つきまとわれて (中公文庫)(今邑彩)★★★★
- 作者: 今邑彩
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/02/01
- メディア: 文庫
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ふと垣間見える意外な素顔は恐いかも?……当たり前の日常の裏に潜む、小さな謎やサスペンスを鮮やかに描いた連作短編集。
毒殺された娘の真相を突き止める漫画家……「おまえが犯人だ」、駆け落ちして家族を捨てた母のコートにまつわる謎……「帰り花」、姉の結婚を妨害しようとするストーカーの存在……「つきまとわれて」、駆け出しの探偵が偶然知った<隠された>お見合い……「六月の花嫁」、一枚の肖像画が語る画家の数奇な運命……「吾子の肖像」、マンションの住人に超能力者と恐れられる古株の住人の正体……「お告げ」、シミュレーションゲームと現実が近づくとき……「逢ふを待つ間に」、高校生の姪が同級生を呪う?……「生霊」。
一編一編のひねりもいいし、全体を通してのひねりも素晴らしい。例えば冒頭の「おまえが犯人だ」はミステリ的なひねりの後に、心理的にもう一回ひねってあるし、続く「帰り花」にまで繋がってるし。ラスト「生霊」は謎解きの後に、なんとそこへ繋がるのか!ってかんじだし。サスペンスというよりミステリ的な色合いが強いけど、連作ミステリとしてはかなり上等。たんに人物が繋がっていくだけじゃなくて、それぞれの短編が意外なかたちで繋がってますからね。驚きました。なにせ『いつもの朝に』しか読んでないから、サスペンスの短編かなぁと思って読んでたのに、大好物などんでん返しがいっぱいで楽しかった。しかもオチが鮮やか! これぞ短編の醍醐味とばかりのクオリティの高さで、大満足です。
この人の作品は全部読むぞ!
主婦と恋愛(藤野千夜)★★★★
- 作者: 藤野千夜
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2006/05/25
- メディア: 単行本
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舞台はまさに、四年前の日本。正確には一ヶ月後くらいかな? そう、初の自国開催(正確には日韓ですが)のワールドカップです。たしかにあのとき、日本全体が妙に浮き足立ってたよね。お祭り騒ぎっぽかった。サッカーをあまり詳しく知らない人も盛り上がった(わたしもだ)。そしてこの物語は、そんな4年前を舞台にした夫婦の物語です。
主人公のチエコはワールドカップのドイツ対サウジアラビアを観戦するため、札幌まで行くことに。チエコはあまり興味ないのだが、夫の忠彦は大のサッカーファンなのだ。その試合で偶然知り合ったサッカーマニアのワカナちゃん(26歳)と仲良くなって、夫婦揃ってメルトモとなる。そして東京に戻ったチエコはチケットを融通してくれた友人にお土産(カニ)を届けにいったところ、自分のうちのご近所さんでカメラマンのサカマキさんと知り合う。なんとなくなりゆきで、チエコ•忠彦夫婦と、ワカナちゃん、サカマキさんの4人はワールドカップの試合を観戦するためしょっちゅう集まるようになるのだが……。
相変わらず藤野千夜は、すくえるかすくえないか難しいくらいの細かいモノをちゃんと描くよね。あるかないかわからないくらいの嫉妬、あるかないかわからないくらいの恋心。そして、ぶつけるまでもない微妙ないらだち、もうイッソのこと……という想像上のみの思い切り。そう簡単には言葉にできない微妙な感情を、この作家はすくいあげる。だからこの人の作品は、好きだ。
本作は夫婦の物語で、浮気できそうな状況であるのに浮気しない、非エンタメな作品かもしれない。でも、もしくは、だからこそ、すごくリアル。雰囲気に流されればリアルか?というとそうでもないし、雰囲気に流されないほうもリアルじゃないし、敢えていうと、雰囲気をつかみ損ねるのが一番リアルかもね。でもこの夫婦はふたりともその雰囲気をつかもうとはしてなくて、でもじゃあ今のパートナーに不満がないかというとそうでもなくて。でも、そういうもんだよね。じゃあ離婚するわとかじゃあ浮気するわとか、そこまではいかないけど微妙なラインで行き来する心が繊細に描かれていて、素晴らしいのです。
でも正直、「ナル男撲滅委員会九州支部長」(今考えただけなので、もし存在してたらスイマセン)としては、この小説に登場するサカマキさんは許せないものがありましたね。小説読みながら、かなりイラッときました。ラストあたりにも惑わされてはいけません。ナルシストは大体寂しがりやさんですから。
脱線しましたが、やっぱ、この人の作品は好きです。手放さずに、いつか読み返したいのです。