白いへび眠る島(三浦しをん/角川文庫)

白いへび眠る島
ハードカバーを買おうかどうか悩んでたので文庫で出てくれてラッキーな気分。これで三浦しをんの小説はいまのところ制覇。ハードカバーの時は「白蛇島」という題名だったのが改名されたようですね。

高校最期の夏、悟史が久しぶりに帰省したのは、今も因習が残る拝島だった。十三年ぶりの大祭をひかえ高揚する空気の中、悟史は大人たちの噂を耳にする。言うのもはばかられる怪物『あれ』が出た、と。不思議な胸のざわめきを覚えながら、悟史は「持念兄弟」と呼ばれる幼なじみの光市とともに『あれ』の正体を探り始めるが…。

ほんっと三浦しをんはつかみどころないなぁ。今回のお話はホラーやSFに分類されそうな話だし。でも青春小説なんだけど。読み始めてすぐに島の奇妙な雰囲気に引き込まれた。船でしか行くことのできない小さな島で、大人になれば長男以外は島から出て行かなければならないという「きまり」があり、よそものは歓迎されず、おとなたちは『あれ』の存在を信じていて…。もうね、絶対殺人事件起こると思ったよ。起こらなかったけど。本格ミステリの舞台なんだもの。それとわたしは途中まで悟史と光市の仲を疑ってたんだけど(「月魚」系かと…)そうでもないし、話はどんどんオカルト入ってくるしで、全然予測のつかない方向へ転がっていっちゃったかんじ。ま、面白かったからOKです。次はどんな作品を書くのか楽しみ。

ビネツ(永井するみ/小学館)

ビネツ
永井するみの新刊。久しぶりかな?

青山の高級エステサロン『ヴィーナスの手』。サロンオーナーの安芸津京子にヘッドハンティングされた麻美は、その手の特徴から<神の手>の再来ともてはやされる。このサロンにはかつてサリという神の手を持つエステティシャンがいたが、六年前に何者かに殺害されていた。京子と夫の健康食品会社社長・弘庸、様々な思惑でサロンに通う客たち、弘庸とその前妻の息子・柊也など愛憎が複雑に絡み合いながら物語は展開するが―。

ある専門業種に関わる様々な人の思惑をサスペンスタッチで描いていく長編、という点では林業界を揺るがす陰謀をあばいた『樹縛』と同類の小説。こちらはひとつのエステサロンを舞台としながらも、エステティシャンとそこへ客として通う様々な女たち、経営に携わるものたちなど様々な視点から描かれる。
やはりこの作品でも「日常の狂気」が最大のテーマである。麻美が脚光を浴びたことからドミノ倒しのようにまわりから生まれた嫉妬が発展した狂気、そしてサリを死に至らしめたもうひとつの狂気―。ストーリーが上手く二枚岩になってると思う。
主人公の麻美はまわりから「サリに似ている」と言われ、サリと同じ運命をたどるのでは…という恐怖と裏腹に、サリのような「神の手」になりたいと願う、普通の女である。しかし運命に巻き込まれ、彼女自身が「狂気」へ近づいていくあたりもまた、作品のなかでもう一つの山場になっている。
永井するみの作品はなかなか安心して読めなくて、「ああまたオチが弱い」とか「無理があるよー」なんてツッコミながら読むことの方が多い。でも手に取ってしまう。この作品も文句なしというわけではないけど、すごく面白かったんだよね。仕事中だったというのに一気読みしてしまったくらい。誰の心にもある「負の感情」や「思いこみ」と、犯罪めいてくる「狂気」の距離がどれだけ近いかということを永井するみの作品は訴えてくる。
それに加えてこの作品はこれまでの作品よりテンポが良かった。次作も期待大です。