2009-11-28
第5講 きのこな編集者
小林 由佳(こばやし ゆか)
編集者。
1980年生まれ。2004年デ情卒業後、山と溪谷社に編集者として入社。出版部自然図書グループに配属。主に図鑑や自然系の書籍を作る部署で、きのこ図鑑担当となる。きのこ図鑑の編集を進める傍ら「岩合光昭×ねこ」などのカレンダー類や、単行本をいくつか手掛ける。そのうちの一冊、お札で折る折り紙の本「おとなのおりがみ」が話題となる。2007年小学館に転職。現在、出版局 児童・地図 小学館の図鑑NEO編集部所属。主に子ども向けの植物図鑑を担当。その傍ら、サブカル本、絵本、きのこ図鑑などの単行本も編集している。
小学館の小林由佳と言います。よろしくお願いします。私は編集者という職業なんですけど、編集者になりたいと思って、なったというタイプではなくて、本当は就職にすら興味がなくて、フリーターになろうかと思っていたんです。でもせっかく一浪までして武蔵野美術大学に入ったので、フリーターになってしまったら別に高卒でも良かったなと思って、試しに就職活動をしたんですね。きのことバイクが好きだったのでバイクメーカーと、山と溪谷社というきのこの図鑑をたくさん出している会社を受けたんです。
バイクメーカーは結構最後の方までいけたんですけど、落ちてしまって。それで、山と溪谷社に入ることになったんです。『日本のきのこ』という本、大人向けのきのこ図鑑の中で一番いい図鑑だと私は思っているんですけど、これを作っている会社だったんです。
新入社員が私だけ、5年ぶりの新入社員だったんですけど、その4月1日の入社式の日に、あなたは図鑑の部門で編集者として働いてくださいということになりました。すごい行きたい部署だと思ったんですけど、別に図鑑をつくりたかったわけではないなとも思ったんです。ただ『日本のきのこ』を読んでて楽しいだけで。でも一応受かって図鑑の部署だから、しばらく辞めないでやってみようというくらいの気持ちで始めました。
サイズがウサギサイズになった
一番はじめに、「まずカレンダーを作ってみろ」と言われたんですね。薄くて作りやすいから。山と溪谷社では普通の景色が続くようなカレンダーで、台所とかに貼ってあって書き込みが出来るような、定番を何十点も出しているんですね。
今年から風景だけじゃなく動物ものを始めてみたらどうだろうということで、『ウサギぴょんぴょん』というカレンダーを担当することになりました。今思うと何も面白くないなと思うんですけど、ウサギの写真を30点くらい借りて来て、その中から12種類選んで入れるっていうものなんですね。
この時はまだ日々の仕事のやり方を覚えるのが精一杯という時期でした。それから数年経ったときに、これってちょっとウサギ大きすぎるんじゃないかな?と気づいたんですね。それで小っちゃくしてみたら結構かわいい。前よりサイズがウサギサイズになったと言うか。
購買層を調べてみると、ほとんど女性なので、ちょっとフォントもかわいらしい感じに変える。「かわいくなりましたね」というハガキをたくさん頂いて好評だったんですけど、3件くらいは、「どうしてウサギのカレンダーを小さくしたんだ」というクレームが来て。「小さい方がかわいいと思ったんですけれど、ご不満でしたか」って言ったら、「不満とか、そう言う問題じゃないんだよ」って。そういう方もいらっしゃるんだなって初めて気づいて。
