怒るよりもあきれる

 昨日えこまさんの日記からトラックバックが飛んできた。(id:eco1:20050223)
 何かと思ったら、2月19日の記事についてだった。(id:june_t:20050219)

セクシュアリティに関して内田先生の書かれたこの記事にhttp://blog.tatsuru.com/archives/000777.php
juneちゃんは怒っていた。

 思わず笑いましたよ、研究室で。爆笑。いいなあ、こういうの。「juneちゃんは怒っていた。」
 まあ怒っていたというよりはあきれていたというほうが正確かも知れないけど。そしてもちろんわたしの中では

  • 「怒る<あきれる」

である。あきれるほうが程度が上というか下というかなんというか。(以下略)
 そこでまあ、これは一つこの機会にできるだけたくさん叩いてあげた方がいいと思うので、えこまさんの記事の中にあった内田樹氏の文章をもう一つ引き合いに出させていただく。鷲谷花さんの「ハナログ」でとりあげられているものである。(id:hanak53:20050210#1108038851)えこまさんの日記からではなくて、「ハナログ」からの孫引きにする。

ギリシアの『アレクサンダー』訴訟騒動とだいたい同じころ、日本ではこんなこと言っておられたえらいお方もおられるようですし。

しかし、たとえば、『ドーン・オブ・ザ・リビング・デッド』のラストではないが、人類消滅のカタストロフのあと、最後に残された数名の男女が、無人島から人類の再建を試みようという場合に、その中にホモセクシュアルの方が多いことはあまり歓迎すべき事態ではないはずである。 再生産に人々が副次的な関心しかもたない社会は性的マイノリティに対して寛容だろうし、再生産が喫緊の重要性をもっている社会では、それほど寛容ではないだろう。 日本はいま性的マイノリティに対してしだいに寛容な社会になりつつあるように私には思われる。 それは日本人たちが再生産に興味を失いつつあること、言い換えれば「いまのような日本社会」をこの先も続けて行くことに意欲を失っていることのひとつの表現だろうと思う。
内田樹の研究室

つまり
「ホモやレズに寛容な社会はいずれ滅びるぞー」
ってことでしょうか。
うわーん、こわいよこわいよ〜、あたしゃ今現在、おそろしげな終末論と組み合わせて使われる、この「再生産」って言葉が一番こわいですよ。

 わたしはあんまり怖くない。あ、「こわい」って「もっと」ってことかしら?(違)*1
 ……いやそれはともかく。
 どんな映画か知らないのだが*2、まず言えることは、

  「そんな特殊な例を出されても困ルー」

ということであろう。もちろん、究極の意見として

  「それならそれで滅びればいいじゃ〜ん」

というものもあり得るだろう。地球人類がほろびても宇宙は決して困らない。*3だが、この方向はとりあえず置いておきたい。話が紛糾しそうだし。(滅びればいいじゃん、とも積極的に思わないし。)
 もっと問題なのは、この「特殊な例」を引き合いに出しながら、もうちょっと一般的な例でもおそらく出てくるであろう、内田氏のほのか(なんてかわいいもんじゃないが)なホモフォビックな意識、というか、それよりもまずは、

