グローバル経済下における福祉国家のジレンマ
少々あいだが空きましたが、前々回の続きで(ごくごく簡単な)文献紹介です。
Esping-Andersen, Gosta, 1996, "After the Golden Age? Welfare State Dilemma in a Global Economy" in Gosta Esping-Andersen (ed.), Welfare States in Transition. Sage Publications.
1990年の『三つの世界』の出版から6年後に出版された論集の冒頭に掲載された論文です。先進福祉国家および低福祉国家のこれからについて示唆に富む論考なのですが*1、今回はαシノドスの記事に関連した部分だけを紹介します。
エスピン=アンデルセンの見るところ、1970年代以降北欧諸国では製造業の役割が小さくなり、また「非常に平等主義的な賃金政策」のため、完全雇用を達成するためには公的セクターによるサービス職の供給に頼らざるを得ませんでした。1980年中頃にいたるまで、公的雇用はデンマークとスウェーデンの追加雇用の80%を説明したそうです。これは女性の雇用率の増加には貢献しましたが、二つのネガティブな影響があったと指摘されています。
ひとつは後に社会学者が計量的に証明したように、男女の職域分離が極端に進んでしまったこと。もうひとつはそれが「低スキル(かつ高コスト)の仕事」(ケアワークのような)を供給したこと。後者は、結果的に「失業と下位均衡雇用」のトレードオフから逃れられなかったことを意味しています。つまり、アメリカのような私的セクター重視経済では失業者を犠牲にして労働の効率化が進み、反対にスウェーデンでは失業者を生まない代わりに非効率的労働形態が存続している、ということになります。スウェーデンは世界的低成長下における政府収入の低下によって公的職の供給に耐えられなくなっており、福祉ベネフィットのカットが進んでいます。また一部でワークフェアや公的サービスの民営化も進んでいます。
エスピン=アンデルセンは、この流れは必ずしも「新自由主義への収斂」を生むものではないと断りを入れています(その理由ははっきりと書かれていません)。現状認識とありうべき方針についての論述が続くのですが、ここでは紹介しませんので、もし興味があれば該当論文を参照して下さい。
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