小さくするメリットって、実はもう一つあって、本は大きければ大きい程、値段が高いんですね。で、インクの量とか紙の値段とか、本もカレンダーも小さい方が断然安くなる。このくらい小さく変えると、だいたい200万円くらい安くなる。結果、売り上げはすごく良くなったんですね。だけど、それでも「何で小さくしたんだ!」という電話がもし大量にかかって来たら、やっぱり考えざるを得ないです。
編集者の仕事っていうのは、かなり一人一人の趣味に偏ったもの
だんだん編集っていうのをつかみかけて来たんですけれど、そのときに同時に担当していたのが岩合光昭さんっていう写真家の人で、世界中の動物の写真を撮っている方なんです。その方は大きいカレンダーをたくさん他社からも出してるんですけど、うちは12か月ではなくて、週めくりでやろうということになって。
普通は猫のカレンダーって、全部「ザ・猫」って感じの写真でいく、っていうイメージがあったんですけど、うちのカレンダーはこんな小っちゃい猫の写真も結構使う。それが他社との違いにしたかったんです。岩合さんの事務所には大量の写真の入っているフォルダがあるんですけど、その中から53枚写真を選ぶっていう作業を始めました。だいたい1週間ぐらい、朝の10時くらいから夕方の6時くらいまで、ひたすら猫の写真をファイルから取り出し、ガーって見て、いいやつをポイって外して、で、また探してっていうのを繰り返しました。
その中ではじき出したものの中からいいものを集めて、これ雪があるから1月っぽいな、じゃあ1月の第3週にしようとか決めていくんです。カレンダーでは面白い写真を選ぶってことあんまりないんですけど、週めくりだと53枚もあるので遊びができるなと思って。岩合さんも、「こういう面白いのをたくさん撮っていたのに、今まで埋もれていた」と言っていて。そういう写真を発掘するのがすごく楽しかったです。編集者の仕事っていうのは、かなり一人一人の趣味に偏ったものなんだなということを、このときに学びましたね。
この猫は耳毛がすごい長いんですよ。これはすごいなって思って、絶対に入れるぞ!と思ってたんですけど、編集長に「この猫なんか小汚いから違う奇麗な猫にしなよ」と普通に言われたんです。「どうしてもこの猫は入れたい」と言ったんですが、「でも岩合さんがそんなの許さないだろう」って言われて。そしたら岩合さんが「耳毛がかわいいじゃん」って言ってくれて、載せられたんです。編集長の意見と違ってしまった時は、「どうしてもここがかわいいから!」って説明することで、やりたいことを通すか、それとも編集長の意見に従ってそのまま、「あ、じゃあ、やめます」って言うタイプか、それは人次第だと思うんですけど。私はどうしてもかわいいものは載せたいタイプなので、いつも押し通すようにしています。
すごいダサい本の表紙とか、すごい格好いい本の表紙とかあるじゃないですか。ダサい本ばっかり作ってる人に、どうしてデザインにこだわらないんですかって訊いたら、「これが格好いいじゃん」って言うんですよ。だから、美大に入って来たような感覚の人たちと、一般社会にいる人たちの感覚って結構違うんだなって思いますね。それは写真選びにも共通して言えることなんですけど。それで、カレンダーの場合は、いかにかわいい写真とかシチュエーションが面白い写真を選べるかっていうのが、売れるキモになるなって感じます。
これで私もFUJIガール!
