オートフィクション(金原ひとみ)★★★★☆

オートフィクション

オートフィクション

実はこの人の作品、読むのは初めて。デビュー作の『蛇にピアス』があまり好みではないような気がしたし、綿谷&金原W受賞の騒ぎも今ひとつ乗れなかったんで。でも「トリッパー」で大森望氏が二作目以降をとても褒めていたので、読んでみる気になった。最新刊です。
で、読み終えて驚いた。その個性の強烈さに。アクの少ない作家が多い時代の中で、このとんがり方はそれだけで価値がある気がする。言葉の選び方もいいし。このセンスは買いたい、と思える作家でした。
「オートフィクションを書いていただきたいんです」そう編集者に持ちかけられた22歳の小説家・リン。オートフィクションとは、「一言で言えば、自伝的創作ですね。つまり、これは著者の自伝なんじゃないか、と読者に思わせるような小説です」ということらしい。夫への異常な執着心、編集者たちとのコミカルな会話に彩られた現在。そして物語はリンの18歳、16歳、15歳と遡っていく。
オートフィクションのオートフィクション。しかも小説のテンションは80年代っぽい気がする。いやこの著者83年生まれなんですけどね。年代はともかく、とにかく現代っぽくない。濃くて、生々しい。リンの男たちへの関わり方がエキセントリックなのだ。だから好き嫌いはあるだろう。女性読者でも別れるかもしれない。でも、驚くほどに上手いんだよねぇ。まだまだ成長中ってかんじのごつごつした感じはあるのに、一方でとても完成された作品のようにも思える。
とてもこの作家に興味がわきました。とりあえず他の作品も読んでみたい。

強運の持ち主(瀬尾まいこ)★★★

強運の持ち主

強運の持ち主

今ひとつ相性の悪い瀬尾まいこの最新刊です。
主人公は元OLの占い師であるルイーズ吉田。占いブースを訪れる人のそれぞれの悩み、そしてルイーズこと吉田幸子と同棲中の恋人との関係を温かく描いた連作短編集。
う〜ん。いい話だなぁ、とは思うのだけど、やっぱ薄味だわ。心温まるエピソードだけではいい小説にはなりえない。「ニベア」は真相に気付かないことがあり得ないし、「ファミリーセンター」は何か無理矢理だし、「おしまい予言」と「強運の持ち主」はラストにガクっとくるし。でもキャラの作り方とか、幸子と通彦の関係を描くエピソードなんかはいいんだけどね。
手を汚さない、そんなイメージが変わらなかったのが残念です。ま、わたしの好みの問題かもしれませんが。