Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

「雨に唄えば」色褪せない名作


来月、「マシュー・ボーンの『白鳥の湖』」で有名なアダム・クーパーの「Singin' in the Rain」が渋谷のシアター・オーブで上演されます。2012年にロンドンのウエストエンドで大ヒットしたミュージカルです。あの名作MGMミュージカル映画雨に唄えば」(1952)の舞台化ですが、恥ずかしながら元の映画を全編通して観たのは、小学生の時にテレビで観たのが最後。予習(復習)しておかねばと思ってリマスター版のBlu-rayを入手しました。


当たり前だと怒られそうですが、これはやはり正真正銘の名作でした。
映画界がサイレントからトーキーへの激動の変革期を迎える1920年代を舞台にした一見ドタバタラブコメ。その実は「肉体」と「映像」と「音」のハーモニーの美しさを謳いあげた極上のエンターテインメント。


シーン毎のテンポや観る者を引き込む仕掛け。もちろん素敵な音楽。そして、肉体の可能性を極限まで追求したことが伝わってくるダンスの数々。スタッフキャストが、その能力の限界に挑戦して作ったものは、何年経とうが色褪せない、ということをあらためて思い知らされました。


OKテイクにたどりつくためにどれだけ怪我を重ねただろうと思う程の大胆な動きとショットのオンパレードでした。そして、カメラはFF(フルフレーム)のショットで、その動き全体をとらえつつ、無駄な余白を入れて冷めてしまうこともない、まさに絶妙なFFサイズで切り取ってみせ、動きそのものが与えてくれる感動を最大限に伝えてくれていました。60年も経ってしまった作品なのに、編集のリズムがゆるく感じなかったのにも感銘を受けました。人間の心に響く普遍的なリズム、というのはやはりあるように思います。


映像でミュージカルを作る時、心ある創り手なら必ず気にする「歌い始め」の違和感解消への工夫も、この映画では徹底して行われます。典型的なのは、ジーン・ケリーデビー・レイノルズに撮影所で愛を告白する場面。撮影所の外を歩きながらデビーと話していたジーンは、スタジオの前で立ち止まり、「僕は不器用だから、装置が必要なんだ」と誰もいない真っ暗なスタジオに入って、照明を入れ、風を起こし、美しい背景と状況を丁寧に準備していきます。その雰囲気にうっとりするデビー・レイノルズに、観客が思わず感情移入して、ああ、ここでジーン・ケリーに歌ってもらえるんだ、と心の準備が整ってから、皆さんのご期待に120%応えて歌い出す……。違和感どころか感動倍増の仕掛けです。


有名な「雨に唄えば」のシーンも、まずジーンの心がウキウキする展開があって、デビーと別れて歩き出す彼の気持ちに添ったBGMとしてイントロが始まり、そのイントロに乗せて彼が鼻歌を歌い始め、アドリブで歌詞が少しだけ乗り、そして、本格的にメロディに突入していく。ひとつ間違えば、ただまどろっこしく引き延ばした感じにしか見えなくなる場面なのに、役の気持ちの高まりに歌も動きもぴったりシンクロしているので、観ている方も巻き込まれてどんどんウキウキしてくる。そして、伝説の水遊びに!これが楽しくならないはずがありません。
監督も兼務したジーン・ケリー、まさにおそるべし、です。


さて、アダム・クーパーは、これをどこまで舞台で表現しているのか……。
主人公3人の移動しながらの完璧なステップはどこまで再現するのか。
ブレイクダンスの元祖とも言われるドナルド・オコーナーの「Make 'em Laugh」で、二度の壁面宙返りは実現するのか。
そして、雨はどれだけ降らせるのか……。
(鑑賞用レイン・コートが要るかも、という噂は聞いてます)


映画をじっくり再見して、舞台を観る楽しみが増えました。来月、期待して観に行こうと思います。

雨に唄えば 製作60周年記念リマスター版 [Blu-ray]

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