次に、今若い人に富士山が人気だっていうので、『富士山ブック』というものを作ることに。「おまえ山登ったことがないから、一回富士山に登ってこい」と編集長に言われまして、それでカメラマンの人とイラストレーターの子と一緒に富士山登山をしたんですね。山登りする時ってレインウエアとか下に着る防寒着とか登山靴とか、とにかく全部そろえると十万円位しちゃうんですよ。富士山って圧倒的に初心者の人が多いので、どういうのを買えばいいのかっていうページをやることになって。「がっちり買いまSHOW」っていうダサいタイトルでやだなと思ったんですけど、編集長がもう決まってるからと。
まずレインウエア選びはここがポイントですよ、とか、靴も決まったよみたいな感じで。モデル代払える記事じゃないと、だいたい自分がモデルまでやるケースが多かったですね。これで私もFUJIガール!とか、全然よく分からない。今だったら、これ何ですか?って言うんですけど。
実際に登るルポが翌年の号に載ります。FUJIガールの格好で実際に登ったんですね。「あこがれて二人旅」っていう、これもなんだかよく分からないタイトルですね。この中村留美さん(以後、ルミくん)っていうデザイン情報学科卒の友達が、この時はまだ駆け出しのイラストレーターで、あまり仕事のないような感じだったので、「一緒に行かない?」って言ったら「いいよ」っていうことで、一緒に行ったのですけど。
とにかくすごい寒かったんです。この中で富士山登ったことある人いますか? もう二度と登らないって思う山でしょ。だけどこれは富士山ブックだから、もう登りたくないっていう特集は絶対出来ないわけです。富士山ってすごいんだなっていう結末にする。でも景色は本当にいいんですよ。とっても爽快だったんですけど、足ガクガクで棒みたいになっちゃった。
デザイン科だから気づいたんじゃないのかな
これは、「尾瀬の森へと誘われて」という割とまともなタイトルです。取材のルポっていうのはかなり楽しくて、自分で楽しんだことを記事にするという感じなので、何か説明するっていうのではなくて、自分で楽しかったことをただ書くっていうのが一番いい記事になるんじゃないかなって思いました。
この『尾瀬ブック』は巻頭に観音扉で、尾瀬で見られるお花集があって、その裏が地図になっているんです。だけど、本屋さんで見たときに私は地図がついていると使えるなというイメージがあるんですけど、こういう風に折り込まれている状態だと地図があるということに気づかないなって思ったんですね。それで、編集長に「地図を表に出した方がいいんじゃないですか」って言ったら、「そう言えばそうだな」とか言われて。
で、翌年には地図が表になりました。こっちの方が部数は良くなって、やっぱり地図があった方がいいんだなと。内容はほとんど同じだから、多分前のは地図が入っていたことに気づいてもらえなかったんじゃないかな、っていうのを部数の差を見て思いましたね。そういうのはデザイン科だから気づいたんじゃないのかなって。美大で良かったなと、こういうとき思いますね。
本当にすごく面白い!って思ってないと多分続かない
入社して間もない時期に、編集長が、「原稿持ち込み企画があるんだけど読んでみてくれないか?」ということで、読んでみたんですけど面白くも面白くなくもないもので。「どうだった?」って言われて、「うーん、、でも面白かったです」って言ったんですね。そしたら「じゃあおまえ担当になれ」と。
「本当に作るんですか?」って言ったら、「おまえが面白いって言ったんじゃないか」って言われて。面白いか面白くないかって言われたから、別に面白くなくもないけど、っていうぐらいだったんだけど。本にするということは、すごい面白いって思ってないと、多分続かないんだなって、このとき思いました。途中からしんどくてしんどくて。結構本作るのって大変なんですよ。何が大変かというと、本づくりのやり方について簡単に説明すると、まずこの本は始めに導入で漫画が入っていて。持ち込みに来た時は文章をただWordでバーッと打った原稿の紙の束で来るんですね。それを漫画形式におさめたんですけど、それが編集者の仕事です。そのほうが読みたくなるんじゃないかという提案です。
