アムステルダム 新潮クレストブックス(イアン・マキューアン)★★★★★

アムステルダム 新潮クレストブックス

アムステルダム 新潮クレストブックス

新潮クレストブックスですね。98年度ブッカー賞受賞作品。
これが面白かった!! どこまでも洗練されたドラマチックな物語に完全にノックダウンでございます。
本書は、モリー・レインというある奔放な女の人生に関わった男たちの数奇な物語である。「レストラン評論家、ファッショナブルな才人にして写真家、先端を行く園芸家で、かつて外務大臣に愛され、四十六の歳で完璧な腕立て側転ができた」、そんなモリーの葬儀から物語ははじまる。有名な作曲家・クライヴ、大新聞の敏腕編集長・ヴァーノン、豪腕な外務大臣・ガーモニーという、彼女の元恋人でありその後も友人であり続けた男たち、そしてモリーの夫であり彼女の最期を看取ったジョージ。モリーの死をきっかけに男たちに訪れた悪意と虚無感は、互いの運命をもねじ曲げていく。
ぐいぐい読めるドラマチックな展開だけど、どこまでもそぎ落としたようなシンプルな文章で読者に想像の幅を広げてくれる、そのバランスが絶妙だと思う。普通ドラマチックな物語だと作者が書き込むからぐいぐい読めて楽しいんだけど、読者に想像力は求めない。一方で抑えられた筆致で描かれた物語で、ここまでエンタメ性のあるものはなかなかないように思う。なのにこの物語は、スピード感ある展開でぐいぐい読者を引きつけつつ、たっぷり想像の余白を残してくれている。う〜ん。このバランス感覚はもう、著者のセンスとしかいいようがないのかも。
とにかくビックリしてしまいました。単純にこの作品が面白かったこともあるけど、この作家への興味がめちゃめちゃ喚起されました。欲望に任せて近日中に残りの作品も読むことになりそうです。
ちなみにわたしはハードカバーで読みましたがすでに文庫も出てるようです。
アムステルダム (新潮文庫)

アムステルダム (新潮文庫)

145gの孤独(伊岡瞬)★★★☆

145gの孤独

145gの孤独

『いつか、虹の向こうへ』で第25回横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー、本書が受賞第一作となる作家さんらしいです。わたしはもちろんこの人の作品を読むのは初めてです。
ぶっちゃけ、まったく期待してなかった。昔ほどミステリを読まなくなったし、●●賞受賞作!とかも意外性ない作品が多くてうんざりしてたし(江戸川乱歩賞とか特にね)。この作品もタイトルからしてあんま興味引かれないし暗そうだしどうなのよと思いつつ、久々に新鮮な国産ミステリが読みたくなってチャレンジしたのだが…嬉しい予想外で、なかなか読み応えありました。
主人公はある試合中の事件をきっかけにバランスを崩し、現役を引退したもとプロ野球投手・修介。ある人物の誘いにより、同じくもと選手である真佐夫とその妹・晴香の三人で、便利屋を営む。連作短編集形式で、それぞれはいわゆる正当な謎解きではなく、関わった人たちが何かを起こす前に「止めたほうがいい」と忠告して事件発生を防いでしまうという、後味のいいような悪いようなかんじではある。それに主人公と西野兄妹のやり取りにも微妙な違和感。ん?なんか変だなと思いつつ読み進めれば意外なラストが待っている。二重のトリックが、物語を深くしてますね。
加えてジョークの効いた会話は重くなりがちなストーリーの、ほんの息抜き的な役割を果たしていると思う。そこらへんは誰にインスパイアされたにせよ、伊坂幸太郎っぽいな、と思うのは無理ないわけではありますが。心理描写と実際の会話のテンションが上手く重なってなかった気がしないではないけど、いいスパイスにはなっていたと思う。
ま、とにかくラストに向けてぐいぐい盛り上がっていく展開で、楽しめました。