警察庁長官を撃った男 (新潮文庫)

警察庁長官を撃った男 (新潮文庫)

警察庁長官を撃った男 (新潮文庫)

国松警察庁長官狙撃事件が公訴時効を迎えた日、誰も逮捕できなかったのに「犯行はオウム」と記者会見で言ってのける厚顔には口が開いたものだがしかししかし!そのウラでここまで警察がオウムではない真犯人に肉薄してたとは本書を読むまで全く知らなかった!!
本書はチェ・ゲバラに憧れ革命戦士を志した老スナイパーの特殊な人生と、警察内部における権力者のおごりと真実を求める捜査員たちのせめぎ合いが描かれる、熱いノンフィクション。「オウムによる犯行」という線を捨てきれなかった公安上層部のくだらないプライドには反吐が出るが、それが結果として「警察庁長官を狙撃した」という称号が欲しかったであろう老スナイパーに何も与えなかったっていうのが何ともね…。そして思い込みを出来るだけ排除しようとする取材っぷりに圧倒される作品でもあった。おもしろかったです!

月と雷

月と雷

月と雷

野良猫のようにふらふらと誰かの善意に頼って生きる直子とその息子・智、そして子どもの頃の一時期この親子と否応無しに同居していた泰子。二十数年ぶりに訪ねてきた智と再会した泰子は再び自分の人生が歪められることに怯える……。
はみ出した人=直子の異常な生き方を読むことで、ふつうって何だろうと改めて考える。「ふつう」はちょっと詰まらないけど楽、だけどしがらみがあるイメージ。だけどそのマイナス面に振り分けたくなるしがらみこそが、人が人として生きていくために必要な「帰る場所」をつくってくれている。直子にはそれがなかった。
そんな直子に翻弄され、突然誰かが現れたり突然置き去りにされる経験をした泰子は、誰かを無邪気に信頼することはこれからもないだろうと思う。それでも誰かに責任を押し付けることを止め、ただ生きようと覚悟を決めた泰子は強い。その覚悟をなぜか直子の言葉が後押しする。「はじまったらあとはどんなふうにしてもそこを切り抜けなきゃなんないってこと、そしてね、あんた、どんなふうにしたって切り抜けられるものなんだよ」。
ただ生きているということはそれだけで日々を切り抜けていることと同義だと、深く頷けるのは今の日本の社会を背景にしてこそかもしれない。角田さんはホント、同時代に読む意味のある作家だと思う。面白かったです。

ヒトリシズカ (双葉文庫)

ヒトリシズカ (双葉文庫)

ヒトリシズカ (双葉文庫)

うーん面白かった!まったく別々の事件をつなぐ連作短編ミステリの体だけど、深い闇を抱えた少女によるピカレスク小説としても読めるんだよね。あくまでチラチラと伝聞としてしか登場しない少女だけど、読み手としてはそれにもどかしさを感じるほどに強烈なキャラ。この距離感はうまいなぁと思う。そして連作集として鮮やかなラストにも満足。久々の誉田作品、ぐいぐい読まされました。