文章だけだとつまらないんじゃないかってことで、追加で絵を描いてもらいました。全部4色にするとお金がかかっちゃうので”四一”という手法なんですけど、16ページごとに、4色、1色、4色、1色にする。そうすれば、本当は半分1色だけど、意外と全ページカラーっぽい雰囲気が保てるかな?と。そういう設計とか予算の兼ね合いとか全部決めていかなきゃいけないんですね。編集者は。
デザイナーが決めるわけでもなく、著者が決めるわけでもなく、編集者がリードして決めていくんです。だからかなり責任があるというか、権力があるっていう言い方が正しいのか分からないんですけど。結局編集者がいいって言ったように落ち着くって感じなんですね。映画で言ったら監督の立場というか。女優さんの意見を聞いたりすることもあるんだけど結局決めるのは監督、っていう感じで編集者が決めます。
で、この本は、結局あんまり面白くならなくって、見た目はいいかなっていうところまでいったんじゃないかなと思うんですけど。まず第一にこの著者の絵が私あんまり好きじゃなかったってことに気づいて。自分が読んだときに、これ買うかな?って思ったら買わないなって思っちゃったんですね。担当の編集者が買わないなんて本、すごい切ないじゃないですか。
気軽に「面白いか?」って言われたときに「面白い」って言っちゃいけない。面白くないってものは、面白くないってはっきり言わなくっちゃいけない。あと「自分なら絶対に買う!」っていう本にしないと、編集者はいけないんだなっていうのを、この時ものすごく学びました。
ものすごい普通の装丁になってしまった
それで次につくったのが、『魔女の薬草箱』という本です。これすごい面白い本なんです。魔女がいろんな薬を作りますよ、空飛ぶ薬だとか、惚れ薬だとか。そういうのに実際に使われた薬草ってどれだったかっていうのを解説してる本なんです。
ただこの時は、美大でやっていたはずの絵の見せ方だとか、そういうデザイン的な工夫をするってことが抜け落ちてて。まだちゃんとした読み物を作ろうって感じだったので、ものすごい普通の装丁になってしまったっていうのが、ちょっと後悔ですね。
でもこの本は割と売れていて、2刷って言って、2回印刷して8000部か9000部出ているって話なんですけど。内容は結構面白いです。ただちょっと読みにくいので、私が読んでもすぐ読めるなっていうレベルに書き替えてもらう手は、今思えばあったと思います。
これがマンドラゴラっていう植物ですね。ちょっと毒があるんですけど。「マンドラゴラ知っている方は?」引き抜くと叫び声を上げて、その叫び声を聴いたものは死んでしまうという、そんな草。根っこが人間になっていて、葉っぱと実が普段は土の上に出ているという伝説の植物です。実際にマンドラゴラは実在するんですね。これが叫ぶかって言うと、まあ叫ばないと思うんですけど。伝説では犬にマンドラゴラを結びつけて、引っこ抜くと、その叫び声を聴いた犬は死んでしまうという挿絵ですね。
私はどういう植物だか知らなかったので、Wikipediaとか、いろいろネットで検索をしたら、「万ドラゴラ」という一万円を使ったお札の折り紙がヒットしたんですね。それで、もっとよくホームページを見たら他にいろいろ駄洒落になっている折り紙があって。スーパー万、カブトガネ、カネレオン、スーパーマネオブラザーズとか。「アル中MasaのおつまみGAMES」っていうホームページを見つけることになるんです。これが次の本を出すきっかけになったんです。
あまりに馬鹿げてるので面白い
まずアル中Masaさんにホームページで連絡を取りました。山と溪谷社っていう会社は、図鑑とか植物とか動物とか自然のものしかやらない会社なので、お札の折り紙っていうのは初めての体験で、かなり通すの困難だったんですけど、「あまりに馬鹿げてるので面白い」とみんなが言ってくれまして、それで出せることになったんです。今回は今までいろいろ失敗して来たことを生かすことにしました。これは一応売れたので、成功したことにしたいなって思っているんですけど。
