:主物に従物が付属していることによって社会的効用が高められているのだから、処分するときも両者一緒にするのが望ましいとの考え方

*16:従物ハ主物ノ処分ニ随フ