「国盗り物語」ラスト

山崎の戦いに敗れ、家臣らとともに落ちていく明智光秀。馬上)
 「運ではない。負けるべくして負けた戦かもしれぬ。これも時の流れか。既に下剋上の世は遠く、人々は主信長を討ったわしを見放し始めている」
 (竹藪の中で、近づく落ち武者狩り)
 「だが、ほかにどんな道があったのか。わしがわしらしく生きるどんな道が。(落ち武者狩り)生き延びねばならぬ。何としても生き延びて…」
 (グサッ)←小栗栖の長兵衛?
 (わあっという騒ぎ。藪の中へ転げこむ光秀)
 「死ねぬ…この手で虐政を終らせ、この目でそれを見、この耳で人々の喜びの声を聞かねば」
 (ばたり)
 (中西龍
 本能寺の変より僅か十一日、明智光秀は、小栗栖の里で、名もなき男の槍にかかって果てる。歳、五十五歳と言われる。光秀の死とともにひとつの時代が終る。戦国と呼ばれ、乱世と呼ばれた時代。一介の油売り商人山崎屋庄九郎が美濃一国の主斎藤道三となり得た時代、尾張のうつけと呼ばれた悪童、天下の権を握り得た時代。人が、力と知恵の限りを尽くし、国盗りの夢と野望を色鮮やかに織りなした時代は、ここに終りを告げる。そして歴史は、中世の破壊から近世の建設へと、新しき秩序を作る人々を、迎え入れようとしていた。