神谷くんっていうデザイン情報学科の同級生だった友達がいて、彼に「ギャグっぽい文章と絵を描いてもらえないか」って頼んで、描いてもらうことにしました。面白いっていうセンスとかかわいいっていうセンスは、本当に人によって違うと思うんですね。そこで、同じ面白いセンスを持っている人を使ったっていうのが良かったと思うんです。普通「マンタ」とか選ばないと思うんですよね。「万札で愛の戦車を折あげろ!考えるな!」とか。こういうのを面白いって言う人と、「考えるなってちょっと失礼じゃないですか?」っていう人と、いろんな意見があるので、「いいや、面白いんだからやっちゃえ」ってことにしました。
Masaさんが描いた折図は手描きなので、これを生かしたいなっていうのはありました。これを普通の折り紙の様に普通に描き起こしてしまったら、全然面白くないなって思ったんです。だから若干分かりにくいんですけど生かす方向で。帯は「大人の折り紙、お札で折る折り紙、財務省日本銀行非公認本」って書いてあるんですけど、「大人げない折り紙でもある」って。これすごい好きだったんですけど、帯が黒なので地味だっていうことで、蛍光ピンクにするってことになったんです。でも、こう並ぶと黒い方が良かったんじゃないのかな。
図鑑のキモ
小学館の図鑑NEOというシリーズがいくつか出てるんですけど、テレビCMとかもやってる本です。この植物の巻の、いま小さいポケット版を作っていて、具体的にどんな感じで作るのかっていうのをお話しします。
「子供のころ図鑑読んでた人っていますか?」ああ、やっぱりみんな読んでるんですね。私も読んでたんですけど、その頃からあんまり変わってないと思うんです。普通に植物だったら植物の絵とか写真が、並んでるものなんですよね。新しく作るに当たって、絵は流用し、写真は新しく差し替えるっていう作業をしてます。
植物は季節があるので、春のお花は春に写真撮らないとアウトになってしまうんです。とりあえず種類を決めるんですけど、監修の先生と相談しなくちゃいけなくて。これはいるだろうこれはいらないだろうっていうのがなかなか決まらないんですね。決まらないけどどんどん季節は過ぎて行く。なので「とりあえず春」って言うフォルダを作って、とりあえず春に使えるんじゃないかっていう花の写真や、草花遊びのネタを自分で考えて、写真を撮ってもらいます。最終的に白バックを使うか、風景写真を使うか、ラフを描く時にこのページには空が入ってた方が良いな、とか出てくると思うので、一応空が入っていたり、入っていなかったり、色んなタイプの写真をカメラマンさんに撮っておいてもらいます。
図鑑って何回も子供が見るので、たとえばこの写真が子供にとっての「オシロイバナの落下傘」の全てになってしまいます。大体20年くらいだと思うんですけど、その20年間の子供達にとっては”ここに載ってる植物の情報が全て”といっても過言ではないと思うんですね。
図鑑の場合は、季節を逃しちゃいけないっていうのが一番大きい所ですね。魚とか動物とか動物だって冬毛に変わっちゃうとかがあるので、冬毛と夏毛両方撮ったりとかしないといけないし、植物もさっき言ったように季節ごとに咲いてる花が違うんで撮っておかなきゃいけないし、まああの昆虫も秋の昆虫春の昆虫違うのでとりあえず写真撮っておいてもらうっていうのが大切で、図鑑のキモですね。
間違いがないか確かめるのはすごく重要
普通の単行本の場合は、まず予算を決めます。何百万円使えるのか何千万円使えるのかっていうのを決めます。それは会社の人達とその企画に見合った値段を決めるんですけど、それによって定価をいくらにするのか、著者に払う印税をいくらにするのか、何%にするのかっていうのを決めていきます。
それで企画を考えます。まあ企画と予算は同時に決めますね。その次にメンバーを決めます。その企画を実行して本にするにあたって、どんなデザイナーがいいか、どんな写真家がいいか、どんなイラストレーターがいいか、どんなライターさんがいいか、どんな監修の先生がいいか。図鑑の場合は、監修の先生に本当に情報が合っているかどうかっていう確認をしてもらう作業があるんです。読み物とか小説とかの場合は、どんな校正者がいいのかっていう、文字の直しとかやってくれる人ですけど、そういうメンバーを決めます。それはほぼ自分一人で決めます。
