「論文、欲しいんです」?

 水月昭道君の『アカデミア・サバイバル』は、大学院生ならたいてい心得ていることしか書いてないのだが、逆に、どうしても納得のいかない個所もある。その最たるものが、学会の懇親会で、偉い先生に論文をおねだりする、というところだ。(172p)
 専門とか、大学のレベルとかによって違いがあるのかもしれないが、まず学会の懇親会へ行くべきだというのは正しい。しかし、「大先生」が一人でぽつんと立っているなどということは、まずない。たいてい取り巻かれているか、若くてきれいな女性学者をつかまえて話している。
 仮にアプローチができ、名刺を渡せたとして、さてその院生はその先生の著書を読んでいるのだろうか。むろん世の中には、著書もないが権力はある、という先生はいる。しかし「論文、欲しいんです」ってそれはどういうことか。院生はその先生の論文を読んだことがあるのか。だいいち今日び、論文など国会図書館から取り寄せられる。かつまた、刊行された論文なら学会誌に載っているのだから、その学会誌を持っていない院生がおかしい。それに、「論文、欲しいんです」などと言われるより、「論文、読みました」のほうがよほど先生は喜ぶと思う。
 いずれにせよ、それがどういう分野で、その先生にどの程度著書があるかといったことを勘案せずに、「論文、欲しいんです」などと言い出す戦略を教えるのはまずい。「バカ、売ってるから買え」とか言われたらどうするのだ。

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幻冬舎ルネッサンスというのは自費出版の会社なのか。私もそのうちお金を貯めてここから小説集を出してもらおう、と心に誓った。
http://d.hatena.ne.jp/kshinshin/20091020/1256043754
岸川さま、いざとなったらお願いします。格も何も、新宿書房にまで頼んで断られたんですよ。

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今日で阿部次郎の著作権が切れる。それで栗原さんが「いま入手できる本と青空文庫で読めるのを中心に」と書いていたのを見て私はちと不安になったわけで、つまり1959年以降に死んで、品切れの多い人が抜けてしまうわけだ。その中には伊藤整もいれば武田泰淳大岡昇平もいる。大田洋子だっているのである。文章を求めるほうは、販売促進でやっているのだから、「現在入手できるものを」となるのは仕方がないが、青空文庫は関係ないわけだ。品切れなら古書で買えばよろしい。昔と違ってインターネットですぐ入手できる。
http://d.hatena.ne.jp/shoonbough/20091106
 だそうです。なんで匿名で指摘する必要があるのかは分からないが。アラビアもアラビヤが正しいのですか。これからそう書きます。なぜロシヤだけロシヤかといえば、呉智英先生がアラビヤまで教えてくれなかったからか、言われたのに忘れたか、どっちかです。

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ちと早いが、サントリー学藝賞の受賞者を予想してみよう。もはや駒場学派の威力は衰えているが、山中由里子池内恵本郷和人、矢内賢二、斎藤礎英。

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 最近目ぼしい訃報がない。蝋山道雄とかいう人のがあったが、偉いのは父親の政道のほうで、道雄は一冊も単著のない学者だった。