  「大いなる勘違い」

である。
 要するに、じゃあなにか、これまでの社会は生殖をいついかなるときも「第一義的に」考えてきたのか、ということである。
 歴史をふりかえってみたりなんかすると、中世や近世のヨーロッパとか、農民はかなり初婚年齢が高かったという記録もある。なぜかというと、子どもができたりすると単純に食っていけないからである。土地を親から相続するまでは結婚しない。土地が相続できてはじめて結婚する。相続の見込みがないと独身ですごす。ドイツの民話を読んでいると、独身の若い男が遍歴をしていて、ある村で夫を亡くした女性に取り入ってケコーン、なんていう話があったりする。もちろん土地が(あるいは、土地も)目当てなのである。訊いてみたわけではないが、たぶんそうだろう。
 つまり、人間大事なのはまず自分が食っていくこと。まあその次ぐらいに子どもも生んでおくかな、いなきゃいないで困ることもあるし、である。「種」の保存はさらにそのあとだろう。
 だいたい上で出てきた究極な例では人類ほとんどいなくなっちゃってるのだから、生産活動完璧皆無状態である。そんななかで生きていくのは大変だろう。(いや映画でどういう設定になっているのか知らないけど。)ホモセクシュアルだろうがヘテロセクシュアルだろうが、子作りなんてしてるより、とりあえずまず「働け。そして生きろ。」である、絶対。
 簡単にいうと、生殖が喫緊なんてことは、歴史上それこそかなーり特殊かも知れない、ということである。そんなの、働かなくても生きていける、相対的に裕福な階層の人たちだけなんじゃないのかな。あとは、次代へ「血」を引き継ぐことになにか別な意味を与えられているようなおうちに生まれた人とか。
 逆に同性愛者だから再生産と無関係かというと、これもまた事実に反する。実際「子どもがほしい」と望んでいる同性カップルはけっこう多い。アメリカだと養子をもらうという例もあるそうだ。ゲイカップルが女の子を育ててたりする。レズビアンカップルなら男性から精子を提供してもらって(買ってもいい)子どもを作ることもできるだろう。こうなると本格的?な生殖行為である。まあ、誰にでもできることではないのは一緒だが。
 だからもし「同性愛者は再生産に関心/関係がない」と内田氏が思っているとしたら(いや、そう思ってる人ってどうも多いようなんだけど)、それは「勘違い」である。少なくとも、いつでもどこでも関心/関係がないわけではない。
 まあその「勘違い」も、一人の胸の内にとどめておいてくださるなら別に害はないし、わたしもいちいち文句つけたりしないのだがね。そうじゃないので。
 そしてさらに彼の「勘違い」はなぜか、「だから同性愛に寛容になると国が滅ぶ」というような、テンカコッカな言説へとつながっていくのである。こうなるともう個人的な「勘違い」の域を越えて、「迷惑な差別的言辞」の範疇に入ってくる。つまり「いまあるような国とか社会の存続」というものを持ち出して(なんでここでいきなりそんなもんが出てくるのかよくわからんが)、それに照らして「有害」あるいは「価値がない」ということを暗に示唆し、同性愛の価値を引き下げているわけだ。
 こうゆーの、みっともないからやめたほうがいーです。
(どっちかというとこのへんは、個人のプライドの問題ではないかと思いつつ。)

 どうせ究極に走るなら、いっそこういうのはどうだろうか。生き残った男女4人(男性2人、女性2人)は、ゲイカップルとレズビアンカップルだった! 人類存亡の危機ッ! ちゃらり〜ん☆
 ……でもね。
 男A「人類が存続するためには、ぼくたちが子どもを作らないといけないってことか。」
 女A「そ、そういうことになるわね。でもあたしたちだって、別に子どもがほしくないわけじゃないし、ここで人類がなしくずしに滅びちゃうのも……ねえ?」
 女B「うん、そうだね。でも、セックスするのはやっぱり抵抗があるから、原始的な(どんなや)人工授精ってことになるのかな。」
 男B「かなー。ボクらもそのほうがいいし。」
 女A「だよね。じゃあ、(ポン)頑張ってね。」
 ……なにをだよ。と突っ込みつつ。
 これでも子どもは生まれてくる可能性は十分ある。少なくとも排卵周期に関する知識ぐらいはあるだろうから、ムダに毎日セックスにはげむようなことは必要ないことぐらいはわかっていると思うし。もちろん、男女どっちかに生殖力がなかったりするとアレだったりするけど、でもそれはヘテロだろうが同じことだから。うん、これで滅びるなら何をやったって滅びる運命だったんだよ、人類は。
 仮に人工授精とか思いつかなくても(おまぬけだと思うが)、もし人類を存続させようという強い意志があれば、何度かならセックスぐらいするかもよ? 異性と結婚してるレズビアンやゲイだっているんだしさ。
 それに、もし生き残った4人がヘテロだったとしても、