そういう意味で、初めの方に言ったように、編集者って監督のような役割で、あらゆる場面で方向性を決定します。例えば著者の人が「もっとこういう本にしたい」とか言われた時にその通りにするか、それとも「いや、でも売れなくなる気がするからこっちで行きましょう」とか、そういう相談をしたり。デザイナーさんが「こっちの方が格好いいからこういうデザインにしましょう」って言った時にそのまま行くか、それとも「それだと大人向けっぽいんで、もうちょっと子供っぽくしたほうが売れると思う」とか。編集者はそういう各メンバーの人達と相談をします。
その時に、著者とデザイナーとカメラマンと編集者の4人で相談する必要がある時があったり、編集者とデザイナーだけの時があったり、色んなケースがあるんです。2人で済む問題なのか、4人メンバー全員で検討しないといけない事なのかっていう、事の重要さも自分で全部決めないといけないので、それがすごく大変な作業ですね。私が決めていい所なのか、やっぱり著者の人もいいって言ってくれるデザインにするには、著者もデザイナーも呼んで検討してみたりだとか。著者はあんまりデザインにこだわりがないから私とデザイナーで決めてしまおうとか、そういうジャッジっていうかその本のメンバー構成によって、やり方を考えます。
最後に、間違いがないかを確かめるのはすごく重要ですね。図鑑の場合はもう絶対に間違いとかあっちゃいけなくて、食べられるきのこって書いてあるけど本当は毒があったりだとか、そういうのは人の命に関わってしまう事なので、間違いがないか確かめるのはすごく重要です。あと最近は、差別用語とかの問題もあります。例えば「ハムスターは沢山食べ物を頬にほおばると、こぶとりじいさんのようにほっぺたをふっくらさせる」っていう表現をすると、今はこぶとりじいさんは差別用語って話があって、ちょっと使えない言葉になってしまっているので、それでも使うか、それともやっぱりそういうのは外しておくか、そういう判断をします。
こんな感じで、編集者の仕事とは以上をもって・・・というか。私はこんな感じです。どうもありがとうございました。
Q:この前エディトリアルデザインのお話をお聞きしたんですが、編集者とエディトリアルデザイナーの違いとは何ですか。
A:ええと、この本に合ったエディトリアルデザイナーの人は誰なのかっていうのを決めるのが編集者ですね。自分でIllustratorやInDesignを使ってデザインはやらない。「こういう本の企画なんですけどやってみませんか?」って事で声が掛かるのが編集者です。それで色んなタイプのエディトリアルデザイナーの方がいるんですけど、まあ編集者も色々いるんですけど、人によってやり方が全然違って、例えばさっきの富士山ルポありましたよね。こういうのは編集者がコマ割りして、ここに写真001.jpg、002.jpg、003.jpgとか決めて提出して、それをエディトリアルデザイナーの人がInDesignでデータを作るって作業をしてます。
例えば写真を十何枚選んで渡しただけでは、デザイナーの人っていうのは組んでくれないんですね。編集者が「この写真を使う、右上の部分にテキストを入れる」っていう指定をして渡します。なので私が思ってたより、編集者の方がデザインしてる。というか、機械を使わないだけで、殆ど編集者の方がやっているなあ、大学の時に思っていたのと大分違うなあって思いましたね。
デザイナーの方によっては「このページは漫画じゃなくて普通のルポでいいんじゃない?」とか、「ガラッとページを変えた方がいいんじゃない?」とか、意見を言ってくれるんですけど、雑誌のデザイナーの人は殆どこっちが言った通りにやってくれる。その中でどういうフォントを使うだとか、すごい細かい「こういう色にした方が良いんじゃないか」とか技術的な面で頑張ってくれる人は、雑誌エディトリアルデザイナーの方に多いですね。一概には言えないですけど。
書籍の場合は、テーマから入って来るデザイナーの方もいます。原稿をきちんと読んで、「この内容にはこのレイアウトがいいと思って、こういう風に組みました」っていう方とか。デザイナーによって全く違っていて、なかなか一言では言いづらいです。でも思ったより編集者の言った通りに、例えば「フォントはゴシック体じゃなくて明朝の方が良いんじゃないですか」とか、そう言ったら変えてもらえる事が多いと思いますし、今編集者の方がちょっと強過ぎるかなって思うんですけど。権力があるっていうかそういう状態ですね。ラフまで編集者が描くのは正直どうなのだろう?と。
