自治体の首長の多選自粛(または多選禁止)を定める条例について

 いくつか標記のことについて取り上げたエントリがあるようですので(^ー^)、流れにのっかる形でupしてみることに。

※本当は、もうちょっと詳しく論じたいのですが、今回は、「従来の議論に関する個人的メモ」と、「私個人が考えるヨリ望ましい方策」についてだけ。


■前提として、今までの自治体の首長の多選禁止を法制化しようとしてきた議論を確認。


 まずは、政府における検討が次のとおり。

  • 地方分権推進委員会第二次勧告(1997年7月)
    • 地方公共団体の選択により多選の制限を可能にする方策を含めて幅広く検討する」
  • 政府分権推進計画(1998年5月)
    • 「これまでの国会論議の経緯や各界の意見等を踏まえ、首長の選出に制約を加えることの立法上の問題点や制限方法のあり方等について、幅広く研究を進めていく」
  • 自治省「首長の多選の見直し問題に関する調査研究会」報告書(1999年7月)
    • 多選禁止を認める意見も示される

 次に、国会における検討としては、昭和29年、昭和42年、平成7年にそれぞれ「多選禁止」を定める法律案が提出されたが、いずれも審査未了・廃案に。

 なお、最高裁においては、「立候補をするという意味での被選挙権は、基本的人権の一つと解すべき」が解釈が示されている。

最高裁判所大法廷昭和43年12月4日判決(昭和38年(あ)第974号公職選挙法違反被告事件)から抜粋
 憲法15条1項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と規定し、選挙権が基本的人権の一つであることを明らかにしているが、被選挙権または立候補の自由については、特に明記するところはない。ところで、選挙は、本来、自由かつ公正に行なわれるベきものであり、このことは、民主主義の基盤をなす選挙制度の目的を達成するための基本的要請である。この見地から、選挙人は、自由に表明する意思によつてその代表者を選ぶことにより、自ら国家(または地方公共団体等)の意思の形成に参与するのであり、誰を選ぶかも、元来、選挙人の自由であるべきであるが、多数の選挙人の存する選挙においては、これを各選挙人の完全な自由に放任したのでは選挙の目的を達成することが困難であるため、公職選挙法は、自ら代表者になろうとする者が自由な意思で立候補し、選挙人は立候補者の中から自己の希望する代表者を選ぶという立候補制度を採用しているわけである。したがつて、もし、被選挙権を有し、選挙に立候補しようとする者がその立候補について不当に制約を受けるようなことがあれば、そのことは、ひいては、選挙人の自由な意思の表明を阻害することとなり、自由かつ公正な選挙の本旨に反することとならざるを得ない。この意味において、立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。このような見地からいえば、憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。さればこそ、公職選挙法に、選挙人に対すると同様、公職の候補者または候補者となろうとする者に対する選挙に関する自由を妨害する行為を処罰することにしているのである(同法225条1号3号参照)。

 私が思うところ、こうした最高裁判断に基づきつつ、被選挙権の自由、立候補の自由、国民の公務員選定罷免権(以上、憲法15条)、職業選択の自由憲法22条)、住民による直接選挙権(憲法93条)、そして、平等原則(憲法14条。ex.「多選の長とそれ以外の者」、「多選を禁止される自治体の首長と何ら制約がない国会議員・地方議会議員」)などといった憲法的価値に対する考慮から、いわゆる「多選禁止」の法制化に消極的な対応が従来なされてきたのではないでしょうか。


■本来であれば、このあと、数多くの検討を加えたいところですけど、一気に、結論めいた私の見解について。つまり、「いわゆる『多選自粛』条例は、条例として定めるようなものではない」と考えていることを前提にして、「『地方自治法81条の要件緩和』等によって、多選が弊害となった場合等における実効的な対抗策を実現する」との考えを示しておきます。

 まず、「いわゆる『多選自粛』条例は、条例として定めるようなものではない」との考えについては、基本的に「努力規定」しか定めないような条例は、本当に条例として定めるべきものなのであろうかという疑問に基づきます。そんな「努力規定」なんか、公約(=マニフェスト)として、首長と住民が明確に契約として取り交わすという意識があれば、それで済む話ではないか、などと率直にいって思っている次第。何もこれだけに限りませんが、とりあえずは「努めるものとする」、「努めなければならない」といった定めだけの条例は、、、ということで。

 首長を誰に任せるかということは、基本的に住民の選択によればよいと思うのですね。ただし、その選択の機会が4年に1度しかないことには、たとえば、多選の首長で議会との関係にも馴れ合いが生じてしまった場合においては長すぎるような気もします。
 (私の考えにおいては、)あくまで住民が主体なのですから、首長に対して緊張感をもたせる権限を、議会のほか、住民にも手続的に保障してよいのではないでしょうか。「より住民が能動的に活動できるように」という考え方こそが、地方自治の本旨に適うものではないかと考えるわけなのです。
 その具体的な方法のひとつのアイデアが、地方自治法81条に掲げられた要件の緩和です。

地方自治法
第81条 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の3分の1(その総数が40万を超える場合にあつては、その超える数に6分の1を乗じて得た数と40万に3分の1を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。
2 第74条第5項の規定は前項の選挙権を有する者及びその総数の3分の1の数(その総数が40万を超える場合にあつては、その超える数に6分の1を乗じて得た数と40万に3分の1を乗じて得た数とを合算して得た数)について、同条第6項から第8項まで及び第74条の2から第74条の4までの規定は前項の規定による請求者の署名について、第76条第2項及び第3項の規定は前項の請求について準用する。

 たとえば、多選という定義に該当することとなった首長に対しては、この81条1項に掲げる3分の1という要件を5分の1なり、10分の1なりに緩和するだけでも、首長に対してカナリの緊張感を持たせる効果があるのではないでしょうか。

 あるいは、この直接請求のハードルがまだ高いという場合は、もうひとつのアイデアとして、住民からの発議に基づき、議会に首長解職に関する審議を義務付け、可決となれば首長解職となるという手続を創設することも考えられます。

 もちろん,これらの解職権限が常に行使されなければならないというわけではなく、こうした手続なり権限といったものが住民側にあることによって、ヨリ住民が能動的主体的に活動する推進力となればよいのではないかという思いからのアイデアなのですけどね。

 なお、これらの私的アイデアは、条例だけでは不可能であって地方自治法の改正が必要となるでしょうから、はたらきかけるとすれば国会なのでしょうけど。やっぱり当該要件もそれぞれの地域で決定できたらよいのでしょう。しんどい道かもしれませんけど。

【追記】参考として。
 市民自治の可能性(千葉県我孫子市市長 福嶋浩彦 氏)@メセナひらかた - 【情トラ】附゛録゛