山奥ドライブ


 僕は山奥にドライブに行くのが好きなんだよね。山道を車でぐんぐん走ってくってのは、下手な映画や遊園地よりもずっとエキサイティングなことなんだよ。しかもそれが自分のよく知ってる街なんかだとなおさらだね。まだまだこんなにも知らない場所があったのかって、自分お知識のちっぽけさと、目の前に展開する世界に圧倒されちまうからさ。君も覚えておいた方がいいね。


 で、さ。今日は久しぶりの休みだったから、適当に山の方に車を走らせてみたわけさ。本当に「適当に」なんだよね。これがまたスリリングなファクターでもあるね。まあ、こないだは卯辰山の方に行ったから今日は違うトコってくらいの見当はつけてたけどね。



 小立野から北陸大学方面に向かって、さらに湯涌の方に向かったんだ。で、富山との県境があるって看板があったから左に折れて、ぐるっと一周して医王山スキー場の方に出てきて、田上に戻ってくるってルートだったね。



 君が金沢のことをどれくらい知ってるか知らないけどさ、一応簡単に説明しとくと、石川県の県庁所在地なんだよね、金沢市ってのは。つまりさ、少なくとも石川県においてはメガシティ的な位置付けなんだよ。でもさ、一口に「金沢」と言っても、こんなに山奥の雪の深い、そして家もポツポツとしかない場所も「金沢」なんだよね。あと10日もしないうちに、「金沢市小菱池町一丁目〜」とか書かれた年賀状を受けとるわけさ、僕らと同じようにこの辺の人もね。ずっと対向車が来たらはいアウトってデンジャーな道路でしかアクセスできない場所なんだけどね。僕は最近、能登や加賀出身って人にたくさん逢うようになったから、「さすが金沢には石川のいろんなトコから出てきた人がいるもんだな」と思っていたけど、「俺、芝原中出身なんだよね」とか「私、俵小でした」って人にはいまだ逢ったこともなければ、聞いたこともなんだよね。それくらいレア・エリアに行ってきたってわけさ。


 んでね、僕が山奥ドライブしてて楽しさを感じる瞬間ってのは、「おいおいこんなトコにかよ」って場所に人の家を発見したときだなということを判明したんだ。つまりさ、僕が言いたいのはさ、そこが東京だろうが、金沢だろうが、日本中どんなトコにだって人は住めるんだってことだね。自然が美しいとか空気がきれいということよりも、山奥の道路と雪しかないような所で、ふいに民家を目撃して、人間の適応力や生活力を感じたときにエキサイトするんだろうなって。山の中で、興味半分、観光に来たって人間を見ても感動はしないだろうね。そこで生活をしている人がいるって部分にぐっとくるものがあるんだ。こんな場所でどうやって暮らしているんだろう? 学校へはどうやって行くんだろう? 友達とはどこで遊ぶんだろう? 飲み会の帰りのタクシー代はどれくらいの負担なんだろうか? 宅急便の時間指定配達は可能なんだろうか? とか、考えるとわくわくして余所見運転しちゃうくらい興奮するんだ。君がもし都会の人間関係や人付き合いに疲れてたとしたら、人ごみを離れて、山の中の人里を探しに出かけてみればいいよ。何か感じるものがあるはずだよ。