Q:編集者の一日のスケジュールを教えて頂きたいのですが。例えば朝何時くらいに出勤して、何時くらいに家に帰るのか、とか。
A:ええとですね、それは人によって全然違うんです。私の場合は朝11時くらいに出社して、2時間くらい業務をこなして、1〜2時くらいにお昼に行って、夜7〜8時くらいまで編集作業して家に帰るっていうのが普通です。一日中外で、図鑑用の草花あそびページの花飾りを作って終わる日もありますし、例えば大学の教授に監修を頼みに行く時とかは、一日中大学にいたりだとか、そういう時もあります。雑誌の人は夜型の人が多いので、大体夕方3時〜4時出社で、朝の2時〜3時に帰るって言う人も多いという話です。
Q:学生の時にどんな事をしていらっしゃいましたか。例えばこれやっておいて良かったなあって思う事だとか、課題の時に常に気をつけていた事とか。
A:ああー、何が必要か、何が必要じゃないのかっていうのはかなり意識してやっていたかもしれないです。例えば「この教授に見せても絶対にいいって言ってもらえないだろうな」っていう人には見せないとか。あの、全員に好かれるものって言うのは絶対に作れないんですね。自分が好きな事じゃないと上手く行かなかったり。あと、皆に好かれるものは、本の場合、実はあんまり売れないんですよ。皆が平凡的に好きだから実際買うまでに行かないのかなと思うことがあります。それだから、学生の頃からなまけものっていう面が私は強いので、最低限の労力で上手くスルーできればいいかなっていう風に実は思っていたので、佐藤ゼミをとっていたのかもしれないんですけど(笑)。予想っていうか勘を大切にやるのは結構いいと思うんですよね。今うまく伝えられてるのかよく分かんないんですけど(笑)。
Q:編集の仕事でやりがいを感じる事と、逆に嫌だなあと思う事を教えて下さい。
A:やっぱり本が売れた時は、すごいやりがいを感じますね。デザイナーさんと、著者と、私と3人だけで作っていたような内輪の世界が、テレビ見て「知ってるー」とか、全く知らない人が知ってるっていう状況になる。3人で作った世界で、一瞬だけどブームとか起こせるんだな、っていう。もうそこはすごいやりがいがありますね。
あと子供の本の場合は、私ホント図鑑大好きで、これは結構、中に介入して作った図鑑なんですけど、私が担当したのはここのページで、「科学の実験」っていう図鑑ですが、偏光板っていう東急ハンズとかで売ってるプラスチック製品を、パソコンの画面の前にかざすとこういうすごい虹色に変わるんですね。偏光板さえ買ってくれば家でも手軽に出来る実験なので、すごい楽しいなあって思って。
それで今の世代の子供達は、ああ、あの偏光板のページあったよね!ってこれ見て知ってる子が多分何万人もこれから出てくるはずで、これ今初版7万部なんですけど、その7万部の子達は、ああ、あのページあったよねって話せると思うんですよ。そういう子供達が大人になって行くんだなって思うと、これがきっかけで科学の実験にちょっと挑戦してみたくなっただとか、そういう小学生とかもいると思うので、それはやりがいがあるなあって思いますね。
Q:あ、逆に嫌な事もお願いします。
A:あ、嫌な事・・・うーんと嫌な事はやっぱりあんまりないんですけど、美大の人っていうのが出版社にはやっぱり少なくて、感覚が違う人達が凄く多くて。で、あと真面目なんですね。真面目というか「大体この人にこういう事お願いしたら、こういう返事が来るに決まってるじゃん」って美大生ならすぐ分かるような事なのに、それをちゃんと順序立ててやってとか言われる時は、「ああどうせ断られるに決まってるのにお願いしに行くの嫌だなあ」とか。で、やっぱり断られて、とかそういうのはすごい嫌ですね。なんか美大生が得意な事と、普通の大学出た人の得意な事って違うと思うんですよ。折角そこにシード権があるのに、ちゃんとした手順を踏めって言われるのはちょっと嫌ですね。
Q:一般大の人に敵わないなあって思う事は、何かありますか?
