藤沢親雄の『憲法改正の神道政治哲学的根拠―憲法調査委員に与う―』は発行年、発行所ともに不明の冊子、全77頁。
手元のものは旧蔵者の書き込みがあり、全面に傍線や丸印が描かれてゐて壮観。
岸信介の憲法調査委員への不満を表明してゐるので、昭和32年以降の刊行。
岸首相は東洋政治学と神道政治哲学、殊にその真髄ともいうべき「祭政一致の道」の理論に通暁している隠れた有力な学者の出盧を熱心に懇請すべきである。殊に神道に基礎づけられる日本憲法を講している筈の国学院大学の教授が選に漏れていることはいかにも物淋しい。
なぜ国学院の学者が必要なのかといふ信念も表明する。
日本の民族的な行事や慣習の大部分は神道の産物であるのみならず神道は人類の普遍原理となるべきものである。故に神道がなくなれば日本国家は消滅するといつても敢て過言ではない。
それだけ大事な神道を踏まへない憲法改正など考へられない。
藤沢は当時盛んになったサルトルやマルセルの実存哲学は、国体原理を指してゐると論じる。ハイデッガー、ヤスパース、ノースロップらの説を紹介し、東洋と西洋を超えた日本が見直されるときが来た、自信を持て、神道は人類普遍の原理だと説く。
戦時中に神道が悪宣伝に利用されたことは素直に反省。ネオシントイストを自称し、スメラミコトによるスメラクラシー(天皇政治)の構築を訴へる。そのためには資本主義と社会主義とを止揚した福祉国家を建設する。
天皇政治が実現すれば米国的な資本主義もソ連流の共産主義も夫れに吸収されて消滅してしまう。されば日本は「反共」ではなく「超共」でなければならない。
具体的には輔祭大臣を置く。
彼等は祭祀に関する重要な事項を管掌し、宇宙的大祭司である「すめらみこと」を全人類の天皇たらしむべく誠をこめて輔翼しなければならぬ。
現実政治は輔政大臣に当たらせ、総理大臣は輔政大臣の首班とする。金権政治防止のため、総理は政党の党首から選ぶことを禁じ、国民の公選とする。
最新の学問を取り入れる藤沢は、哲学だけでなく最新科学にも関心を寄せる。東海村の原子炉に火がともったことを、「太陽文化」の発足と表現。
かつて地球は太陽から生み落されたものであり、天孫降臨の神話はその詩的表現である。今や地球の母胎である太陽の火が地上に点火されたが、之はまさしく第二の岩戸開きである。