 「だってアタシ(ボク)たちにだって選ぶ権利あるしー」

なことは十分考えられるんだぜ、センセーよお。その場合だって最初はイヤイヤなのは同じである。
 たぶん「ヘテロセクシュアルホモセクシュアル」という対立を思い浮かべたとたんに、こういうディテールはどっかいっちゃって、「勘違い」だけが脳の中を支配するのではないだろうか。ぜひ脳科学者は研究をしていただきたい。*4(内田氏の脳をではない、念のため。)

■しかしなんでまた

 ここまで書かせるかな、この人は。
 わたしは基本的にはヘテロ*5であるから、当事者性はかなり低い。なのになんでこんなに熱くさせてくれるのか。
 やはりそれは鷲谷さんがおっしゃるように(コメント欄参照)、「大学で女子教育に携わり、セクシュアリティに関する論文の審査をしたりしているらしき」人間が、「ホモフォビックなメッセージを公表して世にはばからないこと」*6について、危機意識を持ってしまうからなのだろう、たぶん。いや、別に論文審査してなくても危機意識持ったと思いますが。金田(using_pleasure)さんもおっしゃるとおり、彼の影響力はハードプリントされたものだけじゃなくて、ネットワーク上でも無視できないからね。だってトラックバック1本うつと、数百の単位でアクセスがあっちのブログからあるっていうもの。それだけ向こうが読まれてるってことでしょ。
 まあ、いい加減にして寝ますけど。(笑)

■いやもう、毒くらわばですが

 もう一つ。
 えこまさんの日記のコメント欄で書いたのですが、「日本人たちが再生産に興味を失いつつあること、言い換えれば「いまのような日本社会」をこの先も続けて行くことに意欲を失っていることのひとつの表現」だなんてよく言えたものだということもある。
 なぜかというと、今このときほど、日本社会が「再生産」に関心を持っている時代はないのではないかと思われるからだ。
 毎日、新聞では「少子化少子化少子化……」である。生殖技術の需要も増大し続けている。特定の誰かさんが子どもを産むか産まないかでみんなやきもきしたこともあった。(まだその誰かさんのとこで男の子が今後生まれるかどうか案じている人も多い。)
 つまりフーコーが、「性の抑圧」どころか「性についてかき立てられている社会」に私たちは生きている、というのと同じように、わたしたちは「再生産への関心の欠如」どころか「再生産への関心をいやおうなしにかきたてられる社会」に生活しているのですよ。
 結果として大勢の人が産まないことを選択している(あるいは産めない人がいる)からといって、関心が欠如しているということではない。
 そのぐらいわからないなら、フーコーがなんたらとか書くんじゃないよ、まったく。

▼ちとつけたし

 上で書きたかったことは、コメント欄でえこまさんがおっしゃっているようなこととはちょっと違う。

これは興味の持ち主の主体を誰にするかの問題で、内田先生もjuneさんも実は表裏一体のことをおっしゃられているだけなような気がします。
つまり、現代女性を主語にすると再生産に関心がなくなってきている(?)、一方為政者やスタンダードな家族幻想(?)を持つ男性の立場では「なぜ妙齢の女性が結婚も出産もしないでいる!?」ということになるのでは?

 そうではなくて、わたしたちの住んでいる現代日本社会では、再生産をめぐる言説が蔓延している、また人びとは出産する・しないというところに多大な関心を寄せている、ということがいいたいのです。
 少子化についての議論も、いわゆる「環境ホルモン」の話題も、生殖をめぐる言説の一種です。雅子さんの妊娠出産へのワイドショー的関心も同じ。
 生殖医療への関心も高い。これは「実際には産めていない」人たちのある層が、いちばん「産む」ことに関心をはらっているということです。もう一人子どもを作ろうかどうしようかと悩んでいるカップルも、結果として「産まない」ことにしたとしても、関心を持っていたことには違いない。結婚しないで恋人と同居しているわたしの友人は、「やっぱりそろそろ年齢的に限界だから、出産するかしないかを考えてしまう」とこの前言っていました。実際に産む・産まないは別にして、この人たちも「関心は高い」のです。


 ついでに言うと。

再生産のプレッシャーを自分に限っては無視してやり過ごしたい「自己実現」や「経済的・社会的成功」をおさめている酒井順子的女性、またはそうしたい(個人主義的な?)女性が増えた、そんな背景も後押しして?、多様なセクシュアリティのあり方を認める社会に移行していくのだろう、そういうことを内田先生は「社会的」な?視点で言いたいのではないでしょうか?