A:ああー、すごいいっぱいありますね。ほとんど敵わない(笑)。プレゼン力が高いというか、流暢なしゃべりなんですよね。今、私はすごいたどたどしくて申し訳ないなあって思ってるんですけど、なんかこう絵を見せて説明するんじゃなくて、そのストーリーとしてなぜか説得力のあるしゃべりが出来るっていうのは、すごいと思います。しゃべる時声が変わるというか、なんかいますよね女の人とかよくいるじゃないですか。例えば「この件につきましては」とか、本当に皆、そういうしゃべり方が出来る人ばっかりで、私はこんな変なしゃべりで、ちゃんとした会議でもこれが治らないから。
しゃべりでそれっぽく聴こえちゃうんですね大した本じゃないのに(笑)。こんなダサい本よく作ったなあとか思うんですけど、「今○○というのが大変人気がありまして」とか、そういう言い方されるとじゃあ通すしかないとかなるんですよね、会社も。うーん敵わないですね、あのプレゼン力というか喋り方は。でもセンスの方は、標準の方は絶対美大生の方が高いと思うんで、編集センスがあるよ、とか、デザインセンスがあるよっていう事を認めてくれる人が一人でもいれば、私の場合、1人か2人いたから仕事ができるんですけど、なんとか、ギリギリまで行けば割と美大生にも価値があるって思ってもらえるなあって思いました。
Q:就活の話なんですが、デザイナーの枠もありますよ、美大の人はそっちの方がいいんじゃないですかって言われなかったですか。
A:うちの会社はデザイナー枠は無かったんですが、面接の時に「営業になるかもしれない」と言われて、「どこの部署でもいいんです」って言ったんです。本心は「絶対営業とか嫌だな」とか思ってたんですけど、「営業からやった方がむしろゆくゆくは編集とか本を作るのをやりたいんですけど、まず書店さんとかと仲良くなったりして現場を知ってからの方がむしろ編集するのにいいかもしれないと思ってます」とかなんか上手い事言ったんですよね多分。ギリギリになって配属を決めるっていうケースもあるみたいで、そういう時に「絶対に編集じゃないと駄目です」って言ってた子だと面倒くさいじゃないですか。
使い勝手のいい人が会社は好きなので多分。だから使い勝手が悪そうな、面倒くさそうな、例えばデザイナーで入れたのにデザイナーじゃない部署に行っちゃったら鬱病になっちゃったとか、いるんですよね。そうするともう大変じゃないですか、会社としては。だから、何でもやりますよーっていう、使い勝手がいいですよーっていうアピールをした方が私はいいかなって思っています。ゆくゆくは、ちょっと何年か掛かるかもしれないけど、希望部署には大体行けます、見てると。
Q:営業の仕事もしたのですか。研修で書店周りみたいなことはしましたか。
A:小学館は転職した時に書店研修があって、新橋の書店で1週間くらい普通にバイトみたいに働いたりしました。配達とかもやりましたね。お昼にフランス書院のロマンポルノ文庫とか買って行くサラリーマンがやたらに来るお店で、カバーをおかけしますか?って聞くと100%「かけます」って言われるっていう(笑)。もう聞かないで「はい、¥525でーす」とか言ってやっていましたね。でも、その前、大学の時にたまたまブックファーストでバイトしてたんですよ。それで、あの「書店経験があります」みたいな事を言えたのでラッキーだったと思うんですね。
うちでもこんな巨大なポップとか作るんですけど、書店だと、私がバイトしてた時はもう「そんなの置けないよ」ってすぐ倉庫にしまわれちゃうんですよ。で、多分はがきサイズが一番よくて。今回この「科学の実験」には10冊に1枚梱包してもらったんですけど、このサイズで、あと手描きっぽいのが今人気なんで、手描きにしました。これ付けてくれる書店さん多いですね。まあ大した内容書いてないんでこれは微妙だとは思ってるんですけど。もうちょっと意味のある内容を書けばよかったなあって思ってます。
本日はお越しいただき、本当にありがとうございました。
2009年11月28日 武蔵野美術大学9号館3F 演習室Cにて
講義ノート担当:山極郁子・伊藤春華
映像記録担当:小笠原恭子・青木理沙
ポスター制作:山崎智佳