 100万歩譲ってそういうことにしてもいいのですが、移行していくかもしれないけど、オレはそんなのイヤだよ、と言っているようにわたしには思えます。(というかもっと積極的に、「今の繁栄を手放すことになるんだぞ、いいのかオマエら」と脅しているように見えます。)

■Blog内関連記事

*1:鷲谷さんの文章の中で「ホモ」とか「レズ」とか書かれているのがちょこっと気になったのですが、鷲谷さんの真意はコメント欄を参照してください。でもまあ、内田氏なんか「ホモセクシュアルの方」ですからね。「方」ですよ「方」。やめてくれ。

*2:なお、この映画は実在しない、という情報が鷲谷花さんから入りました。(id:hanak53:20050210#1109220572)しかしじゃあなんなのこの文章は。

*3:いや困る困らないの問題ではないが。それより宇宙ってあなた。

*4:なんだかすでにそういう研究はあるらしい。「発掘!あるある大事典」でやっていた。

*5:なんだか、「Juneさんはやっぱりレズビアン」と言われたことがあるのですが。いや、チャットでかんちがいした人のことじゃないよ。

*6:さらにしばしばセクシストな言説もおはきになっているようでもある。

そ、そうなんですか?

 麻美さん(id:asamioto:20050224#p1)曰く:

june_tさんちを見ていたら、一人の女性が子供を生む一昨年の統計が去年出たときに、麻木久仁子がテレビで真剣な顔で「世界を見てみると同性婚を認めている国のほうが出生率が高いんですよ!」と言ってたことを思い出した。(って、juneさんの書いてる記事の趣旨とはちょっと違うので思い出した〜ってだけなんでトラックバックしないんですが)その数字を直に見たわけではないんですが実際どうなんですか?ねえ?

 ……どうなんですかねえ。(答えになってない。)
 いや、いま数字等を調べる気力が起きないんだけど、それは赤川学さんがいう「疑似相関」みたいなものなんじゃないかなあという気がします。この場合は「同性婚を認めている/認めていない」でクロス表かけるだけで、相関係数を出すわけではないですけどね。でも有意さはあっても、そこに因果関係があるかどうかということはわからない。
 あと、いわゆる「先進国」だけの数字っぽいし。

コンピュータが壊れた(;_;)

 メインのデスクトップが突然うんともすんとも言わなくなりました。(;_;)*1
 Blogへの書きこみはほとんど全部ノートからやってるんで、まったく問題はないのですが、古いデータは全部メインのHDDに入ってるので……。HDD、この週末にバックアップ用を買おうと思っていた矢先だったのに。


マーフィーの法則そのまま。

 しばらくして異臭がただよいはじめる。……こ、これわっ!
 なつかしい……じゃなくて、どこかでかいだことのある臭い。
 あわてて再度電源ケーブルをはずし、中を開けると。
 みごとにコンデンサが焼き切れていました。昔(って80年代初め)よく聞いた「焼きリンゴ」*2状態。
 ……こらあかん。(つづく)

*1:ソフトウェアをアップデートして再起動かけたら、いきなり起動しなくなりました。あれー、と思って電源ケーブル抜き差ししたら、今度は電源すら入らなくなりました。BIOSすら立ち上がらないということは……メインボードからいかれてるということですね。買い直しかよ。orz

*2:当時の名機、ApppleIIは発熱量が多いことでも有名でしたが、たまに中のコンデンサが火を噴くようなこともあったみたいです。